監修者
睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級
室井優作
心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
目次
寝る前の紅茶に期待できる快眠効果3選
紅茶には抗菌作用や抗酸化作用、脂肪燃焼作用など、健康維持やダイエットに役立つさまざまな効果が確認されています。今回は睡眠と紅茶の関係に注目し、寝る前に紅茶を飲むことで得られる快眠効果について解説します。
寝る前の紅茶の摂取には、睡眠においてどのようなメリットがあるのでしょう。
1.温かい紅茶で入眠しやすい体温に
温かい紅茶を飲むことで、寝る前の体を温めることができます。内臓などの深部体温が高まると、体は手足から熱を発散して深部体温を下げようとします。
手足などの表面体温が上がり、深部体温が下がる。この熱の変化により体は眠気を覚え、入眠しやすくなることが分かっています出典[1]。
また、体を温めるための飲料として紅茶がとくに有効である理由のひとつに、紅茶由来のポリフェノールの働きが上げられます。
紅茶のポリフェノールは抗酸化物質として機能し、体内に発生した活性酸素の活性化を抑え、体へのダメージを防ぐように働きます。紅茶の摂取により血液や血管が保護されるため、高い血行促進効果が期待できるのです。
良好な血流の確保は体温を上げるために欠かせません。温かい紅茶からポリフェノールを十分に摂取して、入眠しやすい体温づくりに役立てましょう。
2.紅茶特有の成分によるリラックス効果
紅茶を飲むとリラックスする、とはよく言われることですよね。実際に、紅茶に含まれるさまざまな成分が、気分の落ち着きや不安の解消などに役立つことが分かっています。
紅茶のリラックス効果は、複数の成分に由来しています。それぞれの成分について簡単に確認してみましょう。
渋み成分「カテキン」
一つ目のリラックス成分は、お茶に含まれる渋み成分のカテキンにあります。緑茶に豊富であることで有名なカテキンですが、紅茶からも十分に摂取できます。
活性酸素の発生による酸化ストレスは、睡眠を司る脳にダメージを与えるほか、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌を増やします。多量のコルチゾールは寝つきを悪くして睡眠の質を落とすため、活性酸素の除去は快眠における課題のひとつです。
2018年にポーランドから発表された論文においては、カテキンがグルタチオンやビタミンC以上の抗酸化作用を発揮したと報告されています出典[2]。
脳へのダメージを軽減したりコルチゾールの分泌を抑えたりする能力にも、カテキンは優れていると考えられるでしょう。
旨み成分「テアニン」
紅茶をはじめとしたお茶全般には、テアニンという旨み成分が含まれています。テアニンは脳の過度な興奮を抑え、リラックス効果や不安の軽減効果をもたらすため、不安や緊張からくる不眠の解消に効果的です。
2016年にオーストラリアから発表された論文においては、テアニンが含まれたドリンクの摂取により、1時間後のストレス反応が約14%低下したと報告されています。また、主観的な倦怠感や不安の改善も確認できていることから、テアニンには一定の抗ストレス効果があるとして結論付けられています出典[3]。
テアニンは主要な神経伝達物質であるグルタミン酸をサポートし、ストレスによる脳の海馬の活動低下を抑制すると考えられています出典[4]。ストレスによる脳への影響を減らし、リラックスした状態で眠りにつくために、紅茶由来のテアニンを活用してみましょう。
香り成分「ホトリエノール」
緑茶やハーブティーなど、お茶はよい香りを楽しむ飲み物としても人気です。紅茶の香りも例外ではなく、リラックス効果が期待できます。
快眠効果をもたらすことが分かっているお茶として、有名な紅茶の茶葉であるダージリンティーが挙げられます。
ダージリンティーの「セカンドフラッシュ」という種類の茶葉は、「ホトリエノール」という香り成分を豊富に含んでいます。このホトリエノールを就寝時に吸入することで、睡眠の質が改善する効果が期待できます。
2022年に日本で発表された論文では、就寝時にホトリエノールをアロマディフューザーで嗅いで就寝した参加者において、入眠にかかる時間が6分短くなり、総睡眠時間が26分増加したと報告されています。
また睡眠障害の指標となるPSQI総合得点やストレススコアが低下したほか、主観的な疲労回復度合いの増加も見られており、睡眠時間の延長を含めたさまざまな快眠効果が確認されています出典[5]。
ホトリエノールを嗅ぐことで、交感神経活動が抑制され副交感神経が優位な状態となり、リラックス効果が得られたのではと考察されています。
紅茶は香り単体でもリラックス効果をもたらし、入眠をスムーズにする効果が期待できます。紅茶のよい香りを楽しみ、快眠のサポートに役立てましょう。
3.腸内環境の改善による睡眠ホルモン合成効率UP
茶葉を発酵して作られる紅茶には、腸内細菌のバランスを整える働きがあります。
