執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
そもそも大豆ってどんな食べ物?
私たちが食べている大豆は植物の種子部分に相当する豆類の食品です。古事記では米や麦と並び、五穀の一つとして古くから食べられていました。
味噌や醤油の主原料であり、豆腐にきな粉におからに納豆、湯葉に豆乳など、様々な食品や飲料に加工され現代でも広く親しまれていますね。
私たちが普段「大豆」として思い浮かべる薄黄色の大豆は「黄大豆」という品種で、大粒のものから小粒のものまで様々な種類があります。他にも黒豆と呼ばれる黒大豆、成熟しても青いままの甘みが強い青大豆などがあります。
大豆全般を未成熟な状態で収穫したものは「枝豆」と呼ばれ、こちらは豆類ではなく緑黄色野菜に分類されます。
大豆を加工した食品2つ
大豆は醤油に味噌、きな粉など、様々な食品に加工されています。ここでは私たちにとっておそらく最も身近である大豆加工食品、豆腐と納豆について簡単に紹介します。
豆腐
大豆は水を吸わせてから水を加えて攪拌、加熱し、ろ過することで豆乳とおからに分けられます。豆乳に「にがり」を加えたものが豆腐となります。
豆腐の種類は木綿豆腐と絹ごし豆腐に大別されます。にがりで固めた豆乳を崩すことで水分を一部出し、再度押し固めたものが木綿豆腐です。
絹ごし豆腐は木綿豆腐よりも濃い豆乳ににがりを加え、そのまま固めたものを差します。木綿と絹ごしの食感の違いはこうして生まれているのです。
これら豆腐類を材料として、厚揚げや油揚げ、がんもどきなど、様々な加工食品が製造されています。攪拌して加熱した大豆をろ過する工程でおからが、加熱した豆乳の表面に生じた膜からは湯葉が得られるなど、豆腐の製造過程で得られる食品も存在します。
豆腐は様々な大豆加工製品のもとになる、重要な食品であることが分かりますね。
納豆
大豆を蒸し煮にして、納豆菌によって発酵させることで納豆が出来上がります。納豆菌に含まれるナットウキナーゼが大豆のたんぱく質を一部分解することで独特の粘り気が生じます。この粘り気の中には、うま味成分であるグルタミン酸が含まれており、納豆独特の美味しさを生み出しています。
豆腐や蒸し大豆との違いは納豆菌の有無でしょう。納豆菌は乳酸菌など善玉菌の栄養源になり、腸内環境を整える作用があります。またナットウキナーゼには、血栓の原因となるフィブリンという凝固因子を分解したり、血栓溶解酵素の働きを促進したりすることで、血液をサラサラにして動脈硬化を防止する効果が期待できます。
ちなみにこの納豆は「糸引き納豆」と呼ばれます。納豆、と名前の付くものに「甘納豆」がありますが、これは豆類を砂糖で煮詰めたお菓子であり、納豆菌とは何の関わりもありません。美味しい甘納豆ですが、糸引き納豆に期待する健康効果は得られないため注意しましょう。
大豆に含まれる栄養素
大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど、様々な栄養素を豊富に含むことで知られています。以下ではそれぞれの栄養素について解説します。
たんぱく質
大豆のたんぱく質量は100gあたり33.8gです。全体の三分の一がたんぱく質であり、高たんぱく質食品であるのはもちろんのこと、その質が高いことでも知られています。
私たちが体の中でたんぱく質を作るためには「必須アミノ酸」と呼ばれる9種のアミノ酸が必要です。体たんぱく質合成に欠かせないこれらのアミノ酸は、食品に含まれるたんぱく質を分解することで得られるため、たんぱく質食品の摂取は欠かせません。
また、体たんぱく質の合成には、この必須アミノ酸の全てがバランスよく含まれている必要があります。
必須アミノ酸の配合バランスを評価する数字を「アミノ酸スコア」と呼びます。肉や魚などの動物性食品がこのスコアが高いことで有名ですが、大豆のアミノ酸スコアもこれら動物性食品に匹敵するレベルであることが分かっています。
大豆の「畑の肉」という呼び名は、アミノ酸組成の優秀さにも現れているようですね。
大豆レシチン
