執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
筋トレと好相性!成分に見るさつまいものメリット5つ
甘く柔らかい味わいが特徴のさつまいもは、おやつとしても食事としても楽しめる食材です。さつまいもは筋力トレーニングとの相性も良いため、タイミングや調理法を選ぶことでトレーニング中でも美味しく食べることができます。
では、さつまいもにはどのようなメリットがあるのでしょう。以下ではさつまいもの栄養素に注目し、筋力トレーニングに与える影響について解説します。
1.高糖質食品であり、エネルギーの供給源として
さつまいもはイモ類の中でもカロリーが高く、糖質量も多いという特徴があります。カロリーはじゃがいもやさといもの倍以上、糖質量もさといもの約3倍、じゃがいもの1.8倍ほどあります。
【イモ類(皮なし)100g当たりの成分量(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)】出典[1]
エネルギー(kcal) | 炭水化物(g) | 糖質(g) | |
さつまいも | 126 | 31.9 | 30.9 |
さといも | 53 | 13.1 | 11.2 |
じゃがいも | 59 | 17.3 | 17.0 |
生命維持や運動に欠かせないエネルギーを効率よく産生するためには、糖質食品の摂取が欠かせません。ご飯やパスタなどの主食だけでなく、さつまいもなどの高糖質食品を活用することで、エネルギーの供給源の幅がぐっと広がります。
2.食物繊維を豊富に摂取できる
さつまいもにはイモ類の中でも食物繊維が豊富です。皮なしのさつまいもであれば、100gあたり水溶性食物繊維が0.6g、と不溶性食物繊維が1.6g含まれており、どちらの食物繊維の恩恵も受けることができます。
水溶性食物繊維は水を吸ってねばついた状態になり、食べ物の腸管内での移動や吸収を緩やかにしてくれます。血糖値の上昇を緩やかにできるため、インスリンの分泌量を抑えられ、体脂肪合成を抑制する効果が期待できます。
不溶性食物繊維は水を吸って膨らみ、腸内を刺激して排便を促します。便秘の改善に役立つため、腸内での悪玉菌の増殖を防ぐことができますね。
また、これら食物繊維には腸内で善玉菌のエサとして機能し、腸内環境を良好に保つ効果もあります。筋力トレーニング中は通常よりも多くのたんぱく質食品を摂取します。たんぱく質は腸内で悪玉菌のエサとなるため、高たんぱく質食を続けていると腸内環境が悪化しやすくなるのです。
食物繊維によって善玉菌を増やしやすくすることで、悪玉菌が増えがちな筋力トレーニング中の腸内環境を整える効果が期待できます。良好な体調でトレーニングに取り組むため、食物繊維が豊富なさつまいもは活躍してくれることでしょう。
3.ビタミンB1でエネルギー補給を効率的に
筋力トレーニングに必要なエネルギー補給には糖質食品の摂取が欠かせません。しかし糖質をエネルギーとして使える状態に変えるためには、ビタミンやミネラルの作用が必要です。
中でもビタミンB1は糖質代謝に深く関わる栄養素です。ビタミンB1が不足していると、折角の糖質がエネルギーに変えられず、倦怠感や集中力の低下を招いてしまいます。
糖質の供給量が十分であるにもかかわらず、ビタミンB1が不足することによって生じるこれらの状態は、ビタミンやミネラルの含有量が少ない、白米や精製小麦のパンのみの食事において起こりやすいことが分かっています。
その点、さつまいもであれば糖質量だけでなく、エネルギー産生に欠かせないビタミンB群も含まれています。そのため、さつまいもだけで摂取しても、エネルギーの産生効率が落ちにくいのです。
ビタミンB群が機能することにより、手軽さと糖質補給の効率の良さを両立できるのがさつまいものメリットであると言えるでしょう。
4.ビタミンCやポリフェノールが筋肉へのダメージを軽減
さつまいもにはビタミンB群だけでなく、ビタミンCも含まれています。ビタミンCは抗酸化ビタミンとして機能し、体内に発生した活性酸素を除去して、酸化ストレスを低減する効果があります。