2020年に中国から発表された論文においては、紅茶などの発酵茶葉からなる飲料の摂取により、善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌などが定着しやすくなり、悪玉菌であるファーミクテス属や大腸菌などの増殖が抑制されたと報告されています出典[6]。
また、2021年に同じく中国から発表された論文においては、テアニンによる腸内細菌のバランスを整える効果が確認されています出典[7]。
腸内環境を整えることは、リラックス効果をもたらすホルモンである「セロトニン」や、セロトニンを材料とする睡眠ホルモン「メラトニン」の合成に非常に役立ちます。セロトニンの9割以上は腸で合成されますが、腸内環境が悪化すると合成効率が低下してしまうためです。
セロトニンやメラトニンを十分に合成し、リラックス効果や快眠効果を得るため、腸内環境を日頃から良好に整えておく必要があります。善玉菌の定着と悪玉菌の増殖防止に役立つ紅茶を毎日飲んで、睡眠ホルモンを合成しやすい体を作りましょう。
睡眠の妨げにも?注意すべき紅茶の成分2選
このように、紅茶には体を温めたりストレスを低減したりといった、快眠に役立つ効果が確認されています。一方で、寝る前に紅茶を飲む際には、睡眠の質を妨げる可能性のある成分に注意しなければいけません。
紅茶に含まれる成分のうち、過剰摂取に注意したいものを2つ解説しましょう。
1.覚醒作用が強いカフェイン
コーヒーに多く含まれている印象のあるカフェインですが、実はお茶にもある程度のカフェインが含まれています。
日本食品標準成分表 2020 年版(八訂)によると、コーヒーの抽出液100mgに含まれるカフェイン量は60mgであるのに対し、紅茶のカフェイン量は30mgとなっています出典[8]。
カフェイン量で考えるなら、寝る前に紅茶を2杯飲むことは、コーヒー1杯を飲むのと大差ないことが分かります。
2023年6月にオーストラリアでまとめられた、睡眠とカフェインとの関連を調べた研究においては、睡眠への影響を防ぐため、マグカップ入りのコーヒーは少なくとも就床8.8時間前に摂取し終える必要があると述べられています出典[9]。
一方で、お茶に含まれるテアニンによって、カフェインの覚醒作用はある程度軽減されることも分かっています。紅茶は就寝前の摂取であっても、1杯までならカフェインによる影響を受けないとも説明されており出典[9]、適量の摂取であれば問題ないとも考えられます。
覚醒作用が強いカフェインを含む飲料であることを理解した上で、飲みすぎに注意して適量の摂取を心掛けましょう。
2.利尿作用をもたらすカリウム
紅茶には微量ながら、カリウムというミネラルが含まれています。カリウムには体内の余分なナトリウムを、水分とともに尿として体外に排出する作用があります。
この利尿作用により尿量が増え、普段よりも早く尿意を感じるようになります。利尿作用の影響を受けることで、夜中や早朝に尿意を感じて目覚めやすくなってしまうのです出典[10]。
また、カフェインにも同様の利尿作用があるため、飲みすぎにより睡眠の妨げとなる可能性はさらに高まります。夜中や早朝の覚醒を防ぐためにも、紅茶の飲みすぎは禁物です。
こう飲もう!紅茶の飲み方のポイント4選
紅茶にはさまざまな快眠効果が確認されていますが、一方で飲みすぎによる睡眠への妨げにも注意したいところです。紅茶の快眠効果を十分に発揮しつつ、睡眠へのデメリットを防ぐには、どのような点に気を付けて飲めばよいのでしょう。
寝る前に飲む紅茶のポイントについて、4つ解説します。紅茶を正しく飲んで、入眠のサポートや睡眠の質の向上に役立てましょう。
ポイント1.カフェインの感度が強い方はカフェインレスを
カフェインの成分による影響には個人差があります。寝る前にコーヒーを飲んでもぐっすり朝まで眠れる方もいれば、15時頃に1杯飲んだコーヒーにより寝つきが悪くなる方もいます。
コーヒーなどのカフェイン飲料を飲みなれていない方や、カフェインへの感受性が高い方は、念のためカフェインレスの紅茶を選ぶようにしましょう。
カフェインを取り除いた「デカフェ」の紅茶は、ネット通販で購入が可能です。また健康志向の高まりにより、ドラッグストアや食料品店でも販売されるようになっているため、比較的簡単に入手できるでしょう。
ポイント2.就床30分前の摂取で体を温める
内臓などの深部体温が低く、手足などの表面温度が高いほうが眠気を誘いやすく、スムーズに眠りにつくことができます。
温かい紅茶を飲み、深部体温が上がってから手足による熱の発散が起こるまでにはやや時間がかかります。そのため、目安として就床30分前の摂取を心掛けましょう。
なお、深部体温を下げるため、2時間ほど前に温かい紅茶を飲んで体を温めておき、寝る直前に冷たい紅茶を飲むという方法もあります。しかしあまりに強く冷やした紅茶は消化器系に負担がかかるほか、2度の摂取によりカフェイン量が多くなりすぎる可能性があります。
睡眠の質を高めるための摂取は、温かいものを1杯だけにしておくのがよいでしょう。
ポイント3.レモンやはちみつを加えて疲労回復効果UP
睡眠により体力をより効率よく回復し、スッキリと目覚めたい場合には、レモンやはちみつを加えてみましょう。
