執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
夜のチョコレートがNGな理由3つ
チョコレートには睡眠の質を高める成分が含まれているため、寝る前に食べることで安眠効果が得られる。そうした認識から、寝る前にチョコレートを食べている方もいらっしゃるのではないでしょうか。確かに、チョコレートには安眠効果をもたらす成分が複数含まれています。しかしチョコレートを食べるタイミングとして、実は「夜」というのはあまり適していないことが分かっているのです。
理由1:カフェインによる覚醒作用
安眠効果をもたらしてくれる成分は、高カカオチョコレートから効率よく摂取できます。しかし高カカオチョコレートにはカフェインも多めに含まれています。
カフェインには覚醒作用があることは皆さんご存知でしょう。少量であれば睡眠に支障をきたすことはありませんが、あまり量を減らすと今度は逆に、安眠効果をもたらしてくれる成分も十分に摂取できなくなってしまいます。
チョコレートには、入眠をスムーズにする成分と、入眠を阻害する成分の両方が含まれています。そしてカフェインは摂取後30分ほどで速やかに吸収される成分。寝る前に摂取すると、ちょうど眠りたいタイミングで血中濃度が最大になってしまいます。
チョコレートを食べてすぐは、カフェインの効果が強く発揮されるタイミングでもあるため、覚醒作用による入眠が阻害されるおそれがあるのです。
理由2:糖質や脂質の摂りすぎ
チョコレートには糖質や脂質が多量に含まれている「美味しい」食べ物です。美味しいものはやめどきが難しいため、用意していたチョコレートをつい食べ過ぎてしまった、ということも起こりがちです。
寝る前に多量の糖質や脂質を摂取することは、体重や体脂肪の増加を引き起こします。体脂肪の増加により、脂質異常症や高血圧など、生活習慣病のリスクだけでなく、睡眠時無呼吸症候群のリスクも上がることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠時に呼吸が繰り返し止まり、体が酸欠状態になります。睡眠の中断が起こりやすいため、睡眠時間を十分に取っているはずなのに脳が休まらない、といった状況が続きやすくなってしまいます。
睡眠には脳が活発に働いているレム睡眠と、脳が休息しているノンレム睡眠とに分けられます。体はどちらの睡眠においても休められますが、脳を休めるにはノンレム睡眠の期間を十分に確保することが重要です。睡眠時無呼吸症候群においてはこのノンレム睡眠の中断が起こりやすく、脳の休息を十分に取ることができません。慢性的な睡眠不足に陥り、集中力の低下や気分の落ち込みなどが起こりやすくなってしまいます。
また、糖質や脂質の過剰摂取により活性酸素が多量に発生し、酸化ストレスにより体に炎症が生じやすくなります。酸化ストレスやそれに伴う炎症もまた、不眠の原因となります。
チョコレートは「美味しい」食品であるため、食べる量をコントロールするのが特に難しく、体脂肪の合成が盛んになりやすい夜に食べるのはリスクが高いと言えるでしょう。
理由3:虫歯のリスク
寝る直前にチョコレートを食べると良い、という考えから、枕元にチョコレートを置いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。歯磨きせずにそのまま眠ってしまうという方も少なくないかもしれませんね。
しかし、砂糖の使われた食品を食べて、歯磨きをせずに眠る習慣が付くと、虫歯のリスクが高まってしまいます。
夜は唾液の分泌量が低下しており、最も虫歯になりやすい時間帯。このタイミングでのチョコレート摂取は、歯の健康においてもリスクの高い行為です。
朝のチョコレートが与える睡眠へのメリット
このように、夜のチョコレートには、逆に不眠を誘発したり、体重や体脂肪を増やしたり、虫歯のリスクを高めたりする可能性があります。しかし、チョコレートに睡眠の質を高める成分が複数含まれていることも確かです。
そのため、これらの問題を解決しつつ、チョコレートの安眠効果を取り入れるための方法として「朝にチョコレートを食べる」ことをおすすめします。
覚醒作用をもたらすカフェインの半減期は摂取後3~5時間ほどであるため、朝食に食べたチョコレート中のカフェインが、夜の睡眠に影響を及ぼすことはありません。このため、朝に食べれば、チョコレートが睡眠に与えるデメリットを避けて、メリットのみを効率よく得られるのです。
また、朝のチョコレートには体内時計を整える効果があることが報告されています。睡眠サイクルの乱れを修正し、決まった時間に寝付きやすくなる効果が期待できます。
体内時計とは、約24時間の周期で起こる身体や精神の状態の変化を指し、概日リズムとも呼ばれています。この体内時計は現実の24時間と完全に同期しているわけではないため、徐々にズレは大きくなると言われています。このズレが大きいまま過ごしていると、昼夜逆転の生活となったり、睡眠障害や精神障害、Ⅱ型糖尿病やがんなどのリスクを高めたりすることが分かっているのです。
