執筆者
NSCA-CPT、調理師免許
大里 亮太(筋肉料理研究家Ryota)
激太り&うつで入院するも入院中にTeststerone氏の「筋トレが最強のソリューションである」に出会い、退院後に筋トレとお料理で体重-25kgに成功。精神的にも立ち直り、パーソナルトレーナー資格のNSCA-CPTを取得。元々所有していた調理師免許を生かし、筋肉料理研究家として活動するように。昔の自分のように心身ともに悩んでいる方のサポートになればと、日々簡単ダイエットレシピを発信している。
目次
「筋肥大には短いインターバルが効果的」は嘘?
「筋肥大のためにはトレーニング中のインターバルは短い方がいい」という話を聞いたことがあるかもしれません。
2013年にニューヨーク市立大学・リーマンカレッジから発表された論文でも、短い休憩でかつ適度な強度で筋肥大のためのトレーニングを行うと、ホルモンの上昇度合いが大きくなると示されていて、実際に昔は短いインターバルが推奨されていました出典[1]。
しかし一方で、これと反対のデータを示すような論文も存在します。
2009年にケネソー州立大学が発表した論文では、トレーニング経験がない男性を対象に10週間の実験が行われました出典[2]。
被験者はインターバル1分の「ショートレスト群」、インターバル2.5分の「ロングレスト群」という2つのグループに分けられ、スクワットとベンチプレスを3セット実施。
10週間後に各種の値を測定したところ、第1週の時点ではショートレスト群の方が血中のテストステロン濃度・コルチゾール濃度ともに高い値を示しました。
しかし5週目と10週目にはホルモン値に大きな差はなくなっていたのです。
また、腕の断面積はショートレスト群が2.9%の増加だったのに対し、ロングレスト群は7.2%も増加と、その数値に大きな差が付いたのです。
これ以外にも、近年はさまざまな研究によって、短いインターバルによる一時的なホルモンの上昇は筋肥大には影響しないことが明らかになってきています。
インターバル時間を決定する3つの要素
それでは、インターバルの時間は何を目安に決定すれば良いのでしょうか。
この項目では
- トレーニングボリューム
- 筋肉の回復具合
- 代謝ストレス
という3つの要素に分けて解説します。
1.トレーニングボリューム
トレーニングボリュームとは、筋力トレーニングで筋肉にかかる負荷を数値化したもの。
「ウエイトの重さ×レップ数(回数)×セット数」という式で算出することが可能です。
例えば、ベンチプレスを100kgで10回×3セット行えば3,000となり、このトレーニングボリュームを大きくしていくことが筋肥大の重要な鍵を握っています。
それを裏付けるような、2022年にパウリスタ大学が発表した論文をご紹介しましょう出典[3]。
実験では、28人の被験者が片足レッグプレスを週2回10週間行いました。
なお、被験者たちはインターバル時間やトレーニングボリュームによって、以下の4つのグループに分けられています。
- 長いインターバル(3分)を取る群
- 短いインターバル(1分)を取る群
- 短いインターバル(1分)でトレーニングボリュームを「長いインターバルを取る群」にあわせた群
- 長いインターバル(3分)でトレーニングボリュームを「短いインターバルを取る群」にあわせた群
トレーニング前後に1RMと大腿四頭筋の筋断面積を測定したところ、すべてのパターンでトレーニング後の1RMが30%ほど増加し、その数値に目立った差はありませんでした。
一方でb大腿四頭筋の筋断面積はすべてのパターンで増加したものの、2と4の「トレーニングボリュームが小さかった群」が約7%の増加だったのに対し、1と3の「トレーニングボリュームが大きかった群」は約13%増加と、その数値には大きな差が付きました。
この実験の結果からも、筋肥大のためにはインターバル時間よりもトレーニングボリュームを大きくする、つまり「どれだけ筋肉にメカニカルテンション(機械的な緊張)を与えるか」ということが重要だと言えるでしょう。
2.筋肉の回復具合
トレーニングボリュームを最大化するためには、筋肉が十分に回復してから次のセットに挑む必要があります。
