執筆者
薬剤師
小椋香奈
薬剤師免許を取得後、内科・整形外科・皮フ科・泌尿器科を有する医療機関の門前薬局に勤務。局内で使用する患者向け指導せんの作成に関わるなど、調剤だけでなく幅広く薬剤師業務をこなす。現在は勤務の傍らでライターとしても活動中。
目次
メダナボル(メタンジエノン)とは
メダナボルという名前を聞いた事があるでしょうか?アーノルド・シュワルツェネッガーが同成分を含むダイアナボルを使用していたと公表したこともあり、世界中で広く濫用されています。
メダナボルは男性ホルモンであるテストステロンと類似した成分である、メタンジエノンを主成分とする薬剤です。作用は主に2つあり、1つ目は男性ホルモンに類似しているため、身体を男性らしくする作用です。2つ目はタンパク同化作用により、筋肉を増強させる効果があります。出典[1]
アナボリックステロイド(タンパク質同化ステロイド)として広く使用されるメダナボルですが、どのような経緯で作られた薬剤なのでしょうか。また、摂取によりどのような副作用が報告されているのか見ていきましょう。
メダナボル(メタンジエノン)の歴史
1.実はドーピングのために開発された薬剤
薬剤は、基本的に怪我や病気の治療を目的として開発されます。実際に多くのアナボリックステロイドは火傷など体力消耗状態の治療などに使われています。しかし、メタンジエノンはテストステロンを元に、重量挙げ選手の専属医であったジーグラー氏によってアスリートの筋力増強目的で開発されました。
1958年にCIBAファーマから『ダイアナボル』としてメタンジエノンの販売が開始されました。表向きは性腺機能低下症の治療薬として処方されていましたが、適用外としてアスリートに使用されていたのが実態です。
2.アスリートによる濫用が相次いで米国で使用禁止に
ダイアナボルが濫用された1950年代は、まだまだドーピングが体に及ぼす影響についてデータが蓄積されておらず、副作用が軽視されていた時代です。
しかし、徐々に過剰に服用したアスリートの死亡例や副作用が知られるようになり、1968年に初めてオリンピックでドーピング検査が開始されました。1975年にオリンピック委員会にてダイアナボルは禁止薬物に指定され、現在も世界アンチドーピング規程では禁止薬物となっています。
このような事態を重く見たFDA(アメリカ食品医薬品局)はダイアナボルの規制を強めました。結果として、販売していたCIBAファーマは1983年に米国市場から撤退することになったのです。
その後、米国ではアナボリックステロイドを禁止する法案が可決されたため、製造中止に。また、ジェネリック医薬品であるメダナボルも同じく製造が中止されており、現在使用されていません。
3.世界中でメダナボル等のジェネリックが濫用されている
米国ではダイアナボルとメダナボル共に入手できなくなりました。しかし、強力なタンパク同化作用を求めて、他国では現在もアスリートや筋トレを行っている人々に濫用されています。
直近で開催された東京オリンピックでも、出場していた選手がメダナボルを使用していたことが分かっており、現在はドーピング違反で資格停止処分が科されています。
日本でも個人輸入やネットなどで、簡単にメダナボルを入手することができます。このように医師の処方なしで手軽に購入できる為、自身の判断や他者からの勧めで手を出しやすい環境であると言えます。
しかし、メリットのある効果だけを求めてメダナボルを安易に摂取してしまうと、重い副作用に苦しむ可能性があり最悪の場合は死に至るという報告が挙げられます。生半可な知識での摂取はオススメしません。
メダナボル(メタンジエノン)の臨床試験と効果
メダナボルはアスリート向けの筋肉増強剤として作られており、その効果を示す臨床実験が行われています。
6週間続けて11人の男性アスリートにメタンジエノンを100mg/日を摂取させたところ、プラセボ群と比較してメタンジエノン投与群平均で3.3kgの筋肉増加が報告されています。メタンジエノンの摂取により、筋肉が増強された可能性が示唆されています。出典[2]
しかし、強い作用を持つ成分は副作用として身体を蝕む場合があります。次はメダナボル摂取による副作用についてお伝えしていきます。
メダナボル(メタンジエノン)の重篤な副作用とリスク
1.男性不妊
子供を希望する男性であれば、避けたい副作用である男性不妊の可能性が臨床試験で報告されています。
15人の男性アスリートにメタンジエノンを15mg/日摂取させたところ、精子の密度が1ヶ月後に46%、2ヶ月後に73%に減少しました。また、精子の運動能力も2ヶ月後には30%に減少。正常な遺伝子を持つ精子は1ヶ月後に73から65%へ、2ヶ月後には42%と減少した事が分かっています。出典[3]
メダナボルはテストステロンに類似した成分であるとお伝えしました。これにより長期的にメダナボルを摂取すると、体内でテストステロンを生成する能力が低下します。結果的に精子がうまく作られなくなることで、生殖能力の低下が誘発されます。
