執筆者
上級睡眠健康指導士
室井 優作
(株)アルファメイルに入社後、食事や運動、睡眠の観点からヘルスケアについて学んでいます。お客様と対話をする中で特に睡眠の重要性を感じ、上級睡眠指導士を取得しました。寝ることは、食事や運動に比べ軽視されやすい傾向があります。身体的疲労の回復だけでなく、ホルモンバランスを整える時間帯でもあります。主に睡眠の観点から皆様のヘルスケアにお役立ちできるよう有益な情報をお届けしていきます。
ダイエットにおけるテストステロンの役割について
本記事をご覧いただいている方々は、現在ダイエット中の方が多いのではないでしょうか?
「憧れの引き締まった身体を手に入れたい、脂肪を落とすだけでなく筋肉をつけて男らしい身体になりたい」といった目的でダイエットをされている方もいるかと思います。
しかし、思った通りに痩せられない場合もあるのではないでしょうか?
そんな方は現状のダイエット方法と並行しつつ、「テストステロン」を意識した生活習慣を送ることがおすすめです。
なぜなら、テストステロンには以下の効果が確認されており、効率的な減量をサポートするためです。
- 筋肥大を促し代謝を向上させる
- 脂肪を燃焼する
- モチベーションの維持をサポートする
- ストレスによる過食を予防する
1.筋肥大を促し代謝を向上させる
テストステロンは筋たんぱく質を合成する作用があるため、筋肥大を促します。
実際の統計で252人の男性(18〜85歳)のテストステロン値を計測したところ、上位4分の1は上半身・下半身ともに除脂肪体重が多く脂肪量が少なく、逆に下位4分の1は除脂肪体重が少なく、脂肪量が多い傾向にあったと報告されています出典[1]。
つまり、テストステロンの筋肥大を促す効果で代謝が上昇し、より減量することが可能になるのです。
2.脂肪を燃焼する
実はテストステロン自体にも脂肪を燃焼する効果があります。なぜなら、脂肪燃焼作用のあるβアドレナリンという神経伝達物質を刺激し、脂肪の吸収を促すリポタンパク質リパーゼ (LDL) の働きを阻害する作用があるためです。
実際に、テストステロン欠乏症の男性は発症からの時間の経過に伴い、ウエストも増加する傾向にあることが報告されています出典[2]。
つまり、テストステロンが高い状態を保つことで、脂肪が燃えやすい体質の維持に繋がるのです。
3.モチベーションの維持をサポートする
目標の体型を手に入れるためには、食事制限や運動を行うことは重要ですが、それを継続するためのモチベーションを維持する必要もあります。
テストステロンは、モチベーションを高める効果があるため、ダイエッターの減量を後押しします。というのも、テストステロンはやる気や達成感を高める「ドーパミン」というホルモンを刺激するためです。
実際に、人を対象とした臨床試験において、有用性が確認されています。肥満男性に対し、56週間の低カロリー食および運動プログラムを実施させたところ、プラセボグループよりもテストステロンを高めた被験者の方がプログラムを完遂する傾向にあったことが確認されています出典[3]。
4.ストレスによる過食を予防する
むしゃくしゃした際に、ストレスを発散しようと甘いお菓子やファストフード等をやけ食いしてしまったことはありませんか?そして翌日、体重計に乗ると後悔してしまう…。
このような経験は誰しもあるでしょう。実際にストレスを感じている人ほど、間食にチョコレートやクッキーなどの高カロリーなものを食べてしまう傾向にあると分かっています出典[4]。
そもそも、ストレスを感じている状態とは、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌されている状況を指します。テストステロンはコルチゾールの合成を抑える働きが確認されているのです。
コルチゾールの生成には、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)と呼ばれる伝達経路が関与しています。テストステロンは、下垂体から分泌されるコルチゾールの生成を促進するホルモン(ACTH)の働きを抑制することが確認されています出典[5]。
実際に臨床試験においてテストステロンが低い男性ほど、うつ症状が現れる傾向にあったことが確認されています出典[6]。
これらのことから、ストレスによる食べ過ぎを予防する方法として、テストステロンを減少させないことが求められるのです。
テストステロンには、代謝の向上や脂肪燃焼、モチベーションの向上、ストレスによる過食の予防などダイエッターにとって魅力的な効果があると言えます。
しかし、意外にも減量との関係性を理解している方は多くはありません。それどころか、減量するために努力している習慣が、実はテストステロンを減少させてしまっているケースも十分に考えられます。
そもそも、テストステロンはどのような環境下で減少してしまうのでしょうか?
