監修者
睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級
室井優作
心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
目次
寝る前の水分摂取におけるメリット3選
寝る前に水分を摂りすぎると、尿意による夜間覚醒の原因になるため控えた方がよいのではと考えていませんか? しかし適度な水分補給は夜間においても重要です。飲む量や飲み物の種類を工夫することで、快眠をサポートする効果が期待できるのです。
では、寝る前の適度な水分補給により、睡眠にどのような影響がもたらされるのでしょう。
就寝中の脱水を防ぐ
活動していないと思われがちな睡眠中においても、発汗や呼吸により水分は失われています。睡眠中は水分を摂ることができないため、脱水にも注意しなければいけません。
夜間は自覚症状がなく脱水状態に陥り、睡眠の質を大きく落とします。朝目が覚めたときに脱力感や倦怠感がひどくなっている、頭痛やめまいがするといった場合には、就寝中に隠れ脱水を起こしている可能性があります。
就寝前にコップ1杯の水分補給を習慣化すると、脱水の予防として効果的です出典[1]。
体温をコントロールして入眠をサポート
寝る前の飲み物の温度により、体温を調節しやすくなるのも水分補給の大きなメリットです。
たとえば温かいものを飲むと、内臓などの深部体温が上昇します。すると体は手足から熱を発散して深部体温を下げようとするため、手足などの表面体温が上昇します。深部体温と表面体温、この熱の変化により体は眠気を覚え、入眠しやすくなることが分かっています出典[2]。
また、同じように体温の変化を起こすため、寝る直前に冷たい飲み物を飲んで深部体温を下げる方法も効果的です。ただし冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかけるため、冷蔵庫でキンキンに冷やした水の一気飲みは禁物です。
寝つきが悪く、布団に入ってもなかなか寝付けないと悩んでいる方は、体温の変化を起こすために水分補給を活用してみましょう。
汗をかきやすくして寝苦しさを解消
私たちに自覚はあまりありませんが、寝ている間は大量の汗をかいています。加えて暑い時期は体温の調節のため、発汗量を増やして熱を逃がそうとします。
汗をかくための水分を事前に補給していればスムーズに発汗をおこなえます。適切な水分補給により、快適な体温を維持できて睡眠の質を維持する効果が期待できるでしょう。
また、日頃から水分補給を欠かさない方は汗腺が活性化しているため、サラサラとした汗を出しやすくなります。汗をかく下地としての水分が不足していると、ベタつきのある汗になりやすいため、就寝中の不快感につながりやすくなります。
サラッとした汗をかいて寝苦しさを解消するためにも、寝る前の水分補給は有効です。
寝る前におすすめ!お手軽な飲み物8選
寝る前に適量の水分補給をおこなうことは、入眠をスムーズにしたり疲れを取りやすくしたりと、さまざまなメリットをもたらします。
水分補給といえば水が真っ先に思い浮かびますが、飲み物に一工夫することでさらなる快眠効果が期待できる場合があります。
寝る前におすすめしたい飲み物として、今回は8つ紹介しましょう。快眠に役立つ飲み物を探している方は、この章を参考にぜひお気に入りの1杯を見つけてみてください。
1.ホットミルク
牛乳は良質なたんぱく質を豊富に含んでおり、中でも必須アミノ酸であるトリプトファンを効率よく吸収できる食品です。
トリプトファンは「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンや、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンの合成に欠かせないアミノ酸です。
セロトニンは緊張や不安を解消し、メラトニンは入眠をサポートするように働きます。セロトニンやメラトニンが十分に働くことで、入眠をスムーズにする効果が期待できるでしょう。
1989年にカナダから発表された論文では、就床1時間前にトリプトファンを投与したところ、血中トリプトファン濃度が上昇し、入眠までの時間が約16分から約8分に短縮されたことが確認されています出典[3]。
寝る1時間~30分前に、マグカップ軽く1杯程度のホットミルクをゆっくりと飲むことで、リラックスした状態で眠りにつきやすくなるでしょう。
2.飲むヨーグルト