大豆には良質な脂質も豊富に含まれています。大豆に特徴的な脂質として、リン脂質であるレシチンが挙げられます。レシチンはヒトの体内に最も多く存在している脂質であり、細胞膜の構成成分として機能し、臓器や神経、血液の生理機能を正常に保つ働きがあります。
レシチンは脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの材料として機能します。アセチルコリンは学習や記憶、睡眠と関わりのある物質であるため、記憶力や睡眠の質を向上させる効果や、アルツハイマー病の予防効果などが期待できます。
また、肝臓での脂質代謝において使われたり、血液中のコレステロールを乳化して血管壁への付着を防止したりすることから、肝機能を保護する効果や動脈硬化を防止する効果も期待できます。
オリゴ糖
大豆には僅かながら糖質も含まれており、特徴的なものとして大豆オリゴ糖が挙げられます。
大豆に含まれているのはラフィノース、スタキオースという難消化性オリゴ糖です。大腸においてビフィズス菌という善玉菌のエサとして機能し、腸内環境を整える効果があります。
これらは大豆から採れる天然のオリゴ糖であり「おなかの調子を整える食品」として特定保健用食品にも利用されています。
イソフラボン
大豆イソフラボンは大豆に含まれるポリフェノールの一種です。女性ホルモンであるエストロゲンと分子構造が似ていることから「植物性エストロゲン」と呼ばれることもあります。
イソフラボンは骨において、カルシウムの溶け出し(骨分解)を抑制し、カルシウムの蓄積(骨合成)を促進する働きを持ちます。これにより骨量の増加や骨粗しょう症の予防効果が期待できます。また血液中のコレステロール量をコントロールする役割から、動脈硬化の予防にも役立ちます。
また、イソフラボンはポリフェノールであるため抗酸化物質としても機能します。体内で発生した活性酸素を無害化し、酸化ストレスを低減する効果が期待できます。
大豆がテストステロンを下げると言われている理由
様々な有効成分を含む大豆ですが、テストステロンとの関係において注目したいのはイソフラボンです。イソフラボンは女性ホルモンに似た作用を示すため、女性ホルモンの分泌低下に伴う更年期症状を緩和させる効果が確認されています。
女性にとっては健康の心強い味方ですが、男性においては摂取により女性ホルモンの働きが優位にならないか、男性ホルモンへ影響を及ぼさないか、といった点が気になるところだと思います。
理由①:ジヒドロテストステロンの生成抑制効果が期待できる
イソフラボンとテストステロンの関係は、アンドロゲン依存性疾患を治療する効果を期待するものとして研究が進められてきました。男性ホルモンが増えすぎることによる疾患の治療薬として「テストステロン5α-レダクターゼ阻害剤」が用いられますが、イソフラボンはこれに似た働きを持つ可能性が指摘されています。
テストステロンなど、男性ホルモンであるアンドロゲンが過剰になることで発生する可能性のある症状として、前立腺肥大症や男性系脱毛症、ニキビなどがあります。これらはテストステロンの一種である「ジヒドロテストステロン」を原因とすることが分かっています。血中のテストステロンが「テストステロン5α-レダクターゼ」という酵素の影響を受けて変化したものがジヒドロテストステロンであり、ニキビや脱毛、薄毛などに悩む方にとってはあまり増やしたくないホルモンであると言えますね。
ラットから抽出したテストステロン5α-レダクターゼを用いた研究において、イソフラボンの投与によりこのテストステロン5α-レダクターゼの働きが阻害されたと報告されています出典[1]。大豆イソフラボンは男性におけるアンドロゲン依存性疾患に効果を発揮する、副作用のない天然の成分として期待が寄せられているのです。
このように、イソフラボンはテストステロンの一種であるジヒドロテストステロンの生成を抑制する効果があると考えられます。男性において脱毛やニキビなどの好ましくない症状をもたらすアンドロゲン依存性疾患の改善が期待できるため、大豆イソフラボンを意識して避ける必要はないと考えられそうです。
