監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
目次
筋トレ中のチートデイに減量効果はある?
継続的なエネルギー制限によるストレスは、体重を落とす際の大きな課題となるでしょう。またエネルギー制限が長期に及ぶと基礎代謝量も低下し、徐々に痩せにくい体になる点も問題です。
基礎代謝量の低下と、強いストレス。この2つの問題を解決する手段としてよく取り入れられるのが「チートデイ」です。1日だけ制限をやめて好きなものを好きなだけ食べるチートデイに、果たして減量効果はあるのでしょうか。
減量期間のストレス解消に効果的
糖質制限や脂質制限を伴う減量期間では、洋菓子やスナック菓子、菓子パンや揚げ物などを食べない状態が続きます。このような食事を好む方にとっては、制限期間はより苦しいものとなるはずです。
ダイエット期間中の強い欲求不満やストレスから突然のやけ食いに転じ、ダイエットが失敗することも珍しくありません。
溜まりに溜まったストレスが「やけ食いからのダイエット挫折」という事態を招く前に、ガス抜きすることには大きな意味があります。エネルギー制限を放棄し、これまで我慢していたものを好きなだけ食べてよい日が1日でもあれば、減量中のストレスは大きく解消されるでしょう。
チートデイのタイミングを決めておけば「この日まで我慢しよう」というモチベーションから自制しやすくなります。またチートデイを終えれば「明日からまた頑張ろう」というモチベーションの高まりにも繋がります。
減量期間中のストレスコントロールに、チートデイは大いに効果的と言えるでしょう。
体重を減らす有意義な効果は薄い
チートデイが減量期間中に推奨されるもう一つの理由として「継続的なエネルギー制限による代謝やホルモンバランスの変化を戻せるため」と一般には言われています。
安静時代謝量の低下に関する5つの研究を分析した論文では、ボディビルの競技大会準備期間中(脂肪減少とエネルギー制限)に平均して18%もの代謝低下が確認されています出典[1]。
そもそも摂取エネルギーを減らすとなぜ代謝が下がるのでしょう。それは私たちの体に、消費エネルギーを現在の摂取量に釣り合いが取れる形まで落とそうとする「代謝適応」の機能があるためです。
エネルギー不足を体は生命の危機と判断し、自身に備わるホメオスタシス(恒常性)の機能でエネルギー収支の釣り合いを取ろうとするのです。
チートデイにはこのホメオスタシスのロックを外し、下がった代謝を元に戻す効果があると一般には言われています。消費エネルギーが減量開始時と同等に戻るため、同じペースで減量できるようになり、ダイエットの停滞期を乗り越えられるだろうとの考えです。
しかし残念ながら、チートデイにより基礎代謝量や安静時代謝量が大きく回復した例は確認されておらず、高い減量効果も期待できません。
食事量を1日だけ大幅に増やすやり方では、基礎代謝量やホルモンバランスは回復せず、その後の体脂肪が減りやすくなるようなメリットも得られないのです出典[1]。
チートデイによるメリットはあくまでストレス解消のみ。「代謝を上げて痩せやすい体を作るため」と、減量効果を免罪符にチートデイを取り入れるようなことはやめましょう。
トレーニーにはリフィードかダイエットブレイクがおすすめ
チートデイはストレス解消に役立つものの、基礎代謝量を高めたり体脂肪をより落ちやすくしたりするための方法としては適していません。
食べる量を増やす日を入れながら、体調を整えたり減量効率を高めたりする効果を期待したい場合には、チートデイよりも次のような「リフィード」や「ダイエットブレイク」をおすすめします。
- リフィード:1週間に2日程度、維持エネルギー+5~10%程度の食事を摂る
- ダイエットブレイク:1か月に1~2週間、維持エネルギーと同量の食事を摂る
リフィードやダイエットブレイクでは、エネルギー制限を実施する期間と実施しない期間を交互に取り入れて摂取エネルギーを管理します。このような「断続的エネルギー制限」は、食べる量を増やす期間を取り入れない「継続的エネルギー制限」よりも減量効率が高いことが分かっています出典[1]。
