執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
はじめに
疲労を抱えたまま日々を過ごすのは、身体的にも精神的にもストレスになります。迅速に解消したいところですが、毎日の激務により思うように疲れが取れない方も少なくないのではないでしょうか。この記事では疲労をいち早く解消したり、疲労の蓄積を防止したりするための助けになるような食べ物や飲み物について紹介します。
私たちはなぜ疲労を感じるのか?
疲労は、体へのダメージの蓄積を防ぐ目的で、休息が必要なことを私達に伝えるためのものです。私達は活動のためにATPと呼ばれるエネルギーを体内で生産しますが、その過程で活性酸素というものが副産物として発生します。
私達が活動をすればするほどATPは多く必要になり、その分活性酸素も多く生成されます。活性酸素は通常、体内の抗酸化物質により無害化されますが、過剰な活動により活性酸素が増えすぎることで調整が追いつかなくなり、活性酸素が体内に増えた状態のままとなります。
活性酸素は細胞のたんぱく質や血液成分などを酸化変性させてしまいます。体内の組織にダメージを与えることから、この活性酸素は酸化ストレスと呼ばれています。酸化ストレスにより細胞がダメージを受けたことを体が感知することで、疲労と呼ばれる倦怠感や、炎症による疼痛や微熱を引き起こします。これらは過剰な活動をしないようにという警告の意味で体から生じる反応ですが、酸化ストレスが減らないままでは疲労が改善されず、辛い状態が長引くことになります。
食事と疲労回復の密接な関係
疲労回復のためには、酸化ストレスによってダメージを受けた細胞をいち早く修復する必要があります。また疲労が長引くのを防ぐため、酸化ストレスが蓄積された状態を解消することも重要です。これら疲労状態からの脱却には、適切なエネルギーと抗酸化物質の補給が欠かせません。食事が疲労状態に与える影響について以下で解説します。
抗酸化物質が疲労の原因を取り除く
疲労の原因である酸化ストレスには活性酸素が関連しています。活性酸素を無害化するための抗酸化物質は、体内で合成される他に食事からも供給することができます。普段の食事から意識的に摂取することで、迅速な疲労回復、および疲労の防止に役立ちます。
抗酸化物質として働く栄養素は、ビタミンC、ビタミンE、グルタチオン、システイン、ポリフェノール類、β-カロテン、カテキン、イミダゾールジペプチドなど、多岐に渡ります。これら抗酸化物質に様々な種類があるように、活性酸素の種類も実は様々です。どの抗酸化物質がどの活性酸素を無害化できるかはそれぞれ決まっているため、様々な食品から多様な抗酸化物質を摂取し、あらゆる活性酸素に対応できるようにしておくのが理想的です。
臨床研究においては、ビタミンEやポリフェノール類を多く含む全粒穀物や野菜、およびω-3系脂肪酸が豊富な食品を含む食事により、疲労を改善できる可能性があることが示されています出典[1]。これら抗酸化物質の積極的な摂取を意識しつつ、バランスの取れた食事を心掛けることで疲労回復の効果が期待できるでしょう。
回復に必要なエネルギーを供給する
疲労から回復するためには、ダメージを受けた細胞を修復する必要があり、そのためには十分なエネルギー補給が必要です。エネルギーとなるATPを作るためのシステムは「TCA回路」と呼ばれ、これを回すために複数の栄養素が不可欠であることが判明しています。
ATPを生み出すための燃料となるのがグルコースと脂肪酸です。これらの栄養素からATPを生み出し体の中で使えるようにするためには、アミノ酸の摂取も欠かせません。
グルコースは炭水化物から、脂肪酸は脂質から、アミノ酸はたんぱく質からそれぞれ摂取できます。疲労回復に必要なエネルギーを産生するために、これら三大栄養素をそれぞれ不足なく摂取する必要があるでしょう。
回復のためのエネルギー産生を効率的に
私達のエネルギーとなるATPをより効率的に産生するためには、ビタミン類の摂取も必要です。エネルギー生産系であるTCA回路を回すためのビタミンとして、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸が判明しており、特にグルコースの代謝にはビタミンB1が、脂肪酸の代謝にはパントテン酸に加えてアミノ酸のL-カルニチンが、それぞれ重要であるとされています。
またグルコースや脂肪酸、アミノ酸の代謝や合成に必要なビタミンとして、ビオチンの摂取も重要です。グルコースにおいてはビタミンのビタミンB1やα-リポ酸が、脂肪酸においてはアミノ酸のL-カルニチンと、ビタミンのパントテン酸がそれぞれ必要です。
