執筆者
管理栄養士
西村 俊司
給食施設や食品メーカーなどを経て、現在は老人福祉施設で栄養士として勤務。専門学校卒業後18年のブランクを経て、管理栄養士国家試験に初挑戦し、一発合格。食のプロフェッショナルとしての知識と経験を生かしながら、心も体も喜ぶ「食の提案」を多くの人に届けたいと思っている。家では妻と2人の子供との4人暮らし。食べることや料理を作ることが大好き。趣味は自転車とキャンプとDIYなオジサン。
葉酸(ビタミンB9)とは
まずは葉酸の基本情報についてご紹介します。
葉酸の概要
葉酸はビタミンB群と言われる栄養素の一つです。
ビタミンB群は全て水溶性のビタミンで、現在以下の8種類が確認されています。
- ビタミンB1
- ビタミンB2
- ナイアシン
- ビタミンB6
- ビタミンB12
- 葉酸
- パントテン酸
- ビオチン
これらビタミンB群は全て、ヒトの体の代謝に関わっていて、生きていくためのエネルギーを作り出したり、タンパク質を作り出したりする非常に重要な働きを助ける補酵素として働いています。
ヒトの体を一つの複雑な機械に例えると、ビタミンB群は機械の歯車を回すための潤滑油みたいなもの。油がなければ機械が動かないように、人の体もビタミンB群がないと体に不調をきたすようになります。
ビタミンB群はさまざまな働きがあるため、日々研究が進められている栄養素ですが、近年注目されているのが「葉酸」です。
葉酸は赤血球の正常な成長に必要なビタミンとして発見されましたが、研究が進む中でさまざまな働きや欠乏によるリスクがわかってきました。中でも妊娠を控えた女性に対しては、新生児障害の一つである神経管閉鎖障害を予防するために、妊娠前から積極的に葉酸を摂取するよう推奨されています。
また、タンパク質の合成や細胞分裂に必要な成分の合成・代謝にも関わっていることがわかっており、男女問わず生きるために必要なビタミンであると言えます。
葉酸を豊富に含む食材
そんな大切な栄養素である葉酸。その名前の通り、ほうれん草やブロッコリー、春菊など、緑色の濃い葉物野菜に多く含まれています。しかし、葉酸は水溶性であることから、調理法にも工夫が必要です。下茹でをすることが多い葉物野菜は、茹で汁に葉酸などの水溶性ビタミンが流れ出してしまうことがありますので、短時間でさっと茹で上げ、茹で汁もスープなどにして使うなどすると、葉物野菜に含まれる葉酸を摂取できます。
葉酸などの水溶性ビタミンは、脂溶性ビタミンに比べて体内で貯蔵できる量が少ないため、毎日の食事の中でしっかりと摂取することが望ましいとされています。体内で大切な働きをする葉酸、しっかりと摂取したいですね。
葉酸に確認されている効果5つ
ここからは葉酸の具体的な効果についてご紹介します。
1.脳の健康維持促進
葉酸がヒトの脳の健康維持に役立つことが明らかになっています。若年者でも発症のリスクがある「認知症」はさまざまな原因がありますが、その多くは脳にある神経細胞の炎症が引き金となって起こることが多いとされています。
血中の葉酸が低いと脳の神経細胞の炎症リスクが高まり、認知症を発症する確率が高いと言われています。海外で行われた研究によると、認知症の一つとされるアルツハイマー病患者を対象に葉酸サプリメント(1250μg/日)を6カ月にわたって投与したところ、対象群と比べて炎症反応が改善したとの報告がされています出典[1]。
また、別の研究では軽度認知障害の患者180人を対象に実験が行われ、400μg/日の葉酸を2年間に渡り継続して投与したところ、対照群に比べてIQ値が改善され、血中の炎症を示す値も低かったという報告もされています出典[2]。
いつまでも健康な脳を維持するためにも、継続的に葉酸を摂取することが必要ですね。
2.女性の妊活サポート
葉酸は妊娠を考えている女性にとっては非常に大切なビタミンです。
2021年に厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」では、妊娠を考えている女性は、妊娠前から通常の食事で摂取する葉酸(240μg)に加えてサプリメントなどにより400μgを摂取することが推奨されています。
これは、胎児の神経系が発達しない「神経管閉鎖障害」という病気を予防するため。神経管閉鎖障害のリスクが受胎後28日という早期に起きることから、妊娠を考えている女性への葉酸摂取を推奨しているのです出典[3]。
また、海外の研究では、葉酸を800μg /日以上摂取していたグループは400μg /以下しか摂取できていなかったグループに比べて、出生率が高いという結果も報告されています出典[4]。
細胞分裂やDNA、RNAなどを合成するのに重要なビタミンである葉酸だからこそ、妊娠を考えている女性はしっかりと意識する必要がありますね。
3.メンタルケア
心の病と言われる「うつ病」日本では100人に6人が生涯のうちにうつ病を発症すると言われています。発症のメカニズムについてはさまざまな要素が複合的に絡み合っているとされていて、はっきりした発症の原因はいまだにわかっていません。
しかし、海外の研究において、うつ病を発症している患者はうつ病を発症していない人に比べて血中の葉酸値が低い傾向にあることがわかっています出典[5]。
葉酸の摂取とうつ病の改善の関係については、はっきりとした根拠がありませんが、葉酸の不足がうつ病の発症に関係しているかもしれません。
ストレス社会で闘う現代人はうつ病のリスクも高いと考えられます。リスク回避のためにも、葉酸が足りているか、気にしてみてはいかがでしょうか?
