執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
目次
クレアチンとは?
クレアチンはアミノ酸の一種です。アミノ酸は体内で合成できず食事からの摂取を必要とする必須アミノ酸と、体内で必要量を合成することができる非必須アミノ酸とに分かれていますが、クレアチンは体内において合成経路が確保されているため、非必須アミノ酸の方に分類されます。
クレアチンはグリシン、アルギニン、メチオニンという3つのアミノ酸を材料として、主に肝臓や腎臓で合成されます。クレアチンの95%以上は筋肉に存在し、残りは脳や肝臓、腎臓、精巣に分布していることが確認されています。
体内で合成できるクレアチンですが、食事からも摂取することができます。肉や魚などの動物性食品が主なクレアチンの供給源となるため、野菜中心の生活やインスタント食品の生活を続けている人では、クレアチンの体内濃度がやや低くなる傾向にあるようです出典[1]。
クレアチンのはたらきは?
クレアチンのほとんどは、リン酸化されたクレアチンリン酸(CP)の形で骨格筋に存在しています。クレアチンリン酸は骨格筋において「エネルギー貯蔵物質」として機能しており、運動時など、必要に応じて分解されます。
私たちが運動を行うと、エネルギーを作るアデノシン三リン酸(ATP)が分解されてアデノシン二リン酸(ADP)を生じます。筋肉に蓄えておけるATPの量は僅かであるため、このATPだけでは激しい運動を続けることができず、ATPが枯渇してしまいます。
このATPの枯渇を防ぎ、激しい運動におけるエネルギー効率を上げるために機能するのがクレアチンリン酸です。クレアチンリン酸は運動時に分解され、リン酸を放出します。この過程でADPからATPの再合成が行われ、筋肉にATPを再度供給することができるのです。クレアチンリン酸、ひいてはクレアチンの量は、運動におけるパフォーマンスに関わると言うこともできますね。
また、クレアチンは筋肉だけでなく脳にも存在しており、同じようにATPを産生するために使われています。クレアチンが供給するATPにより、脳神経を保護したり、精神的疲労を改善したりする効果があると期待されています出典[2]。
間接的にテストステロンを上げる可能性がある
男性ホルモンであるテストステロンもまた、筋肉量の合成を促進する効果があるため、筋力トレーニングのサポートになるのではないかとの期待が寄せられています。
クレアチンを補給することで、短距離水泳のパフォーマンスと血中ホルモン濃度がどのように変化するかを調べたランダム化比較試験が行われました。これによると、クレアチンを補給した群はプラセボサプリメントを摂取した群と比較して、平均水泳タイムが短縮され、良い成績を出せていることが分かりました。また血中ホルモン濃度については、成長ホルモンやコルチゾールに変化は見られなかったものの、テストステロン濃度のみクレアチン摂取群において有意に高いという結果が得られています出典[3]。
このように、クレアチン補給とテストステロン増加の関連を示す研究が存在する一方で、テストステロンの増加はトレーニングそのものの影響によるものであるという指摘も寄せられています。
クレアチン補給による、高強度の筋力トレーニング時のホルモン濃度の変化を調べたランダム化比較試験が行われました。これによると、激しいジャンプスクワットなど脚の運動を行った後では、クレアチン供給群もプラセボサプリメント摂取群も同様にテストステロン濃度を上昇させたという結果が得られています出典[4]。クレアチンの摂取自体がテストステロン濃度を上昇させる効果を持つかどうかについては、疑問が残るところであると言えるでしょう。
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クレアチン供給は筋トレのパフォーマンス向上に繋がる
クレアチン供給により筋肉へのエネルギー補給が潤滑に行われ、筋力トレーニングのパフォーマンスが増加することは間違いありません。また、筋力トレーニングにより体内のテストステロン量が増加することも明らかになっています。