それでは、セット終了後の筋肉はどのような状態になっているのでしょうか。
ここでは、筋肉の疲労の例として「クレアチンリン酸の減少」と「筋肉のアシドーシス」をご紹介しましょう。
人間が筋肉を動かすためには、ATP(アデノシン三リン酸)という物質が分解されてADP(アデノシン二リン酸)になるときに放出されるエネルギーが必要になります。
しかし、ATPは筋肉中にごくわずかしか存在しないため、その再合成のために「クレアチンリン酸」という物質が働くことになります。
ところが、このクレアチンリン酸の貯蔵量も多くはなありません。2002年にクイーンズランド大学から発表された論文によると、激しい運動中のクレアチンリン酸濃度は安静時の30%以下まで低下すると言われています出典[4]。
クレアチンリン酸の減少は筋収縮、さらにはパワーの発揮にも悪影響を及ぼすと考えられるため、インターバル中にその再合成の速度を高めることは、激しい運動を行うアスリートにとって重要です。
また、ATPがADPに分解されるときには「水素イオン」という物質が放出され、体を少し酸性に傾かせます。
通常、水素イオンは細胞内にとどまることはありません。
しかし、運動強度が一定を超えると筋肉内の機能が追いつかなくなり大きく酸性に傾いてしまいます。
その結果、筋肉の酸性化、いわゆるアシドーシスを引き起こして疲労状態に陥ってしまうのです出典[5]。
つまり、筋肥大のためにはインターバル中に、クレアチンリン酸の減少と筋肉のアシドーシスを回復させることが重要なのです。
3.代謝ストレス
代謝ストレスとは、筋肉が修復するときに生まれる乳酸や水素イオン、リン酸などの代謝産物によるストレスのこと。
インターバルを短くしてトレーニングすることで筋肉中に代謝産物が蓄積すると、いわゆるパンプしている状態になり、これが筋肉の成長を促すと言われています。
2010年にブラッド・ショーンフェルド氏が発表した論文でも、メカニカルテンション、筋損傷、代謝ストレスのすべてが筋肥大に関与することが明らかになっていると述べられています出典[5]。
つまり、代謝ストレスによる刺激も一部筋肥大に関わっている可能性があるのです。
前述のとおり、筋肥大のためには基本的にはメカニカルテンションが重要です。
しかし、あまり重量が扱えないような種目を行うときや収縮感をしっかりと意識したいような場合は、短いインターバルで代謝ストレスを高めるのも良いでしょう。
実際にはどのくらいインターバルをとればいい?
それでは、実際にはどのくらいインターバルを取ればいいのでしょうか。
ここでは論文を交えつつ、コンパウンド種目、アイソレーション種目、初心者に分けて、具体例をご紹介します。
コンパウンド種目は3~5分
スクワット・ベンチプレス・デッドリフトなどのBIG3をはじめ、ダンベルプレスやベントオーバーロウなどのコンパウンド種目はたくさん関節を使う分、高重量を扱うことができます。
そのため、大きなメカニカルテンションを与えるためにも、コンパウンド種目では十分なインターバル時間を確保し、トレーニングボリュームの最大化に努めることが重要です。
2008年に出版された『小児呼吸器医学(第二版)』によると、先ほどご紹介した筋肉がパワーを発揮するのに重要なクレアチンリン酸は、70%回復するためには約30秒、100%回復するためには3~5分必要であると述べられています出典[6]。
このことからも、コンパウンド種目のインターバルは3~5分を目安にするのが良いでしょう。
アイソレーション種目は30~90秒
一方、ケーブルクロスオーバーやダンベルカール、レッグエクステンションなどのアイソレーション種目は1つの関節しか使えないため、コンパウンド種目に比べて大きい重量を扱うことができません。
しかし、その分回復速度も早く、また筋肉を最大収縮できるため、効果的に代謝ストレスを与えることができます。
従って、アイソレーション種目では代謝ストレスを高めるために、比較的短めの30~90秒のインターバルを目安にするのがおすすめ。
初心者は短くてもOK
トレーニングを始めたばかりの初心者は筋肉に与えられる負荷がそれほど大きくないため、インターバルは短くてもOK。
