執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
ヨーグルトってどんな食べ物?
発酵食品であり良質なたんぱく質を含むヨーグルトは、健康志向の方にも人気の高い食品です。
ヨーグルトと筋力トレーニングの関係について説明する前に、まずはヨーグルトという食べ物の特徴について簡単に解説しましょう。
基本的な成分は牛乳と同じ
ヨーグルトは生乳を乳酸菌や酵母などで発酵させた、クリーム状の発酵食品です。牛乳を発酵させたものが主に食べられており、栄養価は牛乳とほぼ同じです。
【ヨーグルトおよび牛乳の100gあたりの栄養成分(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より】出典[1]
エネルギー | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 | |
ヨーグルト | 61kcal | 3.3g | 3.8g | 4.8g |
牛乳 | 56kcal | 3.6g | 3.0g | 4.9g |
ヨーグルトからは牛乳と同じく、良質なたんぱく質や脂質、牛乳由来の糖質、豊富なカルシウムなどを摂取できます。
糖類を加えた加糖ヨーグルトや、脂肪分をカットした低脂肪ヨーグルト、水切りにして固形物の割合を高めたギリシャヨーグルトなど、様々なタイプのものが販売されています。
コンビニやスーパーなど、あらゆる場所で購入が可能であり、手軽に食べられるため、食事にたんぱく質を強化したい場合にも活躍できます。
発酵食品であり、乳糖不耐症の方でも食べられる
日本、特に成人の方においては、乳糖不耐症が多く見受けられます。牛乳を飲むとお腹が痛くなるという悩みのために、牛乳を飲むのを控えている方も少なくないようです。
乳糖不耐症の方の腸内には、乳糖を分解する酵素であるラクターゼが不足しています。そのため乳糖であるラクトースを十分に分解できず、腹痛や下痢を引き起こすことがあります。
しかしヨーグルトは乳酸菌の発酵により、ラクトースが分解されています。そのため乳糖不耐症により牛乳の利用ができない方でも、ほぼ同じ成分を摂取できるのです。
良質なたんぱく質や脂質、カルシウムの供給源として、乳製品は非常に優秀な食品です。牛乳を飲めない方は、是非ヨーグルトの利用を検討してみてください。
ヨーグルトの成分に見る筋トレへのメリット4選
発酵食品であり、食べやすい乳製品であるヨーグルトは、筋力トレーニングとも相性のよい食品です。タイミングと食べ方を工夫することで、トレーニングの効率を高め、パフォーマンスの向上に役立つ可能性があります。
以下ではヨーグルトの成分ごとに注目し、筋力トレーニングに及ぼす効果について詳しく紹介しましょう。
メリット1.たんぱく質と脂質が筋肉の合成を促す
乳製品であるヨーグルトは動物性食品であり、アミノ酸スコアの高い食品です。
体のたんぱく質を合成するために必要なアミノ酸のバランスが非常によく、筋肉の合成の効率化に役立ちます。
2006年にイギリスで発表された論文では、筋力トレーニングのような無酸素運動後に牛乳を摂取することによる効果が調べられています。
この研究では、運動後の牛乳の摂取により、脚全体のアミノ酸バランスが向上し、必須アミノ酸の取り込み量が増加したと報告されています。特に無脂肪乳よりも全脂肪乳での効果が高く、必須アミノ酸のスレオニンの取り込み量の差は2.8倍にも及びました出典[2]。
良質なたんぱく質や脂質を含む牛乳は、たんぱく質合成に使うアミノ酸を利用しやすくする効果があるようです。
牛乳と同じ成分であるヨーグルトにも、同様の効果が期待できます。良質なたんぱく質と脂質の供給源として、ヨーグルトを活用してみましょう。
メリット2.たんぱく質と脂質が筋肉のエネルギー源を素早く回復させる
牛乳に含まれるたんぱく質と脂質には、インスリンの分泌を高める効果があります。
インスリンは血糖値を下げるように働くホルモンであり、血中の余った糖を、筋肉や肝臓、脂肪組織に蓄えるよう促す作用があります。筋力トレーニングにおいては、筋肉にエネルギーとなるグリコーゲンを蓄積させる働きが重要視されています。