これらのことから、クレアチンの補給により効率的に筋力トレーニングを行えるようになったことで、テストステロンの増加効率が高まったのではないかと考えられます。クレアチンの摂取によるテストステロンの増大効果は、このように筋力トレーニングを介した副次的なものであるという見解が一般的であるようです。
クレアチンの摂取が直接的にテストステロンを上昇させる、という働きはまだ確認されていません。しかし筋力トレーニングを介したプラスの影響として、テストステロンの上昇はある程度期待できる可能性があるでしょう。
クレアチンに期待できるその他の効果4つ
筋力トレーニングと組み合わせることでテストステロンを上昇させる効果が期待できるクレアチンですが、これ以外にもクレアチンには様々な効果が確認されています。以下ではクレアチンをサプリメントとして補給することで得られる健康効果について、それぞれ解説します。
①筋肉量の増加
クレアチンの補給により、運動中、特にレジスタンストレーニングと呼ばれる筋力トレーニングに相当する運動を行うことで、エネルギーとなるATPの産生効率が上がることが分かっています。身体能力の向上、徐脂肪体重の増加、および筋肉の肥大に繋がることが報告されており出典[1]、サプリメントとしても広く用いられていますね。
運動のパフォーマンスにおいては、瞬間の最大筋力の増加、および持久力の増加のどちらも確認できています。筋肉には瞬間的なパワーを発揮するための速筋と、持続的な運動の際に活躍する遅筋がありますが、クレアチン供給はこのどちらの筋肉にも作用し、筋肥大の効果をもたらすことが確認されています。
瞬発力を要する競技、持久力を要する競技、どちらのスコアを伸ばすにおいても筋肉量の増加は重要です。筋力トレーニングのサポートとして、クレアチンのサプリメントを活用することは意義があると言えるでしょう。
②筋疲労の回復
クレアチンには、スーパーオキシドアニオンラジカルやペルオキシナイトライトラジカルといった活性酸素を無害化する抗酸化効果が確認されています出典[1]。運動時には筋肉でこれらの活性酸素が発生しやすく、過剰な蓄積は筋肉の疲労やダメージの原因となります。クレアチンによりこれら活性酸素の蓄積を防止することで、筋肉の疲労を防止し、回復を促す効果が期待できます。
アイアンマン競技を行うアスリートがクレアチンを補給することにより、筋疲労の程度がどのように変わるかを調べた介入試験が行われました。その結果、筋肉損傷を示すクレアチニンキナーゼや乳酸脱水素酵素など、複数のマーカーにおいて数値の減少が確認されました。クレアチン補給により筋肉損傷が和らぎ、筋肉の保護効果が発揮されたことが推測されます出典[5]。
また、高炭水化物食にクレアチンをプラスした食事を摂ることにより、筋肉のグリコーゲン
貯蔵量が高まり、マラソンなどの持久力を要する長時間運動のパフォーマンスを上げる効果があることが認められています。
この持久力向上効果は、クレアチンの単体補給だけでは確認されておらず、高炭水化物食と組み合わせる必要があります出典[1]。筋肉へのエネルギー供給が速やかに行われることにより、筋疲労からの回復もより早まります。スポーツの際の高炭水化物食にクレアチンをプラスすることは、特に持久力を要するスポーツにおいて有用であると言うことができそうですね。
③認知機能の向上
クレアチンのほとんどは筋肉で使われますが、一部は脳においても機能しています。クレアチンは脳のエネルギー補給においても重要な役割を果たしており、ATPの供給源として活躍しています。
クレアチンは脳において、脳組織のエネルギー代謝を高めるだけでなく、脳における抗酸化システムを促進して脳機能や脳血管の状態を改善したり、脳神経を保護したりする役割を持つことが分かっています。これらの結果として認知機能の向上が確認できているのではないかと考えられています。
動物および細胞モデルを用いた実験においては、クレアチンを摂取することで脳の神経変性疾患が改善する効果が確認されています。また、睡眠不足や老化による自然な認知機能の低下も、クレアチンの補給によって改善できることが分かっています。
特に高齢者へのクレアチン補給においては、脳機能だけでなく、疲労感の改善や筋肉量の維持、骨密度の増加など、様々な利点があることが判明しています出典[1]。これら身体機能の全体的な向上が、脳機能にもよい影響を及ぼしている可能性があり、クレアチン補給による脳への恩恵はかなり大きいと言えそうです。