さらにさつまいもには、抗酸化物質として機能するポリフェノールのクロロゲン酸が含まれています。また、皮の部分にはブルーベリーで有名なポリフェノール、アントシアニンも含まれています。
激しいトレーニング時には活性酸素が通常よりも多く発生します。多量の活性酸素は酸化ストレスとして細胞にダメージを与え、筋肉の合成効率を下げたり、筋肉痛からの回復を遅らせたりしてしまいます。
筋力トレーニングのパフォーマンスを高めたり、筋損傷からの回復を早めたりするにおいて、抗酸化物質の摂取は非常に重要です。糖質補給と同時にこれらの抗酸化物質も取り入れて、筋肉へのダメージを防ぎましょう。
5.低脂質でカロリーを抑えられる
さつまいもは甘味が強いため、おやつとしても美味しく食べることができます。同時に極めて低脂質な食品でもあるため、量を食べてもカロリーが増えにくく、満足感のあるおやつとして楽しみやすい食品です。
一般的な「おやつ」である和菓子や洋菓子、スナック菓子の「1食分」に相当する200~300kcal程度の範囲内で、さつまいものカロリーと脂質を比較してみましょう。
【おやつ1食分相当の成分量(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)】出典[1]
カロリー(kcal) | 脂質(g) | |
さつまいも200g | 252 | 0.4 |
草もち(こしあん)100g | 224 | 0.4 |
どら焼き100g | 282 | 3.1 |
クリームパン100g | 286 | 7.4 |
芋かりんとう50g | 233 | 10.3 |
ショートケーキ100g | 314 | 14.7 |
ミルクチョコレート50g | 275 | 17.1 |
ポテトチップス60g | 325 | 21.1 |
このように、さつまいもは他のおやつの倍量、200gほど食べたとしてもカロリーが同等かそれ以下であり、草もちなど、脂質を全く使っていない和菓子に匹敵する低脂質食品であることが分かります。
満足感を得られるおやつでありながら、低脂質ゆえに体脂肪合成を抑えることもできるため、ダイエット目的で筋力トレーニングをしている場合にも、活用しやすい食品であると言えそうですね。
さつまいもの栄養価を最大化する調理法
さつまいもは、その調理法によって栄養素の量や味わい、吸収速度などが大きく変わる食品です。以下ではどのような調理でどのような栄養素が変化するのか、またその変化に伴い味わいはどのように変化するのか、などについて解説します。
低温かつ長時間の加熱でより甘く
さつまいもは甘味が強いことで知られています。さつまいもにはグルコース、フルクトース、スクロース、マルトースが含まれており、これらが甘さを生み出しているのです。
このうちマルトースという糖質は、さつまいもに含まれるβ-アミラーゼという酵素によって生じます。
さつまいもは加熱することで「糊化」されて、柔らかくしっとりとした味わいになります。この状態になった「糊化でんぷん」に、β‐アミラーゼが作用することでマルトースに分解されるのです。
さつまいものでんぷんの糊化する温度は、一般的な品種であれは75℃ほど。一方β‐アミラーゼが効率的に働く温度は40~50℃であり、75℃ではこの約30%ほどしか働きません。そのためβ‐アミラーゼの作用を十分に発揮させるためには、この75℃ほどの温度帯にできるだけ長く留め、30%ほどの活性しかもたないβ-アミラーゼが十分に作用する時間を作る必要があります出典[2]。
低温かつ長時間の加熱を行うことで糖類の量が増え、より甘いさつまいもに仕上がります。またでんぷんの分解が進むことで低分子の糖類の割合が増えるため、吸収性が上がり、血糖値を急激に上昇させるようになります出典[3]。
長時間の低温調理によりでんぷんがより多く分解され、糖度の高いさつまいもに仕上がるのです。
短時間の蒸し調理でビタミンCが残りやすい
さつまいもはビタミンCを多めに含んでいますが、ビタミンCは本来、とても脆い成分です。水に晒す、切る、砕く、加熱する、といった操作で容易に失われてしまうため、本来は生で食べられる果物が効率的な供給源であると言われていますね。