筋肉にグリコーゲンを効率よく蓄えることができれば、トレーニングのパフォーマンス向上に繋がり、また運動後の疲労回復を速やかに行うこともできます。
2018年に東京大学から発表された論文においては、牛乳の成分と糖質食品の組み合わせで、インスリン分泌が増大したと報告されています。また、無脂肪乳と全脂肪乳との比較により、インスリン分泌の増大効果には、たんぱく質と脂質、両方が作用していることも明らかになりました出典[3]。
牛乳の成分と糖質食品との組み合わせとして、アイスクリームやホワイトチョコレートでも同様の効果が確認されています。ヨーグルトと糖質食品を組み合わせることでも、インスリン分泌を増大させる効果が期待できそうですね。
メリット3.分岐鎖アミノ酸が筋肉痛を和らげる
牛乳からはBCAA(分岐鎖アミノ酸)と呼ばれる、バリン、ロイシン、イソロイシンを豊富に摂取できます。サプリメントでもよく見かける成分であるため、トレーニーの方は利用経験があるかもしれませんね。
運動時にエネルギー源である筋肉のグリコーゲンを使い果たした場合、体は血液中の糖や脂肪、アミノ酸であるBCAAなどを分解してエネルギーに変えようとするのです。
しかしBCAAは必須アミノ酸であるため、筋肉の合成にも欠かせません。トレーニーにおいて、BCAAは筋肉の合成に加え、運動時のエネルギー源としても消費される可能性があります。通常より多く消費されることを考慮して、BCAAを十分に摂取しておくことが推奨されています。
2015年にイギリスで発表された論文では、運動後の牛乳摂取により、筋肉痛や筋肉損傷のマーカーの増加を運動後から72時間後まで有意に抑えられたという結果が得られています出典[4]。
BCAAが多く消費され、必須アミノ酸が不足すると、運動による筋損傷からの回復が遅れてしまいます。牛乳やヨーグルトを摂取することで筋肉痛や筋損傷を軽減できれば、トレーニングの質もより高まるでしょう。
メリット4.乳酸菌やビフィズス菌が腸内環境を改善する
発酵食品であるヨーグルトの、牛乳にはない強みが、乳酸菌やビフィズス菌を含むという点です。乳酸菌やビフィズス菌は善玉菌として機能し、腸内の悪玉菌の増殖を抑えるように働くのです。
筋力トレーニング中は筋肉の合成効率を高めるため、たんぱく質食品を十分に摂取する必要があります。しかしたんぱく質食品は腸内で悪玉菌のエサとなり、悪玉菌を増やすように働く栄養素でもあるのです。
高たんぱく質食は、腸内環境を悪化させるリスクが高いため、発酵食品や食物繊維など、腸内環境を整える食品の摂取により、悪玉菌の増殖を抑える必要があります。
腸内環境の悪化は便秘や栄養吸収率の低下など、トレーニングのパフォーマンス低下にかかわるトラブルのリスクを高めます。発酵食品を毎日摂取して、腸内環境の改善に役立てましょう。
どう食べる?ヨーグルトの活用法について解説
牛乳と同じ成分であり、乳糖不耐症の心配がなく食べられるヨーグルトは、牛乳に代わる良質なたんぱく質や脂質の摂取源として効果的です。では、実際にヨーグルトを食べるときには、どのようなことに気を付ければよいのでしょう。
ヨーグルトの効果を高めるための、おすすめの摂取タイミングや種類について紹介します。
1日の摂取量の目安
発酵食品であるヨーグルトに腸内環境の改善効果を期待する場合、摂取を毎日続けることが何よりも重要です。乳酸菌やビフィズス菌は長期間腸内に留まってくれるものではないため、継続的な摂取を心掛けましょう。
無理なく摂取を続けられる量として、1日100~200gを目安にするとよいでしょう。一人分に分けられたヨーグルトパックであれば1日2つまで、大きなパックであれば4日程度で1つを食べきるイメージです。
乳製品は良質なたんぱく質を含んでいますが、たんぱく質の密度はそれほど高くありません。100gあたり20g以上のたんぱく質を摂取できる、魚や赤身肉、鶏肉の方がたんぱく質効率としては優れています。
1食分に必要なたんぱく質を乳製品だけで補おうとすると、大量に摂取しなければならなくなり、他の食事バランスにも影響が出てしまいます。
ヨーグルトなどの乳製品は、あくまでたんぱく質を強化するための「プラス食品」として考えましょう。
