監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
「豆乳を飲むと筋肉が落ちる」はウソ!
豆乳を飲むと筋肉が落ちて女性的になるため、トレーニーは豆乳を飲むべきでないと考えていませんか?
この噂の原因物質は、大豆に含まれる抗酸化物質「イソフラボン」です。イソフラボンは女性ホルモンである「エストロゲン」と似た構成を持ち、女性においてエストロゲンをサポートするように働きます。
イソフラボンとエストロゲンの関連から、豆乳を飲むと女性的になるという誤解が生まれているのです。
男性がイソフラボンを摂取しても、エストロゲンは増加しません。また、筋肉の成長を促す男性ホルモンの「テストステロン」の働きが抑えられることもないと考えられています。
たとえば2010年にアメリカのロマリンダ大学から発表された論文では、イソフラボンサプリメントや大豆の摂取によるエストロゲンの増加やテストステロンの減少は確認されておらず、女性化をもたらすものではないと述べられています出典[1]。
さらに2021年にイギリスのエセックス大学にて発表された論文では、41件の研究が分析され、イソフラボンの摂取はテストステロンに悪影響を及ぼさないと結論付けられています出典[2]。
分析に含まれた41件の研究中、高容量での摂取を行った8件中、イソフラボンを高容量で摂取することによりテストステロンが低下したケースは2件のみでした。
また、低下したテストステロンは総テストステロンであり、筋肉の成長を促進する「遊離型」のテストステロン量には影響を及ぼさなかったことも判明しています。
このように、イソフラボンの過剰摂取によりテストステロンが低下するケースは稀であり、また数少ない低下も、筋肉の成長に影響を及ぼさない範囲でしか確認されていません。そのため豆乳の摂取により筋肉の成長が阻害されることはないと考えられるでしょう。
トレーニーが豆乳に期待できる効果3選
いくつかの研究や分析でも判明しているように、豆乳に含まれるイソフラボンは基本的に筋肉の成長を阻害するものではありません。
むしろイソフラボンはトレーニーにとって嬉しい効果を発揮する機能性成分として活躍してくれるのです。
また、イソフラボン以外の栄養素にも、筋肉の成長促進やパフォーマンスの向上効果が期待できます。
トレーニーが豆乳を飲むことで得られるメリットについて、今回は3つ解説しましょう。
1.良質なたんぱく質が筋肉の合成を促進
豆乳からは大豆由来のたんぱく質を摂取できます。無調整豆乳に含まれるたんぱく質は、コップ1杯あたり7.2g。
卵1個50gに含まれるたんぱく質が6.1gであるため出典[3]、卵と同等以上の効率を誇るたんぱく質食品であると言えそうです。
また、豆乳はたんぱく質の量に加えて質も優れています。筋肉など体のたんぱく質の合成には、たんぱく質の合成に関わる必須アミノ酸がすべて不足なく含まれている必要があります。
肉や魚、卵などの動物性食品は必須アミノ酸のバランスが非常に優秀であるため、筋肉の合成効率を高めるにおいて欠かせません。
しかし大豆もまた、動物性食品と同じくらい必須アミノ酸の含有バランスがよく、肉や魚、卵と遜色ない形で筋肉の合成に役立つと考えられています。
さらに大豆には必須アミノ酸の中でも、分岐鎖アミノ酸(BCAA)を多く含んでいます。BCAAは筋肉においてエネルギー源として優先的に使用されるアミノ酸です。
トレーニングにおいてBCAAが多く消費されると筋肉の合成分が足りなくなる可能性があるため、トレーニーにとってBCAAの補給は重要です。
このように、豆乳のたんぱく質は筋肉の合成材料としても、エネルギー源としても優秀です。調理が必須である肉や魚、卵と異なり、用意の手間なくすぐ飲める豆乳は、より手軽なたんぱく質の供給源として活躍するでしょう。
2.イソフラボンやサポニンが筋肉痛を軽減
イソフラボンは女性において有益な働きをもたらす機能性成分として知られていますが、男性においても嬉しい効果を発揮します。
イソフラボンやサポニンといった豆乳由来の成分には抗酸化作用があり、体内で発生した活性酸素を除去するように働くのです。
活性酸素とは、体内で酸素を消費しエネルギーを生成する過程で生じる物質のこと。運動に必要なエネルギーが生成されると、筋肉にも活性酸素が溜まります。
過剰な活性酸素により筋細胞が酸化されると、筋肉への損傷が大きくなります。筋肉痛を悪化させる原因となるため、活性酸素をいかに除去するかがパフォーマンスを維持するカギとなるでしょう。
