執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
筋トレ前のバナナはパフォーマンスを高める
バナナが筋力トレーニングにもたらす効果について、摂取のタイミングごとに分けて説明しましょう。まずは運動前、バナナを摂取することによるメリットについて紹介します。
バナナを筋トレ前に食べるとどんな効果があるのか?
バナナがエネルギーの供給源として優れていることは有名ですね。確かにバナナには糖質が豊富です。糖度は約20%ほどと、果物の中でもかなり甘い部類に入っています。
バナナに特徴的なのは、その糖の構成成分です。一般的な果物の糖質はブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)で構成されていますが、一方のバナナはでんぷんやショ糖(スクロース)など、多糖類や二糖類と呼ばれる分子の大きな糖も含んでいます出典[1]。
分子の小さな糖は速やかに吸収され、分子の大きな糖は消化・吸収に時間がかかります。そのためブドウ糖などの小さな糖で素早くエネルギー補給を行い、でんぷんなどの大きな糖で血糖値を緩やかに上昇させてエネルギーを持続させる、といったことが可能です。
このように、バナナの糖質は即効性と持続性の二つのメリットを持ち合わせています。運動前に摂取することで、速やかな、かつ持続性のあるエネルギー補給を行うことができるでしょう。
筋トレの何分前に食べるのがいいか?
エネルギー補給のため、運動直前にバナナを食べるという方も多いでしょう。実際、エネルギー補給の重要性は広く知られており、運動の1~4時間前に摂取した炭水化物は、体内のグリコーゲン貯蔵量を増やすために有効な可能性があることが分かっています出典[2]。
しかし運動前に糖質の豊富な食品を食べる時には、運動により一過性の低血糖を生じる可能性があることに注意が必要です。
運動前に糖質を摂取すると、血中のグルコースが増加します。この血糖値の上昇に伴い、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが分泌されます。一方で運動を始めると、筋肉はエネルギーを得るため、筋肉へとグルコースを取り込もうとします。
インスリンの分泌によっても血糖値が低下し、運動で筋肉へのグルコース取り込み量が増加することでも血糖値が下がる。この二つが合わさることで、急激な低血糖状態を引き起こすことがあるのです。
低血糖状態では倦怠感や眠気を生じて運動のパフォーマンスが低下するため、この状態を防止することが重要です。
運動による低血糖は、運動30分前頃の糖質摂取で起こりやすいことが分かっています出典[3]。そのため、このタイミングを避けて食べるようにするとよいでしょう。1~4時間前の摂取が効果的であるという情報と合わせて考えると、バナナの摂取は遅くとも運動1時間前までのタイミングにした方が良さそうですね。
どのくらい食べるといいか?
運動前に十分な栄養を補給することで、筋肉にグリコーゲンというエネルギー源を蓄えた、パフォーマンスの高い状態で運動を始めることができます。
持久力を高め、長時間の運動パフォーマンスを向上させるための補給量として、体重1kgあたり1~4gの糖質の摂取が適切であることが分かっています出典[2]。1~4g/kgの範囲で、運動の強度や運動時間により量を調整するとよいでしょう。
体重が60kgの方の場合、適正な糖質補給量は60~240g程度ということになります。中くらいのバナナ1本を100gとすると、これに含まれる糖質量は21gほど。仮に60gの摂取をバナナだけで目指す場合には、3本食べる必要があるということですね。
筋トレ中のバナナは長時間の運動を可能にする
マラソンなど、長時間の運動を行う場合、運動中にもエネルギー供給が必要となるでしょう。その際にバナナを摂取するコツについて説明します。
どんな時に筋トレ中にバナナを食べるべき?
持続時間が90分を超えるようなトレーニングを行う際には、途中での栄養補給も重要となります。筋肉に貯蔵されているグリコーゲンを使い果たすと、体は筋肉のたんぱく質を分解して得たアミノ酸でエネルギーを得ようとしてしまいます。
筋力トレーニングで筋肉を鍛えようとしているにもかかわらず、エネルギー不足で筋肉が分解されてしまっては非効率です。途中での適切なエネルギー補給により、筋肉の分解を予防することが重要です。
どのくらい食べるべき?
