監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
株式会社アルファメイル
NP+編集部
「オトコを科学する」をキーワードに男性の悩みや課題の解決を科学的根拠をもってサポート。運動や睡眠、栄養など、健康に関する正しい知識を提供するためにコンテンツを製作中。
寝る前のコーヒーで想定されるデメリット4つ
残業や勉強などに集中したいとき、夕食後にリラックスしたいときなど、夜間にコーヒーを飲みたくなる状況は多々あることでしょう。
しかしコーヒーは主に睡眠と相性が悪く、夜間に飲むことで様々なデメリットが想定されます。
寝る前のコーヒーが習慣化している場合、睡眠への影響に自覚がないことも多いようです。次に解説する3つの項目をチェックして、自身のコーヒーの飲み方を見直してみましょう。
デメリット1.覚醒作用により入眠に時間がかかる
カフェインの最も有名な効果といえば、やはり覚醒作用でしょう。コーヒーの大きなメリットであると同時に、活用のタイミングに注意すべきデメリットでもあります。
カフェインにより交感神経が活性化すると、睡眠に関わる副交感神経が働きにくくなり、入眠に時間がかかってしまいます。
加えてカフェインはアデノシンと拮抗する性質があります。アデノシンは脳のアデノシン受容体と結合することで、眠気や疲労を感じさせる体内物質です。
カフェインはアデノシン受容体に、アデノシンよりも先んじて結合するため、眠気や疲労の発生を抑えてしまうのです出典[1]。
2023年にオーストラリアカトリック大学から発表された論文においては、カフェインの摂取により入眠までの時間が9分増加したと報告されています出典[2]。
9分と聞くと短く思われるかもしれませんが、この状態が7日続けば約1時間、睡眠時間が減少する計算になります。
寝る前のコーヒーは、入眠の段階だけでも週あたり1時間の睡眠ロスをもたらします。この可能性を頭に入れた上で、コーヒーの更なる影響に注目してみましょう。
デメリット2.利尿作用により深夜や早朝に目覚めることも
先程のオーストラリアカトリック大学の論文においては、カフェインの摂取により、睡眠中の中途覚醒時間が12分増加したとも報告されています出典[2]。
交感神経が活発になることで睡眠が浅くなるため、少しの刺激で目覚めやすくなるのでは、といった考えもできるでしょう。しかしコーヒーの成分に注目すると、カフェインやカリウムによる利尿作用の影響が見えてくるのです。
利尿作用は体内の水分を尿として体外に出すように促すものであり、尿量の増加はむくみや高血圧の解消に役立つ場合があります。ただし睡眠中に利尿作用が機能すると尿意が近くなり、夜中や早朝に目覚める機会が増えてしまうのです。
また、一度目覚めてしまうと、カフェインの交感神経を刺激する働きによりなかなか寝付くことができません。一度目覚めると20~30分程度の睡眠ロスに繋がることも考えられるでしょう。当然ながら深い眠りに入れる時間も少なくなるため、疲労の回復効率も下がってしまいます。
カフェインやカリウムによる利尿作用により夜の睡眠が阻害されないよう、飲み方を工夫する必要がありそうです。
デメリット3.浅い眠りで睡眠の質が低下
同じく先程のオーストラリアカトリック大学からの論文では、カフェインの摂取で眠りが浅くなる効果も確認されています。
具体的には脳が覚醒している状態「レム睡眠」が6.1分増加し、脳が休止した状態「ノンレム睡眠」が11.4分減少したとの結果が得られています出典[2]。
ノンレム睡眠は脳の休息に重要な時間です。眠りが浅くなると脳を十分に休められず、疲労を翌日へ持ち越しやすくなってしまうでしょう。
オーストラリアカトリック大学の研究において判明した、カフェインの睡眠への影響をまとめてみましょう。
- 入眠までの時間が9分増