サポニンやイソフラボンのような抗酸化物質は、筋細胞よりも先に酸化されるように働きます。筋肉を酸化から守るように働くため、筋肉痛の軽減に役立つでしょう。
さらに、2014年に韓国の東義大学から発表された論文においては、体内の抗酸化能力を強化する働きがイソフラボンに確認されています。
ラットにイソフラボンを摂取させることで、体内の抗酸化物質であるスーパーオキシドジスムダーゼの活性が37%、グルタチオンペルオキシダーゼの活性が11%上昇したと報告されているのです出典[4]。
筋肉痛を軽減したり、痛みからの回復を早めたりする効果が期待できるため、トレーニング中の豆乳は有効に働くでしょう。
3.レシチンが疲労回復を促進
豆乳の脂質にはホスファチジルコリンなどに代表される「レシチン」が含まれます。レシチンには体内の余分なコレステロールを減少して血流を改善する効果や、脂溶性ビタミンの吸収を助ける効果などが確認されています。
血流改善やビタミンの吸収促進もトレーニーには嬉しい効果ですが、トレーニングとの関係においてはやはり疲労の軽減や回復の効果に注目すべきでしょう。
運動時の疲労は筋細胞内のpHが酸性に傾くことで生じるという一説があり、酸性である乳酸と疲労には関連がある可能性があります。乳酸と疲労との関係を疑問視する見方も増えつつありますが、血中の乳酸濃度を低下させて筋細胞内の酸性化が抑えられれば、疲労回復に役立つかもしれません。
ホスファチジルコリンの摂取による乳酸の減少は、2007年にアメリカで発表された論文において確認されています。
運動2時間後においては乳酸が15%上昇するところ、ホスファチジルコリンの摂取により1時間後には11%の、2時間後には25%もの減少が見られたのです出典[5]。
レシチンの主な摂取源は大豆もしくは卵黄です。ゆで卵の活用も有効ですが、より手軽にレシチンを摂取するには豆乳の利用が適しているでしょう。
飲み方を工夫して効果UP!豆乳の適切な飲み方
このように、豆乳にはトレーニーに嬉しい成分が複数含まれています。毎日の摂取を継続すれば、トレーニングのパフォーマンスや筋肉の成長によい効果をもたらすでしょう。
豆乳の効果をより発揮するために、注意したい飲み方のポイントについて解説します。これから豆乳を取り入れたいと考える方は、ぜひ以下を参考に豆乳選びや飲むタイミングを検討してみてください。
調整豆乳よりも無調整豆乳がおすすめ
豆乳と聞いて、スーパーやコンビニで見かける豆乳のコーナーでよく見かける、カラフルなパッケージを思い浮かべる方もいるかもしれません。
様々なフレーバーが展開されており、おいしく飲み続けやすいというメリットがあるものの、筋力トレーニングとの相性はあまりよくないため注意が必要です。
飲みやすく味が整えられたり、ほかの食品を連想させる味付けがされていたりするものは全て「調整豆乳」です。大豆のみで作られた「無調整豆乳」との違いは、味付けのために糖類や植物油脂、食塩などが添加されている点にあります。
調整豆乳の方が無調整豆乳よりも低エネルギーであることが多いため、調整豆乳の方がヘルシーなのではと考えるかもしれません。
しかし無調整豆乳のエネルギーは、大豆由来のたんぱく質や脂質によるものです。良質なたんぱく質やレシチンなどの摂取のためにも、大豆成分が十分に含まれた無調整豆乳からエネルギーを摂るようにしましょう。
調整豆乳に添加されている糖類や植物油脂からは目立った健康効果が期待できません。むしろ大豆成分の代わりに摂取した糖質や脂質により、体脂肪増加のリスクが高まるおそれもあるため注意が必要です。
無調整豆乳に甘みが足りず、飲みづらいと感じる場合には、別の食品を混ぜて味付けをしてみましょう。バナナを加えてミキサーにかける、プロテインを加える、はちみつを混ぜる、などの方法で、無調整豆乳でもおいしく飲むことができるでしょう。
1日コップ2杯までを目安に
トレーニーと相性がよい点が多い豆乳ですが、二つの点から飲みすぎに注意する必要があります。1日の目安としてコップ2杯までを心掛けましょう。
一つ目はイソフラボンとテストステロンとの関係を調べた論文に関するものです。41の研究のうち、高容量でのイソフラボンを摂取した8件中、2件でテストステロンが下がるデータが存在していました。