減少要因を理解するために、最後にテストステロンの合成経路を見ていきましょう。
多くのホルモンの合成は脳(脳下垂体)から始まります。脳下垂体内で分泌される黄体形成ホルモンが、精巣にあるライディッヒ細胞へテストステロンを合成するよう指令を出します。指令を受けたライディッヒ細胞は、コレステロールをもとにテストステロンに変換しています。
上記の流れがテストステロンの合成経路です。この合成経路がネガティブな影響を受けた場合はテストステロンの減少に繋がってしまいます。
では、具体的にテストステロンの合成を妨げる行為とは、どのようなものなのでしょうか。
特にダイエッターが陥りがちな行為のみ厳選したので参考にしていただけると幸いです。
ダイエッターがやりがちなテストステロンを減少させる行為6選
それでは早速、ダイエット中の方が陥りがちなテストステロンを減少させる6つの行為を紹介していきます。ご自身の習慣に当てはまっているものがないか確認し、理想の体型に近づくために役立てていただければ幸いです。
1.過度な脂質の制限
脂質は糖質や炭水化物に比べ約2倍ものカロリーがあるため、揚げ物やピザ、クリームを使用したデザートなど脂質が多い料理を避けている方も多いかと思います。
しかし、過度な脂質制限はテストステロンの減少に繋がる可能性があります。なぜなら、テストステロンは脂質(コレステロール)を原料として合成されているためです。
実際に、206人の被験者を対象にした複数の論文を解析したところ、高脂肪食(脂肪40%)を与えた後、低脂肪食(脂肪20%)に切り替えた際、テストステロン値が平均10〜15%減少したことが確認されています。またベジタリアンかつ低脂肪食の場合は、最大26%も減少していたことが分かっています出典[7]。
つまり、脂質はテストステロンの合成に必須の栄養と言えるのです。では、脂質であればどんな油でも摂取しても良いのでしょうか?
もちろん唐揚げやポテトチップス、シュークリーム等の料理から摂取することは良くありません。なぜなら、これらの食材に利用されるトランス脂肪酸は酸化ストレスを上昇させ身体の炎症を引き起こし、結果的にテストステロンを減少させてしまうのです。
209人の男性を対象とした臨床試験では、トランス脂肪酸を最も摂取した被験者は、最も摂取していない被験者と比べ、テストステロン値が15%も減少していたことが分かっています出典[8]。
テストステロンの合成に適した脂質として、青魚に豊富なオメガ3(DHA・EPA)やオリーブオイルに多く含まれるオメガ6(リノール酸・アラキドン酸)がおすすめです。抗酸化作用が高く酸化ストレスによる身体の炎症を抑制してくれるのです。
複数の論文(被験者:1,679人の若い男性)を解析した結果、オメガ3を摂取している男性ほど、遊離テストステロンが高いことが明らかにされています出典[9]。
また、臨床試験において10人の男性被験者に対し6gのオメガ6(リノール酸)を摂取させたところ、総テストステロン値が大幅に増加していたことが分かっています出典[10]。
とはいえ、脂質はカロリーが高く体重の増加に繋がるため過度な摂取は避けたいところです。たんぱく質・脂質・炭水化物のバランス(PFCバランス)を考慮して摂取することがおすすめです。
2.砂糖の多い清涼飲料水
砂糖を含む甘い飲み物もテストステロンを減少させてしまうリスクがあります。
ダイエット中、砂糖が多く使用されたジュースを積極的に飲む方は少ないでしょう。しかし、砂糖はジュース以外にも含まれています。
例えば、スポーツドリンク。運動後、飲まれている方が多いのではないでしょうか?