- 入眠後の再覚醒時間が12分増加
- 浅い睡眠(レム睡眠)が6.1分増加
- 深い睡眠(ノンレム睡眠)が11.4分減少
以上の影響により総睡眠時間は45分減少し、睡眠効率の低下は7%にも及んだとのことです出典[2]。カフェインの作用は入眠阻害や中途覚醒、浅い眠りの増加や深い眠りの減少などにより、睡眠の質を総合的に低下させることが分かるでしょう。
睡眠の質の低下や睡眠不足は、疲労や倦怠感の増加のほか、食欲やストレスホルモン「コルチゾール」の増加など、様々な体調への影響を与えます。寝る前のコーヒーが習慣化している方は、一度自身の睡眠スタイルを見直してみましょう。
デメリット4.空腹時の摂取は胃腸に負担をかける
寝る前のリラックスタイムとして、コーヒーのみを飲む場合があるかもしれません。しかし胃腸の負担を考えると、空腹時にコーヒーを飲むのはリスクの高い行為となります。
カフェインは脳の迷走神経に働きかけることで、胃酸の分泌を盛んにします。食後にコーヒーを飲めば、胃酸の分泌が増えることで消化を助けるように働きます。
しかし空腹時では分泌量の増えた胃酸が中和されないまま胃に留まるため、胃壁が傷付いてしまうのです。
胃酸の分泌が増した状態で横になり眠ると、胃酸の逆流が生じやすくなり、逆流性食道炎のリスクも高まります。のどの痛みや胸やけが生じると日中のパフォーマンスも低下するため、寝る前のブラックコーヒーにはとくに注意しましょう。
コーヒーと正しく付き合うポイントを解説
このように、寝る前のコーヒーと睡眠の相性は悪く、様々なデメリットが想定されることが分かりました。
では良質な睡眠を確保しながらコーヒーを飲むには、どのような点に注意すればよいのでしょう。
睡眠の質の低下や体調の悪化を防ぐため、コーヒーの飲み方においてとくに気を付けたい点を解説します。
以下の3つを確認し、コーヒーの飲み方を一度見直してみましょう。
夕方以降の摂取は避ける
寝る前のカフェインは、何時間前まで睡眠に影響を及ぼすのでしょう。
カフェインを摂取した場合、血中濃度は摂取後30分~2時間程度で最大となり、半減期(効果が半分になる時間)は2~8時間と幅があることが分かっています出典[1]。
カフェインの感受性には個人差があり、またカフェインは継続利用で耐性を獲得しやすい成分でもあるため、このような幅が生じているのでしょう。
カフェインの睡眠への影響がなくなるタイミングを調べるため、数多くの研究がこれまで行われてきました。たとえば2013年にアメリカから発表された論文においては、カフェイン摂取の各タイミングにおいて次のような影響が確認できています。
【カフェインの摂取タイミングによる総睡眠時間への影響出典[3]】
カフェインのタイミング | 総睡眠時間 |
就寝0時間前(直前) | - 40.6分 |
就寝6時間前 | - 44.1分 |
同じように2013年にアメリカの睡眠障害研究センターから発表された論文でも、以下のような影響が確認できています。
【カフェインの摂取タイミングによる睡眠への影響出典[4]】
カフェインのタイミング | 中途覚醒時間 | 総睡眠時間 |
就寝3時間前 | + 28分 | - 63分 |
就寝6時間前 | + 8分 | - 41分 |
このように、寝る6時間前においてもカフェインの影響はあまり低下せず、就寝直前に摂取した場合とほぼ同じ影響を及ぼす可能性もあることが分かります。
さらに、カフェインの摂取と睡眠の質の関係について調査した24の研究を分析した論文では、総合的な睡眠の質の低下を踏まえて、マグカップ入りのコーヒーは少なくとも就床8.8時間前に摂取し終える必要があると結論付けられています出典[2]。
カフェインの感受性、および睡眠への影響には個人差があるため、寝る8.8時間前を過ぎてからのコーヒーで一様に睡眠の質が低下する、とは断言はできません。