この2件で下がったテストステロンはいずれも遊離型のものではないため、筋肉の合成効率を落とす原因にはならないと考えられます。しかし総テストステロンが低下するケースがあることには注意し、長期間の多量摂取は避けた方がよいでしょう。
二つ目は飲みすぎによるカロリーオーバーの可能性です。商品により多少の差はありますが、無調整豆乳のカロリーはコップ1杯(200mL)あたり86kcalほど。
1日にコップ5杯も6杯も飲むとカロリーや脂質の過剰摂取を引き起こしてしまいます。
さらに、毎日のたんぱく質の供給源が豆乳に偏りすぎることもあまり好ましいとは言えません。大豆にレシチンやサポニン、イソフラボンが含まれるように、肉や魚、卵からも、筋力トレーニングに役立つ固有の成分を摂取できます。
トレーニングの質を高めるためには、様々なたんぱく質食品を偏りなく摂取する必要があるでしょう。
高容量のイソフラボン摂取で総テストステロンの低下が確認された2件のデータでは、いずれも1日100mg以上のイソフラボンを摂取していました出典[2]。
無調整豆乳1杯のイソフラボンの平均含有量は49.6mgです出典[6]。商品により多少の増減はありますが、2杯までなら100mgを大きく超えることはないと考えられるでしょう。
筋トレ後にはホエイプロテインを溶かして
トレーニング後には速やかなたんぱく質補給により、筋肉の合成効率を高めることが重要です。
補給のタイミングも重要ですが、さらに注目したのがたんぱく質の吸収性。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質を組み合わせて摂取すると、動物性たんぱく質よりも優れた吸収性を発揮することが判明しているのです。
動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の組み合わせによる効果は、2013年にアメリカのテキサス大学で発表された論文で示されています。
大豆由来のたんぱく質と乳由来のたんぱく質のブレンドを摂取した場合、運動直後から4時間後までの筋肉合成効率が10%以上増加していました出典[7]。
運動直後に異なる種類のたんぱく質を摂取することで、筋肉の合成効率を高める効果が期待できると考えられるでしょう。
豆乳に加えるたんぱく質として、溶かしやすくエネルギー源としても活躍しやすいホエイプロテインがおすすめです。ホエイプロテインには飲みやすいように甘みが付いているものも多いため、無調整豆乳に合わせればより摂取しやすくなるでしょう。
朝食のたんぱく質強化にも
運動後以外のタイミングにも豆乳を取り入れたい場合には、朝食の摂取もおすすめです。
睡眠中はたんぱく質の補給を行えないため、筋肉が分解されやすい状態にあります。朝起きてすぐにBCAAが豊富な豆乳を補給すれば、筋分解の防止に役立つでしょう。
また、朝食は1日の食事の中で、最もたんぱく質が不足しやすい食事でもあります。
2019年に立命館大学から発表された論文においては、3食のうち1食でもたんぱく質が不足している人は、毎回十分な摂取ができている人と比べて、除脂肪体重量が少ない傾向にあることが示されています出典[8]。
さらに、朝食のたんぱく質量をほかの食事よりも増やすことで、より高い筋肉合成効果が得られる可能性もあります。
2021年に早稲田大学から発表された論文では、マウスに朝食としてたんぱく質強化食を与えた方が、夕食時にたんぱく質強化食を与えた場合よりも骨格筋量の増加が17%も多く確認されたと報告されています出典[9]。
朝食時のたんぱく質不足を解消したり、さらに摂取量を増やしたりしたい場合に、手軽に摂取できる豆乳の活用は大いに役立つでしょう。
まとめ:豆乳は1日2杯程度なら問題なく飲んでよし!
豆乳の「筋肉を落とす」という噂は、イソフラボンがエストロゲンに似た構造を持つことからイメージされたものです。イソフラボンの摂取による女性化や筋肉量の減少は確認されていないため、トレーニーが豆乳を控える必要はありません。
豆乳には良質なたんぱく質やレシチンなど、トレーニングの質の向上に役立つ成分が含まれています。飲みすぎを避け、1日コップ1~2杯の摂取を継続することで、パフォーマンスの向上や疲労回復の促進、筋肉痛の軽減効果が期待できるでしょう。
おすすめの摂取タイミングは運動後、もしくは朝食時です。運動後にはホエイプロテインとあわせて、朝食時には手軽なたんぱく質の強化源として活用しましょう。
出典
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