アナドリン(オキサンドロロン)とは?臨床試験と8の副作用
2023年11月21日更新

執筆者

薬剤師

塩見 友香

大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。

アナドリン(オキサンドロロン)とは

アナドリンとは日本で未承認の医薬品であり、その成分名はオキサンドロロンといいます。
製品はLloyd Laboratories Inc.というフィリピンおよびインドの大手製薬メーカーで製造されており、日本でも個人輸入による入手が可能です。

オキサンドロロンは人工的に合成された男性ホルモンのテストステロンに似た物質で、いわゆる「アナボリックステロイド」の一種。
アナボリックステロイドとは、正式名称「Anabolic androgenic steroids (AAS)」で、タンパク質同化作用をもつステロイドの総称です。出典[1]タンパク質同化作用は筋肉を増強することから、ネットではアナボリックステロイドは筋肉増強剤とほぼ同意義で知られています。
 

アナドリン(オキサンドロロン)の歴史

アナドリン(オキサンドロロン)の開発経緯や現在の動向について解説します。

 

1.小児と女性でも使える筋力強化剤として開発された

オキサンドロロンは1962年に初めて合成されたアナボリックステロイドです。

1964年にサール薬品は、この成分を「アナバー」の名前で医薬品としてアメリカで発売しています。出典[2]

主作用のタンパク質同化作用は、男性ホルモンであるメチルテストステロンの約3〜6倍あります。その一方で、副作用と関連するアンドロゲン作用は1/4であることから子どもや女性にも使用されました。出典[3]


2.重度の火傷やターナー症候群の治療薬として使用されている

日本でも昔は「ロナバール」という名前で医薬品として販売されていました。出典[4]

当時、オキサンドロロンはアルコール性肝炎やターナー症候群、骨粗しょう症の治療薬として使用されていました。しかし現在は、副作用や乱用の観点から国内外ともに治療薬としては多用されていません。

熱傷やHIVなどの消耗性疾患による体重減少の防止や、ホルモン分泌不全による低身長など限定的な使用がされています。

 

3.ドーピング剤として流行ってしまい規制が強まっている

その後の研究により、オキサンドロロンがテストステロンと比べて6倍高いタンパク質同化作用をもつことがわかり、筋肉を効率よく強化できるため、ボディービルダーやアスリートが乱用するようになりました。

ただし、オキサンドロロンは世界アンチドーピング機構(WADA)で禁止物質として定められており、オキサンドロロンの使用は公的にはドーピング行為となります。出典[5]

それでもオキサンドロロンの使用によるドーピング違反は後を絶たず、近代のオリンピックでも違反者が出ている状況です。

アナドリンは一般の方も個人輸入により手に入れることができ、筋肉質な身体を目指す方は試してみたいと思われるかもしれません。しかし、れっきとした医薬品であり副作用は無視できません。重篤な副作用も報告されており、この記事で解説しますのでぜひ最後まで読んでください。

アナドリン(オキサンドロロン)の臨床試験と効果

アナドリン(オキサンドロロン)の効果やメリットについて、独自に調査した一次文献をもとに解説します。

 

1.重度の火傷からの回復促進

重度の火傷は体内のホルモン分泌に大きな影響を与えることがわかっています。

もちろんタンパク質同化作用をもつテストステロンも例外ではありません。火傷により最初は徐々に増加し、8〜10日後でピークとなりますが、そのあと60日後から徐々に低下していくことが報告されています。出典[6]

オキサンドロロンはテストステロンを補い、傷の回復を促進、さらに筋肉の減少を抑えることができるのです。

実際に、1997年アメリカの研究において、深部火傷後の患者に高タンパク食とオキサンドロロン(1日2回、1回10mg)を摂取してもらい体重をモニタリングしました。

3週間後、本来平均11±2%の体重減少がおこるところ、高タンパク食+オキサンドロロン摂取群は6.5±1.1kg(参考文献より換算)の体重増加がみられました。筋肉の機能においても回復傾向がみられました。出典[7]

また信頼性の高いメタ解析論文でも、オキサンドロロンは火傷における皮膚治療の観点において有効であるとの結論が出ています。出典[8] *メタ解析とは、条件が似ているいくつかの論文の結果を統合し、より信頼性の高い結果を求める統計的手法のこと。
オキサンドロロンは火傷により低下したテストステロンを補い、治癒効果を高めます。

 

2.ターナー症候群の女児における身体の正常化

ターナー症候群とは女性のみに起こる遺伝性の病気です。性別を決定する遺伝子であるX染色体が、生まれつき一部または全部を欠損していることにより起こります。適切な治療を行わないと大人になっても身長が伸びないことや二次性徴が現れないことが大きな問題です。出典[9]

オキサンドロロンは成長板と呼ばれる軟骨部分に働き、骨を伸ばす効果があります。また体内の成長因子IGF-1の量を増加させます。
ターナー症候群の患者に、オキサンドロロンと成長ホルモンを組み合わせて使うことで、身長を伸ばしたり、筋肉などの身体的発達を促したりします。出典[10]
ただし、現在は副作用の問題から海外で限定的な使用にとどまっています。