スポーツドリンクは500mlあたりに角砂糖5〜8個相当が含まれています。実は砂糖を控えているつもりでも、意外と摂取している場合があるのです。
スポーツドリンクのような砂糖を含む飲み物を大量に摂取した場合、テストステロンが下がる可能性があります。
なぜ、砂糖でテストステロンが減少してしまうのかを簡単に説明させて頂きます。
過剰な砂糖を摂取した場合、血糖値が急激に上昇し高血糖状態となります。その際に血中の糖がタンパク質と結合しAGEsという化合物が産生されます。このAGEsは酸化ストレスを増加させるため、細胞などの炎症を引き起こしてしまうのです。
動物実験において、ラットのライディッヒ細胞に対しAGEsを投与したところ、ライディッヒ細胞の酸化ストレスは有意に増加し、テストステロンの合成が抑制されたことが分かっています出典[11]。
また、糖分の中でもスポーツドリンクによく使用される「単糖・二糖」は、白米や麺類などの炭水化物に含まれる「多糖」よりも、シンプルな分子構造であるためすぐに吸収されます。
そのため、大量に摂取した場合は急激な血糖値の上昇に繋がりやすく、AGEsを産生しテストステロンを減少させる可能性があるのです。
実際に臨床試験において、単糖を摂取する被験者の方がテストステロン値が低いことが確認されています出典[12]。
また、74人の男性被験者に、血糖値の急上昇を引き起こす単糖(ブドウ糖)75gを含んだ飲料を摂取させ、血中のテストステロン濃度を測定したところ、25%もテストステロンが減少していたことが確認されています。しかも、この状態は2時間以上継続したことも報告されています出典[13]。
上記のことから、砂糖を過剰に摂取してしまうと血糖値が急激に上昇した結果、テストステロンが減少してしまう可能性があるのです。
WHOによると、一日の砂糖摂取量は摂取カロリーの10%未満に留めることが推奨されています。これは1日25g(角材糖約8個分)に相当します。以下の食品を参考に現在の食生活を見直してみましょう。
【砂糖が豊富な食品の角砂糖量】
- スポーツドリンク500ml:約8個
- 微糖缶コーヒー190ml:約3個
- コーラ500ml:約17個
- オレンジジュース500ml:約12個
- 野菜ジュース(野菜100%)200ml:約3個
- ヤクルト80ml:約4個
- ショートケーキ100g:約8個
- アイスクリーム100g:約6個
- 板チョコ50g:約5個
3.人口甘味料を使用した飲料
人工甘味料は、運動している方に支持されているプロテイン、EAAなどのスポーツサプリメントにも使用されています。
上記の製品に使用されていることから、砂糖よりは健康的に考えるかもしれません。しかし、人口甘味料もテストステロンの減少に繋がるリスクがあるのです。
ラットを対象とした動物実験において、人工甘味料のアスパルテームがテストステロンを減少させることが分かっています。
アスパルテームを摂取したラットは、テストステロンを合成するライディッヒ細胞が傷ついていたことが報告されています。これは、細胞を修復するHSP70というタンパク質の一種が、アステルパームによって減少したためと考えられています出典[14]。
人工甘味料が含まれるゼロカロリー飲料は、美味しく摂取カロリーを抑えられるため、一見最適な飲み物と思われるかもしれません。しかし、テストステロンが減少する可能性があるため、積極的に飲むのは避けたいですね。
とはいえ、筋肉量を増やしつつ痩せたい方にとって、プロテインやEAAなどスポーツサプリメントの摂取は重要です。
その場合は、ステビアと呼ばれる天然の甘味料を使用した製品を選ぶと良いでしょう。ステビアは砂糖の50〜300倍の甘さを持つと言われ、カロリー少ない点からおすすめです。
4.プラスチック容器に食材を入れたまま加熱
誰もが行うプラスチック容器に入った食材を電子レンジでチンすることが、テストステロンを減少させる可能性があるのです。
プラスチック容器に含まれる化学物質ビスフェノールA(BPA)が、テストステロンを代謝し女性ホルモンのエストロゲンに変換するきっかけを作るのです。
このメカニズムが少し複雑なため、より詳しくお話させていただきます。
まず、BPAは脂肪細胞を炎症させ分解できない状態にすることが分かっています。その結果、脂肪細胞の蓄積が進み、脂肪細胞から分泌されるアロマターゼという酵素も増加します。
アロマターゼはテストステロンをエストロゲンに変換する働きがあるため、結果的にBPAの摂取はテストステロンの減少に繋がるのです。
実際に、ラットにBPAを14日間摂取させた動物実験において、女性ホルモンの合成が活性化され、テストステロン値が減少したことが報告されています出典[15]。
ちなみに、厚生労働省によるとBPAは153℃以上で溶け出すことが確認されています出典[16]。電子レンジ等でプラスチック容器を加熱する際は注意しましょう。
また、BPAはプラスチック容器だけでなく、缶詰やラップなどにも使用されています。
摂取カロリーを計算するために自炊をしている方にとって、全てのBPA配合製品の使用を避けることは難しいでしょう。対策としてガラスや陶器、木製などのBPAが含まれていない容器やBPAフリーと記載された製品の使用がおすすめです。
5.大豆製品の食べ過ぎ
高タンパクかつエネルギーに変換されるビタミンB群が豊富な大豆製品は、優れた減量食材と言えます。実際に豆腐やソイプロテインなどを意識的に食べている方もいるのではないでしょうか?
