亜鉛は本当に精力に効果的なのか?テストステロンとの関係4つ
2024年2月21日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

そもそも亜鉛ってどんな栄養素?

亜鉛はヒトにおいて「必須ミネラル」に分類される重要な微量元素です。体内においては主に、代謝に関わる酵素の構成成分として、またその酵素の働きを助ける「補因子」として幅広く活躍しています。

亜鉛は血液や皮膚、骨や脳、髪の毛など細胞の入れ替わりが盛んな部位に多く存在しています。男性においては前立腺にも多く分布しており、精液中の成分にも亜鉛が含まれています

必須ミネラルであり、食事からの補給が欠かせない亜鉛ですが、体内への吸収率は20~30%と高くありません。他の栄養素や薬剤が亜鉛の吸収を阻害することが分かっており、フィチン酸や銅、カルシウムや鉄などが吸収の阻害因子として明らかになっています出典[1]

亜鉛の欠乏症は、食事から摂取する亜鉛不足のほか、糖尿病や腎臓病によって排泄が増加したり、大量の発汗や炎症によって消費が増大したりすることによっても引き起こされます。亜鉛の不足により、皮膚など表皮組織のたんぱく質合成が滞ることによる脱毛や爪の変形、舌の味蕾細胞が育たなくなることによる味覚障害、成長ホルモンの分泌が滞ることによる発育障害、免疫細胞の働きが鈍ることによる免疫力の低下など、様々な機能に問題が発生することが分かっています。

 

テストステロンは精力や筋トレに超重要

男性ホルモンであるアンドロゲンの一種として知られるテストステロンは、男性における性機能の向上や、筋力トレーニングの効率化に欠かせないホルモンです。

テストステロンにはたんぱく質合成を促進する働きがあります。特に骨格筋や神経組織において、合成を促進し分解を抑制する作用があり、筋力や持久力を向上させたり、骨密度や骨密度を上昇させたりする効果もあります。筋力トレーニングを行うにおいて、テストステロンを充足させることは、効率的に筋肉量を増やすため特に重要であると言えるでしょう。

またテストステロン独自の働きとして、精子形成機能が挙げられます。テストステロンの分泌低下と性機能の低下とは密接に関わっており、精子の数だけでなく、その運動性の向上や正常な形態の維持など、精子の質においてもその働きが重要であると考えられています。

テストステロンは加齢と共に分泌量が減少するホルモンであり、筋肉量や性機能も分泌量の減少とともに低下してしまいます。精力を維持したい、筋力トレーニングを効率的に行いたいと考える場合には、食事や運動、睡眠など生活習慣の改善によってテストステロンの分泌量を落とさないようにする必要があるでしょう。

 

亜鉛とテストステロンの4つの関係

亜鉛もテストステロンも、それぞれ独自に性機能との関わりを持っていますが、この二つに関連性があることが分かっています。以下では亜鉛とテストステロンの関係について解説します。

亜鉛はテストステロンの合成を助ける

体内におけるテストステロンの量は、脳の視床下部や脳下垂体前葉から放出されるホルモンによって以下のように管理されています。

  1. テストステロンの不足を体が感知すると、視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)が放出されます
  2. この性腺刺激ホルモン放出ホルモンが脳下垂体前葉に働きかけ、黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促します
  3. 黄体形成ホルモンが精巣のライディッヒ細胞という場所に働きかけ、テストステロンの合成量を増加させます

亜鉛はこれらのホルモンのうち、黄体形成ホルモンの合成に必要な酵素の機能をサポートすることが分かっています出典[2]黄体形成ホルモン合成を強化する働きにより、テストステロンの分泌量が増大すると考えられているのです。

動物実験では、亜鉛欠乏食を与えられたラットにおいて、テストステロンや、テストステロンの生成を促す黄体形成ホルモンの血中濃度が有意に低くなったことが報告されています。また、亜鉛欠乏食を与えられたラットにおいては女性ホルモンであるエストロゲン受容体の感受性が増加し、男性ホルモンであるアンドロゲン受容体の感受性が減少していたことも示されています出典[3]

亜鉛の不足はテストステロンの合成を促す黄体形成ホルモンの分泌低下を招くだけでなく、合成されたテストステロンに対する感受性を損なう可能性があります。十分に亜鉛を補給することでテストステロンの合成を助ける作用が期待できるでしょう。

 

体内の亜鉛が少ない人はテストステロンも少ない

亜鉛不足にある人は、同時にテストステロンの分泌不足をきたしている場合が多いこともまた明らかになっています。

40~60歳代の男性を対象に身長と体重、血清総テストステロン量を測定し、採取した毛髪組織から亜鉛と銅を定量する実験が行われました。テストステロンの量が正常な群と低下していた群とに分けた場合、正常群は低下群に比べ、毛髪の亜鉛量が有意に高いという結果が得られました出典[4]