おすすめの摂取タイミング
たんぱく質強化に役立つヨーグルトは、どのタイミングで食べるのが効率的なのでしょう。
ヨーグルトを活用したいタイミングの例として、2つ紹介します。
トレーニング後
糖質食品と同時に摂取することで筋グリコーゲンの蓄積を高められるヨーグルトは、トレーニング後の摂取が適しています。
インスリン分泌を効率化させるたんぱく質と脂質、筋肉の回復促進や筋肉痛の軽減に役立つBCAAなど、トレーニング後のタイミングで摂取しておきたい栄養素がヨーグルトには豊富に含まれています。
なお、インスリン分泌は糖質食品を十分量摂取しないと起こりません。そのためトレーニング後にヨーグルトを食べる際には、糖質食品と組み合わせましょう。
なお、トレーニング前の食事においては、速やかにエネルギーを吸収する必要があるため、たんぱく質や脂質、食物繊維などの少ない、お米やうどんのような高糖質な食品が適しています。
ヨーグルトに含まれるたんぱく質や脂質が、糖質の速やかな吸収を妨げる可能性があるため、トレーニング前の摂取は控えておきましょう。
朝食時
ヨーグルトは食事のたんぱく質を強化したいときの「プラス食品」として優れています。昼食や夕食に活用してもいいのですが、特におすすめしたいのが、たんぱく質が不足しがちな朝食に活用する方法です。
筋肉の分解を防ぎ、合成を効率化するためには、毎日持続的にたんぱく質を補給する必要があります。特に夜間の睡眠を経て、長時間たんぱく質を摂取していない朝においては、十分なたんぱく質を補給することが非常に重要です。
また、朝食、昼食、夕食と均一にたんぱく質を摂取するよりも、朝食のたんぱく質量を増やした方が筋肉の合成には効果的であることが分かっています。
2021年に早稲田大学から発表された論文では、BCAAを豊富に含むたんぱく質摂取が筋肥大を効率化させること、朝食にたんぱく質を摂取することで骨格筋量が増大しやすくなることが述べられています。
マウスを用いた研究においては、たんぱく質強化食を朝食に食べた方が、夕食に食べるよりも骨格筋量の増加が17%も多く確認できています出典[5]。
朝食におけるたんぱく質の不足を補うことはもちろん、BCAAが豊富なヨーグルトでたんぱく質の強化を行うことは、骨格筋量の増加に繋がりやすいと言えます。
朝食にヨーグルトを取り入れて、筋肥大の効率化をはかりましょう。
おすすめのヨーグルトの種類
ヨーグルトには全脂肪無糖(プレーン)、低脂肪、無脂肪、加糖などがあり、スーパーやコンビニでもあらゆる種類を購入できます。今回はその中から、筋力トレーニングの質を高めるためにおすすめの種類を2つ紹介しましょう。
全脂肪加糖ヨーグルト
筋肉の合成効率を高めるために「全脂肪」のヨーグルトを選びましょう。また、筋グリコーゲンの蓄積を効率化するために「加糖」のヨーグルトを選ぶか、糖類を添加して食べるとより効果的です。
2006年にイギリスで発表された論文において、牛乳を用いたたんぱく質合成の比較が行われています。
この研究では、無脂肪乳よりも全脂肪乳の方が、筋力トレーニング後のアミノ酸取り込み量が2.8倍も増加していました。無脂肪乳の量を増やしても、アミノ酸の取り込み量の改善が見られなかったことから、脂質を含んだ全乳の形で摂取することの重要性が指摘されています出典[6]。
牛乳と同じ成分であるヨーグルトについても、無脂肪ではなく全脂肪のものを選ぶことで、より高い筋肉合成効果が期待できるでしょう。
また、加糖ヨーグルトを摂取しインスリン分泌を促すことで、より筋肉の合成効率を高めることができます。特にのむヨーグルトは糖質量が多いため、インスリン分泌を促したい場合の摂取に適しています。
なお、のむヨーグルトや加糖ヨーグルトには人工甘味料が使われている場合があります。しかしアスパルテームやアセスルファムKなどの人工甘味料では、インスリン分泌を促すことができません。疲労回復効果や筋肥大の効率化を期待したい場合には、エネルギーのある砂糖やはちみつが添加されたものを選びましょう。
ギリシャヨーグルト
