執筆者
薬剤師
塩見 友香
大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。
目次
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)とは?
オキシメトロンとは、アナボリックステロイドと呼ばれる物質の一つです。男性ホルモンのテストステロンと似た構造を持ちます。
製品はLloyd Laboratories Inc.というフィリピンおよびインドの大手製薬メーカーで製造されており、商品名は「オキシポロン」および「アナドロール」です。
日本では未承認の医薬品のため、国内の医療機関で購入することはできませんが、インターネットを通じ、個人輸入という形で入手できます。
そもそも、アナボリックステロイドとは、正式名称「Anabolic androgenic steroids (AAS)」で、タンパク質同化作用をもつステロイドの総称です出典[1]。
タンパク質同化作用は筋肉を増強する作用があり、アナボリックステロイド=筋肉増強剤、と認識している人もいるでしょう。
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)の歴史
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)の開発経緯や現在の動向について解説します。
1.昔は貧血の治療薬として使われていた
オキシメトロンは、1960年に初めて開発されたアナボリックステロイドです出典[2]。当時は造血ホルモンのエリスロポエチンの代謝を上げ、赤血球の生成を促す効果が注目されていました。そのため、貧血の治療を目的とした医薬品として日本でも販売されていたのです。
2.現在は重度の火傷やHIVの治療に使われている
オキシメトロンは、骨髄が十分に機能していないために起こる貧血の治療に使われましたが、その効果は限定的でした出典[3]。
また副作用の発現も多く、近年では造血ホルモンのエリスロポエチンを補充する薬が開発された背景もあり、オキシメトロンは使われることが少なくなりました。
現在は、熱傷やHIVによる消耗性疾患の治療に使われたり、アンチトロンビンⅢ欠乏症や小児の成長障害、損傷した心筋の治療のために研究されたりしています。
3.ドーピング剤として乱用されて社会的問題となっている
アナボリックステロイドは人工的にタンパク質同化作用が強化された物質であり、実際にオキシメトロンのタンパク質同化作用はテストステロンの2〜9倍と考えられています。
そのため、筋肉を効率よく強化する手段として使われるようになりました。現在、オキシメトロンは世界アンチドーピング機構(WADA)で禁止物質として定められており、その使用は公的にドーピング行為となります出典[4]。
ですが、ボディビルダーやアスリートによる身体パフォーマンス向上を目的としたアナボリックステロイドの乱用は後を絶たず、世界的にも大きな問題となっています。
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)の臨床試験と効果
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)の効果やメリットについて、独自に調査した一次文献をもとに解説します。
1.筋肉の増大
実際、どのくらい筋肉増強効果があるのでしょうか。
2003年南カリフォルニア大学の研究では、65〜80歳の高齢男性31人において、オキシメトロン50mg投与群、100mg投与群、プラセボ群に分けて実験を行っています。12週間後に除脂肪体重を評価したところ、 オキシメトロン50mg投与群は平均3.3 kg増加しました。また、 オキシメトロン100mg投与群は平均4.2kg増加しています出典[5]。
除脂肪体重は主に体内の筋肉量を反映しているといわれています。したがって、オキシメトロン服用により筋肉量が増えたと考えられます。
2.脂肪量の減少
ボディビルダーやアスリートがアナボリックステロイドを乱用する理由は、アナボリックステロイドに筋肉増強作用だけでなく、脂肪量を減らす効果も見込めるためです。
脂肪減少効果について、2013年タイでの研究結果を紹介します出典[6]。血液透析患者43人をオキシメトロン群(50mgを1日2回)またはプラセボ群に分け、24週間後に筋肉量と脂肪量を測定しました。オキシメトロン群の結果は以下の通りです。
- 除脂肪量:8%増加
- 握力:8%増加
- 脂肪量:12%減少
オキシメトロンだけでなくアナボリックステロイド全般で同様の脂肪減少効果は確認されています。
3.貧血の改善
貧血の治療として使われていたオキシメトロン。先ほど説明したとおり、オキシメトロンは男性ホルモンのテストステロンと類似した構造や作用をもちます。
昔からテストステロンは、造血細胞に直接働きかけたり、造血ホルモンであるエリスロポエチンの作用を強めたりすることで赤血球を増やすと報告されています。そのため、オキシメトロンも赤血球を増加させることが明らかとなっているのです。
実際に1960年代には、オキシメトロンは再生不良性貧血という難治の貧血に対して効果があったとの症例が数多く報告されました出典[7]。
ただし、1972年アメリカの研究をはじめとした報告で、その効果は約20%程度の患者にしか現れないことや、無効例が一定数いることが証明され、オキシメトロンは貧血治療薬としてほとんど使われなくなりました出典[8]。
4.サルコペニア防止
新たにオキシメトロンに期待されているのは、サルコペニアを防ぐ効果です。サルコペニアとは加齢による筋肉量の減少と筋力低下を指します。サルコペニアは高齢者における健康寿命を脅かし、生活の質低下や介護に影響を及ぼします。
オキシメトロンを含むアナボリックステロイドの筋力増強効果は、サルコペニアの進行を防ぐ手立てとして研究がされています。
2017年韓国の動物実験で、オキシメトロンの筋力低下防止の効果が明らかになっています。雄の老齢マウスに対して、オキシメトロン50mg/kgを投与後に運動をさせるというプログラムを28日間続けました。その結果、腓腹筋とヒラメ筋が有意に増加しました。また、細胞レベルでは、筋肉にダメージを与える活性酸素を低下させたり、筋肉を萎縮させる遺伝子を抑えたりすることがわかっています出典[9]。