また、減量期を必要とするアスリートに生じやすい「スポーツにおける相対的なエネルギー不足の症状(RED-S症候群)出典[2]」を防止する効果も期待できるため、体に負担の少ない減量が可能です。
RED-S症候群では安静時代謝量の低下のほか、骨格機能や筋肥大の効率の低下、女性においては月経機能の低下が確認されます。リフィードやダイエットブレイクを取り入れてRED-S症候群を防ぎ、より健康的に、より効率的に減量を成功させましょう。
リフィードの特徴と実施のポイント
チートデイに変わる減量期の食事法として、まずはリフィードを紹介します。
1日だけ好きなものを好きなように食べるチートデイとの違いや、リフィードによる効果、実施する際の注意点について確認しましょう。
短期間にやや多めの食事を摂る
好きなものを好きなだけ食べていた1日のチートデイとは異なり、リフィードでは通常よりやや多めのエネルギー摂取を、チートデイより長めに続けます。
具体的には次のような方法での実施が一般的です。
リフィード期間 | 1~3日間 |
摂取エネルギー | 維持エネルギー+5~10% |
食事のポイント | 炭水化物を中心に増やす |
リフィードの効果を調べた研究を分析した論文によると、継続的エネルギー制限よりも毎週48時間のリフィードを設けた方が、アスリートの安静時代謝量がより維持されたと報告されています出典[3]。
また2018年に国際スポーツ栄養学会が発表した論文においては、継続的エネルギー制限と断続的エネルギー制限によるそれぞれの減量効果が次の表のように比較されています出典[1]。
継続的エネルギー制限 (リフィード非実施) | 断続的エネルギー制限 (リフィード実施) | |
実施期間 | 7週間 | |
エネルギー摂取法 | 25%エネルギー制限 | 週のうち 5日は35%エネルギー制限 2日はリフィード |
体重や体脂肪 | リフィード実施でより多く減少 | |
安静時代謝率 | 継続的エネルギー制限のみ4%低下 | |
除脂肪体重 | リフィード実施の方が0.9kg多く維持 |
断続的エネルギー制限においては、代謝の維持に加え、減量効果や除脂肪体重を維持する効果も期待できるようです。
以上の論文より、より高い減量効果を得るには2日のリフィード期間が適切と考えられるでしょう。1週間単位で計算するなら、平日の5日はエネルギー制限を行い、土日で多めに食事を摂る方法がよさそうですね。
1週間単位でエネルギー収支をマイナスに
リフィードは1日だけのチートデイよりも長めにエネルギー増量期間を設けて、安静時代謝量の維持をねらうものです。
加えてリフィードでは一般に1週間単位でのエネルギー計算を行い、計画的に摂取量を増やす必要があります。好きなものを好きなように食べるチートデイとは、摂取エネルギーの増やし方が大きく異なることに注意しましょう。
2018年に国際スポーツ栄養学会が発表した論文における、リフィードの実施内容をもう一度確認しましょう。
継続的エネルギー制限 (リフィード非実施) | 断続的エネルギー制限 (リフィード実施) | |
実施期間 | 7週間 | |
エネルギー摂取法 | 25%エネルギー制限 | 週のうち 5日は35%エネルギー制限 2日はリフィード |
継続的エネルギー制限では25%のエネルギーカットであるところ、リフィードを取り入れる際には35%カットしています。リフィードで摂取エネルギーを増やす場合、リフィードを行わない日にはさらに多くのエネルギー制限が必要であることが分かるでしょう。
また、リフィードで摂取するエネルギーを増やしすぎないことも重要です。例として、1日の消費エネルギーが2500kcalのアスリートの場合を考えましょう。
不適切なリフィード | 適切なリフィード | |
1日の消費量 | 2500kcal | |
1週間の消費量 | 17500kcal | |
うち5日間の摂取量 | 2000kcal/日(20%制限) | 1800kcal/日(28%制限) |
うち2日間の摂取量 | 4000kcal/日(+60%) | 2750kcal/日(+10%) |
1週間の摂取量 | 18000kcal | 14500kcal |