そんなダイエッターに人気の大豆製品ですが、過度に食べすぎるとテストステロンを減少させてしまうリスクがあります。
なぜなら、大豆に豊富に含まれるイソフラボンがテストステロンを女性ホルモンのエストロゲンに変換してしまうためです。
変換されるまでのいくつかの過程を踏むため、少し説明させていただきます。
まず、イソフラボンは体内でゲニステインと呼ばれる代謝物に変換されます。ゲニステインは過度に摂取することで脂肪細胞を増加させることが確認されています。
その後、前項でも説明したように脂肪細胞からアロマターゼという酵素が分泌され、テストステロンを代謝し女性ホルモンのエストロゲンに変換してしまうのです。
実際に、ラットに高用量のイソフラボンを摂取させたところ、テストステロンが大幅に減少したことが確認されています出典[16]。
ここまでの説明で「高用量のイソフラボンとは、どれくらい?」と考えた方もいるのではないでしょうか?
食品安全委員会によると、イソフラボンは75mgを超えなければ継続摂取しても問題ないと報告しています出典[17]。例えば、豆腐であれば一丁弱、納豆であれば2パック、ソイプロテインであれば1杯までなら問題ありません。
低用量であれば、イソフラボンは減量に有効と報告するデータもあるため、過度に摂取しなければダイエットに優秀な食材と言えます。定期的に大豆製品を食べている方は、食べ過ぎにだけは注意しましょう。
6.睡眠不足
最後に紹介するのが、睡眠不足です。
ここまで紹介してきた4つの行動を注意しても、睡眠時間が足りていない場合は大幅にテストステロンが下がってしまうでしょう。
というのも、テストステロンの合成は、睡眠中に活発になるためです。
実際にテストステロンは、下記のグラフの通り昼夜問わず睡眠中に分泌量がピークになることが分かっています。
【出典[18]から引用】
このことから、睡眠がテストステロンにとって重要なのことは、理解いただけたかと思います。では、最適な睡眠時間はどれくらいなのでしょうか?
結論から言うと、8時間睡眠が最もテストステロン値を最大化させます。下記のグラフで確認できる通り、8〜9時間未満寝た被験者の遊離テストステロン量が最大になっています。
【出典[19]から引用】
また、他の臨床試験において、一週間、5時間睡眠を続けたグループと8時間睡眠を続けたグループではテストステロン値が10〜15%も差があることが報告されています。
ちなみに、睡眠不足になると食欲も増加してしまうことが分かっています。空腹感を強める「グレリン」が増加し、満腹感を調整する「レプチン」が減少してしまうためです。
また、睡眠不足の状態では、スナック菓子や精糖入りの飲料などの高カロリー食を好む傾向にあることが分かっています。
夜更かしをした際に、ついついジャンクフードを食べてしまうのは、ホルモンバランスの乱れが原因なのです。
睡眠不足は、過度な摂取カロリーやテストステロンの減少にも繋がってしまうリスクもあるので、十分な睡眠時間を確保するよう意識しましょう。
【まとめ】テストステロンは男性のQoLを最適化する
本記事では、ダイエットの成功におけるテストステロンの重要性と減少行為を6つ紹介しました。テストステロンを最適化し効率的な減量に繋げていきましょう。
実は、海外のダイエッターにとって食事制限や運動だけでなく、テストステロンを最適化することは一般的なものとして認識されつつあります。
ボディメイクのためにプロテインやEAAなどのスポーツニュートリションを摂取している方もいるかと思いますが、栄養学先進国である海外ではそれらに加えて「テストステロンブースター」というサプリメントも支持されています。天然由来の安全性の高い素材を採用したブースターも増えてきた事から、近年は日本でも注目が集まりつつあります。
今回はテストステロンとダイエットの関係性について解説をしてきましたが、テストステロンはモテホルモンとも呼ばれる男性ホルモンです。ダイエットの効率への影響だけでなく、積極性や男性機能、集中力や認知力、ストレス耐性や活力など男性としての魅力の源といっても過言ではない存在です。
ダイエットやボディメイク、筋トレだけではなく、男性としてのQoL(生活の質)の向上を目的に少しでもテストステロンを意識頂ければ幸いです。
出典
LINEで専門家に無料相談
365日専門家が男性の気になる疑問解決します