4.心疾患発症リスクの低減
葉酸が不足すると、動脈硬化や高血圧などに伴う心疾患リスクが高くなる可能性があります。
タンパク質を構成するアミノ酸の一つであるメチオニンが代謝される過程で「ホモシステイン」という副産物が生まれます。葉酸が体内に十分あれば、ホモシステインは再びメチオニンに変換されますが、葉酸が不足している場合、ホモシステインのまま血液に運ばれます。
このホモシステインは血管の柔軟性を奪い、動脈硬化を招くとともに、血液が固まりやすくして、血管を詰まらせるリスクを高めます。そのため、葉酸の不足が心疾患リスクを高めると言われるのです。
このメチオニン代謝は葉酸だけではなく同じくビタミンB群であるビタミンB6やビタミンB12なども必要とされています。
ビタミンB6やビタミンB12は赤身肉やレバーなどに多く含まれていますので、食材を組み合わせて上手に摂取したいですね。
5.正常な赤血球を作る
葉酸が不足すると、貧血になりやすくなります。ヒトの全身に酸素や栄養素を運ぶ赤血球は骨髄で生まれ、さまざまな過程を経て赤血球となります。正常な赤血球の成長過程に必要なのが葉酸です。
十分に葉酸がないと、働きが未熟なまま大きさだけが大きくなった赤血球が生まれ、体内に十分な酸素と栄養素を運べなくなるため、疲労感や体力低下などを引き起こします。これを「巨赤芽球性貧血」と言います。
日頃からスポーツを日課としている人は、産生される赤血球も多くなるため、より多くの葉酸が必要となります。葉酸をしっかりと摂取して、疲れ知らずな体を目指したいですね。
葉酸サプリの飲み方や注意点
葉酸は水溶性ビタミンであるため、過剰に摂取した分は尿として排泄されます。そのため、通常の食事由来の葉酸過剰摂取による健康被害は報告されていません。
ただし、サプリメント等により摂取する場合は、過剰摂取に注意が必要です。厚生労働省が示す耐容上限量は成人の男女で1000μg/日とされていますので、葉酸の量をしっかりと確認した上での服用をお勧めします。
また、葉酸を含むビタミンB群は8種類ありますが、いくつかのビタミンが関係して機能していることが多くあります。そのため、葉酸だけではなく、他のビタミンB群も含めて足りているかを調べてみることをお勧めします。
ビタミンB群は現代の食生活では不足しやすい栄養素であることは間違いありません。普段の食生活に加え、必要であればサプリ等を活用して上手に補うことが大切です。
まとめ
葉酸は多くの働きがあるにもかかわらず、不足しやすい栄養素です。
普段から野菜が足りてないと感じる方や、これから妊娠を予定している女性、体の不調が気になり始めたビジネスパーソンは、葉酸が足りているか気にしてみてはいかがでしょうか?
出典
- 1.
Chen H, Liu S, Ji L, et al. Folic Acid Supplementation Mitigates Alzheimer's Disease by Reducing Inflammation: A Randomized Controlled Trial. Mediators Inflamm. 2016;2016:5912146.
- 2.
Chen H, Liu S, Ji L, et al. Folic Acid Supplementation Mitigates Alzheimer's Disease by Reducing Inflammation: A Randomized Controlled Trial. Mediators Inflamm. 2016;2016:5912146.
- 3.
厚生労働省|妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針
- 4.
Gaskins AJ, Afeiche MC, Wright DL, et al. Dietary folate and reproductive success among women undergoing assisted reproduction. Obstet Gynecol. 2014;124(4):801-809.
- 5.
Bender A, Hagan KE, Kingston N. The association of folate and depression: A meta-analysis. J Psychiatr Res. 2017;95:9-18.
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