エネルギー収支 | +500kcal | -3000kcal |
このように、エネルギー制限時の制限量が少なく、またリフィードの際の増加量が多すぎると、1週間のエネルギー収支がプラスとなり減量効果が期待できません。
エネルギー制限時にはより摂取量を減らすこと、リフィード時には消費エネルギーの5~10%に収まる形で増やすこと、この2つが減量成功のカギとなるでしょう。
糖質食品を増やしてカロリー増加
リフィードによる代謝の改善は、ホルモンバランスの一時的な回復により生じます。とくに脂肪の燃焼を促し、満腹中枢を刺激する働きを持つ「レプチン」は、体脂肪の減少に伴い分泌量が減少するホルモンです。レプチン濃度の一時的な回復も、リフィードの目的のひとつです。
体内のレプチン濃度は、摂取する糖質量と高い正の相関があります出典[4]。そのためリフィードでは主に糖質食品を増やすことで摂取カロリーを増やしています出典[1]。
米やフランスパン、うどんに蕎麦、イモ類など、脂質が増えすぎないものを選びましょう。好きなものを好きなように食べてもよいチートデイとは異なり、増やせる摂取エネルギーにも制限があるため、高脂質食品である揚げ物やスナック菓子を食べているとあっという間に想定のエネルギーを超えてしまいます。
リフィードはあくまでも、摂取エネルギーを意識的に必要なだけ増やしてダイエット効果を高めるためのものです。気晴らしの趣が強いチートデイのような食べ方は禁物です。
ダイエットブレイクの特徴と実施のポイント
続いて紹介する方法はダイエットブレイクです。その名の通りダイエットをブレイク(休息)するという意味合いが強く、ダイエット期間と休息期間を交互に設けてよりスムーズな減量をねらいます。
ダイエットブレイクの特徴や、実施する際の注意点について解説しましょう。
やや長い期間で通常通りの食事を摂る
ダイエットブレイクは「4 日かそれ以上数週間にわたり、継続的に体重維持レベルあるいはやや多めのカロリーを摂取する」と定義されています。
しかし一般的にはダイエットブレイク時はダイエットを「お休みする」イメージが強いためか、ブレイク期間のエネルギー付加はされないことが多いようです。
ダイエットブレイク期間 | 4日~数週間(1~2週間が一般的) |
摂取エネルギー | 維持エネルギーと同程度 |
食事のポイント | 嗜好品を避けてドカ食い防止 |
ダイエットブレイクによる減量効果について確認しましょう。2018年、オーストラリアのタスマニア大学から発表された論文では、2週間ごとの制限:ブレイクの繰り返しで減量した場合、制限食の連続で減量した場合よりも、減量プログラム実施後の体脂肪減少量が約4.5kg多く見られました出典[5]。
このように、ブレイクを取り入れた場合の方が効率よく減量という研究がある一方で、目立った減量効果は生じなかったとする論文もあります。
2021年に発表された西オーストラリア大学の研究では、ダイエットブレイクを取り入れても12週間後の体脂肪減少量を増やしたり、除脂肪体重を維持したりする有意な効果は確認できませんでした。
一方でダイエットブレイクにより血中のペプチドYY(PYY)が高く維持され、食事への満足感が高まり、また空腹感も軽減されたと報告されています出典[6]。
ダイエットブレイクによる減量効果には所説あるものの、「お休み期間」を設けることでホルモンバランスは確かに整いやすくなるようです。食事制限の継続に強いストレスを感じる方、リフィードほどの強いエネルギー制限を続けたくない方には、お休み期間を作るダイエットブレイクがおすすめです。
一定期間のエネルギー収支をマイナスに
ではダイエットブレイクを実施する際、どのようにエネルギー調整を行うのがよいのか確認しましょう。
リフィードの例と同様に、1日の消費エネルギーが2500kcalのアスリートの場合を想定します。また、今回はエネルギー制限とダイエットブレイクを1週間ずつ交互に実施するものとして計算します。
継続的エネルギー制限 | ダイエットブレイクあり | |
1日の消費量 | 2500kcal | |
2週間の消費量 | 35000kcal | |