さつまいもはアクを含むため生食には向かず、加熱によるビタミンCの減少は避けられません。しかし「短時間調理」と「蒸し調理」では、ビタミンCの損失を少なくすることができます。
オーブンなど、高温かつ長時間での調理や、切り口を水に晒しながら調理することになる茹で調理においては、さつまいもに限らず、ビタミンCの残存率が低いことが判明しています出典[4]。
ビタミンCの残存量をできるだけ多く保ちたい場合には、蒸し器を使った蒸し調理や、耐熱容器を使ったレンジ調理でさつまいもを加熱しましょう。
冷やし芋でレジスタントスターチがUP
さつまいもは他のおやつや主食と比較しても低カロリーではありますが、より糖質量を抑えてダイエット向きの食品にしたい、と考える方もいらっしゃるかもしれませんね。
その場合にできる工夫として、加熱して食べられる状態にしたサツマイモを一度冷やすことをおすすめします。
さつまいもは加熱によりでんぷんの一部が分解されて、マルトースなどの分子の小さな糖へと変化します。この状態のさつまいもを冷やすことで、残ったでんぷんの一部が「レジスタントスターチ」と呼ばれるものに変化するのです。
レジスタントスターチは食物繊維と似た特性を持っており、血中コレステロールを低下させたり、血糖値の急上昇を抑制したりする作用が確認されています出典[5]。糖質量を減らして、血糖値の上昇を緩やかにする効果をより多く得るために、是非「冷やし芋」での摂取を試してみましょう。
なお、レジスタントスターチは冷やすことで生成された後、再び電子レンジなどで過熱しても元のでんぷんには戻らないことが確認されているのです出典[6]。温かいさつまいもを楽しみたいという場合には、さつまいもを再加熱することで、レジスタントスターチの量を増やしたまま美味しく食べることができますね。
皮つきでの調理で食物繊維やポリフェノールUP
さつまいもは皮つきでも食べられる食品です。皮と一緒に食べることで、いくつかの栄養素をより効率よく摂取できるようになります。
たとえば食物繊維であれば、皮なしで100gあたり2.2g、皮つきで100gあたり2.7gとなっています。皮を剥かずに食べるだけで、100gあたり0.5g多く食物繊維を摂取できます。
また、ポリフェノールのアントシアニンはそのほとんどが皮の赤紫色の部分に含まれています。さつまいもから抗酸化物質を豊富に摂取したい場合には、是非皮つきの状態で食べるようにしましょう。
筋トレの目的別!おすすめの食べ方を紹介
さつまいもには筋力トレーニングに役立つ栄養素が豊富に含まれているだけでなく、調理法によってその栄養素を増やしたり保持したりできることが分かりました。これらの長所や特性を活かして、さつまいもを筋力トレーニングに活用するには、どのような食べ方をすればよいのでしょうか。
以下では筋力トレーニングの目的別に、さつまいもを食べるタイミングやおすすめの調理法について解説します。
バルクアップ中
筋肉を増やして体を大きくすることが目的のバルクアップ期間においては、筋肉の合成効率を高めるため、十分な糖質補給が必要となります。さつまいもを使った糖質補給の方法について考えてみましょう。
血糖値を上げやすい焼き芋が好相性
さつまいものでんぷんは、時間をかけて低温調理することでより分解が進み、マルトースを多く生成します。分子の大きなでんぷんよりも、分子の小さな二糖類であるマルトースの方が速やかに吸収されるため、血糖値も急激に上がります。
血糖値の上がり方が急激であればあるほど、筋肉や肝臓、脂肪にエネルギーを蓄えるホルモンである、インスリンの分泌量が増えやすくなります。血糖値を急激に上げる食品は、体脂肪合成のリスクが高いという一面があるものの、筋肉への速やかなエネルギー補給においては非常に優れているのです。
焼き芋は比較的低温で長時間、ゆっくりと加熱して出来上がるシンプルなさつまいも料理です。持ち運びも容易であるため、血糖値を急激に上げて筋肉へのエネルギー補給を行いたいタイミングで、すぐに食べられるのも便利なポイントですね。