ギリシャヨーグルトとは、水切りを行ってヨーグルトの水分を減らしたものを指します。水分を減らして固形成分を濃縮しているため、たんぱく質やカルシウムの含有量も一般のヨーグルトより多く、濃厚な味わいが楽しめます。
一般のヨーグルトのたんぱく質含有量は100gあたり3.6gです。一方、製品にもよりますが、ギリシャヨーグルトには9~10gほどのたんぱく質が含まれており、倍以上の摂取効率を誇っています。
より効率的に食事のたんぱく質を強化したい場合には、是非ギリシャヨーグルトを取り入れてみてください。
組み合わせにより効果倍増!ヨーグルトと合わせたいおすすめ食材3選
ヨーグルトはそのまま食べても十分にトレーニングへのメリットが期待できる食品です。しかし甘味や糖質食品を組み合わせることで、さらに疲労回復効果や筋肥大の効率が高まります。
ヨーグルトと味や成分の面で相性がよい食品や甘味料を、次に3つ紹介します。ヨーグルトを飽きずに美味しく食べるための工夫として、是非ご活用ください。
バナナ
バナナは果物の中でも糖度が高く、クリーミーな味わいが特徴です。味の面でヨーグルトとも相性がよいため、よくトッピングとして用いられますね。
100gあたり20g以上の糖質含有量を誇ることから、疲労回復効果が高く、運動後の摂取に適しています。たんぱく質や脂質を含むヨーグルトとの組み合わせにより、インスリンの分泌が増大するため、筋グリコーゲンの蓄積の効率化や、筋肉痛の軽減効果も期待できます。
また、バナナからは食物繊維やオリゴ糖など、乳酸菌のエサとして機能する成分も摂取できます。乳酸菌を効率よく増やせるため、腸内環境の改善に役立ちます。
ヨーグルトのメリットを最大限に発揮する組み合わせとして、バナナは最適な果物であると言えるでしょう。トレーニング後や朝食のタイミングに、是非活用してみてください。
ブルーベリー
ヨーグルトにトッピングしたり、冷凍したものを混ぜたりすることで食べられるブルーベリーもまた、バナナと同じく味の面で相性のよい果物です。
ブルーベリーの糖質は100gあたり10g以下と、バナナには及びませんが、代わりにブルーベリーからは豊富な抗酸化物質を摂取できます。
ブルーベリーに含まれる抗酸化物質は「アントシアニン」というポリフェノールの一種です。アントシアニンは強力な抗酸化物質であり、体内に発生した活性酸素を除去するように働きます。
激しいトレーニングにおいては多量の活性酸素が発生します。酸化ストレスの蓄積により、筋肉痛が長引く、筋力が低下する、といったトラブルも起こりやすくなります。
トレーニングの質を高め、筋肉を酸化ストレスから保護するため、ブルーベリーを活用してみましょう。ヨーグルトと一緒に毎日食べることで、酸化ストレスの低減効果が期待できます。
はちみつ
はちみつは砂糖よりも甘味が強く、砂糖よりもカロリーの低い糖類です。また、一般的な上白糖はショ糖という二糖類で主に構成されていますが、はちみつは酵素の働きにより、ブドウ糖と果糖という単糖類まで分解されています。
砂糖よりも素早くエネルギーになる甘味料であるはちみつは、筋力トレーニング時のエネルギー補給にも効率的です。
また、純粋はちみつにはグルコン酸という有機酸が含まれており、ビフィズス菌を増やす作用が確認されています出典[7]。ビフィズス菌が豊富なヨーグルトと組み合わせることで、より高い腸内環境改善効果が期待できるでしょう。
なお、一般的なはちみつは15~16℃以下の低温で結晶化が始まり、硬く混ぜにくくなってしまいます。ヨーグルトなどの冷たい食品に混ぜる際には、アカシアという花から採取された、結晶化しにくいはちみつを選んでみましょう。
まとめ
ヨーグルトは牛乳と同じ成分でありながら、牛乳よりも食べやすい良質なたんぱく質食品です。加糖や水切りによって様々な味わいが楽しめるため、飽きずに続けられるのも嬉しいポイントですね。
筋グリコーゲンの蓄積や筋肉の合成、疲労回復の効率化や、筋肉痛の軽減など、トレーニングの質を高めるための様々な効果が期待できます。
トレーニング後には糖質食品と組み合わせて、朝食時にはたんぱく質の強化として、毎日の摂取を心掛けてみましょう。
出典
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