制限時の摂取量 | 2000kcall/日(20%制限) | 2000kcall/日(20%制限) |
ブレイク中の摂取量 | - | 2500kcall/日(± 0) |
2週間の摂取量 | 28000kcal | 31500kcal |
エネルギー収支 | -7000kcal | -3500kcal |
このように、2週間でのエネルギー収支を見るとマイナスの状態を取るため、長期的に見ればダイエットブレイクでも減量が可能です。
一方で、継続的エネルギー制限とダイエットブレイクでは、エネルギー収支のマイナス幅に2倍の差があります。お休み期間を設けているため当然のことですが、減量ペースは確実に落ちてしまいます。
ダイエットブレイクで体への負担やストレスを抑えて減量したい場合、通常よりも長い減量期間を設ける必要がある点に注意すべきでしょう。
減量効果が確認されたタスマニア大学の研究においても、16週間の食事制限プログラムを終えるために、ダイエットブレイクを取り入れたグループでは30週(2週間8回の制限期間+2週間7回のブレイク期間)を要しています出典[5]。
一般的には、制限期とブレイクの比率は1~4:1の間で組まれます出典[1]。ブレイクの比率を上げるほど、目標体重に達するまでの期間は延長されます。コンテストなど減量における明確な期日がある場合には、残り期間を考慮してダイエットブレイクの配分を調整しましょう。
嗜好性の高い食べ物は避ける
ダイエットブレイクはあくまで「お休み期間」との認識で、エネルギーの大きな付加のない、通常通りの食事を取ることが重要です。少量ながらも積極的に摂取エネルギーを増やすリフィードとはやや心構えが異なります。
エネルギー制限期には食物への渇望が強まるため、ブレイクへ移る際には食べ過ぎないよう注意が必要です。嗜好品のような食べ過ぎを誘発するものはブレイク中にも控えた方がよいでしょう。警戒すべきものの例として次のようなものがあります。
- ジュースやエナジードリンクなどの清涼飲料水
- 冷凍ピザやカップ麺などの超加工食品
- ファーストフード店の利用
- フライや天ぷらなどの揚げ物
- スナック菓子や洋菓子
「高脂質、高糖質、高塩分」の2つ以上を満たす食品は食欲を増しやすいため、減量期間中の摂取は禁物です。甘い清涼飲料水はほぼ糖分であり条件を満たしませんが、急激な血糖値の上昇によりその後の低血糖を生じやすく、空腹感を強めることになりかねないためやはり避けた方がよいでしょう。
ブレイク中も栄養に偏りのない食事が重要です。主食、主菜、副菜が揃った食事でエネルギーを摂取しましょう。食欲の増加が辛い場合には、繊維質の多い野菜や高たんぱく質食品を多めに取り入れることで満腹感を高めやすくなります。
ダイエットブレイクを適切に継続できれば、食欲も低下して減量によるストレスも軽減できるでしょう。
リフィードやダイエットブレイクで効率的な減量を!
好きなものを好きなように食べるチートデイは、減量期間における「気晴らし」として適しています。一方で代謝を高めたり除脂肪体重を維持したりする効果は期待できず、減量効果が高い方法とは言えません。
食べる量を一時的に増やして減量を成功させたい場合には、リフィードやダイエットブレイクがおすすめです。両者の実施法についてもう一度確認しておきましょう。
リフィード | ダイエットブレイク | |
実施期間例 | 制限5日:リフィード2日 | 制限2週間:ブレイク2週間 |
摂取カロリー | 維持エネルギー+5~10% | 維持エネルギーと同等 |
注意点 | エネルギー制限をより厳しく | 通常より長めの減量期間を取る |
リフィードやダイエットブレイクを取り入れることで、エネルギー制限食ばかりを続けるよりも高い減量効果が期待できます。体への負担やストレスも軽減できる点も嬉しいメリットですね。
いずれの方法も、チートデイのようにエネルギー制限を「放棄」するやり方ではないため、エネルギーの摂りすぎは禁物です。嗜好性の高い食品に注意して、適切な範囲内で摂取エネルギーを増やしましょう。
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