なお、焼き芋にチーズやバター、アイスを合わせて食べる方法が、さつまいものアレンジレシピとしてテレビやSNSで紹介されることがあります。しかしこれら高脂質な食品との組み合わせは、低脂質であるさつまいものメリットを損なうことになり、体脂肪合成のリスクが高まってしまうため、避けた方が良いでしょう。
トレーニング前後の糖質補給として
血糖値を上げやすい焼き芋を食べるタイミングとして、筋肉への速やかなエネルギー補給が必要になる、トレーニングの前後をおすすめします。
トレーニング前にはパフォーマンス向上のため、速やかなエネルギー補給を行い、筋肉にグリコーゲンを蓄えておく必要があります。トレーニング後においても、疲労、損傷した筋肉を回復させて筋肥大の効率を上げるため、十分な糖質補給が欠かせません。
このように、トレーニング前後に摂取した糖質は、筋肉において積極的に使われるため、血糖値を上げやすい食品であっても体脂肪合成のリスクを低く抑えることができます。
トレーニングのパフォーマンス向上や筋肉の合成効率UPと、体脂肪合成の抑制を両立させるため、是非トレーニング前後での焼き芋を意識してみましょう。
ダイエット中
ダイエット目的で筋力トレーニングをしている場合には、バルクアップ中とは逆に、血糖値を急激に上げないような食べ方ができるよう意識してみましょう。また、少量でより高い満足感を得るための工夫も重要です。
蒸し芋や干し芋がおすすめ
ダイエット中には、電子レンジや蒸し調理で加熱したさつまいもを食べるようにしましょう。加熱時間を短くすることで、でんぷんから分解されるマルトース量を抑えることができます。
でんぷんの状態でさつまいもを食べることにより、体内での分解に時間がかかり、糖質の吸収が緩やかになります。血糖値の上昇を抑え、体脂肪合成のリスクを減らすのに役立ちますね。
さらに蒸し芋を冷やすことでレジスタントスターチの量も増え、血糖値の上昇をより緩やかにする効果も期待できます。
また、蒸したさつまいもを干すことで出来上がる「干し芋」もダイエット中にはおすすめです。干し芋は硬く、よく噛んで食べることで脳内のヒスタミン分泌を促すことができます。ヒスタミンは満腹中枢を刺激して食べ過ぎを防ぐように作用してくれるため、ダイエット中の食欲のコントロールにも非常に役立ちます。
ただし干し芋は水分が少なく、栄養素が凝縮されているため、蒸し芋と同じだけ食べてしまうとカロリーオーバーに繋がります。よく噛んで食べることで、少量で満足しやすくなるのが干し芋のメリットであるため、量は少なめに調整するようにしましょう。
おやつや食事に取り入れよう
速やかな糖質補給が重要であるトレーニング前後においては、血糖値を急激に上げる食品の摂取が適しています。そのため血糖値を緩やかに上げる効果を強化した、蒸し芋や干し芋、冷やし芋といった食べ方は、トレーニング前後においては向いていません。
ダイエット中にはこれらの蒸し芋などを、おやつや食事に取り入れるようにしましょう。食物繊維が豊富なさつまいもを食事に取り入れることで、食事全体の血糖上昇を緩やかにする効果が得られます。よく噛んで食べることで満足感も得やすく、食事の食べ過ぎを防ぐ効果も期待できますね。
また、おやつ代わりに食べることで、他の高脂質なおやつよりもカロリーを抑えられ、体脂肪合成のリスクを下げることもできます。体を絞って体重を落としたいときには、普段のおやつを干し芋などに置き換えることで、満足感を得ながらストレスなくカロリーカットに繋げられます。
まとめ
さつまいもは高糖質食品でありながら、ビタミンB群やビタミンC、ポリフェノール類に食物繊維などを多く含みます。糖質代謝や筋肉の保護、腸内環境の改善などの効果が期待できるため、筋力トレーニングとは相性が良い食品であると言えるでしょう。
また、さつまいもは調理法によって、糖質の構成やビタミンCの残存量が変化するという特徴があります。目的に合わせて加熱方法や食べるタイミングを工夫し、筋力トレーニングの効率を高めましょう。
出典
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