監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
ナッツの筋トレへ効果5選
小腹が空いたときのおやつや飲酒時のおつまみとして、体によいとされるナッツを食べる方も多いのではないでしょうか。
動脈硬化予防や血中脂質の改善に効果的として知られるナッツは、トレーニーにとってもよい効果を発揮します。
まずはナッツに特徴的な栄養素に注目し、トレーニングの質を高めるために期待できる効果を確認してみましょう。
効果1.豊富なたんぱく質で筋肉の合成をサポート
ナッツには脂質が多いため、太りやすいと考えていませんか?確かにナッツは高脂質食品ですが、たんぱく質もまた豊富に含まれているのです。
【食品100gあたりの栄養素(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[1]】
エネルギー (kcal) | たんぱく質 (g) | 脂質 (g) | |
落花生(大粒種・炒り) | 613 | 25.0 | 49.6 |
アーモンド(炒り) | 608 | 20.3 | 54.1 |
カシューナッツ(フライ・味付け) | 591 | 19.8 | 47.6 |
ピスタチオ(炒り・味付け) | 617 | 17.4 | 56.1 |
くるみ(炒り) | 713 | 14.6 | 68.8 |
たとえば落花生(ピーナッツ)には100gあたり25gものたんぱく質が含まれています。たんぱく質の含有量だけ見れば鶏むね肉やクロマグロの赤身などに匹敵する優秀さです。
もちろん鶏肉や魚とは異なり、ナッツ類を100gも食べるとカロリーオーバーとなるため同じような使い方はできません。
しかしおやつやおつまみ、軽食などにたんぱく質を少しプラスしたい場合には、保存性が高く手軽に用意できるナッツが活躍するでしょう。
なお、筋肉の合成には必須アミノ酸をバランスよく摂取しなければいけません。植物性食品であるナッツ類のみでは、すべての必須アミノ酸を十分に摂ることが難しいとされています。
そのため必須アミノ酸のバランスがよい動物性食品や、大豆製品と組み合わせて食べるようにしましょう。ナッツ類に不足した必須アミノ酸が動物性食品や大豆製品により補強され、筋肉の合成効率をより高められます。
効果2.良質な脂質で血行促進
ナッツの脂質の大半は不飽和脂肪酸で構成されています。体内に貯蔵され、体脂肪となりやすい飽和脂肪酸とは異なり、不飽和脂肪酸は優先的にエネルギーとして使われやすいのです。
また、ナッツからは血流改善効果が期待できる一価不飽和脂肪酸のオレイン酸や、多価不飽和脂肪酸のω‐3系脂肪酸などを摂取できます。
血液は酸素や栄養素を全身に運ぶための重要な組織です。血流を良好に保ち、筋肉への栄養補給をスムーズに行えれば、疲労回復効率も高まるでしょう。
2007年にアメリカのハーバード大学から発表された論文においては、脂肪酸の種類により体重増加のリスクが異なることが述べられています。
4万人を超える女性を対象とした調査では、トランス脂肪酸や飽和脂肪酸の摂取量が増えると体重は増加したものの、一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸の摂取量が増えても、体重は増加しなかったことが判明しています出典[2]。
このように、ナッツの脂質は体脂肪合成のリスクが比較的低いため、摂取を避ける必要はありません。
ただしナッツの脂質含有量は高く、種類にもよりますが50~60%の脂質が含まれます。当然ながら食べ過ぎれば体脂肪のもととなるため、適量の摂取を心掛けましょう。
効果3.ビタミンEやωー3系脂肪酸が筋肉痛を軽減
ナッツには抗酸化ビタミンとして知られるビタミンEが豊富に含まれています。また血流改善効果が期待できるω‐3系脂肪酸もまた、強力な抗酸化物質として機能します。
トレーニングにおいては大量のエネルギーを必要とするため、エネルギーの生成に伴い活性酸素も過剰に発生します。活性酸素の蓄積は筋細胞にダメージを与え、筋肉痛や筋疲労の原因となってしまいます。