④精子の数や質、運動性の向上
クレアチンは一部、精巣にも存在しています。精子の運動にもエネルギーが必要であり、ATPを産生するクレアチンは重要な役割を果たします。精子数や精子の運動性の低下は、血中のクレアチン濃度の低下と関連していることも分かっています。
クレアチンと精子との関連を調べる細胞実験や動物実験が既にいくつか行われています。細胞実験においてはクレアチンリン酸を受精培地に添加することで精子の受精能力が向上した例が確認されており、受精培地でのATP濃度が増加したことにより、精子の運動性および受精能力が向上したと考えられています。また動物実験においては、ニワトリにクレアチンを強化したエサを与えることで、雄鶏における精子濃度や総精子数、運動性が改善したとの報告も寄せられています。
ヒトにおいてもクレアチン補給と精子の質との関連を調べる試験が行われています。クレアチンを含むプロテインサプリメントを摂取している男性を対象とした横断研究において、クレアチンを摂取している男性は、精液濃度や総精子数が、クレアチンを含むサプリメントを全く使用していない男性よりも高い傾向にあることが判明しました出典[6]。
このように、クレアチンを補給することで精子の数や質などが改善し、生殖能力の低下を軽減する効果が期待できます。男性の不妊治療においても食事性クレアチンの補給が有効である可能性があるとして注目が集まっており、妊活のサポートとしての利用が期待できるでしょう。
クレアチンの摂取上の注意点
クレアチンは肉や魚などの動物性食品から主に摂取することができますが、スポーツのパフォーマンス向上や筋力トレーニングの効率化を期待する場合、サプリメントの形で摂取するのが良いでしょう。以下ではクレアチンサプリメントを摂取する際に気を付けたいことについて解説します。
クレアチンの推奨量
クレアチンの適した補給量について調べた最近の研究では、1日に体重当たり0.1gの量のクレアチンを補給することで筋力トレーニングが効率化されることが分かっています。
現在、市販のサプリメントの推奨量は、一般に1日あたり3~5gほどとされています。食事から1~2g/日の摂取が可能であるため、この量も加味して考える必要があります。
たとえば体重60㎏の人であれば、1日あたり6gのクレアチンを食事とサプリメントで摂取することで筋力トレーニングの効率化が見込めるということになります。食事由来の1~2gのクレアチン、およびサプリメントでの3~5gでのクレアチンで、おおよその推奨量を満たすことができますね。
クレアチンの効果を最大化する飲み方
筋力トレーニングに適したクレアチンの摂取量として、1日に体重当たり0.1g/kgが目安とされていますが、よりクレアチンの効果を高めるため、付加量や摂取のタイミング、他の食品との食べ合わせなどにも気を付けてみましょう。以下ではそれぞれの要素について解説します。
付加量
筋肉中のクレアチンを効率的に増やすため、クレアチンローディングという方法が推奨される場合があります。クレアチンが体に満たされるまで時間がかかるため、摂取を始めた最初の数日間は推奨量よりも更に多めの量を摂ることで、素早くクレアチンを体に満たすことができるのです。
最終的なクレアチンの効果は、通常の推奨量を継続した場合と変わらないことが分かっています。そのため、筋力トレーニングの効率をより高めることができる、というわけではありませんが、より早く最大の効果を得たい場合にはこの方法が効果的であると考えられます。
クレアチンローディングには、1日当たり0.3g/kg、または1日当たり20~25gのクレアチンを、1日4~5回に分けて摂取する方法が一般的です。しかしより少量、1回につき1gのクレアチンを30分ごとに20回摂取するようなやり方が、より効率的である可能性が指摘されています出典[1]。
1週間程度のローディング期間を終えれば、クレアチンの筋肉貯蔵量は最大になります。あとはこの貯蔵を維持するべく、通常の推奨量である3~5g/日の摂取を続けましょう。クレアチンの摂取を全てやめると貯蔵は徐々に減少してしまうため、継続的な摂取が肝心です。
摂取タイミング