しかし一般的な目安として「カフェインの覚醒作用が失われるまで6時間以上かかる」という可能性を頭に入れ、コーヒーを飲むタイミングを調整する必要があるでしょう。
睡眠時間から逆算し、カフェイン摂取から寝るまでの時間を最低6時間設けられるよう工夫してみましょう。0時に眠る方であれば夕方6時以降の摂取を控えることで、睡眠の質をある程度保てるようになるかもしれません。
より安全にコーヒーを楽しみたい場合には、寝るまでの時間を8時間置き、午後4時からカフェイン断ちをするとよいでしょう。
飲むなら食後にデカフェで
夕食後のコーヒーを習慣としている方にとっては、夕方以降のコーヒー断ちは非常に難しいもののように感じられるでしょう。睡眠などへの影響を防ぎつつ食後のコーヒーを楽しむ方法として、カフェインを除去した「デカフェ」のコーヒーを選ぶ方法があります。
デカフェでは、水や二酸化炭素、有機溶剤などを用いてカフェインの抽出が行われます。ジクロロメタンなどの有機溶剤が残留している可能性を考えると安全性に不安が残るかもしれません。
しかし現在の日本において、有機溶剤が直接豆に触れるものは出回っていないため、デカフェの安全性について心配する必要はないでしょう。
デカフェのコーヒーからはクロロゲン酸というポリフェノールを摂取できます。クロロゲン酸には脂質代謝を高めたり、糖質の吸収を緩やかにして血糖値の急上昇を抑えたりする効果が確認されています。
体脂肪増加のリスクを抑えられるため、食後の摂取に適しているでしょう。
眠気や疲れをごまかしすぎず、十分な休息を
カフェインには交感神経を活性化させたり、アデノシン受容体をブロックしたりして眠気や疲労を軽減する効果が期待できます。
しかしカフェインによる作用で、疲労がなくなるわけではありません。眠気や疲労は過活動による体へのダメージにより生じるものです。ダメージから体を回復させないと、眠気や疲労は蓄積されたまま、解消されることはないでしょう。
夜のコーヒーによるカフェイン摂取で眠気や疲労を誤魔化し続けることは非常に危険です。自覚がないままに脳や体のパフォーマンスが低下するほか、睡眠不足の継続により大きなストレスを抱え続けることになります。
また、自身は交感神経により、いわゆる「ハイ」な状態にあるため、体に蓄積されたダメージやストレスを自覚しにくいという問題もあります。
自覚がないまま体を酷使し続けていると、突然大きく体調を崩すことにもなるかもしれません。
眠気や疲労は、体が休息を求めているサインです。コーヒーで体へのダメージやストレスを誤魔化しすぎず、十分な休息を取るようにしましょう。
寝る前のリラックスタイムにおすすめの飲み物2選
寝る前のコーヒーには様々なデメリットが伴いますが、寝る前の飲み物は水分補給としても、体温をコントロールする手段としても重要です。
寝る前に温かい飲み物をコップ1杯程度飲むことで、夜間の脱水を防ぐことができます。また体の内側から温まることで眠気を覚えるため、入眠をスムーズにする効果も期待できるでしょう出典[5]。
そこで今回はコーヒーの代わりにおすすめしたい飲料を2つ紹介します。睡眠の質を高めるために飲み物の力を借りたいと考える方は、ぜひ以下を参考に寝る前の飲み物を検討してみましょう。
1.ホットミルク
牛乳は適度なたんぱく質と脂質を含むため、満足感を得やすい性質があります。寝る前の空腹が辛い方には、とくにおすすめの飲み物と言えるでしょう。
牛乳と睡眠の相性がよい理由として、必須アミノ酸であるトリプトファンを効率よく摂取できる点が挙げられます。
トリプトファンは「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンや、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンの合成に欠かせないアミノ酸です。