レモンに含まれるクエン酸には疲労回復効果があるため、睡眠時の疲労回復のサポートに役立ちます。また、はちみつに含まれるさまざまなポリフェノールやフェノール化合物、有機酸などは抗酸化物質としても機能します。体へのストレスを減らし、睡眠の質を高める効果が期待できるでしょう。
注意点として、はちみつはポリフェノールや有機酸といった有効物質を摂取できる、非加熱の「生はちみつ」を選びましょう。加熱処理されたはちみつや、糖濃度の調整のため砂糖などの糖類を加えられたはちみつには抗酸化物質が含まれていません。
また、はちみつの加えすぎはカロリーオーバーにつながり、太るもととなります。寝る前の飲み物に加える際には、スプーン1杯(10g)程度にしておきましょう。
ポイント4.牛乳を加えて入眠をよりスムーズに
牛乳にはたんぱく質食品であり、とくにトリプトファンというアミノ酸を豊富に摂取できます。トリプトファンはセロトニンを合成するため、材料として欠かせない成分。睡眠ホルモンであるメラトニンも、セロトニンを材料として合成されるため、トリプトファンの補給は非常に重要です。
1989年にカナダから発表された論文において、就床前のトリプトファン投与により、入眠までの時間が約16分から約8分に短縮されたことが確認されています出典[11]。
また、2002年にドイツから発表された論文においては、朝のトリプトファン摂取よりも夜の摂取の方が、高い睡眠効果を得られると述べられています出典[12]。
リラックス効果や快眠効果を高める食品として、トリプトファンを含む牛乳は非常に効果的です。寝る前の紅茶をミルクティーに変えてトリプトファンを摂取し、快眠効果をさらに高めましょう。
寝る前に最適!おすすめの紅茶2選
紅茶にはダージリンやアールグレイなど、さまざまな種類があります。産地や茶葉の収穫時期により、紅茶の色みや香り、味わいが少しずつ異なるため、好みのものを見つけて楽しく摂取しましょう。
今回は数ある紅茶の中でも、快眠効果を期待しやすいものについて2つ紹介します。どの紅茶を飲もうか迷っているという方は、ぜひ参考にしてください。
1.ハーブティー入りのブレンド紅茶
ブレンドティーの中には、ハーブが含まれているものがあります。ハーブには紅茶からは摂取できないさまざまな有効成分が含まれており、高いリラックス効果が期待できます。
中でもおすすめはカモミール入りの紅茶です。カモミールティーは不安を軽減したり緊張を和らげたりする効果があることで有名なお茶です。睡眠障害を治療するための穏やかな鎮静剤として使われてきた、長い歴史を持つハーブティーでもあります。
睡眠への効果が期待できる成分として、アビゲニンがあります。アビゲニンは脳内のベンゾジアゼピン受容体と呼ばれる部分に結合し、気分を穏やかにする神経伝達物質、GABAの作用を強めることが分かっています出典[10]。
また、カモミールティーの香りによるリラックス効果は、ストレスホルモンであるコルチゾールの軽減にも効果的です。
2011年にアメリカから発表された論文において、カモミールの香りの吸入によりコルチゾールの分泌にかかわるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が減少したと報告されています出典[10]。
カモミールのブレンドティーにより、紅茶とカモミールティーの両方の効果を得ることができます。リラックス効果の強化として、ぜひ活用してみましょう。
2.ダージリンティーのセカンドフラッシュ
ダージリンティーは収穫のタイミングで名前を呼び分けて茶葉を区別しています。その年の最初に収穫された茶葉をファーストフラッシュ、同じ年の2番目に収穫されたものをセカンドフラッシュと呼びます。
快眠効果をもたらすホトリエノールはセカンドフラッシュに多く、フルーティーな香り、と称されることが多いようです。入眠をスムーズにする作用や睡眠時間を伸ばす作用を期待したい場合には、セカンドフラッシュを意識して選ぶとよいでしょう。
また、ホトリエノールの香りを嗅ぐだけでも快眠効果が確認されています。夜の紅茶によるカフェインの影響が気になる場合には、セカンドフラッシュを淹れて、香りを楽しむようにしてもよいでしょう。
残った紅茶はやや香りが落ちますが、朝に飲むことでポリフェノールやカテキン、タンニンの摂取としても活用できます。
まとめ:就寝前の紅茶で睡眠の質UP&疲労回復
紅茶からはポリフェノールやカテキン、タンニン、香り成分など、快眠をもたらすさまざまな成分を摂取できます。寝る前の飲み物に悩んでいる方、寝つきが悪くて困っている方は、ぜひ就寝30分前に温めた紅茶を1杯飲んでみましょう。はちみつやレモン、牛乳などをお好みで加えることで、さらなる快眠効果が期待できます。
一方でカフェインやカリウムといった、覚醒作用や利尿作用にかかわる成分も含まれているため、飲みすぎには注意が必要です。香りを嗅ぐだけでも入眠をスムーズにする効果が確認されているため、カフェインの感受性が高い人は、夜に香りのみを活用することもおすすめです。
自身の体質に合った方法で紅茶を活用し、快眠のサポートに役立てましょう。
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