クレアチンのローディング期間以外のサプリメントの摂取は、運動前後のタイミングが望ましいとされています。筋肉にグリコーゲンを貯蔵するタイミングと合わせて摂取することで、より効率よく筋肉にクレアチンを保持することができると考えられます。
運動前にクレアチンを摂取することで、筋肉のカルシウム感度を上げる効果が期待できます。カルシウムは筋肉を収縮させるために必要なミネラルであり、この感度が高まることで、少量のカルシウムで筋肉を動かすことができるようになるため、筋力トレーニングの効率が高まると考えられています。
また、運動後のクレアチン摂取により、筋肉の疲労回復を促進し、筋肉のダメージを抑える効果があることが確認されています。クレアチンの持つ抗酸化作用により、運動で発生する活性酸素を無害化することができるため、筋肉の保護効果や回復効果が期待できますね。
他の食品との組み合わせ
クレアチンのサプリメントは他の栄養素と組み合わせて使用することで、より高い効果を発揮することがあります。主な例として、クレアチンを筋肉に保持しやすくするために、炭水化物やたんぱく質と組み合わせて摂取する使用方法が挙げられます。
炭水化物やたんぱく質とクレアチンを組み合わせて摂取することによる、体内へのクレアチニン濃度の変化を調べたランダム化比較試験が行われました。これによると、炭水化物を5gだけ同時摂取した群に比べ、たんぱく質50gと炭水化物47gを摂取した群や、炭水化物96gを摂取した群は、摂取したクレアチンの体内貯蔵量が25%増加したことが判明しています出典[1]。
高炭水化物食にクレアチンを合わせて摂取する利点として、インスリンというホルモンの分泌を促せることが挙げられます。インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、筋肉にエネルギーを蓄える働きを持っています。高炭水化物食の摂取で血糖値を上げることでインスリンが効率よく分泌されるため、筋肉へのエネルギー貯蔵効率を高めることができます。高炭水化物食とクレアチンの摂取を合わせることで、筋力トレーニングの効率を上げる効果が期待できますね。
クレアチンの安全性は?
クレアチンのサプリメントは、適切な使用量に従って摂取する分には、健康上の問題を引き起こさないことが分かっています。
過去に、クレアチンを補給することによる腎臓の健康被害がいくつか報告されています。しかしこれらは推奨用量を逸脱した過剰摂取によるもの、または元々腎疾患により腎機能が低下しているなど、以前より健康上の問題があったことによるものであることが分かっています。
確かにクレアチンを摂取することによる腎機能の変化を調べた研究において、クレアチンは腎機能の指標となるクレアチニン濃度を僅かに上昇させることが判明しています。しかしクレアチンの摂取により上昇したのはクレアチニン濃度のみであり、腎臓のろ過機能を評価するクレアチニンクリアランスに変化は生じていませんでした。このことから、クレアチンの補給は腎機能自体にダメージを与えるものではないと結論付けられています出典[1]。
長期にわたるクレアチンの摂取により、腎機能以外の、筋肉のけいれんや怪我といった健康への悪影響も生じていないことが確認されています。現状、健康上の問題がなく、用量を守って服用する場合には、現時点ではクレアチンは安全なサプリメントであると言うことができるでしょう。
まとめ
筋力トレーニングの効率化を目指すにおいて、クレアチンの補給は非常に有用です。また筋力トレーニングによって体内のテストステロン濃度が上昇するため、筋肉のパフォーマンスが向上することは、間接的にテストステロン濃度を上昇させることにも繋がります。限られた時間で最高のパフォーマンスを出したい、より多くの筋力トレーニング効果を期待したい、という場合には、クレアチンサプリメントの摂取を検討してみましょう。
出典
参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 / イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 / 丸善出版 / 2011
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