 

3.集中治療室での衰弱防止

筋肉における作用は女性に限定されるものではありません。

入院による長期安静にともなう四肢の筋力低下や、それに関連する体調不良に対しても効果的であるとの報告があります。集中治療室に入院した患者5名を対象とした観察研究を紹介します。

2020年4月から11月までの期間中に合計2週間、テストステロン補充療法を受けた、またはオキサンドロロンを投与した患者の握力を評価したところ、平均改善率は 4.2 kg (+24.9%)でした。

また、重大な有害事象を経験した患者はなく、退院後3か月で完全に自立できるまで改善しています。出典[11]

 

4.高齢者におけるサルコペニア防止

サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少と筋力低下を指します。サルコペニアは高齢者における健康寿命を脅かし、生活の質低下や介護に影響を及ぼします。

オキサンドロロンはその予防に寄与する可能性があるのです。

まず、男性に対する効果が2004年南カリフォルニア大学から報告されています。

32人の健康な60〜87歳の男性を、無作為にオキサンドロロン20mg/日投与群またはプラセボ群に割り付け、12週間後に効果判定を行いました。

結果、オキサンドロロン群は、除脂肪体重を3.0±1.5kg増加、大腿近位部の筋肉面積を12.4±8.4cm2増加させました。また筋トレの効果もプラセボより良い結果が出ています。出典[12]

別の研究になりますが、女性に対しても同様の結果が2015年シドニー大学より報告されています。

平均年齢74.9±6.8歳の座りがちな女性29人を対象に、オキサンドロロン10 mg/日またはプラセボに分けて、レジスタンストレーニングを行い12週間後に除脂肪組織の量を評価しました。

オキサンドロロン群は全身や体幹、腕、脚の除脂肪組織が増加しました。その一方、全身脂肪量、体脂肪率、腕および脚の脂肪が大幅に減少しています。出典[13]

したがって、高齢の男女ともにオキサンドロロンと筋トレを組み合わせることで、脂肪を減らし、筋肉を効率よく増強させるのです。

都市伝説:アナドリン(オキサンドロロン)は陰茎肥大に効果的?

アナドリン(オキサンドロロン)の副作用には「陰茎肥大」と記載があることから、サイズアップできるのではと考える人もいるようですが、実際には効果はありません。

では、なぜ副作用として記載されているのでしょうか?

それは成長遅延がみられる二次性徴前の男児にオキサンドロロンを投与したところ、陰茎の成長が起きた症例が報告されているためです。出典[14]

成人男性にはそのような例はなく、科学的根拠は一切ありません。むしろ、男性ホルモンを作る機能が抑えられ、精巣の機能が低下するおそれがあるため、逆効果となりますので注意しましょう。

アナドリン(オキサンドロロン)の重篤な副作用とリスク

アナドリンを購入できるサイトでは、他のアナボリックステロイドと比べると効果も副作用も弱めで初心者にもおすすめといった内容に触れることもあるかと思います。

化学的に一部は事実であり、オキサンドロロンはタンパク同化作用が他のアナボリックステロイドより弱いという特徴があります。

ただし、重篤かつ複数の副作用が報告されていますので、副作用が弱めというのは事実と言えないでしょう。また、副作用の軽減のためにケア剤を推奨するサイトも見られますが、ケア剤自体にも副作用があるため大変危険です。

アナドリン、それに伴うケア剤をサプリメント感覚で使用することはおすすめしません。

 

1.男性不妊

先ほども述べたとおり、オキサンドロロンを摂取すると男性ホルモンの分泌が低下し、精巣の機能が落ちます。

2020年、ヨルダン・アル・ザイトゥーナ大学の動物実験による報告です。

ラットに対して14日間オキサンドロロンを継続的に投与したところ、精巣の相対重量48%、精子数82%、血清テストステロン濃度96%低下しました。出典[15]妊活中の男性は、アナドリンを服用するのはやめましょう。

 

2.持続性勃起

次も男性に対するデメリットになります。

オキサンドロロンの長期使用は、痛みをともなう持続的な勃起を引き起こす可能性があります。

こちらは2016年イギリスで報告された実際の症例になります。

24歳の白人男性に、オキサンドロロンの長期使用による複数回の持続性勃起が起こりました。ただしこの男性には、1型糖尿病で血糖値のコントロールが不良であることや、過去数日間にいくつかの違法薬物を摂取していたという背景がありました。その後、症状の改善はみられず、外科的処置による治療が行われています。出典[16]

 

3.遅発性横紋筋融解症

横紋筋融解症という病気を知っていますか?薬の副作用として耳にすることもあるかもしれません。オキサンドロロンは横紋筋融解症の副作用も報告されています。

横紋筋融解症の症状としては、骨格筋の細胞が融解や壊死することにより、筋肉の痛みや脱力感などが生じます。また、筋肉の細胞が融解し血液中に大量の筋肉の成分(ミオグロビン)が流出することで、腎臓がダメージを受け急性腎不全を引き起こすこともあります。重症になると、多臓器不全などを併発して命の危険や後遺症が残る可能性のある副作用です。出典[17]