また、食事から得られる亜鉛量を操作することによるテストステロン量への影響も明らかになっています。20代の若年男性が亜鉛制限食を20週間続けたところ、血清テストステロン値が有意に減少していました。また亜鉛不足の60~70代の高齢男性に亜鉛を6か月補給すると、血清テストステロン値の有意な増加が確認できました出典[5]

このように、体内の亜鉛量とテストステロンの量には相関があり、食事からの亜鉛供給量もまたテストステロンの量に関わる重大な因子であることが分かっています。

 

亜鉛のサプリメントはテストステロンを増やす

亜鉛をサプリメントの形で摂取することで、テストステロンを増加させる効果が期待できます。

サッカー選手が30mg/日の亜鉛サプリメントを8週間継続して摂取したところ、血中のテストステロンおよび成長ホルモンの数値が有意に増加しており、筋肉量も11.6%ほど上昇したと報告されています出典[6]

また、血液透析を受けている患者では亜鉛および性ホルモンの血清濃度が有意に低いことが明らかになっており、亜鉛不足にある血液透析患者への亜鉛補給を硫酸亜鉛の形で250mg/日6週間行ったところ、亜鉛だけでなく、テストステロンや黄体形成ホルモンの量も改善したという結果が得られています出典[7]

このように、亜鉛不足の対象者への亜鉛補給はテストステロンの増大に効果的であり、テストステロン合成を促す黄体形成ホルモンの分泌増加にも関わることが明らかになっています。

 

亜鉛が十分に足りている場合はテストステロンは増えない

亜鉛の補給によりテストステロン量が改善するというデータが得られている一方で、既に適切な亜鉛量を確保できている場合、もしくはテストステロン量が既に正常である場合には、亜鉛補給によるテストステロン増加の効果はあまり期待できないことも示されています。

亜鉛を高濃度に含有した栄養補助食品の補給が男性の血清テストステロン値に与える影響を調べた研究においては、食事から十分な亜鉛を既に摂取できている男性において、更に亜鉛を補給してもテストステロンの量や代謝に変化は見られなかったという結果が出ています出典[8]

また、不妊症の男性37名を対象に亜鉛補給療法を行った臨床試験においては、試験前の血清テストステロン値が4.8ng/ml未満である場合、亜鉛の投与後に精子数や血清テストステロン値が増加しましたが、テストステロン値が4.8ng/ml以上の男性においては精子数や血清テストステロン値など、性機能への良い影響は確認できなかったことが分かっています出典[9]

なお、2020年度版の「日本人の食事摂取基準」において、18~74歳の男性における亜鉛の推定平均必要量(集団のうち50%が必要量を満たす量)は9mg/日、推奨量(ほとんどの人が必要量を満たす量)は11mg/日となっています出典[10]。一方で、令和元年度の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の男性における亜鉛摂取量の平均値は9.1~9.8mg/日となっており、推奨量にやや届かない量となっていることが分かります出典[11]

このように、日本人においては亜鉛の摂取がやや不足気味であるため、通常の食生活をしている人であっても、亜鉛の補給によりテストステロン量を増加させられる可能性が高いと言えるでしょう。

 

亜鉛の摂取により恩恵を受けやすい人

以上より、亜鉛が体内において充足している人ほどテストステロン量が多く、また亜鉛が不足している人ほど、亜鉛補給によるテストステロン量の増大効果を得られるということが分かりました。

ではどのような人に「亜鉛の不足」は見られやすいのでしょうか。以下では亜鉛の補給効果をより多く得られる人の傾向について説明します。

運動や仕事で多くの汗をかいている人

汗はしょっぱい味がすることから、ナトリウムが体から失われていることは容易に想像できるかと思います。しかし汗には微量ミネラルも溶け込んでおり、亜鉛も発汗によって失われる栄養素の一つです。

ヒトにおいては運動により、クロムや亜鉛、銅の排泄が増加することが知られており、特に亜鉛は尿や汗などに溶けることで損失が増加することが明らかになっています出典[12]

肉体疲労による発汗はもちろんのこと、暑い環境下における発汗でも亜鉛は失われます。日頃から汗をよくかく生活を過ごしている場合には、通常よりも多くの亜鉛の損失が起きていると考えるべきでしょう。

高齢の方

令和元年度に行われた国民健康・栄養調査においては、80歳以上の男性において、亜鉛の摂取量が79歳以下の調査群と比較して1mg程度減少していることが明らかになりました。

【男性における亜鉛の年齢別平均摂取量(「国民健康・栄養調査」令和元年度のデータより引用)】出典[11]

年齢亜鉛摂取量平均値(mg/日)
20-29歳9.8
30-39歳9.1
40-49歳9.4
50-59歳9.2
60-69歳9.3
70-79歳9.1
80歳以上8.3

高齢者では咀嚼能力の低下により、亜鉛の供給源である肉類を避ける傾向にあるため、摂取量の減少が起こりやすいと考えられています。

また、食事からの摂取量が十分であったとしても、加齢に伴う消化吸収能力の低下や、基礎疾患の管理のために必要な薬剤により、ただでさえ20~30%程度と低い亜鉛の吸収率がより低下しています。更に高齢者は糖尿病や腎臓病など基礎疾患を有している場合が多く、亜鉛の排泄量が増加している可能性があります。このような事情から、高齢者は亜鉛不足をきたしやすい状態にあると言えるでしょう。