ナッツ由来の抗酸化物質が活性酸素の働きを抑えるように作用すれば、筋肉へのダメージを軽減できると考えられます。
実際、2021年に中国南華大学から発表された論文では、ω-3系脂肪酸の補給により、筋肉痛や筋肉疲労の指標となるクレアチニンキナーゼや乳酸デヒドロゲナーゼ、ミオグリビンの量が低下したと報告されています出典[3]。
ナッツからビタミンEやω‐3系脂肪酸を取り入れる習慣を付ければ、トレーニングにより消耗しがちな筋肉を保護する効果が期待できるでしょう。
効果4.ビタミンB群がエネルギー代謝を効率化
ナッツにはビタミンEのほか、ビタミンB群も豊富に含まれています。ビタミンB群は糖質やアミノ酸、脂肪酸など、エネルギーに関わる栄養素の代謝をサポートする働きがあります。
たとえばビタミンB1は糖質を代謝してエネルギーへと変換するために必要な栄養素です。
白米やパンなどから十分な糖質を摂取しても、ビタミンB1が不足しているとエネルギーの変換効率を上げられません。必要なときに十分なエネルギーを供給できなくなるため、パフォーマンスも低下しやすくなるでしょう。
また、エネルギー代謝の低下は余分な体脂肪を蓄積するようにも働く可能性があります。
2015年にアメリカのジョージワシントン大学は、肥満手術を希望する方のうち15.5~29%の方にビタミンB1欠乏が認められたと発表しました。肥満手術を希望する方は日頃から炭水化物食品の摂取量が多く、ビタミンB1の要求量も多いことから不足をきたしやすいのではと考察されています出典[4]。
トレーニング前後には通常よりも吸収性の速い糖質食品を多めに摂取するため、ビタミンB1の消費量も増しています。糖質を効率よくエネルギーへ変換するため、効果的にナッツ類のビタミンB群を取り入れましょう。
効果5.食物繊維が腸内環境を改善
ナッツにはたんぱく質とほぼ同じ量の炭水化物が含まれています。しかしナッツは食物繊維が豊富な食品でもあります。アーモンドやくるみ、ピスタチオなどは全体の1割が食物繊維であり、摂取源として非常に優秀です。
【食品100gあたりの栄養素(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[1]】
炭水化物 (g) | 食物繊維 (g) | |
落花生(大粒種・炒り) | 21.3 | 11.4 |
アーモンド(炒り) | 20.7 | 11.0 |
カシューナッツ(フライ・味付け) | 26.7 | 6.7 |
ピスタチオ(炒り・味付け) | 20.9 | 9.2 |
くるみ(炒り) | 11.7 | 7.5 |
トレーニーが食物繊維を意識して摂取する意義は、腸内環境の管理にあります。筋肉の合成を高めるため、トレーニーは通常よりも多くのたんぱく質食品を摂取しています。
たんぱく質は腸内で悪玉菌を増やすように働きやすく、トレーニーの腸内環境は悪玉菌が優勢になりやすいため注意しなければいけません。
食物繊維は腸内で善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やすように働きます。悪玉菌の増殖を抑えられるため、高たんぱく質食のリスクを最小限に留められるでしょう。
腸内環境を整えることで、便秘の改善やミネラルの吸収率増加、睡眠を促すホルモンの合成効率上昇など、様々な健康効果がもたらされます。
体調を整え、睡眠の質を高めることはトレーニングにおいても非常に重要です。ナッツ類から手軽に食物繊維を摂取して、腸内環境の改善に役立てましょう。
トレーニーにおすすめのナッツ4選
このように、ナッツ類には筋力トレーニングと相性のよい栄養素が複数含まれています。
毎日習慣的に摂取すれば、トレーニングの質の向上や、体調管理のサポートに役立つでしょう。
今回は日本で比較的入手しやすいナッツ類の中から、トレーニーにおすすめのものを4種類紹介します。
どのナッツを食べるべきか悩んでいる方は、ぜひ以下を参考に毎日のナッツを選んでみましょう。
1.アーモンド