2.皮質静脈血栓症
続いて報告されている副作用は、病歴のない21歳の男性アスリートで起こった症例です。ボディービルのためにダイアナボルを20mg/日で4ヶ月間摂取していたところ、皮質静脈血栓症(脳梗塞、脳出血を引き起こし運動障害や意識障害が起こる。)で入院しています。
幸いこの男性は、薬剤治療により4ヶ月後には完全に体調が回復しています。しかし、脳血栓は後遺症が残ってもおかしくない症例です。出典[4]
男性ホルモンが脳血栓症を促進する可能性があることについては、動物実験において示されています。この事から、男性ホルモンに類似するダイアナボルも同様に血栓を引き起こし、重大な副作用を引き起こす可能性があります。
3.しゃっくりが止まらなくなる
しゃっくりは様々な要因で引き起こされる神経反応です。ある論文では、アナボリックステロイドがしゃっくりを誘発したという報告があります。しゃっくりはアナボリックステロイドを増量させてから出現し、医師に診察してもらう12時間後まで続いたというものです。出典[5]
しゃっくりと聞くとあまり大きな副作用とは感じにくいと思います。しかし、長期的に続くと不眠や食欲低下、会話の困難に繋がることがあり、普段の生活にも支障をきたす恐れがあります。
4.精神病
続いての副作用は精神病です。精神症状の例として気分の浮き沈みが激しい、攻撃的な行動、非理性的な行動などがあります。
アナボリックステロイドを服用している41人のアスリートの精神状態を評価した論文が発表されています。精神疾患の分類・評価の基準であるDSM-Ⅲ-Rを用いたところ、5人(12%)がアナボリックステロイドによる精神症状があると評価されました。出典[6]
この報告により、アナボリックステロイドが精神症状を起こしており、人格や性格に影響を及ぼしている可能性が示唆されています。
5.急性腎炎や急性肝炎
頻度が多い副作用ではありませんが、急性腎炎、急性肝炎を引き起こしたという論文が発表されています。アナボリックステロイドを20~30mg/日を8週間続けて摂取した50歳の男性が腹痛と食欲不振を訴え入院しました。
血液検査を行ったところ、リパーゼの数値が785から3000U/Lまで上昇していました。そこで、腎臓と肝臓の生検を行ったところ、腎炎と肝炎を併発していることが明らかになりました。出典[7]
この論文のように、アナボリックステロイドは過去報告されてこなかった副作用が新たに発見されることがある薬剤です。急性腎炎は重症化すると、適切に治療を行った場合でも腎機能が低下し、死に至る場合がある危険な病気です。
6.バランス障害の後遺症
続いて20歳のアスリートで起こった副作用の症例です。
アナボリックステロイドを摂取後に目眩を起こし、摂取を1年半やめたにも関わらず、症状が続いたとの報告があります。詳しく検査すると、眼振が見られ平衡維持機能が低下していることが分かりました。出典[8]
このようにアナボリックステロイドの服用をやめたとしても、日常生活に影響のある副作用が何年も続く可能性があります。
7.突然死
アナボリックステロイドによる突然死は理由が1つではなく、様々な副作用が重なって起こります。ここでは実際に起こった突然死の症例についてお伝えします。
6ヶ月前から筋力トレーニングを行っていた男性が、トレーニング3時間後に息を切らしたような呼吸をしている状態で発見されました。その後、数分で倒れそのまま亡くなっています。この男性の持ち物に複数の筋肉増強剤が見つかっています。司法解剖の結果、臓器が浮腫むことで心不全に繋がった可能性が分かりました。このように、アナボリックステロイドの長期摂取は心室肥大による心不全に繋がる可能性があります。出典[9]
続いて、アナボリックステロイドを摂取していた19歳男性アスリートの症例です。この男性は静脈血栓と肺塞栓を発症し治療を行っています。もともとタンパクC欠乏症であり、アナボリックステロイドにより凝固能が上昇し血栓症を繰り返し発症した可能性があります。出典[10]
血栓ができて脳や肺、心臓にとぶと血管がつまり麻痺が残ったり、最悪の場合死に至る大変危険な病気です。
メダナボル(メタンジエノン)は非常にリスクの高い薬剤である
メダナボルで報告されている副作用をお伝えしてきましたが、しゃっくりなどの軽微なものから命に関わる重篤なものまで数多く報告があります。
過去に報告されていなかった、新たな副作用のデータも集約されてきています。そのため、安易に筋肉の増強、ダイエット効果を期待しての摂取はおすすめできません。
薬剤、サプリメントを摂取する際には、求める効果のみを見るのではなく、副作用リスクについても知っておくのが大切です。
出典
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