セロトニンは緊張や不安を解消するように働くため、就寝時のリラックス効果が期待できるでしょう。またメラトニンには入眠をサポートして寝つきをよくするように働くため、睡眠の質を高める効果が得られます。
寝る前に血中のトリプトファン濃度を高めることは、睡眠の質の向上に繋がる可能性があります。1989年にカナダから発表された論文では、就床1時間前のトリプトファン投与で血中トリプトファン濃度を上昇させたところ、入眠までの時間が約16分から約8分に短縮されたと報告されているのです出典[6]。
セロトニンは朝に多く合成されるホルモンであるため、朝のトリプトファン摂取の方が有効ではとも考えられます。
しかし2002年にドイツから発表された論文においては、朝にトリプトファンを摂取しても、夜にトリプトファンの摂取を制限した場合、睡眠時の血中トリプトファン濃度が減少し、睡眠効果も十分に得られなかったことが判明しています出典[7]。
以上2つの論文から、夜にトリプトファンを多く含む牛乳を摂取することは有用であると考えられるでしょう。セロトニンやメラトニンによる睡眠の質の向上を期待するため、寝る前のホットミルクを試してみましょう。
2.ダージリンティー
紅茶や緑茶など、お茶に含まれるポリフェノール「テアニン」にはリラックス効果や抗ストレス効果があります。
2016年にオーストラリアから発表された論文においては、テアニン入りドリンクの摂取で1時間後のストレス反応が約14%低下し、主観的な倦怠感や不安の改善も確認できています出典[8]。不安や緊張を原因とする不眠の改善に役立つ可能性が考えられるでしょう。
また、お茶の香り成分によってもリラックス効果がもたらされます。とくに睡眠へのサポートが期待できる香り成分として、今回は「ホトリエノール」を紹介しましょう。
ホトリエノールは、紅茶の中でもダージリンの「セカンドフラッシュ」という種類の茶葉に豊富な成分です。ダージリンティーは収穫のタイミングで茶葉を呼び分けており、その年の最初に収穫された茶葉をファーストフラッシュ、同じ年の2番目に収穫されたものをセカンドフラッシュと呼んでいます。
2022年に日本で発表された論文では、就寝時にホトリエノールをアロマディフューザーで嗅いで就寝した参加者において、入眠にかかる時間が6分短くなり、総睡眠時間が26分増加したという結果が得られています。
またストレススコアや主観的な疲労回復度合いの改善も見られ、睡眠の質が全体的に改善する効果が確認されています出典[9]。
このように、紅茶にはリラックス効果や副交感神経を優位にする効果があります。一方で紅茶はコーヒーほどではないもののカフェインを含む飲料です。寝る前に飲む際にはカフェインレスやデカフェのものを選ぶと、デメリットの心配なく快眠効果が期待できます。
もしくは香りだけでも十分な入眠のサポートが期待できるため、夜には紅茶の香りのみ楽しむ方法もあります。その場合、残りの紅茶は保存しておけば、翌朝においしく飲むことができるでしょう。
まとめ:夜はデカフェかホットミルクを活用しよう!
寝る前のコーヒーは入眠までの時間や中途覚醒の時間、眠りの浅さや総睡眠時間など、睡眠の質全体を低下させます。
睡眠不足はテストステロンの減少やストレスホルモンの増加を引き起こし、筋肉や活力、体調にまで影響を及ぼす可能性があります。
コーヒーによるデメリットを防ぐには、夕方以降の摂取を避けましょう。就寝時や入眠中にカフェインの作用を強く受けないよう、摂取のタイミングを調整することが重要です。
デカフェのコーヒーを食後に楽しむ、寝る前の飲み物をホットミルクやカフェインレスの紅茶に切り替える、などの工夫で、睡眠の質を落とさない工夫を心がけましょう。
出典
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