執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
アルロースってどんな糖?
アルロースはカロリーの低さと健康効果が特徴的な希少糖です。上白糖やてんさい糖、はちみつのように多く市場に出回るものではないため、聞き馴染みのない方も多いのではないでしょうか。
まずはアルロースの特徴について詳しく解説しましょう。
日本で人工生成を実現した希少糖
アルロースはかつてブシコースとも呼ばれていた、自然界に存在する糖の一種です。しかし自然界で採れる量はごく僅かであるため、その希少性から「希少糖」に分類されています。
希少糖はその名の通り、自然界に微量にしか存在しないため、甘味料としての活用は難しいと考えられてきました。
しかし1991年に香川大学にて、一般的な糖であるフルクトース(果糖)をアルロースに変換する酵素を生み出す微生物が特定されます出典[1]。この発見を機にアルロースを大量生産できるようになり、甘味料としての注目が集まりはじめました。
日本では食品表示基準に「食品」としての記載があるほか、アメリカの米国食品医薬品局(FDA)においても2014年にGRAS認定を受けており、安全性が確認されています。
低カロリーの甘味料として製造
希少糖にはアルロースのほか、虫歯予防に効果的なキシリトールや、カロリーゼロのエリスリトールなどがあります。現在ではアルロースの大量生産がおこなわれているため、私たちもドラッグストアやネット通販でアルロースのような希少糖を購入可能です。
アルロースは甘味料としてエリスリトールに似た性質を持っています。砂糖の7割程度の甘さを持ちながら、カロリーが1gあたり0~0.39kcalとほとんどありません出典[2]出典[3]。
カロリーゼロの甘味料であるアルロースは摂取カロリーの削減につながるほか、アルロース特有のさまざまな生理作用も確認されています。減量に役立つことに加え、複数の健康効果が期待できる成分として注目が集まっているのです。
アルロースは白色で無臭、水に溶けやすいことから、菓子類をはじめ多くの食品に利用されています。また植物の成長を調節し、植物の病気を防いだり過剰な生育を抑えたりするように働くため、植物栽培においても効果が期待されている成分です出典[4]。
アルロースに期待できる効果5つ
アルロースは日常の生活ではほとんど摂取できないため、アルロースを摂りたい場合にはドラッグストアやネット通販での購入が必要です。
希少糖は一般的な砂糖よりも高価であるため、購入を迷う方も多いかもしれませんね。
そこでここからはアルロースを摂ることのメリットについて解説します。購入を考える際の参考に、ぜひお役立てください。
肥満の改善
カロリーがほとんどないアルロースを砂糖の代わりに用いることで、カロリーの削減につながります。
たとえばココアを作る際、砂糖をアルロースに置き換えた場合のカロリーは次のように変化します。
目安カロリー(kcal) | 目安カロリー(kcal) | |
牛乳コップ1杯(200mL) | 122 | 122 |
純ココア大さじ1(6g) | 23 | 23 |
砂糖大さじ1(9g) | 35 | ー |
アルロース(13g) | ー | 0 |
計 | 180 | 145 |
このように、砂糖の置き換えで大さじ1杯分のカロリーをほぼゼロにできるため、甘さはそのままに摂取カロリーを減らしたい場合に重宝するでしょう。
また、アルロースの抗肥満効果についても注目が集まっています。
たとえば2018年に韓国の慶北国立大学から発表された論文では、20~40歳かつBMIが23以上の男女がD-アルロースを含むドリンクを12週間継続摂取したところ、体重や体脂肪量などに次のような変化が生じました出典[5]。
低用量アルロース (1日に4g×2) | 高容量アルロース (1日に7g×2) | |
体重(kg) | -0.98 | -1.28 |
体脂肪量(kg) | -1.14 | -1.11 |
腹部総脂肪(cm²) | -14.31 | -21.31 |
体脂肪量についてはアルロースの摂取量による大きな差はないものの、体重や腹部総脂肪では高容量アルロースの方がより高い減少効果を発揮しています。
この論文ではアルロースの置き換えで摂取カロリーを減らすことはしていませんでした。そのため体重や体脂肪の減少は、摂取カロリーの減少によるものではなく、アルロース自体の高肥満効果によるものと考えられています。
アルロースの摂取による体重や体脂肪の減少は、動物実験においても確認されています出典[6]。効率よく減量したい方のサポートとして、アルロースの摂取が役立つかもしれません。
筋疲労からの回復や運動パフォーマンスの向上
アルロースには肝臓でのグリコーゲン生成を促す働きが確認されています。運動時に使えるエネルギーの貯蔵量を増やすことで、疲労までの時間を延ばしたり、回復の効率を高めたりする効果が期待できるかもしれません。
