バリンとは?5つの役割と適切な摂取方法
2023年11月21日更新

執筆者

NSCA-CPT/調理師

舟橋位於

東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。

バリンとは

まずはバリンの基本情報についてご紹介します。

1.どんな栄養素?

バリンは、ヒトの体を構成するアミノ酸の一種です。

アミノ酸には、体内で合成することのできる非必須アミノ酸と、食べ物から摂取しないといけない必須アミノ酸が存在します。バリンは必須アミノ酸に含まれ、さらに枝分かれした特殊な構造を持つことから、BCAA(Branched Chain Amino Acid / 分岐枝アミノ酸)とも呼ばれます。

BCAAを構成するバリン・ロイシン・イソロイシンは、特に筋肉組織に多く分布することが知られています。

 

2.体の中でどんな働きをする?

ヒトの体を構成するアミノ酸は20種類あります出典[2]。アミノ酸はたんぱく質を作る際の材料となりますが、単体でも、それぞれが固有の働きを持つことが分かっています。

バリンを含むBCAAにはその他にロイシンとイソロイシンという2種類のアミノ酸があります。そしてBCAAは、血液中の窒素バランスの調整に関して重要な役割を持っていることが分かっています出典[1]。また、バリンを含むBCAAを代謝することで、運動に必要なエネルギーが得られることが挙げられます。

 

3.不足するとどんなリスクがある?

それでは、バリンが不足した場合は体にどのような影響が生じるのでしょうか。

前述した通り、バリンは必須アミノ酸であるため、ヒトは自分の体の中でバリンを作り出すことができません。すなわち、バリンを含む食品を定期的に摂取しないと、体はバリンが不足した状態になりやすいです。

バリンのようなBCAAは、特に筋肉組織に多く含まれ、運動の際には、真っ先にエネルギー源として消費されます。バリンの摂取量が足りていないと、どんどん筋肉が失われていくことになり、長期的に見ると、筋力の低下や怪我のリスクの上昇などが起こることが考えられます。

高齢になって食の好みが変わると、たんぱく質製品を敬遠しがちになることがありますが、これがBCAAの不足から筋力の低下を招き、転倒からの寝たきりの引き金になることも問題になっています。

 

4.どんな食材に含まれている?

バリンのような必須アミノ酸は、基本的には動物性の食品に多く含まれています。植物性の食品にも含まれていますが、種類によってはその量が少ないものもありますので、食事制限をしている場合は、不足しないように注意することが必要です。

今回は、文部科学省が発表している食品栄養成分データベースを元に、バリンを含む身近な食品をピックアップして表にまとめました。動物性食品と植物性食品の間の含有量の差に着目してみてください。

食品栄養データベースを編集出典[3]
 

食品名

バリン総量(100gあたり〇〇mg)

ぶたヒレ肉

2000

すけとうだら

1900

まいわし

1700

牛もも肉

1600

ささみ

1500

きなこ

2000

青のり

1500

えんどう豆(乾燥)

1000

白米

360

さつまいも

74

 

 

バリンに確認されている作用や効果

ここからはバリンの具体的な作用や効果についてご紹介します。

1.運動中の疲労軽減

バリンの働きのひとつとして、運動中のエネルギー源になることがあります。

バリンを含むBCAAは、筋肉中に特に豊富に含まれるアミノ酸です。運動の際のエネルギー源としては、体の中に蓄えられた糖質や脂質が使用されますが、同時にBCAAもエネルギーを得るために消費されます。運動前のBCAAの摂取が推奨される理由の一つはこれです。

エネルギー源になるBCAAに共通した効果以外では、バリン特有の働きとして、運動中の疲労を軽減する可能性が示されています。

日本の研究者は、3種類のBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)をネズミに摂取させた後に、水泳を模した運動を行わせる実験を行いました。その結果、ロイシンやイソロイシンと比べて、バリンには、血糖値の低下を抑えたり、ストレスホルモンの値を下げたりといった、疲労を防ぐ効果があることが分かりました出典[4]

運動後の疲労を少なくしたいと考える方や、強度の高い運動中にばててしまうことを防ぎたい方は、バリンを意識して摂取してみると良いでしょう。


2.エネルギー消費の増加

バリンには、自身が運動の際のエネルギー源となる働きの他に、脂肪組織等をエネルギーとして使いやすくする働きもあります。これは主に、バリンが代謝されて作られる物質であるBAIBA(β-アミノイソ酪酸)の効果によるものです。

BAIBAは、筋肉中のバリンが運動中に分解されることで作られます。筋肉で作られたBAIBAは、肝臓に含まれる脂肪を消費する回路を促進したり、白色脂肪組織と呼ばれる体脂肪に働きかけて、エネルギーの消費を高めたりすることが分かっています出典[5]

食生活を工夫して、普段から体の中にバリンが豊富にある状態を作れれば、エネルギー消費を高い状態に保てる可能性があります。体脂肪率や体型が気になる方は、たんぱく質の摂取を見直したり、運動の習慣をつけたりすると良いでしょう。

 

3.落込みの緩和

バリンの働きとして、気分の落ち込みを緩和する可能性も考えられています。

オックスフォード大学が1995年に行った研究では、30gのバリンを摂取することで、気分の落ち込みに影響する物質であるセロトニンの分泌に変化が生じたことが分かっています出典[6]。セロトニンは、精神を安定させる作用を持つ物質ですが、これが脳内で増えすぎると、逆に不安状態が生じてしまいます。バリンを摂取することで、セロトニンの分泌量を制御することができ、結果として、気分の落ち込みを緩和することができます。