牛乳を飲みたいけれど、お腹がゆるくなってしまうため毎日の摂取が難しい場合もあるかもしれません。そのため牛乳を苦手としている方には、発酵食品であるヨーグルトを飲みやすくした、飲むヨーグルトの活用をおすすめします。
ヨーグルトは発酵の過程で、お腹がゆるくなる原因である乳酸(ラクトース)が分解されています。乳糖不耐症の方でも手軽に摂取できる乳製品として活用できるでしょう。
牛乳とヨーグルトの違いは乳酸菌の有無であり、ほかの成分にはほとんど差がありません。トリプトファンの供給源として十分に活用できるため、入眠をスムーズにする効果を同様に得られると考えられています。
また、飲むヨーグルトには飲みやすさの向上のため、糖類が添加されています。グルコースには、トリプトファンが血液脳関門を通過するよう促進する効果が確認されているため出典[4]、より一層のリラックス効果や入眠効果が期待できるでしょう。
さらに発酵食品である飲むヨーグルトからは、腸内環境を良好に保つ善玉菌も同時に摂取できます。セロトニンはほとんどが腸内で合成されるため、腸内環境の維持により、セロトニンの合成効率を高められる可能性があります。
なお、体を温める目的であればホットヨーグルトも有効ですが、ヨーグルトに含まれる乳酸菌は死滅します。腸内環境を整える効果は減少するため、より期待したい効果にあわせて活用しましょう。
3.甘酒
甘酒には吸収性の高いアミノ酸やビタミン類が豊富に含まれており、砂糖の添加がないにもかかわらず十分な甘さを楽しめる飲料です。適量の摂取により疲労回復を促す効果が期待できるでしょう。
また、甘酒に含まれる清酒酵母「GSP6」による快眠効果が、2020年に日本から発表された論文において述べられています。
GSP6にはリラックス効果をもたらすセロトニンや、疲労回復に重要な成長ホルモンの分泌を促進する効果が確認されており出典[5]、強い快眠効果が期待できると考えられています。
甘酒はGSP6を手軽に摂取できる優れた食品です。過剰摂取に注意しつつ、毎日の摂取を継続してスッキリとした目覚めを手に入れましょう。
4.カフェインレス緑茶
お茶には睡眠の質を高めるためのさまざまな物質が確認されています。中でも緑茶には抗酸化物質であるカテキンや、リラックス効果の高いテアニンが豊富に含まれています。カテキンやテアニンにより、入眠をスムーズにして、疲労回復を促す効果が期待できるでしょう。
一方で、緑茶には覚醒作用や利尿作用をもたらすカフェインが含まれています。覚醒作用が入眠の妨げとなり、利尿作用が夜中や早朝の覚醒を引き起こす可能性もあるため、夜間のカフェイン摂取は避けたいところです。
2017年に日本より発表された論文において、通常の緑茶よりも低カフェイン緑茶の方が、摂取後の睡眠の質や疲労の軽減に大きな改善が見られたと報告されています出典[6]。緑茶を夜間に摂取する際には、カフェインレスのものを選ぶようにしましょう。
5.ダージリンティー
紅茶もまた、テアニンやカテキンの供給源として活用できます。中でも、ダージリンティーには香り成分である「ホトリエノール」にも睡眠の質を高める効果が確認されています。
2022年に日本で発表された論文では、就寝時にホトリエノールをアロマディフューザーで嗅いで就寝した参加者において、入眠にかかる時間が6分短くなり、総睡眠時間が26分増加したと報告されています出典[7]。
ダージリンティーは香りのみでも快眠効果が期待できます。そのため夜間のカフェイン摂取を極力抑えたい場合には、香りのみ寝る前に利用し、お茶自体は翌朝に飲むことをおすすめします。その場合、寝る前の水分補給はダージリンティーとは別に、水や白湯などでおこなうとよいでしょう。
6.カモミールティー
ハーブティーにはさまざまな種類があり、リラックス効果をもたらすとされるものは多数あります。中でも睡眠に関わる効果が多く期待できるお茶として、カモミールティーを紹介します。
カモミールに含まれる成分であるアビゲニンは、神経伝達物質であるセロトニンやGABAの調節をサポートし、気分の安定に役立ちます。さらにお茶由来の抗酸化物質が、体内の活性酸素の働きを抑えるため、疲労回復効果も期待できるでしょう。
また、カモミールにはストレスホルモンであるコルチゾールを減らす働きがあります。2017年にペンシルバニア大学より発表された論文では、カモミールエキスの摂取を8週間継続することで唾液中のコルチゾール濃度の低下と不安症状の改善が確認されています出典[8]。
カモミールティーにはカフェインが含まれていないため、覚醒作用や利尿作用を気にせず飲むことができます。不安や緊張が強く眠れない場合には、ぜひカモミールティーの利用を検討してみましょう。