2018年にビクトリア大学から発表された論文では、「インターバル時間の違いによって筋力にどのような変化を与えるか」という研究の結果をまとめるため、合計491人の参加者からなる23の文献をレビューしました。
その結論として、効果的に筋力を向上させるためには、トレーニング経験者の場合は2分以上のインターバルが必要だが、トレーニング未経験者に関しては60~120秒のインターバルで十分であることが示されています出典[7]。
このことからも、初心者の場合は短めのインターバルでも問題ないと言えるでしょう。
長くインターバルを取れない場合は・・・
仕事や家事が忙しく、長時間トレーニングすることができないという方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、そんな方のためにおすすめの時短テクニックとサプリメントをご紹介します。
時短テクニックを使う
じつは、トレーニングにはさまざまな時短テクニックが存在します。
紹介しているテクニックを活用すれば、短時間で筋肉により大きなメカニカルテンションを与えることができます。
スーパーセット
スーパーセットとは、対となる筋肉を対象としたトレーニングを連続して2種目行う方法。
例えば
- ベンチプレス(胸)→ベントオーバーロウ(背中)
- ダンベルカール(上腕二頭筋)→トライセプスエクステンション(上腕三頭筋)
などのように、1つの筋群を休めている間にその反対側の筋群を鍛えることで、十分なインターバルを確保しつつ、短時間で多くの筋肉を刺激することができるのです。
ここで、2017年にリーズ・ベケット大学から発表された論文をご紹介しましょう出典[8]。
研究では、14名の男性を対象にスーパーセットを含む3つのトレーニングパターンが割り当てられ、トレーニングの前後、さらに24時間後に各種の値が計測されました。
その結果、通常のトレーニング群が42.3分かかっていたところを、スーパーセットを用いた群は24分で終えることができたというデータが得られたのです。
このことから論文内では、スーパーセットはトレーニングの効率を高め、トレーニング時間を短くすることができると結論づけられています。
ドロップセット
ドロップセットとは、セット中に挙上できなくなったらウエイトの重量を下げて、さらに限界までトレーニングを行う方法。
ドロップセットではインターバルをできるだけ短くし、重量を変更している間だけにとどめておくことが重要です。
例えば
1セット目は10回ギリギリ挙上できる重量で行う→2セット目は重量を20~30%落とし限界まで行う→3セット目はさらに重量を20~30%落とし…
などのようにテンポよく反復動作を繰り返すことで、短時間で筋肉に限界まで負荷を与えていくことがポイント。
2023年にノード大学から発表された論文では、ドロップセットが筋肥大に対する効果を調査するため、参加者計142人(女性28人、男性114人)に及ぶ6件の研究をレビューしています出典[9]。
結果としてドロップセット群は通常のトレーニング群と同じように筋肥大し、その数値に大きな差はありませんでした。
このことから、ドロップセットはトレーニング時間が限られている人にとって、筋肥大のために有効なテクニックであると結論づけられています。
レストポーズ
レストポーズとは、セット中に限界がきたら数十秒休息を取り、再び限界までトレーニングを続ける方法。
ここでその有効性について述べている、2017年にセントトーマス大学から発表された論文をご紹介しましょう出典[10]。
研究では、トレーニング経験のある男性20名が「レストポーズ群」と「通常のトレーニング群」に分けられて実験が行われました。
被験者たちは「ベンチプレス4セット・インターバル2分」というトレーニングを週2回4週間に渡って実施し、各日のトレーニングボリュームなどを測定。
その結果として、総挙上重量は通常のトレーニング群が38,315ポンドだったのに対し、レストポーズ群が56,778ポンドと、レストポーズ群の方が大きく上回ったというデータが示されたのです。
このことから論文では、トレーニングボリュームに焦点を当てるなら、レストポーズ法を利用すべきであると結論づけられています。
ただし、レストポーズは非常に強度が高く、やり過ぎはオーバーワークになる可能性も。
