バイオペリンとは?7つの効果と適切な摂取方法
2023年4月24日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

バイオペリンとは

バイオペリン、というサプリメントは多くの人にとって聞き覚えのないものかもしれませんが、ピペリンという成分はご存知の方も多いのではないでしょうか。黒コショウに豊富に含まれているピペリン、これを高い割合で含有しているバイオペリンには様々な健康効果があります。この記事ではバイオペリンの特徴や作用、摂取の目安などについて紹介します。

1.どんな栄養素?

バイオペリンという成分が存在するわけではなく、これはオリジナルの原料名です。バイオペリンは黒コショウ由来の辛味成分である「ピペリン」を95%以上含むことを特徴とした黒コショウの抽出物であり、サプリメントとして摂取することができます。

黒コショウは広く料理に刺激を与える味付けとして使用されてきたスパイスのひとつです。その生理活性は古くから注目されていましたが、黒コショウが独自に持つ健康効果に加え、その主成分であるピペリンには栄養素の代謝や吸収をサポートする役割があることが明らかになり、その利用性について注目が集まっています。

ピペリンはアルカロイドの一種です。アルカロイドは植物が持つ化合物であり、動物に大して強い生理作用を発揮します。植物が自身を保護するためのものであるという考え方が一般的ですが、ヒトにおいては様々なアルカロイドが健康効果をもたらすことを発見しており、長くスパイスなどの形で利用されてきました。ピペリンもそのひとつであり、バイオペリンはピペリンの健康効果をより効率的に得るためのものであると言えます。

 

2.体の中でどんな働きをする?

バイオペリンの主成分であるピペリンが持つ様々な健康効果は、抗酸化作用と抗炎症作用、血流改善や新陳代謝の向上などにより発揮されていますが、より大きな特徴として「小腸の上皮細胞において、熱産生ホルモンであるカテコールアミンの放出を刺激する」という発熱作用が挙げられます出典[1]

この発熱効果により、バイオペリンの大きな特徴である「他の成分と組み合わせて摂取することで、その成分が体内でより利用されやすくする」という作用が及ぼされると考えられています。ピペリンの持つこの効果から、バイオペリンは他のサプリメントの「生物学的利用能」を高められる作用を持つとして期待されています出典[2]

この生物学的利用能は「バイオアベイラビリティ」とも呼ばれ、摂取あるいは投与した食物や薬物の有効成分のうち、どの程度の量が全身を循環するのかを示す指標として使われています。点滴などで静脈内に直接投与される場合のバイオアベイラビリティは100%ですが、経口摂取など食べ物や飲み物、サプリメントの形で摂取する場合にはバイオアベイラビリティが低下します。これは全身を循環するまでに、消化器内での吸収不足や代謝による消失などが起こるためです。

バイオアベイラビリティの向上のために、様々なサプリメントにおいて形態や成分の調整が行われていますが、安全性やコスト面などの問題から改善は難航しています。黒コショウ抽出物は天然の栄養素でありながら、他の栄養素の吸収と代謝を改善するという特性を持っているため、安全かつ低コストなバイオアベイラビリティの向上手段として活用できるのです。

これまでの研究において、バイオペリンは脂溶性ビタミン (β-カロテン)、水溶性ビタミン (ビタミン C)、コエンザイム Q10、クルクミンなど、様々なビタミン、ミネラル、アミノ酸のバイオアベイラビリティを高めることが示されています出典[3]

 

バイオペリンに期待される作用や効果

バイオペリン、および黒コショウは、生体利用効率を高める効果が注目されがちですが、他にも様々な生理活性作用を有しており、摂取によりあらゆる健康効果をもたらします。以下ではバイオペリンが私達の体に及ぼす作用について紹介します。

1.栄養素の吸収を促進

バイオペリンの最も重要な効果は、他の栄養素と併せて摂取することで、その栄養素のバイオアベイラビリティを高めるというものです。様々な研究により、ビタミンやミネラル、その他の有効成分の吸収効率がバイオペリンの同時摂取により向上したという結果が得られています。

たとえばβカロテンの吸収効率を調べたランダム化二重盲検試験においては、βカロテンと同時に5mgのピペリンを1日2回、14日間続けた群において、βカロテンの血中濃度が大幅に増加していました。この効果はピペリンの持つ発熱特性によるものであるとの考えが示唆されています出典[3]

また、鉄のバイオアベイラビリティについて調べた研究においても、バイオペリンと鉄を同時に補給した群において、ヘモグロビンの上昇や健康状態の向上、疲労の軽減が確認されました。鉄とバイオペリンの併用による有害事象も報告されなかったことから、鉄とバイオペリンの同時補給が貧血の管理や運動能力の向上に役立つ可能性があると指摘されています出典[1]