7.麦茶
麦茶はノンカフェインであり、適度なミネラル成分を含んでいます。発汗により失われる分の水分やミネラルを事前に補給する手段として適しているでしょう。また、麦茶の香りを嗅ぐことで脳のα波が増加し、リラックスしやすくなる効果が期待できます。
なお、濃いお茶であるほど香りは強まりますが、香りが強すぎるとかえってリラックス効果が減少する可能性があります。2017年に日本で発表された論文では、高濃度で淹れた麦茶よりも、通常濃度以下の麦茶の方が、より大きなα波量の増加が確認できています出典[9]。
麦茶の香りによるリラックス効果を期待したい場合には、あまり濃く煮出しすぎないよう注意が必要です。温めた麦茶を就床30分前に飲む、適度に冷やした麦茶を就床直前に飲む、などの方法で、スムーズな入眠をサポートしましょう。
8.白湯
沸かしてからある程度冷ましたものを「白湯」と呼びます。白湯は用意が手軽であり、ゼロカロリーであるため体重増加の心配がありません。水由来の少量のミネラル成分しか摂取できないものの、胃腸に負担をかけない水分補給の手段としておすすめです。
発汗により失われるミネラルを十分に補給したい場合には、硬度の高いミネラルウォーターの活用もおすすめです。ただしマグネシウムが豊富な硬水では味に苦みを感じる場合があります。毎日無理なく継続できるよう、おいしいと感じられる硬度の水を探してみるのもよいでしょう。
飲み物にプラスしてより快眠に!おすすめの食品3選
寝る前には胃に負担をかけないよう、消化のよい食品や飲み物を軽く摂るのがおすすめです。紹介した飲み物に少量加えることで、さらなる快眠効果が期待できる食品を3つ紹介します。
一品のみならず、複数組み合わせて牛乳や紅茶に加えてもよいでしょう。飲み物に少し変化を加えたい場合や、普段よりも疲れの多い日などに、ぜひ試してみてください。
1.はちみつ
はちみつはブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)を主に含んでいます。血糖値を緩やかに上昇させる食品でありながら、速やかに吸収されエネルギーとなる性質があります。疲労回復効果が高く、体脂肪合成のリスクの低いことで人気の高い甘味料ですね。
グルコースとトリプトファンを同時に摂取することで、トリプトファンの利用効率を高める効果が期待できます。ホットミルクに加えることでさらなる快眠効果が期待できるでしょう。
また、非加熱の生はちみつにはグルコン酸やフラボノイド、酵素といった、ミツバチ由来のさまざまな成分が含まれています。
とくにグルコン酸は腸内で善玉菌を増やす効果が高く、腸内環境を整えるように働きます出典[10]。セロトニンを効率よく合成するための腸内環境づくりに役立つため、少量を毎日摂取するとより効果的です。
寝る前の使用はスプーン1杯(10g)程度にしておきましょう。はちみつは砂糖よりも低エネルギーでありながら甘さが強いため、スプーン1杯でも十分な満足感を味わえます。
2.生姜
生姜湯やジンジャーティーなど、有名な体を温める飲み物には生姜がよく含まれています。生姜の辛み成分であるジンゲロールやショウガオールには血行を改善して体を温める効果があるため、深部体温をじっくりと上げることができます。就床の1時間~30分前に飲む際に加えるとより効果的でしょう。
はちみつと味の相性もよいため、はちみつ生姜としてホットミルクや紅茶に加えるとおいしく楽しめます。すりおろしチューブやパウダータイプのものを活用すれば飲み物にも混ぜやすく、手軽に続けやすいためおすすめです。
3.レモン果汁
レモンなど、柑橘系の果汁からはクエン酸を摂取できます。クエン酸にはエネルギー生成を高める効果があるため、疲労回復に役立ちます。サッパリとした飲みやすい味わいになるため、紅茶やカモミールティー、白湯に加えるとおいしく味わえるでしょう。
ただし、ホットミルクにレモン果汁を加えると、酸の影響で凝固が起こり、ボロボロとした食感になってしまいます。カッテージチーズを作る際の反応が起こっているだけであり、ボロボロとした固形物に体に害は全くありません。しかしホットミルクの飲みやすさが損なわれるため、食感が気になる方は避けた方がよいでしょう。
不眠のリスク大!寝る前には控えたい飲み物4選
1.コーヒー
コーヒーは言わずと知れたカフェイン飲料であり、覚醒作用と利尿作用の強さが特徴的です。寝る前の摂取により入眠が妨げられ、睡眠の質が大きく低下することは想像しやすいかと思います。