 

野菜中心の食生活を送っている人

亜鉛は豆類やアーモンドにも豊富に含まれますが、主な供給源は肉類や魚介類、卵などの動物性食品です。

野菜などの植物性食品だけで亜鉛を十分に補給することができないわけではありませんが、亜鉛を豊富に含む食品を意識して選び続ける必要があるため難易度が高く、食事の幅が狭められてしまいます。

また、亜鉛は動物性食品から摂取したものの方がよく吸収されると言われており、動物性たんぱく質と同時に摂取することで吸収率が高まると考えられています。摂取した亜鉛の利用効率を上げるためにも、動物性食品を効果的に食事へと取り入れていく必要がありそうです。

 

亜鉛を上手く摂取する方法

亜鉛は必須ミネラルであるため、食事からの摂取が不可欠です。亜鉛が不足している場合、どのようにして補うべきなのでしょうか。以下ではその方法について簡単に解説します。

食材から摂る

亜鉛は肉類や貝類、卵などの動物性食品に多く含まれます。その他、ナッツや豆類にも含まれています。野菜類や穀類からも摂取できますが、含有量は僅かであるため、動物性食品あるいはナッツ類を摂取源とするのが効率的でしょう。

【亜鉛を豊富に含む食品とその含有量(100gあたり)】出典[13]

食品名成分量(mg/100g)
かき(養殖・生)14.0
かたくちいわし(田作り)7.9
牛肩ロース6.4
いり大豆(黄大豆)4.2
豚肩ロース3.8
アーモンド(いり・無塩)3.7
豚ヒレ(焼き)3.6
プロセスチーズ3.2
鶏卵(全卵・生)1.1

亜鉛は動物性食品から摂取することで吸収率が高まることが分かっており、これは動物性たんぱく質が亜鉛の吸収率を促進してくれるためと考えられています。

またビタミンCやクエン酸との同時摂取によっても吸収率が高まります。クエン酸には亜鉛を含むミネラル類の吸収を促進する効果があり、ビタミンCはこのクエン酸の働きを強めるとされています。亜鉛を豊富に含む食品を摂取する際には、梅干しや柑橘類などを献立に入れるよう意識してみるとよいでしょう。

一方、亜鉛の吸収を阻害する成分に、リン酸やフィチン酸、過剰な食物繊維などがあります。特にリン酸は加工食品に多く含まれる成分であるため、インスタント食品やファーストフードの利用機会が多い人は注意が必要です。

 

サプリメントで摂る

野菜中心の生活を続けている関係で肉類や魚介類の摂取が難しい場合、また発汗による亜鉛の損失が大きい場合などには、サプリメントの利用を検討してみましょう。毎日継続することで、効果的に亜鉛を摂取することができます。

亜鉛のサプリメントには酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、ピコリン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、硫酸亜鉛、亜鉛酵母など、様々な種類があります。いずれも亜鉛の吸収率を高めるよう調整されたサプリメントではありますが、ピコリン酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛をそれぞれ亜鉛換算で50mg/日、4週間摂取した場合の効果を比較した試験においては、ピコリン酸亜鉛の摂取により血中の亜鉛濃度が最も増加したという結果が得られています出典[14]

また、亜鉛酵母という、酵母に亜鉛を取り込んだものも特に吸収効率がよいことで知られているようです。亜鉛による健康効果をより得たい場合にはこちらの摂取を検討するとよいかもしれません。

注意事項として、コーヒーでは摂取しないよう気を付けましょう。カフェインは亜鉛や鉄の吸収を妨げてしまいます。特別な指示がない限り、サプリメントは水で摂取するようにしましょう。

 

くれぐれも過剰摂取には要注意!

2020年度版の「日本人の食事摂取基準」において、亜鉛の耐容上限量は40mg/日とされています出典[10]

通常の食事から摂取する分にはこの量を超えることはまずありませんが、サプリメントなどで吸収効率を高められたものを過剰に摂取した場合には、吐き気や下痢、頭痛などの過剰症を引き起こす場合があります。

いくつかの研究でも明らかになっているように、亜鉛は過剰に補給することでより多くのテストステロン増大効果をもたらすものではありません。サプリメントを摂取する際には販売元の1日摂取の目安量に従い、多量の摂取を続けることのないよう気を付けましょう。

 

まとめ

それぞれ性機能に有効な効果をもたらす亜鉛とテストステロンですが、特に亜鉛の充足がテストステロンの増加に影響を及ぼしていることが分かってきました。亜鉛は食事からの摂取が可能であるため、テストステロン増加のアプローチとして手軽で現実的です。食品やサプリメントで不足分を補い、テストステロンを効率的に増やせるようにしましょう。

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