バイオアベイラビリティの低さが課題であるウコンの成分、クルクミンにおいては、同時摂取により単独摂取の200倍のバイオアベイラビリティを得ています出典[4]。また、コエンザイムQ10においても同時摂取により血中のコエンザイムQ10濃度が増加したという結果が得られています出典[5]

このように、バイオペリンはピペリンの持つ発熱特性により、ビタミンやミネラル、アミノ酸など、様々な栄養素のバイオアベイラビリティを向上させる効果が期待できるのです。

 

2.血糖値の改善をサポート

バイオペリンの主成分であるピペリンは栄養素のバイオアベイラビリティ向上のみならず、薬物の活性を強める効果があるとして注目が集まっています。

経口血糖降下薬の一種であるメトホルミンを糖尿病のマウスに投与した実験において、メトホルミンの単独摂取群よりも、メトホルミンとピペリンを同時に摂取した群の方がより高い血糖降下効果を示しました出典[6]

また、ピペリンには後述するように、肥満に伴う様々な代謝異常を緩和する効果もあります。内臓脂肪蓄積に伴うインスリン抵抗性が改善されることで、血糖値のコントロールが容易になり、糖尿病予防にも繋がると考えられています。

 

3.内臓脂肪の減少をサポート

ピペリンには交感神経を刺激する作用や、血管を広げて血流を改善する作用があります。これらの効果により体温が上がりエネルギー代謝が増大するため、脂肪が燃えやすくなると考えられています。

ピペリンや黒コショウの摂取によるマウスの体脂肪蓄積効果を調べた動物実験において、ピペリンや黒コショウを配合した飼料を4週間与えたところ、対照群と比較して体重や内臓脂肪量が大幅に減少したという結果が得られました出典[7]

黒コショウ全体の摂取だけでなくピペリンのみの摂取においても同じ体重や内臓脂肪の減少効果が見られたことから、内臓脂肪の減少をサポートする効果は黒コショウ抽出物であるピペリンに由来するものであると考えられています。

 

4.肥満による代謝異常の緩和をサポート

肥満においては脂肪組織から分泌されるTNF-α や IL-1β などの炎症性サイトカインにより、インスリン抵抗性などの様々な代謝異常が引き起こされることが分かっています。ピペリンの投与は、この炎症性サイトカインが誘発する様々な炎症反応を抑制する抗炎症効果を持つため、代謝異常を始めとする様々な炎症性疾患の改善に役立つ可能性があります。

肥満マウスにピペリンを投与した動物実験において、インターロイキン-β1やガレクチンー3といった炎症性サイトカインの量がピペリン投与群において著しく減少したことが分かっています。更に炎症性サイトカインを産生するためのmRNA濃度も明らかに下がっていたことから、ピペリンには炎症性サイトカインの産生自体を抑制する効果がある可能性が指摘されています出典[8]

インスリン抵抗性とそれに伴うⅡ型糖尿病は、肥満による炎症反応を直接阻害することで改善される可能性があります。ピペリンの投与により炎症性サイトカインが減少し、炎症が抑制されたことにより肥満マウスのインスリン抵抗性が改善されたことは、ピペリンが炎症を引き金とする様々な代謝異常の緩和に有効である可能性を示しています。

また、ピペリンにはその発熱特性により内臓脂肪自体を減少させる効果もあります。代謝異常を緩和しつつ肥満の改善にも繋がるピペリンには、糖尿病を始めとする生活習慣病を予防、改善する効果が期待できそうです。

 

5.関節炎の緩和をサポート

ピペリンの鎮痛作用や抗炎症作用は、関節リウマチなどの関節炎の症状緩和に役立つ可能性があります。

細胞単位での実験においては、ピペリンの細胞への添加により、炎症性サイトカインであるインターロイキン6やプロスタグランジン2の産生や、これらを産生するためのmRNAの発現が抑制されました。更にラットを用いた動物実験においては、20mg/kgまたは100mg/kgのピペリンで処理されたラットで、ステロイド薬の抗炎症剤であるプレドニゾロンに匹敵する抗炎症効果が得られています出典[9]

抗炎症剤は胃を始めとする消化管に大きな負担を与える場合が多いため、多量に服用することは難しく、疼痛緩和の困難さが課題となっています。ピペリンは副作用の確認されていない天然の栄養素であるため、抗炎症剤に代わる疼痛緩和の治療薬、あるいは栄養補助食品として活用できる可能性があり、期待が寄せられています。

 