アルロースの摂取による運動効率の上昇は、マウスを用いた動物実験において確認されています。2022年に名古屋大学が発表した論文では、マウスにD-アルロース3%液を4週間与えたところ、有酸素運動効率が12.7%増加したと報告されています出典[7]。
同実験ではアルロース摂取によるインスリン感受性の増加も確認されています。インスリンには筋肉の糖貯蔵を促す働きがあるため、インスリンの効きがよくなれば筋グリコーゲンを蓄えるためにも役立つでしょう。
またインスリンには筋肉の合成を促す働きもあるため、インスリン感受性が増えると運動により体を鍛える効果もより高まります。
アスリートや運動をともなうダイエットに取り組む方の甘味料として、アルロースは価値があると言えそうです。
食後高血糖の抑制
アルロース摂取により期待できるインスリン感受性の増大は、食後の血糖値スパイクを防ぐためにも効果的です。またアルロースを摂ることでエネルギー源であるグルコースの吸収速度が落ちるため出典[3]、血糖値の上昇を緩やかにする効果がより期待できるでしょう。
食後高血糖を抑える効果は、ヒトを対象とした臨床試験においても確認されています。
アルロースの摂取と血糖値の関係についての8件の研究を分析した論文では、炭水化物を含む食事に 5gまたは10gのアルロースを添加すると、アルロースを含まない同じ食事と比較して、食後高血糖の上昇幅を26~28%抑えられることが判明しています出典[8]。
血糖値の急上昇はインスリンの分泌を促し、肝臓や筋肉へのグリコーゲンの蓄積や、体脂肪の合成を促します。十分な運動習慣がない方では合成と消費のバランスが取れず、体脂肪が増えてしまうでしょう。
また高血糖状態が続くと血管がダメージを受けるため、動脈硬化のリスクも高まります。さらにはインスリンの消費しすぎでインスリン抵抗性や分泌不全が生じ、糖尿病の原因にもなるなど、血糖値スパイクの体への悪影響は計り知れません。
血糖値のコントロールには、食事管理や適度な運動が重要です。あわせてアルロースを摂ることで、血糖値スパイクを予防する効果がより期待できるでしょう。
血中脂質の改善
アルロースは肝臓に作用してグリコーゲンの合成を促すことに加え、肝臓での脂肪生成を抑え、中性脂肪や有利脂肪酸を減らすように働く可能性が指摘されています。
2018年に韓国の慶北国立大学から発表された論文では、ラットに高脂肪食を与えた場合と、高脂肪食中の砂糖をアルロースに置き換えて与えた場合とで、血中脂質に次のような差が見られています出典[9]。
高脂肪食 | 高脂肪食+アルロース | |
中性脂肪(mmol/L) | 0.98 | 0.78 |
総コレステロール(mmol/L) | 5.29 | 4.81 |
nonHDL-C(mmol/L) | 3.79 | 3.10 |
HDL-C(mmol/L) | 1.62 | 1.75 |
中性脂肪や総コレステロール、nonHDL-Cは低下し、善玉と呼ばれるHDLコレステロール値には増加が見られ、全体として血中脂質のバランスが改善されたことがわかります。
また肝臓の中性脂肪や遊離脂肪酸の量もアルロースの摂取で減少が見られており、肝臓での脂肪生成が抑えられていることが推測できるでしょう。
中性脂肪やコレステロールの増加は血液をドロドロにして動脈硬化を進展させ、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めます。サラサラの健康な血液を保つため、アルロースの摂取が役立つかもしれません。
抗酸化作用や抗炎症作用
アルロースには抗酸化作用や抗炎症作用も確認されています。
私たちが代謝や呼吸によりエネルギーを生成する過程で生じる物質が「活性酸素」です。過剰な活性酸素は細胞にダメージを与え、病気や老化の原因となります。活性酸素による酸化ストレスは炎症の引き金にもなるため、体へのダメージもさらに増えるでしょう。
アルロースはグルコースやフルクトースよりも、活性酸素の働きを抑える効果が高いことが判明しています出典[10]。肌や髪、血管へのダメージを抑えるほか、加齢にともなう眼疾患のようなさまざまな病気のリスクを減らす効果も期待できるでしょう。
さらにアルロースの一部は腸内細菌により発酵され、炎症症状を軽減するように働く可能性も指摘されています。
たとえば2021年に名古屋大学から発表された論文では、ラットへのアルロース補給により、高脂肪食による炎症性サイトカインTNF-αの増加を約4割抑える効果が確認されました出典[11]。
また血中脂質の改善が認められたラットの試験においても、高脂肪食により3倍近くまで増加するIL-1βやIL-6、TNF-αを、アルロースの摂取で通常食とほぼ変わらない濃度まで抑えることに成功しています%%出典9%%%%。
過剰な酸化や炎症を抑えることで、体を健康で若々しい状態に保ちやすくなるでしょう。優秀な抗酸化物質のひとつとして、アルロースの摂取を意識してみる価値はありそうです。