理由②:少ない研究で総テストステロン量の減少が確認されている
ジヒドロテストステロンの生成を抑制してくれるイソフラボンですが、過剰に摂取することで血清総テストステロン量にも影響を及ぼす可能性があることが、一部のヒト試験において指摘されています。
健康な男性ボランティアの食事として大豆スコーンを摂取した場合の、血清総テストステロンなどの変化を調べたランダム化比較試験において、大豆イソフラボンをスコーンの形で120mg摂取した群において、摂取していない群よりも総テストステロンが5%ほど減少したという結果が得られています出典[2]。
イソフラボンが総テストステロン量を低下させるメカニズムは明らかになっていませんが、過剰な摂取により総テストステロン量には少なからず影響が出る可能性があると考えた方がよさそうです。
ただし、この試験により減少したのは総テストステロン量であり、筋肉量の増大や性機能の向上といった効果をもたらす、遊離型のテストステロンの減少は確認されませんでした。
テストステロンのうち、97%以上はたんぱく質など他の分子と結合した「結合型」であり、「遊離型」のテストステロンは全体の2~3%ほどです。この遊離型のテストステロンが、男性力の維持向上には重要であり、イソフラボンはこちらの量には影響を及ぼさないようです。
1日2パックの納豆ならテストステロンは下がらない!
とはいえ、試験により総テストステロン量の減少が確認された以上、大豆イソフラボンの摂取については抵抗を感じてしまうかもしれませんね。
この試験の他にも、1日100mg以上のイソフラボンを摂取することによるテストステロンへの影響についての研究が8つほど確認されています。そのうち、総テストステロン量の減少は先程の試験を含めた2例で確認されています出典[3]。
そのため、総テストステロン量を落としたくない場合には、これらの試験で使用されたイソフラボン100mgを目安として、この量を超えない範囲での摂取を意識するとよいでしょう。
農林水産省によると、豆腐や味噌などに含まれるイソフラボン量は以下のようになっています。
【大豆製品に含まれる大豆イソフラボン量(mg/100g)】出典[4]
大豆イソフラボン量(mg/100g) | |
大豆 | 247.8 |
木綿豆腐 | 40 |
絹ごし豆腐 | 38 |
充てん豆腐 | 37 |
味噌 | 59.1 |
醤油 | 1.0 |
農林水産省によると、1kgの大豆から2kgの納豆、すなわち50g入りのパックであれば40パックの納豆が出来るようです出典[5]。
大豆100gあたりのイソフラボンをおよそ250mgとみなした場合、納豆50gに含まれるイソフラボンの量は約60mgです。細菌では納豆の内容量が減少し、1パックあたり40~45g程度の納豆が主流となっているため、1パックあたりに含まれる大豆イソフラボンは50mgほどと考えられます。
大豆イソフラボンの1日の摂取量目安を100mgとした場合、納豆であれば2パックまでであればテストステロンに影響を及ぼさないと考えることができそうです。豆腐類であれば250gほどで100mgを満たす計算であるため、豆腐100gと納豆1パック、などの組み合わせで大豆製品を摂取するとよいでしょう。
味噌や醤油にもイソフラボンは含まれますが、少量での使用であるため警戒する必要はないでしょう。納豆および豆腐の摂りすぎに注意して、大豆の健康効果をしっかり得つつテストステロンのコントロールができるといいですね。
まとめ
摂りすぎにより総テストステロンを減少させる可能性のある大豆製品ですが、ジヒドロテストステロンへの変換を抑制し、薄毛やニキビの改善に役立つなど、男性にとって嬉しい効果も数多く兼ね備えています。
また大豆はコレステロール調整作用、整腸作用など、健康管理の面においても非常に優秀な食品です。過度に警戒することなく、適量の摂取を続けることで体調を良好に保ちましょう。
出典
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