体内時計は朝日を浴びたり、寝る直前の食事を避けたりすることでリセットされ、正しく整いますが、朝食にチョコレートを加えることでも同様の効果が期待できると考えられています出典[1]。
チョコレートのデメリットを気にすることなく、安眠効果を十分に得られるタイミングとして、朝は適していることが分かりますね。
安眠をサポートするチョコレートの成分4つ
チョコレートには睡眠の質を高めたり、気持ちを穏やかにして入眠をサポートする効果があります。では具体的に、どのような成分が睡眠や気分の安定と関係しているのでしょう。
1.テオブロミン(カカオポリフェノール)
チョコレートに含まれるカカオポリフェノールは、強力な抗酸化作用を持ちます。テオブロミンはカカオポリフェノールのひとつであり、気分を改善したり、リラックス効果をもたらすことが分かっています。また、その抗酸化作用で体内の活性酸素を除去し、酸化ストレスを低減させる効果も期待できます出典[2]。
乱れた食生活を続けている、筋力トレーニングなどで激しい運動を行う習慣がある、という場合には、酸化ストレスが特に多い状態にあると考えられます。過度の酸化ストレスは睡眠の質を低下させるため、カカオポリフェノールにより酸化ストレスを減らすことは、睡眠の質を良好に保つために有益であると言えるでしょう。
2.GABA
GABA (Gamma-Amino Butyric Acid)はγアミノ酪酸というアミノ酸の一種です。GABAには不安やストレスを軽減したり、体内時計や睡眠を調節したり、記憶力を向上させたりする効果があります。
GABAのサプリメントを用いたランダム化比較試験により、入眠をサポートする効果が確認されています。100mgのGABA カプセルを摂取したグループは、比較対象としてプラセボサプリメントを摂取したグループよりも、起きているときの感覚が改善され、入眠までの時間が短縮されていました。また、GABAを摂取したグループにおいては、ノンレム睡眠の増加も確認され、より深い眠りについていることが明らかになっています出典[3]。
なお、GABAによる安眠効果は摂取後2時間ほどしか続かないため、朝の摂取では意味がないと考えられてきました。しかし朝や昼など、日中のGABA摂取においても安眠効果を得られることが、GABAを使用したランダム化比較試験において明らかになったのです。
この試験において、日中にGABAを100mg、1週間継続して摂取したグループは、比較対象としてプラセボの成分を摂取したグループよりも、夜により深い眠りにつくことができており、また入眠までの時間も平均して7.5分短縮されていました出典[4]。
このように、日中にGABAを摂取することでも、同じように安眠効果が期待できます。朝のチョコレートを習慣化することで、夜の睡眠の質を高められるでしょう。
3.マグネシウム
チョコレートからはマグネシウムを摂取できます。マグネシウムは体内において、神経伝達物質と強く関わっています。マグネシウム不足により、体内時計の乱れや、睡眠ホルモンであるメラトニンの減少を引き起こし、睡眠障害に影響を与えることが研究により示されています。
マグネシウムの摂取による睡眠への影響や、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度の変化を調べたランダム化比較試験が行われました。これによると、毎日500mgのマグネシウムの摂取を食事で8週間続けたグループの方が、比較対象としてプラセボサプリメントを摂取したグループよりも、睡眠における様々なステータスの改善が見られました。
マグネシウムの摂取において、睡眠時間や睡眠効率の改善、入眠までの時間の短縮、早朝覚醒の減少が確認されています。また、血中のメラトニン濃度が増加し、コルチゾールが減少した他、血清のレニン濃度が増加していることが分かりました出典[5]。
レニンは腎臓で作られるたんぱく質分解酵素であり、レム睡眠やノンレム睡眠と関わりがあることが分かっています。血清レニン濃度の増加に伴い、ノンレム睡眠の時間が増加し、レニン濃度が減少するとノンレム睡眠も短縮されることから、レニン濃度を十分に保つことで睡眠中の脳が十分に休まり、安眠効果が得られると考えられています。
4.トリプトファン
チョコレートには、必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンが含まれています。トリプトファンはメラトニンを増加させるために重要であり、スムーズな入眠をサポートする効果が期待できます。
メラトニンは、幸せホルモンと呼ばれているセロトニンと関係しています。トリプトファンを材料として作られるセロトニンは、夜になるとメラトニンに変化し、睡眠ホルモンとして機能することが分かっています。
朝日を浴びるとセロトニンが合成されやすくなる、という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。このように、セロトニンは朝に合成が活発になるホルモンです。このときにセロトニン合成の材料となるトリプトファンを摂取することで、夜のメラトニンの量を増やす効果が得られるでしょう。
朝のチョコレートで良い眠りを!適切な食べ方4選