アルロースの摂り方のポイント
アルロースはカロリーのほぼない甘味料であることに加え、さまざまな生理活性を持つことが判明しています。
大量生産によりアルロースの入手も容易になったため、私たちもアルロースを日常の食事に取り入れることができるでしょう。
ここからは、実際にアルロースを摂る際のポイントについて解説します。
体重あたり0.4gまでを目安に
アルロースの過剰摂取による影響は、2018年に韓国の慶北国立大学でおこなわれた臨床試験で確認されています。
アルロースの摂取量を0.1g/kgずつ増加させたところ、0.4g/kgまでの容量では重度の下痢や消化器症状は確認できませんでした。一方で、0.5g/kg以上では重度の下痢症状が生じるほか、1.0g/kgまで増やすと下痢に加え、重度の吐き気や腹痛、頭痛、食欲不振も発生する可能性があるようです出典[12]。
また、アルロースの多量摂取が、腸のような粘膜組織や感染時の浸潤部位で、有害な細菌の増殖を引き起こす可能性も指摘されています出典[13]。
安全にアルロースを摂取できる量として、現時点では体重1kgあたり0.4gを目安とすべきでしょう。体重60kgの方であれば、1日24gまでと計算できますね。
ドリンクへ甘みをプラス
アルロースは水に溶けやすい甘味料のため、ドリンクへ甘みを足す際に混ぜると簡単に摂取できるでしょう。
コーヒーやココア、プロテインドリンク、レモネードなどの砂糖をアルロースへ置き換えれば、カロリーカットにも役立ちます。
ダイエットを目的とする場合には、コーラやサイダーのような清涼飲料水をやめて、炭酸水にアルロースや果汁を加えたものに置き換える方法もおすすめです。
ただし粉状のアルロースを添加すると炭酸ガスの泡が大量に発生する可能性があります。コップに炭酸水を注いだ状態で少量ずつ加えましょう。
料理への応用も
アルロースは肉じゃがやすき焼きなどのほか、お菓子作りにも使用しやすい希少糖です。砂糖の代用として使用すれば、大幅なカロリーカットが見込めるでしょう。
アルロースは砂糖に似た調理特性を持ちます。たとえば卵白のメレンゲや生クリームのホイップを安定化させたり、ジャムのゲル化を促したりする働きが確認されているようです出典[10]。
一方で、アルロースを含む食品の水結合能力は砂糖よりも低いため出典[14]、シロップやカラメルの作成がうまくいかない場合があるかもしれません。作成したお菓子の水分が蒸発しやすく、食感や味の変化が起こりやすい可能性に注意すべきでしょう。
また、アルロースは砂糖の70%の甘さです。10gの砂糖を要するレシピでは、同じ甘さを出すために約14.3gのアルロースが必要になります。
アルロースの摂取目安量を超えない範囲で、さまざまな料理に活用してみましょう。
アルロースは本当に安全?
アルロースは低カロリーかつ天然にも存在する希少糖ですが、その安全性について疑問に思う方も少なからずいるかもしれません。
現状、下痢や吐き気以外の影響は報告されておらず、1日0.4g/kgまでの摂取を守れば安全であると考えられています。ラットにおいては催奇形性(胎児の奇形)も確認されておらず出典[15]、18か月の継続摂取においても毒性は見られていません出典[16]。
一方で、同じく天然に存在する希少糖のエリスリトールは長年安全性の高い甘味料であると考えられてきました。しかし2023年にアメリカの研究にて、エリスリトールが血小板の葉反応性を高めて血栓の形成を促し、心血管疾患のリスクを高める可能性が指摘されたのです出典[17]。
また、清涼飲料水によく用いられるアセスルファムKやスクラロース、アスパルテームにも心血管疾患のリスクを高める可能性があります出典[18]。
アルロースは人工的な製造に成功してからわずか30年ほどの歴史の浅い甘味料です。ほかの甘味料においてリスクが判明しつつあることを踏まえると、アルロースが絶対に安全とは言い切れません。
アルロースに限らず、人工甘味料に依存しすぎる食事法は避けるべきです。安全性に関する情報を集めながら、適切な範囲で使用しましょう。
適量のアルロースで健康な身体を保とう!
アルロースはカロリーがほぼゼロの希少糖であり、砂糖の70%の甘さを持ちます。砂糖の代替品として使用すればカロリーカットにつながるほか、血糖値スパイクを抑えたり血中脂質を改善したりと、さまざまな健康効果が期待できるでしょう。
アルロースは水に溶けやすいため、ドリンクへの添加が最も手軽です。料理やお菓子への応用も可能ですが、砂糖よりも水との結合力が低いため、砂糖を用いた場合とは食感や味が変わる可能性がある点に注意が必要です。
現状、アルロースは体重1㎏あたり0.4gまでの摂取が、安全に摂取できる目安として考えられています。アルロースに依存しすぎる食生活は避け、適切な量での使用を心がけましょう。
出典
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