更にコエンザイムQ10という栄養素もATPの産生に不可欠です。コエンザイムQ10はビタミン様物質として知られる脂溶性の物質であり、体内で合成することもできますが、食事からも積極的に補給することでより早い疲労回復が見込めると言われています。
ビタミンだけでなく、ミネラルの摂取も疎かにはできません。マグネシウムはエネルギー産生を効率的にし、血液循環を正常に保つために重要であることが分かっています。マグネシウムの不足により倦怠感を生じるケースがあることが臨床研究により判明しており出典[2]、十分な摂取を心掛ける必要があるでしょう。
疲労回復に効果的な食べ物10選
疲労回復、疲労の蓄積防止のためには、抗酸化物質を含む食品を利用すること、エネルギー補給のために五大栄養素をバランスよく摂取することが重要であることが分かりました。以下では疲労回復に有効な物質を多く含む食品や、現代の食事において不足しがちな栄養素を補える献立などを具体的に紹介します。
アスタキサンチンを含むサーモン
アスタキサンチンはサーモンに含まれる赤い色素です。優秀な抗酸化作用を持つカロテノイドであり、体内で合成することができないため、食品から摂取する必要があります。同じカロテノイドの仲間として、ニンジンに含まれるβ-カロテンや、トマトに含まれるリコピンなどがありますが、アスタキサンチンの抗酸化作用はこれらの中でも群を抜いており、より迅速な疲労回復が期待できる食品です。
酸化ストレスによって疲労や炎症の原因物質である炎症性サイトカインが生じますが、アスタキサンチンの抗酸化作用はこの炎症性サイトカインの産生を効率的に阻害することが明らかになっています出典[3]。またアスタキサンチンだけでなく、鮭に含まれるω-3系脂肪酸も抗酸化作用ならびに抗炎症作用を持つことで知られています。疲労回復のため、積極的に摂取したい食品です。
アスタキサンチンは加熱によって失われにくい栄養素です。焼き鮭やムニエルなど、様々な調理法で楽しむことができ、より手軽な缶詰の形でも摂取が可能です。一食分の目安である切り身一切れ、80g程度を1日の目安として摂取するとよいでしょう。
コンビニでも手軽に買えるサラダチキン
イミタゾールペプチドは、特に鳥類の筋肉に豊富に含まれるペプチドです。渡り鳥が休むことなく飛行できる、その持久力の助けとなっていると考えられています。
動物およびヒト試験において、鶏むね肉から抽出したイミタゾールペプチドの継続的な摂取により、運動機能向上効果や疲労解消効果が得られることが分かっています出典[4]。
イミタゾールペプチドはカツオやマグロなどの回遊魚にも含まれていますが、日々の食事の中で手軽に摂取できる鶏むね肉での摂取をオススメします。サラダチキンであればコンビニでも手軽に購入ができ、日々の食事に一品プラスする感覚で継続的に摂取できます。
クエン酸が豊富なアセロラジュース
クエン酸が疲労回復に有効であるという話をご存知の方は多いのではないでしょうか? クエン酸は柑橘類に多く含まれる酸味成分です。加工食品の酸味料や酸化防止剤などにも利用されていることもあり、強い抗酸化作用があります。
また、クエン酸にはエネルギー産生を手助けをする効果や、筋肉を酷使した際に多く発生する疲労物質、乳酸を減少させる効果などもあり、疲労回復のために意識的に摂取したい成分です。
梅干しなどにも含まれているクエン酸ですが、更に別の抗酸化物質であるビタミンCを多く含むという点で、アセロラジュースで補給することをオススメします。抗酸化物質は様々な種類を摂取することで、より多様な活性酸素の無害化に役立てることができます。複数の抗酸化物質をコップ一杯のアセロラジュースで効率よく摂取し、疲労回復に役立てましょう。
パントテン酸が摂れるレバー
貧血防止のための食品として知られるレバーですが、疲労回復にも有効な食品です。レバーにはエネルギーを産生するために必要なパントテン酸やビタミンB1が豊富に含まれており、エネルギー産生を効率化するための食品としてオススメです。
また、レバーには亜鉛も豊富です。鉄や亜鉛の不足によっても倦怠感が生じるため、貧血や亜鉛欠乏症の防止にもレバーは大いに役立ちます。
味に癖があるレバーですが、疲労回復に役立つ成分を複数、豊富に含んでいることから、是非摂取を検討したい食品です。牛乳に浸し、血抜きをした状態で一食分ずつ冷凍保存しておくと、加熱と味付けだけで食べられる状態になり、定期的な摂取に便利です。
カルニチンが豊富なラム肉
