快眠には寝る前の牛乳!効果的な摂取方法について解説
2023年9月22日更新

監修者

睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級

室井優作

心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

寝る前の牛乳が睡眠にもたらすメリット3選

寝つきが悪い、深く眠れず深夜に目が覚める、といった睡眠に関する悩みを抱えていませんか? 睡眠の質を高めるには、日中の生活リズムを整える、夜は湯船にゆっくり浸かる、寝る前のブルーライトを避ける、といった工夫が有効である場合があります。

今回はより手軽に睡眠の質を高める方法として、寝る前に牛乳を飲む方法を紹介しましょう。寝る前の牛乳摂取により、睡眠にはどのような効果が期待できるのでしょうか。

1.メラトニンの生成効率を高めて入眠をスムーズに

入眠をサポートして睡眠の質を高める物質として、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンが機能することが判明しています。

メラトニンは夕方から合成量が増えるホルモンであり、日中に分泌されたセロトニンを原料として作られます。セロトニンの合成には、必須アミノ酸であるトリプトファンの摂取が欠かせません。牛乳にはトリプトファンが豊富に含まれているため、体内のメラトニン合成を促進する飲料として注目されています。

1989年にカナダから発表された論文において、トリプトファンの血中濃度と、就床から睡眠までの時間における関係が調べられました。

就床1時間前にトリプトファンを投与したところ、血中トリプトファン濃度が上昇し、入眠までの時間が約16分から約8分に短縮されたことが確認されています。また、トリプトファンの投与を1.2gから2.4gに増やすと、入眠時間の短縮効果は就床2時間前の投与でも現れました出典[1]

さらに2002年にドイツで発表された論文では、トリプトファンの摂取タイミングと睡眠の質との関係が調べられています。この研究では、朝にトリプトファンを摂取しても、夜にトリプトファンの摂取を制限した場合、睡眠時の血中トリプトファン濃度が減少し、睡眠効果も十分に得られないという結果となっています出典[2]

このように、睡眠の質を高めるためには夜間、就寝1時間前にトリプトファンを摂取することが効果的であると考えられます。夜間にトリプトファンを手軽に摂取する方法として、ぜひ牛乳を活用してみましょう。

 

2.抗酸化物質による疲労回復効果も

脳は活性酸素による酸化ストレスの影響を受けやすい組織です。過剰な酸化ストレスは疲労回復の効率を下げ、目覚めがスッキリとしない、倦怠感が残る、といったトラブルを生じやすくなります。

また、酸化ストレスの蓄積はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促進させます。コルチゾールは覚醒を促す性質のあるホルモンであり、通常は朝に増加し夜間には減少しています。しかし過剰な酸化ストレスによりコルチゾールが夜間に増加すると、入眠を妨げるように働いてしまいます。

牛乳や乳製品からは、グルタチオンやビタミンA、ビタミンEなどの抗酸化物質や、抗炎症作用のあるラクトフェリンやラクトアルブミンなどを摂取できます出典[3]。抗酸化物質や抗炎症物質の摂取により睡眠での疲労回復が促され、スッキリと目覚めやすくなる効果が期待できるでしょう。

 

3.適度なたんぱく質と脂質で満足感を得やすい

トリプトファンは牛乳のみならず、ほかのたんぱく質食品からも摂取できます。しかし睡眠の質の向上に牛乳が有効である理由として、たんぱく質と脂質を適度に含み、満足感を得やすい食品である点が挙げられます。

たんぱく質や脂質の摂取は、消化管ホルモンであるコレシストキニン(CCK)の分泌を促進させます。CCKは満腹中枢を刺激するように働くため、夜間の空腹を抑える効果が期待できます。

強い空腹は入眠の妨げとなり、睡眠時間の短縮につながります。牛乳で空腹を解消してから就床することで、よりスムーズに眠りやすくなるでしょう。

なお、トリプトファンの摂取のため、寝る前に肉や魚を大量に食べるやり方はおすすめできません。固形物である肉や魚を消化するには、消化管を活発に動かす必要があります。体を休めるべき夜間に内臓が活発に動くため、疲労の回復効率が悪くなってしまうのです。