アーモンドの特徴は、圧倒的なビタミンEの含有量にあります。ナッツ類のビタミンE含有量を比較した表においても、クルミやピスタチオの20倍以上、落花生の約3倍のビタミンEを摂取できることが分かります。
【食品100gあたりの栄養素(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[1]】
| ビタミンE(α‐トコフェロール)(mg) |
アーモンド(炒り) | 29.0 |
落花生(大粒種・炒り) | 10.0 |
ピスタチオ(炒り・味付け) | 1.4 |
くるみ(炒り) | 1.2 |
カシューナッツ(フライ・味付け) | 0.6 |
ちなみ厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準」では、ビタミンEの1日の摂取目安量は年齢や性別により5.0~7.0mgの範囲で設定されています出典[5]。
アーモンドを20~30g食べるだけで1日のビタミンE量を満たせると考えると、その含有量の高さも際立つでしょう。抗酸化ビタミンを摂取したいと考える場合、アーモンドは最も効率的な選択肢と言えそうですね。
また、アーモンドのたんぱく質には、運動時に必要性が増す分岐差アミノ酸(BCAA)が多めに含まれています。
BCAAは必須アミノ酸であるため筋肉の合成には欠かせません。しかし運動時には優先的にエネルギーとして使用されるため、不足しやすいという問題があります。アーモンドからBCAAを補充することで、エネルギー切れを抑える効果も期待できるでしょう。
2.くるみ
くるみは一般的なナッツの中では最も高カロリーです。カロリーを高めている原因は、全体の70%近くを占める脂質にあります。
オレイン酸やω‐3系脂肪酸の供給源として効率的と言えるでしょう。血流を改善して疲労回復を促す効果や、筋細胞へのダメージを抑えて筋疲労や筋肉痛を軽減する効果が期待できます。
なお、くるみは健康的な食材として注目が集まっており、コンビニやスーパーでもくるみを用いた菓子類がよく販売されています。しかしフライされたものや糖類を絡めたものは、余分な脂質や糖質を摂りやすくなるため避けるべきです。
トレーニングの質の向上を目的に食べる場合には、シンプルな素炒りのものを選びましょう。
3.カシューナッツ
カシューナッツにはビタミンB1が多めです。運動時にエネルギーを効率よく生成するため、ビタミンB1の補給は欠かさないようにしましょう。
また、ナッツからはミネラルも摂取でき、とくにカシューナッツには亜鉛が豊富です。亜鉛は男性ホルモンであるテストステロンの合成に関わる重要なミネラルです。
テストステロンには筋肉の合成を促したり、活力ややる気を高めたりする働きがあります。トレーニーにおいてテストステロン量を維持することは非常に重要です。
亜鉛は、テストステロンを合成する流れで必要な酵素を助けるように働くことが判明しています出典[6]。十分な亜鉛の摂取によりテストステロンの合成が捗れば、トレーニングの質を高める効果も期待できるでしょう。
4.ピーナッツ
ピーナッツはくるみやアーモンド、カシューナッツよりも安価で手に入れられるナッツ類です。たんぱく質含有量も群を抜いて高いため、トレーニーの間食にも適しているでしょう。
ピーナッツには褐色の薄皮が存在します。やや苦みがあるため避けて食べる方も多いかもしれませんが、合わせて食べることで更なる効果が期待できる可能性があります。
ピーナッツの皮に含まれる「レスベラトロール」というポリフェノールが、抗酸化作用により体の炎症や酸化を防ぐように働くのです。
2023年に台湾の台北医科大学から発表された論文では、マウスを用いたレスベラトロールの効果が検証されています。
レスベラトロールの投与により、筋肉損傷のマーカーとなる乳酸デヒドロゲナーゼやクレアチニンキナーゼが有意に減少し、さらに筋肉におけるエネルギー利用率が有意に高まったことが報告されているのです出典[7]。
レスベラトロールをピーナッツの皮から摂取することで、疲労しにくい体づくりやパフォーマンスの向上に役立つ可能性があります。ピーナッツを食べる際には皮が付いたものを選ぶようにしてみましょう。