羊の肉であるラム肉には、エネルギー産生に不可欠なL-カルニチンというアミノ酸が豊富に含まれています。脂肪酸をエネルギーに変えるために必要なこの栄養素は牛肉や赤貝に多く含まれていますが、ラム肉のL-カルニチン含有量は群を抜いています。L-カルニチンを投与したランダム化比較試験において、倦怠感の減少や集中力の改善が見られるなど、確かな有益性が確認されており出典[5]、効率的な摂取のため、是非食べるようにしたい食品です。
また、ラム肉には鉄や亜鉛など、欠乏によって倦怠感を生じるミネラル類、またエネルギー産生に必要となるナイアシンなどのビタミン類も含まれており、この点からも疲労回復に効果的な食品であると言えます。
とはいえ、日常的にラム肉を摂取することは、余程料理好きな方でないと難しいでしょう。そのため、数少ない摂取の機会である外食の場面を逃さないようにしたいものです。レストランで何を頼もうか迷った際には、是非ラム肉の料理を選択肢に入れてみてください。
回復のカロリーチャージにさつまいも
エネルギー産生のためには、当然ながらエネルギーの素となる三大栄養素の摂取が不可欠です。そのうちの炭水化物はグルコースの供給源として必ず摂取すべき栄養素であり、穀類やイモ類などでの供給が一般的です。しかし白米や精製小麦のパンばかりでの供給を続けていると、ビタミン類やミネラル類の不足が起こり、折角摂取した炭水化物をエネルギーに変えられず栄養不足を招きかねないため、注意が必要です。
サツマイモは十分な炭水化物を含んでおり、またエネルギー産生に欠かせないビタミン類も豊富です。抗酸化物質として働くビタミンCやカロテノイドも含んでいることから、疲労回復のために摂取すべき炭水化物の選択肢に是非とも入れていただきたいところです。
ビタミンCはとても脆い成分であり、水にさらしたり熱を加えたりすることで容易に失われてしまいます。しかしサツマイモはアクを含むため生食には向かず、加熱は避けられません。電子レンジで熱を通すことでビタミンCの喪失を少なく抑えられることが分かっているため、手軽な摂取法として電子レンジの活用をオススメします。
ポリフェノールが豊富な緑の葉っぱ系の野菜
食物繊維やビタミン・ミネラルが豊富な葉物野菜ですが、ポリフェノールなどの抗酸化物質を多く含むことでも知られています。ほうれん草や小松菜など、濃い緑の葉物野菜に含まれるポリフェノールの摂取がオススメです。より多様な抗酸化物質を摂取するため、一種類だけを毎日摂取するのではなく、日々様々な野菜の料理を選んで食べるとよりよい効果が期待できます。
特に、フラボノイドの一種であるケルセチンは、疲労回復に強く作用する成分であるとして研究が進んでおり、細胞試験およびラットへの投与試験において抗炎症作用と免疫増強効果をもたらすことが分かっています出典[6]。
ケルセチンは玉ネギのほか、サニーレタスやブロッコリーなど緑の野菜に多く含まれています。是非、野菜料理を選ぶ参考にしてみてください。
完全栄養食の卵
完全栄養食として知られている卵には、ビタミンC以外の全ての必須栄養素が含まれています。人間の体内で合成できない必須アミノ酸を全てバランスよく含んでいることから、理想的なたんぱく質供給源として積極的に活用したいところです。
コレステロールを多めに含むため、1日に4つも5つも食べることは推奨されませんが、毎日最低1つの摂取は習慣化したほうが良いでしょう。
卵の調理方法によって栄養素が大きく失活するようなことはありませんが、よりエネルギー産生に効率的な摂取を期待するのであれば、生卵ではなく火を通した状態での摂取をオススメします。エネルギー産生に関わるビタミンであるビオチンは、卵白に含まれるアビジンという成分により働きを阻害されてしまいます。アビジンは加熱により失活するため、ビオチンの恩恵を最大限得るためには加熱調理での摂取が理想でしょう。
「最も栄養価の高い果実」アボカド
森のバターとも呼ばれるアボカドですが、その豊富な栄養素の中には疲労回復に有効となるものも多数含まれています。エネルギー産生に関わるナイアシンや、抗酸化作用を持つビタミンCやビタミンEが豊富です。
ビタミンEは脂溶性ビタミンであり、脂質と共に摂取することで体へ吸収されます。アボカドには不飽和脂肪酸も豊富に含まれているため、ビタミンEの吸収効率も高まり、より強い抗酸化作用が期待できます。
ただしアボカドには脂質含有量も多く、摂りすぎると過剰なエネルギー摂取を招いてしまいます。1個丸々を毎日食べてしまうと250kcalほどのカロリー、および25gほどの脂質を摂取することになり、やや過剰です。他の果物からもポリフェノールを摂取し、様々な抗酸化物質の恩恵を得られるようにするため、アボカドを毎日摂取する場合は1/2個を目安にするとよいでしょう。
マグネシウムが豊富なアーモンドやナッツ
アーモンドやナッツは抗酸化作用を持つビタミンEの、またミネラルであるマグネシウムや亜鉛の供給源として理想的です。