そのため、2週間に1回程度にとどめるなど、十分に休息が取れるようなタイミングで取り入れましょう。
サプリメントを活用する
さらに短時間で効率よく筋肉に刺激を与えたいという方は、サプリメントを活用するのもおすすめ。
ここではエビデンスを交えながら、3つのサプリメントをご紹介しましょう。
βアラニン
βアラニンはアミノ酸の一種で、体内で必須アミノ酸のヒスチジンと結合すると「カルノシン」という物質を作り出すはたらきを持っています。
カルノシンは強度の高い運動時に発生する水素イオンによる酸化、つまりアシドーシスを中和してくれます。
そのため、βアラニンを摂取することにより筋肉の疲労を軽減できることが期待されているのです。
2015年にノースカロライナ大学から発表された論文でも、1日4~6gのβアラニンを2~4週間摂取することでカルノシン濃度を大きく高めることができ、運動パフォーマンスを向上させられると述べられています出典[11]。
なお、サプリメントとしてのβアラニンはカプセルタイプやパウダータイプ、他の栄養成分がブレンドされたものなども販売されているので、自分にあった商品を探してみましょう。
また、人によってはβアラニンを摂取すると皮膚がピリピリとする「フラッシュ」という症状が現れることもありますが、体に悪影響はありませんのでご安心を。
クレアチン
クレアチンはアミノ酸の一種で、激しい運動時のエネルギー源となるクレアチンリン酸の構成成分。
2018年に学術医療センターのハーシーメディカルセンターから発表された論文でも、強度の高いトレーニングのパフォーマンス向上に役立つと述べられています出典[12]。
前の項目でも説明したとおり、激しいトレーニングを行うと体内のクレアチンリン酸は減少し、またインターバルが短いと十分に回復させることができません。
しかし、クレアチンリン酸の構成成分であるクレアチンをあらかじめ摂取しておけば、短いインターバルでも回復速度を高められる可能性があります。
ただし、クレアチンは一度にたくさん摂取しても尿などと一緒に排出されてしまうので、1日5~10gをこまめに摂取するのがおすすめ。
また、短期間で体内のクレアチン量を増やす、いわゆる「クレアチンローディング」を行う場合は、1日20gを4~5回に分けて1週間ほど摂取しましょう。
その後は通常の量に戻して摂取を続ければ、体内のクレアチン量をキープすることができます。
NOブースター
NOとは「一酸化窒素」のことで、NOブースターはNOを増やす素材をを配合したサプリメント。
摂取して体内の一酸化窒素を増やすことで血流が改善され、酸素を多く運べるようになってクレアチンリン酸の回復を早めることが期待されています出典[13]。
2016年にエッジヒル大学が発表した論文では、トレーニング経験のある12人の男性を対象に実験を行いました出典[14]。
被験者は「NOブースターを摂取する群」と「カシスドリンクを摂取するプラセボ群」に分けられ、ベンチプレスを3セット行い各種の値を測定。
その結果、NOブースターを摂取する群の方が失敗までの反復回数と総ボリュームの増加が認められました。
よってNOブースターを活用することで短いインターバル時間でも十分に回復でき、十分なトレーニングボリュームを確保できる可能性があります。
種目やレベルに合わせてインターバル時間を調節しよう!
記事を通じて、インターバル時間を決定するためにはトレーニングボリュームや筋肉の回復具合、代謝ストレスなどの要素が関わってくることがご理解いただけたかと思います。
また、実際のインターバル時間は、トレーニング種目やトレーニングのレベルによっても変わってきます。
さらに、長くインターバルを取れないという方でも、時短テクニックやサプリメントを活用すれば、短時間で効率よく筋肉にメカニカルテンションを与えることが可能。
ただし、記事で紹介している数値やデータはあくまでも目安です。
ぜひ各項目を参考に、自分の目的やレベルにあわせて色々なパターンを試し、効果的に筋肉を刺激できる方法を探してみてください。
出典
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