カフェインの感受性や睡眠への影響には個人差がありますが、一般的には夜間の摂取は控えるべきという認識が広くあるのではないでしょうか。
しかしカフェインの睡眠への影響は皆さんの想像より長くもたらされており、2013年にアメリカから発表された論文においては、就床6時間前のカフェイン摂取においても、総睡眠時間の減少が確認されているのです出典[11]。
カフェインの影響を気にする場合には、夜間の摂取はもちろん、夕方以降のコーヒーも控えるようにしましょう。昼3~4時頃を最後のコーヒーブレイクにすれば、就床までに6時間以上の時間が空くため影響を抑えることができます。
2.ホットココア・ホットチョコレート
リラックス効果が高いとされるホットココアやホットチョコレートにも、コーヒーほどではありませんがカフェインが含まれています。夜間の摂取を避けて、カフェインの影響から睡眠を守りましょう。
また、ホットココアやホットチョコレートは飲みやすくするために多量の糖類が加えられています。夜間の摂取を習慣化すると体脂肪合成のリスクも高まるため、継続はやめた方がよいでしょう。
一方で、ココアやチョコレートにはカカオポリフェノールやGABA、トリプトファンなど、リラックス効果や快眠効果をもたらす成分が含まれています。これらの成分は夜ではなく朝に摂取しても同様の快眠効果が期待できるため、朝に適量の摂取を習慣化してみてもよいでしょう。
1回分の目安は、純ココアで10g、チョコレートで30gとなります。もちろん朝の摂取においても、摂りすぎは厳禁です。
3.アルコール飲料
寝酒として就床前にお酒を飲む方もいるかもしれません。
確かにお酒を飲むことで眠気が訪れるため、入眠はスムーズになります。しかしアルコールの分解物であるアセトアルデヒドを処理するため、寝ている間の体内ではさまざまな反応が起こります。大量の寝汗をかく、交感神経を活性化させて眠りを浅くする、などの反応により睡眠の質が大きく低下してしまうのです。
また、アルコールにはカフェインと同じく利尿作用があるため、トイレが近くなり深夜や早朝に目覚めてしまう可能性があります。飲んだ分以上の水分が体から出ていくことになるため、脱水のリスクも無視できません。
1996年にスイスより発表された論文では、就寝6時間前のアルコール摂取においても、夜の総睡眠時間やノンレム睡眠時間の減少が見られており出典[12]、睡眠に完全に影響を及ぼさなくなるためには、6時間以上が必要と考えられています。
しかし、夕方の5時や6時にお酒を飲み終えてしまうのは現実的ではありません。そのためアルコールを飲む際には「寝る4時間前までに、1日1合まで」を心掛けましょう。もちろん体を休めるため、週に何度か休肝日を設けることも重要です。
4.濃い緑茶
玉露など、濃く淹れられた緑茶には、コーヒー以上のカフェインが含まれています。ティーパックや茶葉などで通常よりも濃い緑茶を煮出して飲む習慣がある方は、夜間の摂取に注意する必要があるでしょう。
カフェインによる覚醒作用や利尿作用が睡眠中に強く出るのはもちろんのこと、緑茶によるリラックス効果が十分に得られなくなる可能性があります。
通常の緑茶よりも低カフェインの緑茶の方が、テアニンによるリラックス効果が強く確認されていることからも出典[6]、寝る前に緑茶からカフェインを摂取するのは控えるべきと言えるでしょう。
もちろん、濃く淹れられた緑茶にはカテキンの殺菌作用や抗酸化作用など、さまざまな健康効果が期待できます。濃い緑茶が好きな方は日中に楽しむようにし、夜には低カフェイン飲料を選ぶよう心掛けましょう。
まとめ:寝る前の飲み物を整えて良い眠りを!
寝る前の水分補給には、発汗や体温調節をサポートし、ぐっすりと寝付きやすくする働きがあります。また、牛乳や紅茶、甘酒など、リラックス効果や入眠をスムーズにする効果が期待できる飲み物を選ぶことで、睡眠の質を高めやすくなるでしょう。
はちみつや生姜、レモン果汁などを加えて楽しむのもよい方法です。飲み物も、加える食品も、過剰摂取に注意しながら適量を継続することが重要です。
また、寝る前の摂取は避けるべきとされている飲み物も、タイミングを変えることで快眠や健康維持につながる可能性があります。ココアやチョコレートは朝の摂取で快眠効果が期待できるため、適量を朝食時に取り入れてみるのもよいでしょう。
寝る前におすすめな飲み物や食品を活用して、睡眠の質の向上に役立てましょう。
出典
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