快眠のためにトリプトファンを補給したい場合には、牛乳のような消化に負担をかけにくい飲み物を選びましょう。

 

寝る前の牛乳の効果的な飲み方

寝る前に牛乳を飲むことで、入眠をスムーズにしたり疲労回復効率を高めたりといった、快眠に役立つ効果が期待できます。では、牛乳の快眠効果を十分に発揮するためには、どういった点に注意すればよいのでしょう。

寝る前の牛乳の飲み方や、効果を高めるためのポイントについて次に解説します。

寝る1時間~30分前、マグカップに軽く1杯を目安に

トリプトファンによる入眠をサポートする効果は、就床1時間前の摂取で現れています。摂取直後に就床すると、トリプトファンの血中濃度が上がりきらないため、十分な効果が得られません。

また、2時間前の摂取では倍量のトリプトファンを摂取しなければ効果が確認できなかったことからも出典[1]就寝1時間以内の摂取が適切と言えるでしょう。

1回に飲む牛乳の量は、マグカップ1杯程度にしておきましょう。過剰な摂取はカロリーオーバーにつながり、体脂肪合成のリスクを高めてしまいます。

また、水分を多量に摂取すると、尿意による睡眠中断を起こしやすくなるため、朝までグッスリ眠るためにも飲み過ぎは厳禁です。

 

はちみつなどの糖類を加える

牛乳を飲む際、はちみつなどの糖類を摂取すると、トリプトファンの脳における利用率を高める効果が期待できます。グルコースはトリプトファンの血液脳関門の通過を促進するため、グルコースが豊富な食物源も睡眠にプラスの影響を与える可能性があると考えられているのです出典[4]

はちみつはブドウ糖と果糖から主に構成されており、二糖類のショ糖で構成された砂糖よりも素早く体内に吸収されます。糖類の効果をより早く発揮できるため、寝る前の牛乳とは相性のよい甘味料です。

また、はちみつは砂糖より甘みを感じやすく、かつ砂糖よりも低エネルギーです。そのためカロリーをできるだけ増やさずに牛乳を飲みやすくしたい場合にもおすすめです。

もちろん食べ過ぎはカロリーオーバーにつながるため、マグカップ1杯に対してスプーン1杯までを目安としておきましょう。

 

ホットミルクで体を温める

冷たい牛乳を一気に流し込むのではなく、ホットミルクを飲むことも快眠のサポートには効果的です。温かい飲み物をゆっくり摂取するとリラックス効果を得やすくなり、体の緊張を解消して寝つきをよくする効果が期待できます。

また、温かい飲み物の摂取により、身体の中心の温度である深部体温を高めることも入眠には効果的です。深部体温を就寝前に上げておくと、体は皮膚から熱を発散しようとします。深部体温を下げるために手足の温度が上がることで覚醒度が低下し、早く眠りやすくなることが確認されています出典[5]出典[6]

なお、トリプトファンの利用効率を高める効果が期待できるはちみつは、15~16度程度で結晶化しやすくなるため、冷たい牛乳に溶かすには不向きです。はちみつを溶かしておいしく飲むためにも、ホットミルクの活用をおすすめします。

 

ココアやチョコレートの添加はNG

トリプトファンの利用効率を高めるために加える糖類として、チョコレートや砂糖入りのココアを思い浮かべた方もいるかもしれません。

しかしココアやチョコレートには、覚醒作用のあるカフェインが含まれています。寝る前の摂取はもちろん、夕方以降の摂取においても入眠を阻害し、睡眠の質に悪影響を与えるおそれがあります。快眠のため、カフェイン含有食品を摂取するタイミングには十分注意しましょう。

カフェインの効きや持続時間には個人差があり、この量以下、この時間以降であれば影響がない、とは言い切れません。しかし睡眠への影響を防ぐため、少なくとも夜間、寝る前の摂取は避けた方がよいでしょう。

 

よくある質問

寝る前の牛乳にはさまざまな快眠効果が期待できます。一方で、牛乳の摂取を続けてもよいのか、注意すべきことはないか、気になる方も多いことでしょう。

寝る前の牛乳に関連した疑問の中で、よく寄せられるものについて以下に回答します。夜間の牛乳摂取の参考に、ぜひお役立てください。

寝る前の牛乳は太る?