アーモンドはビタミンEやマグネシウム、亜鉛などが豊富です。抗酸化作用を期待して、あるいはミネラル不足による倦怠感を防止する目的で摂取することをオススメします。またカシューナッツはエネルギー産生に関わるビタミンB1を豊富に含み、ナッツの中では脂質含有量が比較的少ないためエネルギーバランスの面でも優れています。
ナッツ類の摂取は1日30gを上限にしましょう。複数の抗酸化物質を摂取するため、アーモンドだけ、カシューナッツだけ、という食べ方ではなく、クルミなども含んだ素煎りのミックスナッツを選ぶとよりよい抗酸化作用が期待できます。25〜30粒程度を1日摂取量の目安とするとよいでしょう。
最適な栄養摂取で最高のリカバリーを!
抗酸化作用を持つ食品の摂取により酸化ストレスを軽減すること、エネルギー補給をいち早く行うことで細胞へのダメージを修復すること、疲労回復においてはこの二点をポイントに食品を選ぶことが重要です。
しかし当然ながら、エネルギー補給のためにはビタミン・ミネラルだけでなく、炭水化物・脂質・たんぱく質といった三大栄養素の不足や過剰にも気を配る必要があります。夜に食べ過ぎる、朝食を抜きがちなどの習慣に心当たりのある方はこちらの是正も同時に行うことで、食事による体へのダメージを防ぎ、疲労の予防に繋げることができるでしょう。
出典
- 1.
Ulrike Haß, Catrin Herpich, and Kristina Norman. Anti-Inflammatory Diets and Fatigue. Nutrients. 2019 Oct; 11(10): 2315.
- 2.
Melvyn R. Werbach, M.D. Nutritional Strategies for Treating Chronic Fatigue Syndrome. Alternative Medicine Review Volume 5, Number 2 2000 Page 93-108
- 3.
Lorenza Speranza, Mirko Pesce, Antonia Patruno, Sara Franceschelli, Maria Anna de Lutiis, Alfredo Grilli, and Mario Felaco.Astaxanthin Treatment Reduced Oxidative Induced Pro-Inflammatory Cytokines Secretion in U937: SHP-1 as a Novel Biological Target. Mar Drugs. 2012 Apr; 10(4): 890–899.
- 4.
西谷真人,宗清芳美,杉野友啓,梶本修身. 新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド. 日本補完代替医療学会誌 第 6 巻 第 3 号 2009 年 10 月:123–129
- 5.
Ruud C W Vermeulen, Hans R Scholte. Exploratory open label, randomized study of acetyl- and propionylcarnitine in chronic fatigue syndrome. Psychosom Med. Mar-Apr 2004;66(2):276-82.
- 6.
Yao Li, Jiaying Yao, Chunyan Han, Jiaxin Yang, Maria Tabassum Chaudhry, Shengnan Wang, Hongnan Liu, and Yulong Yin. Quercetin, Inflammation and Immunity. Nutrients. 2016 Mar; 8(3): 167.
参考文献
- 渡辺恭良他 | おもしろサイエンス 疲労と回復の科学 | 日刊工業新聞社 | 2018年
- 上代淑人, 清水孝雄 | イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 | 丸善出版 | 2011
- 加藤保子, 中山勉 | 食品学Ⅰ 食品の化学・物性と機能性 改訂第2版 | 南江堂 | 2012年
- 加藤保子, 中山勉 | 食品学Ⅱ 食品の分類と利用法 改訂第2版 / 南江堂 | 2013年
- 小川正, 的場輝佳 | 新しい食品加工学 食品の保存・加工・流通と栄養 | 南江堂 | 2011年
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