こちらも2020年にイギリスのウェスト・ミドルセックス大学病院より報告された実際の症例です。

アルコール乱用の背景をもつ35歳男性は、筋トレのパフォーマンスを上げる目的でオキサンドロロンを60日間連続で服用していました。その1か月後に横紋筋融解症を発症して入院しています。出典[18]

したがって、アナドリンの副作用は止めたあとも注意が必要になることがわかります。

 

4.精神病

オキサンドロロンの影響は身体だけではありません。心もむしばみ、精神疾患を引き起こす可能性もあります。

マサチューセッツ州のマクリーン病院が、アナボリックステロイドと精神疾患の関連性を1994年に観察研究で示しています。

アナボリックステロイドを使用しているアスリート88名のうち、23%が重大な気分症候群(躁状態、軽躁状態、または大うつ病)と診断されていました。

またアナボリックステロイド使用中は、使用してない場合よりも気分障害を引き起こしやすいこと。気分障害の頻度は使用者の方が多いこともあわせて報告されています。出典[19]

オキサンドロロンは理想的な身体にしてくれるかもしれませんが、心の健康が犠牲になるおそれがあります。

 

5.高トランスアミナーゼ血症

トランスアミナーゼとは、肝機能関連の血液検査項目である「AST」や「ALT」の総称です。一般的にASTまたはALTが100mg/dL以上で高トランスアミナーゼ血症と診断されます。

2019年アメリカの研究では、オキサンドロロンによる治療を受けた熱傷患者を調査したところ、42%の患者で高トランスアミナーゼ血症を発症していました。

高トランスアミナーゼ血症をともなう肝機能障害はみられませんが、その発症機序などの詳細はまだわかっていません。出典[20]

 

6.全身のニキビ

アナボリックステロイドの副作用には、ニキビも報告があります。アナボリックステロイドは男性ホルモンに類似した構造をもつため、体内でホルモンバランスの変化を起こします。ホルモンバランスが崩れることで肌のコンディションに影響を与えるのです。

シドニーセントジョージ病院医学部で2000年に行われた、アナボリックステロイド使用者58名に対するアンケート調査では、そのうちの43%がニキビができると回答しています。出典[21]

アナドリンの副作用のなかでニキビは軽微なものかもしれませんが、かなり頻度が高いのは女性は気になるかもしれません。

 

7.AGAの進行

オキサンドロロンによる抜け毛が気になる人は多いのではないでしょうか?

筆者が独自に文献を調査したところ、オキサンドロロンと抜け毛の関連性を示した症例や文献はありませんでした。

ただし、オキサンドロロンのもつアンドロゲン作用は、頭髪の脱毛を引き起こすことがわかっています。AGA(男性型脱毛)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンが毛髪を作る細胞に作用することで起こります。出典[22]

オキサンドロロンはジヒドロテストステロン由来のアナボリックステロイドのため、理論上抜け毛のリスクとなるのではと考えられています。

 

8.突然死

今回筆者が文献を調査して一番怖いと感じたのが、アナボリックステロイド(以下AASとする)による「心臓突然死」。

身近なところでは、有名なボディビルダーやインフルエンサーなどもAASが原因と思われる突然死が数件報道されています。2023年3月に筋肉系YoutuberのBigarm(ビッグアーム)さんが突然亡くなられたことは記憶にも新しいのではないでしょうか。

2020年にイタリアのカターニア大学が発表した論文では、AASによって突然死した症例数と考えられるメカニズムが記されています。

その内容は1993〜2020年に計33件心臓突然死の報告があり、平均年齢29.79歳、AASを3ヵ月〜数年使用しており、その多くがスポーツ選手であることがわかっています。

その原因は心肥大や心筋組織の線維化であり、AASの使用と相関していました。

AASの使用は血管抵抗を高めたり、血圧や炎症誘発因子を上昇させたり、交感神経を過剰に高めたりすることで心筋毒性を引き起こすと考えられています。出典[23]

ラットを用いた別の論文では、心臓への影響は非可逆性である可能性が示唆されています。出典[24]

筋肉質な身体に近づけてくれるアナドリン。その代償はあまりに大きいと言わざるを得ません。

アナドリン(オキサンドロロン)を自己判断で摂取するのはリスクが高すぎる

アナドリン(オキサンドロロン)は、筋肉を効率よく増強できるアナボリックステロイドの一つです。その医学的効果から、現在もターナー症候群や熱傷患者の治療に使われています。

ただし、脂肪を落としたい、または身体を強化したい人だけでなく、ボディービルダー、アスリートなどが乱用し規制されている一面もあります。

今回の調査から筋肉強化の効果がある一方で、オキサンドロロンは男性機能や筋肉、心臓、精神にダメージを与える副作用が多く報告されており、メリットだけではないことがわかりました。

アナドリン(オキサンドロロン)はインターネットで簡単に購入できますが、ダイエットや筋肉増強のために安易にアナドリンに手を出すことはおすすめしません。

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