こう食べよう!ナッツの活用ポイント3点
ナッツの様々なメリットが確認できたところで、ナッツの適切な食べ方について解説しましょう。
ナッツはトレーニーに嬉しい効果を持つ食品ではありますが、不適切な食べ方では十分な効果が得られず、むしろトレーニングの妨げとなる場合もあります。
明日からの食生活にナッツを取り入れたいと考える方は、ぜひ以下を参考に、摂取量や種類、タイミングを検討してみましょう。
ポイント1.1日30gを上限に
ナッツは100gあたり600kcal程度と高カロリーであり、また全体の5~7割が脂質から構成されている高脂質食品でもあります。
ナッツの脂質は不飽和脂肪酸が多く、エネルギーとして優先的に使用されやすい性質があります。しかしながら、食べ過ぎれば余ったエネルギーは脂肪として蓄えられてしまうため、ナッツの食べ過ぎには十分注意しましょう。
毎日ナッツを食べる場合、目安量として1日30gまでを意識してみましょう。30gであれば全体のカロリーは200kcal程度であり、間食のカロリーとしても適しています。
アーモンドやピーナッツ1粒を1gと考えると、1日30粒までと考えられそうです。つい食べ過ぎてしまうことのないよう、粒で1日の量を数えておくのもよい方法ですね。
ポイント2.素炒り・無塩・ミックスナッツを選ぼう
ナッツは健康食として近年人気を集めています。おつまみやおやつとして食べやすいように、フライされたものや糖類を絡めたものなどがよく販売されています。
しかし毎日食べることを考えた場合、これらの「おいしい」ナッツは避けた方がよいでしょう。ただでさえ高カロリーであるナッツに糖類や脂質が加わると、さらに余分なカロリーを摂ることになってしまいます。
食塩が添加されたものも同様に控えるべきです。しょっぱい味付けのものは食欲を刺激するため、1日の目安量を超えて食べ過ぎるリスクが高まります。毎日食べるナッツは、素炒りかつ無塩のものを選ぶとよいでしょう。
また、様々な種類のナッツを手軽に取り入れる方法として、ミックスナッツの活用をおすすめします。
カシューナッツやアーモンド、くるみなどが1つの袋に入ったミックスナッツであれば、それぞれのナッツのメリットをバランスよく摂取できます。
ポイント3.間食に取り入れて食べ過ぎ防止に
ナッツは脂質や食物繊維など、消化を緩やかにする成分が豊富に含まれています。そのため速やかにエネルギー補給を行いたいトレーニング前後の摂取は避けた方がよいでしょう。
おすすめは、小腹が空いた際の間食として食べる方法です。硬いナッツ類をよく噛むことで神経ヒスタミンの分泌が促進され、満腹中枢を刺激して食欲を抑える効果が期待できます。
また、ナッツに豊富なω‐3系脂肪酸が食べ過ぎ防止に役立つ可能性が、2019年にアメリカのジョージア大学から発表された論文において示されています。
ω‐3系脂肪酸を含めた多価不飽和脂肪酸は、15名の標準体重の男性において、食欲増進効果のあるホルモン「グレリン」の分泌を抑え、逆に満腹中枢を刺激するホルモン「コレシストキニン(CCK)」の分泌を促進するように働いていたのです出典[8]。
ナッツは高カロリーであるため、増量期向きの間食であるようにも考えられます。しかし減量期に食欲をコントロールしたい場合にも活躍できる可能性があるため、食べ過ぎ防止のために取り入れてみるのもよいでしょう。
まとめ:間食のナッツで筋トレに適したコンディションを!
ナッツにはトレーニングの質を高めるための、様々な栄養素が豊富に含まれています。
ω‐3系脂肪酸やビタミンEなどの抗酸化物質により筋疲労や筋肉痛を軽減したり、豊富なたんぱく質や亜鉛により筋肉の合成効率を高めたりする効果が期待できるでしょう。
ただし、高カロリーかつ高脂質であるナッツの食べ過ぎはもちろん厳禁です。1日30gまでを目安に、素炒りかつ無塩の様々な種類のナッツを、毎日少しずつ取り入れてみましょう。
出典
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