バナナは比較的消化の良い食べ物ではありますが、量は控えめにしておくべきでしょう。
食べ物が胃に入ると、消化のために消化管に血液が集中します。しかし運動時には手足を動かすため、筋肉に血液が集中しています。このため、食べてすぐ運動を行うと、消化管は血液を必要としているにもかかわらず、血液が十分に供給されない、という状態になってしまうのです。
この時、消化管への血液不足を解消するため、体は血液が十分にある肝臓や脾臓から血液を供給しようとします。肝臓や脾臓から輸血をしている、とイメージすると分かりやすいかもしれませんね。この時、肝臓や脾臓のあるわき腹に痛みが生じることが分かっています出典[4]。
食後にすぐ走ったりしたとき、この痛みを感じたことのある方も多いのではないでしょうか。これは、肝臓や脾臓が無理をして血液を消化管に供給するときに生じているものであった、ということですね。
この痛みは運動のパフォーマンスを低下させるため、運動中の食事量には注意すべきです。消化管に負担のかからない範囲で量を調整しつつ、適切にエネルギー補給を行って筋肉を保護しましょう。
素早いリカバリーには筋トレ後のバナナ
運動後は筋肉のグリコーゲンが空っぽになっています。グリコーゲンを回復させて次の運動に備えること、また栄養補給により筋肉を修復することは、筋力トレーニングにおいて特に重要です。運動後のケアとして、バナナを効果的に活用しましょう。
バナナが筋トレ後におすすめな理由
激しい運動による疲労や炎症から回復するためにはエネルギーが必要です。バナナに含まれる豊富な糖質により、速やかにエネルギーを補給することができます。
また、バナナにはブロメラインという成分が含まれています。このブロメラインは抗酸化物質として機能し、激しい運動により発生した活性酸素を無害化する役割を持っています。抗酸化物質を効率的に摂取することにより、運動後の筋肉の損傷や、運動に伴う身体の炎症、疲労感などを軽減する効果が期待できますね。
75kmのサイクリングを行う22~50歳の男女を対象に、バナナを摂取した際の身体の炎症反応について調べるランダム化比較試験が行われました。その結果、バナナを摂取した群は、水、あるいは砂糖飲料を摂取した群と比較して、炎症反応を促進するシクロオキシゲナーゼ(COX-2)を産生するために必要なmRNAの発現量が減少していたことが明らかになりました出典[5]。
炎症物質を減らし筋肉を保護する効果は、水や砂糖飲料の摂取よりも、バナナを利用した方がより高いことが分かりますね。
筋トレ後にバナナを食べる場合の適切なタイミングと量は?
グリコーゲンが体内で再合成される速度は、1時間あたり5%であることが分かっています。通常の食事をしていると、グリコーゲンの完全回復までにおよそ20時間ほどかかる計算となります。
この回復を早めるための方法として、運動後最初の4~6時間で、1時間おきに体重1kgあたり1~1.2gほどの糖質を摂取することが効果的であると指摘されています出典[2]。
体重60kgの人であれば、運動後1時間までに60~72gほどの糖質を摂取するとよさそうです。中くらいのバナナであれば3本ほど摂取することで、十分に糖質補給を行えるでしょう。
運動後の糖質補給は、早ければ早いほど効果的です。理想は30分以内、遅くとも運動後1時間以内に、十分な量の糖質食品を摂るようにしたいですね。
一緒に食べた方がいいものはある?
運動後に疲弊した筋肉を、運動前の状態に回復させるためには、速やかなグリコーゲン補給が重要です。その効率を上げるために、糖質以外の栄養素、たんぱく質や脂質をバランスよく摂取する方法が役立つ可能性があります。
私たちが食べた糖質は、インスリンによって筋肉に取り込まれてグリコーゲンとなります。そのためインスリンの分泌量が多いほど、速やかにグリコーゲンを貯蔵できます。
インスリンは血糖値の上昇により分泌されるホルモンですが、GIPなどの消化管ホルモンによっても分泌量が増加します。この消化管ホルモンはたんぱく質や脂質によって分泌が増加することが分かっています。そのため糖質だけではなく、たんぱく質や脂質をバランスよく摂取すると、インスリンの分泌量が増えて、速やかにグリコーゲンを筋肉へ貯蔵することができるのです出典[6]。
たんぱく質と脂質をバランスよく含む飲料として、牛乳が挙げられます。マウスを用いた動物実験においては、運動後のマウスに糖質・牛乳の混合液を投与した場合、糖質液のみを投与した場合よりも、消化管ホルモンであるGIPやインスリンの分泌量が大きく増加し、筋肉のグリコーゲン貯蔵効果も高まったという結果が得られています出典[5]。
筋肉の回復効果を高めるための飲料として、たんぱく質や脂質をバランスよく含む牛乳を活用してみましょう。バナナと同時に摂取することで、筋肉の回復速度を上げる効果が期待できますね。
まとめ
糖質を豊富に含むバナナは、筋トレの前、最中、後のいずれの摂取においても効果的です。タイミング、量、同時に摂取する食品などを工夫しながら、運動のパフォーマンスや筋力トレーニングの向上に役立ててみましょう。
出典
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