バリン単体のサプリメントを用意するのはなかなか大変ですので、気分の落ち込みを普段から感じている人は、バリンを多く含むたんぱく質食品の摂取が足りているかを見直してみると良いでしょう。食事制限の指導を受けていて、たんぱく質を積極的に摂取できない場合は、バリンを含むBCAAのサプリメントがその代用になるでしょう。

 

4.免疫のサポート

バリンを摂取することで、免疫機能をサポートすることもできます。

免疫とは、体の外から侵入してきた異物や細菌を排除したり、体の中で生じた悪性の物質を無害化したりする機能のことです。何らかの理由により免疫がうまく働かなくなると、通常よりも病気になる可能性が高まります。

中国の研究者が2017年に発表した論文では、細菌に感染した後に生き残ったネズミの体内では、バリンの総量が増えていたことが報告されています出典[7]。論文の著者らは、バリンによって、細菌を殺す働きを持つマクロファージと呼ばれる細胞が活性化されると結論づけています。

バランスの良い食生活は健康を維持するために欠かせないですが、その根拠のひとつとして、バリンを十分に摂取できることも考えられると言えそうですね。

 

5.造血の維持

最後に、バリンは血液を作る際に不可欠である点を紹介します。

血液は、液体成分である血漿(けっしょう)の他に、赤血球や白血球といった固体成分を含みます。そして、これらの固体成分は、骨髄に存在する造血幹細胞が元になって作られます。

造血幹細胞が正常に血液成分へと変化するためには、どのような種類のアミノ酸が不可欠であるかを調べる実験を行った結果、バリンとシステインの2種類のアミノ酸が欠かせないことが分かりました出典[8]。システインは、ヒトが体内で合成できる非必須アミノ酸であるのに対し、バリンは食物から摂取しなければならない必須アミノ酸であるため、よりバリンの方が重要度が高いと言えます。

血液成分が正常に作られない場合、貧血が引き起こされたり、免疫機能が低下したりする恐れがあります。繰り返しになりますが、たんぱく質食品を日頃から摂取して、バリンが不足しないようにできると良いですね。
 

バリンの飲み方や注意点

バリン単体を飲む機会はなかなかないですが、スポーツを行っている方ならば、スポーツドリンクという形で摂取することは多いです。また、体つくりを熱心に行っている方は、トレーニング中に飲むドリンクにBCAAを溶かし込むこともあるでしょう。

ここでは、バリンの効果的な飲み方や注意点について解説します。

 

1.どのくらい摂取すればいい?

それではまずはじめに、バリンの推奨摂取量について見ていきましょう。

バリン単体のサプリメントはあまり一般的ではないため、バリンの摂取経路としては、食品からか、もしくは3種類のBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)をまとめたサプリメントからが主体となります。

厚生労働省がたんぱく質について発表している文章によると、18歳以上の成人は、1日に体重1kgあたり26mgのバリンを摂取することが推奨されています出典[9]。仮に体重を60kgとするならば、推奨摂取量は1560mgとなります。文部科学省が発表している食品成分データベースを参照すると、魚類や脂身の少ない肉類は、100gあたりおよそ1500mgのバリンを含んでいることが分かります出典[10]。このことから、たんぱく質が極端に少ない食生活をしない限りは、バリンが不足することはほとんどないと考えて良いでしょう。

 

2.過剰摂取の心配はあるか?

バリンは、たんぱく質の元となるアミノ酸の一種です。すなわち、たんぱく質量の多い食生活をすれば、自然とバリンの摂取量も増えることになります。

バリンは自然に存在する物質であるため、人工的に合成された薬品のような毒性を持つことはありません。しかしながら、たんぱく質を大量に摂取することは、場合によっては肝臓や腎臓に負担をかける可能性があります。これらの臓器に障害がある場合や、医師やトレーナーから指導を受けている場合は、摂取しすぎに注意する必要があると言えるでしょう。

 

3.理想の摂取方法やタイミングはある?

最後に、バリンの効果的な摂取タイミングを紹介します。

前述したように、バリンを含むBCAAは、筋肉中に多く含まれるアミノ酸です。そして、激しい運動を行うと、体は筋肉を分解して取り出したBCAAを活動のためのエネルギー源として使用するようになります。この筋肉の分解を防ぐためには、運動を実施する前に、あらかじめBCAAのサプリメントを摂取しておくことが有効です。こうすることで、摂取したBCAAが優先的にエネルギーとして使用されるため、筋肉の分解を抑えることができるようになります。

筋肉をつけることを狙っている場合や、激しい運動を行う可能性がある場合は、前もってバリンを含むBCAAのサプリメントを摂取しておくことがおすすめです。運動前のBCAAの摂取により、トレーニングを始めたばかりの初心者から、ベテランのアスリートまで、広く恩恵を得ることができるでしょう。
 

まとめ

バリンについての解説はいかがだったでしょうか。

運動時に飲むことが推奨されるサプリメントに含まれることが多いですが、実は健康を維持するために重要な働きがあることがお分かりいただけたのではないかと思います。

バランスの良い一般的な食事をしている限りは不足しない栄養素ではありますが、食事制限をしている場合は注意が必要です。体に不調がある場合は、必ず医師に食事内容を相談してみてくださいね。

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