先進国では高齢化が問題となっており、アナボリックステロイドのサルコペニア予防効果については今後の研究が待たれます。
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)の重篤な副作用とリスク
アナボリックステロイドにおいて「最強レベル」の効果といわれるオキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)。
筋トレをする人やボディメイクをする人には魅力的な薬と思えるでしょう。
しかしながら、あくまで薬であるため、効果もあれば副作用もあります。決して、サプリメント感覚で使用するのは止めましょう。
ここからは、オキシメトロンを使うことのデメリットについて、実際の報告を踏まえて紹介します。
1.肝毒性
もっとも多く報告されている副作用が、肝毒性。具体的には、かゆみを伴う胆汁うっ滞性黄疸や肝炎、肝臓の壊死。肝臓がんとの関連性も報告されています。
1996年に国内でオキシメトロンを使用したことによる肝臓がんの症例が発表されています出典[10]。
再生不良性貧血の35歳女性に、1日あたりオキシメトロン60mgの治療を3年間続けた (総投与量 64.8g)ところ、肝臓がんの発症がみられました。
肝臓は栄養素やアルコールの代謝を促したり、脂肪の分解に関わったりする大事な臓器です。オキシメトロンは肝臓に多大なるダメージを与え、その後の人生や生活に大きな影響を及ぼすといえるでしょう。
2.コレステロール値の変化
オキシメトロンによってダメージを負う臓器は肝臓だけではないのです。体内のコレステロール量の変動とオキシメトロン摂取には、深い関わりがあることがわかっています。
2009年イランの研究では、オキシメトロンを使用した10人のアスリートと対照群10人の血液データを比較しました。その結果、悪玉コレステロールに変化はありませんでしたが、善玉コレステロールが有意に減少したと報告されています出典[11]。
また前述した通り、オキシメトロンには赤血球を増加させる効果があります。急激な赤血球の増加は血圧を上昇させることがあるのです。
オキシメトロンで善玉コレステロールが減少し、さらに高血圧になることで心臓に大きな負担を与える可能性があります。実際にその危険性について日本心臓財団が警告をしています出典[12]。
コレステロール値が変わるだけと侮ると一生後悔するかもしれません。
3.男性不妊
オキシメトロンをはじめとするアナボリックステロイドは、男性ホルモンの分泌を低下させ、精巣機能の低下を引き起こしてしまいます。
具体的には、精巣萎縮や乏精子症、インポテンツ、慢性持続勃起症、精液量の減少、性欲低下など数多くの症状がわかっており、妊活をしている男性には大きな影響を与えるでしょう。
実際に、2001年インドの論文では、オキシメトロン5mg/gを60日間投与したラットと対照群を比較したところ、平均精子数、運動性および生存率の有意な減少を報告しています出典[13]。
それに加え、2023年イタリアの論文でも同様の結果が得られています。また、その研究では、アナボリックステロイドの影響が消失するのに最大3年かかる場合もあるとの報告もされています出典[14]。
男性らしい身体を目指すのに、オキシメトロンは適さないといえるでしょう。
4.ニキビ
これまで紹介した副作用のなかでは軽微なものといえるでしょう。ただし、オキシメトロンといったアナボリックステロイドによるニキビの発症率は少なくありません。
アナボリックステロイドは男性ホルモンに類似した構造をもつため、体内のホルモンバランスは変化します。ホルモンバランスが崩れることで肌のコンディションに影響を与えるのです。
シドニーのセントジョージ病院医学部で2000年に行われた、アナボリックステロイド使用者を対象とするアンケート調査では、58人中の43%がニキビができると回答しています出典[15]。
5.男性型脱毛症(AGA)
オキシメトロンによる抜け毛は気になる人が多いかもしれません。筆者が独自に文献を調査したところ、オキシメトロンと抜け毛について直接の関連性を示した症例や文献はありませんでした。
ただし、オキシメトロンのもつアンドロゲン作用は、頭髪の脱毛を引き起こすことがわかっています。AGA(男性型脱毛)は、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンが毛髪を作る細胞に作用することで起こります出典[16]。
オキシメトロンはジヒドロテストステロン由来のアナボリックステロイドのため、理論上抜け毛のリスクとなるのではと考えられています。
6.認知症
最後に、オキシメトロンを含むアナボリックステロイド(以下、AAS)と認知症の関連を紹介します。もとより、AASの使用者は認知症の原因といわれるアミロイドβとタウ蛋白といった物質が通常より脳内に多いといわれています。
2013年アメリカの論文では、31人のAAS使用群と13人の対照群の認知機能を比較しています。認知機能テストのなかのパターン認識で、AAS使用群は有意に低下していたのです。
また、不眠と認知症も密接な関係があります。不眠症を含む睡眠障害は、AASによって起こる一般的な症状のひとつであり、25〜50%で起こっていると報告されています出典[17]。
オキシメトロンによる認知機能や不眠は、日常生活にも悪影響のでやすい症状だといえるでしょう。
オキシメトロンは非常に危険度の高いアナボリックステロイド(まとめ)
オキシメトロン(オキシポロン・アナドロール)は、筋肉増強を目的として使用されているアナボリックステロイドの一つ。
筋肉増強作用はテストステロンの2〜9倍で、実際に3ヵ月で3〜4kg体重が増加するデータも存在しています。ただしその代償は大きく、身体の重要な臓器である心臓や肝臓にもダメージを与えることがわかっています。オキシメトロンをサプリメント感覚で使用するのは危険だといえるでしょう。
近年では「テストステロンブースター」とよばれる安全性が高く、筋力増強効果が見込めるサプリメントが開発されています。
アナボリックステロイドの使用を考えている人やすでに使用している人は、一度本当に後悔しないか振り返ってみてはいかがでしょう。
出典
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