牛乳は太りやすい食品、というわけではありません。牛乳に含まれる糖質は少量であり、血糖値を急激に上げる食品ではないため、体脂肪合成を促すインスリン分泌も少なめです。

2015年にアメリカから発表された論文において、さまざまな食品の摂取と体重増加との関連が調べられました。この研究では、牛乳を飲むことと体重増加との間に関連性はないと報告されており、牛乳は体重増加のリスクが高い食品ではないと考えられています出典[7]

ただし、飲み過ぎはカロリーオーバーを招き、体脂肪増加の引き金となります。体重や体脂肪の増加は睡眠時無呼吸症候群のリスク因子となり、睡眠の質を著しく低下させます。

快眠のためには体重管理も重要であるため、適量の摂取を心掛けましょう。

 

虫歯のリスクがある?

牛乳は血糖値を上げにくい飲み物ですが、糖類ゼロというわけではありません。少量ながら、乳糖(ラクトース)という糖類が含まれているため、虫歯の原因になることがあります

はちみつなどの糖類を加えて飲む場合はもちろん、牛乳単体で飲む際にも、歯磨きを欠かさないようにしましょう。

 

ヨーグルトでも効果がある?

牛乳とヨーグルトの大きな違いは乳酸菌の有無です。ほかの成分にはほとんど差がないため、良質なたんぱく質や脂質、トリプトファンやさまざまな抗酸化物質を、牛乳と同様に摂取できます

乳糖不耐症の方は牛乳を飲むとお腹がゆるくなったり、下痢を引き起こしたりする場合があります。ヨーグルトは発酵の過程で乳糖(ラクトース)が分解されているため、乳糖不耐症の方でも活用できます

なお、体を温める目的であればホットヨーグルトも有効ですが、ヨーグルトに含まれる乳酸菌は死滅してしまいます。はちみつを混ぜやすくなるといった利点もありますが、発酵食品としての効果は得られなくなるため注意しましょう。

 

朝に飲んでもいい?

メラトニンを合成するための材料であるセロトニンは、朝に最も合成が高まります。そのため朝食時にトリプトファンが豊富な牛乳を飲むことで、夜のメラトニン合成量を高める効果が期待できるでしょう。

セロトニン自体は幸せホルモンとも呼ばれ、不安や苛立ちを減らす効果や、自律神経を整える効果が確認されています。朝にしっかりと覚醒し、夜に眠気を覚えて眠るという生活リズムを作るためには、自律神経を整えることも重要です。

しかし、快眠効果は夜の摂取においてより高まると報告されているため出典[2]、朝に牛乳を飲む際にも、寝る前の摂取は続けることをおすすめします。

なお、全脂肪乳1杯200mLのカロリーは約120kcalです。寝る前に加え、朝食にも取り入れる場合にはほかの食品の量を調節し、カロリーオーバーを引き起こさないよう注意しましょう。

 

まとめ

牛乳を寝る前に飲むことで、睡眠ホルモンであるメラトニンの合成に必要なトリプトファンを効率よく供給できます。また、就床時の空腹を解消する効果や、疲労回復効率を高める効果も期待できます。

就床時に血中トリプトファン濃度が高い状態を作るため、摂取は就床1時間~30分前を目安にしましょう。マグカップ1杯の牛乳を温め、はちみつを加えて飲むことで快眠に役立つ可能性があります。

体重増加や虫歯のリスクに注意して、牛乳を効果的に活用しましょう。

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