6.うつ症状の緩和

ピペリンは中枢神経系にも作用を及ぼし、神経伝達物質の合成を促進したり、神経伝達物質の利用を阻害する「再取り込み」という現象を抑制したりする働きがあることが分かっています。

うつ病モデルのラットを用いた動物実験によると、2週間にわたりピペリンを10~20mg/kg投与した群において、運動時間の延長など、抗うつ活性を示すデータの向上が見られましたが、80mg/kgの投与では有効性が確認されませんでした。また脳においては視床下部や海馬のセロトニン濃度を高め、モノアミン酸化酵素(MAO)を減少させたことが明らかになりました出典[10]

セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質のひとつであり、MAOはセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の利用を阻害してしまう酵素です。これらへの作用によりセロトニンなどの神経伝達物質が正常に利用され、意欲や集中力の向上、気分の回復に役立つのではないかと考えられています。

 

7.認知機能を改善する可能性

ピペリンの中枢神経系への作用は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの認知機能に影響を及ぼす疾患の症状に有効である可能性があります。

パーキンソン病モデルのマウスを用いた動物実験においては、10mg/kgのピペリンを15日間経口投与されたマウスの運動能力や認知機能が改善しています。また炎症性サイトカインの減少、パーキンソン病において神経毒性を発揮する活性型ミクログリアの減少も確認されました。これらの結果はピペリンが抗酸化作用や抗炎症作用を通して、ドーパミン作動性ニューロンを保護する効果を発揮したためであると考えられており、パーキンソン病の治療法として役立つ可能性があると指摘されています出典[11]

また、アルツハイマー病のモデルのマウスを用いた動物実験においても、2.5~10g/kgの15日間にわたる連続投与により、マウスの自発運動や認知能力が改善されていました出典[12]

これらの効果は、ピペリンの持つ抗酸化作用、抗炎症作用、血流改善作用、神経伝達を回復する作用によるものと考えられており、認知障害を伴う疾病の改善に役立つ可能性があります。

 

バイオペリンの摂取方法や注意点

このように、黒コショウの成分であるピペリンには様々な作用があります。これらの健康効果をより効果的に得るための手段として、ピペリンが高い割合で含有されたバイオペリンのサプリメントは有効であると言えそうです。以下ではバイオペリンをサプリメントとして摂取する際の、目安や注意点について説明します。

1.どのくらい摂取すればいい?

ピペリンの効果について調べた試験においては、5mgまたは10mgの量が多く確認されていました。サプリメントでも10mgを1日の摂取量としているものが多いため、これを目安とするとよいでしょう。

ピペリンは副作用のない天然の栄養素であることが分かっています。1日摂取量の250倍を摂取しても、成長や血液成分などの状態に悪影響は見られていません出典[1]。遺伝毒性や免疫毒性も確認されなかったことから、有毒な化学物質ではないと結論付けられています。

しかし動物実験において、80mg/kgの摂取で効果を発揮しなかった結果から、過剰に摂取すると得られるはずの健康効果が消失する可能性があります出典[9]。そのため他のサプリメントと同様に、多く摂取すればするほどより大きな健康効果を得られるわけではない、と考えるべきでしょう。

 

2.効果的な飲み方

いずれの健康効果を期待する場合でも、サプリメントとして提供されている1日の目安量を守り、長期にわたり継続して摂取することが重要です。

また、ピペリンの発熱特性は一時的なものであり、持続性に欠けることが分かっています出典[1]。そのため栄養素のバイオアベイラビリティを高めたい場合は、目的とする栄養素の摂取から時間を空けず、同時に摂取するようにした方がよいでしょう

バイオペリンと同時に摂取することでバイオアベイラビリティが高まることが判明している成分は以下の通りです。ほとんどのビタミンやミネラル、必須アミノ酸のバイオアベイラビリティを高められることが分かっているため、マルチビタミンミネラルやプロテイン、アミノ酸サプリメントなどを摂取する際には併用を検討してもいいかもしれません。

水溶性ビタミンB1、B2、ナイアシン、B6、葉酸、B12、C
脂溶性ビタミンA、D、E、K
ミネラル

鉄、亜鉛、バナジウム、セレン、クロム、ヨウ素、カリウム、

マンガン、銅、カルシウム、マンガン

必須アミノ酸

バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、スレオニン、

メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン

 

まとめ

スパイスとして長く親しまれてきた黒コショウは、サプリメントとして活用する分にも安全かつ豊富な健康効果をもたらしてくれる優秀な成分です。バイオペリンは黒コショウ抽出物を効果的に摂取できるサプリメントであるため、是非利用して健康管理に役立ててみてください。

 

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