このように、チョコレートには睡眠の質を向上したり、入眠をスムーズにしたりする効果が確認されています。では、朝にチョコレートを食べる場合、どのようなことに気を付けるべきなのでしょう。
1.1日20~30gを目安に
チョコレートはカカオポリフェノールやGABA、トリプトファンなどの優秀な供給源ではありますが、糖質や脂質を豊富に含む食品でもあります。そのため当然ながら、食べすぎればカロリーオーバーを招き、体脂肪を増加させる可能性があります。
多すぎる体脂肪は生活習慣病のリスクを上昇させるだけでなく、体内で炎症を起こしやすくしたり、睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めたりと、睡眠に関わる様々な悪影響の原因となってしまいます。
良質な睡眠を確保するために、適正な体重を確保し、体脂肪を増やしすぎないようにすることは重要です。体重や体脂肪のコントロールのため、1日のチョコレートは20~30gほどを目安としてみましょう。袋分けにされたチョコレートであれば2つか3つほど、板チョコであれば3分の1枚ほどを数日に分けて食べることをおすすめします。
2.カカオ含有量は70%以上
テオブロミンなどのカカオポリフェノールの含有量が高いほど、精神を安定させる効果などが高まることが分かっています。
慢性疲労のある人を対象としたランダム化比較試験においては、ポリフェノールが少ないチョコレートを食べたグループと比較して、ポリフェノールが豊富なチョコレートを食べたグループにおいて、不安に関連する症状が大きく減少していました出典[1]。
カカオポリフェノールの含有量が多いチョコレートを朝に食べることで、精神的・認知的健康、心臓血管系、および代謝にプラスの効果をもたらすことが分かっています。毎日の朝食に取り入れることで、入眠しやすさや睡眠の質の向上に繋がる可能性がありますね。
目安として、カカオ含有量が70%以上の高カカオチョコレートを選ぶようにしましょう。
夜に高カカオチョコレートを食べるとカフェインの摂取にも繋がり、入眠を阻害する可能性がありますが、朝に摂取したカフェインであれば夜には効果を発揮しなくなっています。チョコレートの睡眠に有益な効果だけを効率よく得ることができるでしょう。
苦みの中で引き立つ絶妙な甘さは絶品・・。たまに食べたくなりますよね。
3.GABA高含有のチョコレートがより効果的
GABAには睡眠の質を向上させる効果や、ストレスを軽減させる効果が確認されています。しかし効果を得るために必要なGABAの量はそれぞれ異なるようです。
ストレスを軽減させる効果は、1日あたり20~100mgほどの摂取で生じやすいとされています。一方、睡眠の質の向上が確認されたGABAの量は、100~300mgほど。ストレス軽減効果に比べ、より多くの量が要求されるのです出典[3]。
GABAはチョコレートに特有の成分というわけではなく、バナナ、トマトやなす、納豆など、通常の食品からも摂取することができます。しかしより睡眠の質を高めたい場合には、GABA高含有のチョコレートを意識して選ぶようにしてみると良いでしょう。
4.継続摂取により効果UP
睡眠の質の改善や入眠までの時間の短縮といった安眠効果を十分に得るためには、寝つきが悪いと感じた時だけではなく、毎日の習慣として朝食のチョコレートを取り入れることが重要です。
安眠効果を得るためには、チョコレートの摂取を毎日続けることがより効果的である可能性が研究により示されています。1~4週間の長期使用により、入眠までの時間が短縮されたと報告されているため出典[3]、まずは1か月ほど、チョコレートの摂取を続けてみることをおすすめします。
5.牛乳との同時摂取は避けよう
朝食に牛乳を飲む方も多いかもしれませんが、朝にチョコレートを取り入れる場合、同時摂取は避けた方が良いでしょう。
牛乳に含まれるたんぱく質であるカゼインは、チョコレートのカカオポリフェノールと結びつき、テオブロミンなどの吸収率を低下させることが分かっています。
この現象は牛乳を使用したミルクチョコレートでも確認されており、タンパク質含有量の高い牛乳を加えたチョコレートは、カカオポリフェノール含有量や抗酸化活性が低かったと報告されています出典[6]。
このように、チョコレートとの相性が悪い一方で、牛乳はカルシウムの効率的な供給源であるなど、優秀な食品でもあります。チョコレートとの摂取タイミングを分けて、昼や夜に飲むよう心掛けると良いでしょう。
寝つきが悪い場合には、夜間にホットミルクを飲むのがおすすめです。セロトニンの合成材料となるトリプトファンや、合成効率を高めるビタミンDや鉄も摂取できるため、リラックス効果が期待できるでしょう。
まとめ
睡眠の質を高めたり、入眠時間を短縮したりと、チョコレートに含まれる成分には様々な安眠効果が確認されています。その一方でカフェインや糖質、脂質の摂取にも繋がるため、摂取のタイミングや量には気を付ける必要がありますね。
朝に20~30gのチョコレートを食べる習慣を付けることで、ぐっすり寝られる生活を目指しましょう。
出典
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