執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
プロテインが妊活にもたらすメリット2選
世界の不妊問題の40%が男性に由来するものといわれる昨今出典[1]、女性のみならず、男性も妊活のため、食事を含めたあらゆる生活習慣に注意したいものです。
プロテインは飲み方次第で、妊活男性にメリットをもたらす可能性があります。まずは妊活男性がプロテインに期待できる効果について2つ解説しましょう。
たんぱく質不足を解消してテストステロンや精子の合成をサポート
たんぱく質が不足すると、生殖能力に重要な精子を作る機能や、性欲を高めるためのホルモンを分泌する能力が低下する可能性があります。
生殖能力に関わるホルモンといえば、男性ホルモンのテストステロン。精巣に作用して精子を作るように促すようにも機能するため、性欲や性機能の維持にはテストステロンが非常に重要です。
たんぱく質の不足とテストステロンとの関係について調査した論文では、複数の動物実験の分析により、低たんぱく質食の摂取で次のような変化が見られたことが判明しています。
【低たんぱく質によるラットの生殖機能への影響出典[1]】
低下率の平均値 | |
血清テストステロン | 約0.37ng/mL |
黄体形成ホルモン(LH) | 約1.98ng/mL |
卵胞刺激ホルモン(FSH) | 約58.78ng/mL |
精巣重量(g) | 約0.34g |
LHには精巣に作用してテストステロンの分泌を促す効果が、FSHにはテストステロンとともに精巣に作用して精子の製造を促す効果が、それぞれ確認されています。生殖機能に関わる複数のホルモンが、たんぱく質の不足により減少していることが確認できるでしょう。
また、ラットの日齢による比較では、カロリーとたんぱく質の制限によるテストステロンの減少量が60日齢の約10.8%に対し、120日齢では約16.3%とより多く見られたこともわかっています出典[2]。
年齢を重ねた方ほど、たんぱく質の不足により注意すべきと言えそうです。手軽に飲めるプロテインを取り入れて、生殖機能の低下を防ぎましょう。
運動と組み合わせた減量効果で性機能や性欲を高める
筋力トレーニングのサポートとしてプロテインを飲まれている方も多いことでしょう。プロテインと運動の組み合わせは妊活においても効果的です。
筋肥大の効率化により基礎代謝が上がり、消費エネルギーが増えやすくなるため、痩せやすい体を作る効果が期待できるでしょう。
またたんぱく質の摂取は食欲のコントロールにも役立ちます。
食欲を増加させるホルモン「グレリン」の分泌量を減らし、食欲を抑制させる「コレシストキニン」や「GLP-1」を増やすように働くため出典[3]、食べ過ぎによる肥満のリスクを抑えるために役立ちそうですね。
肥満と性機能の低下とは密接な関連があります。
たとえば肥満にともない増加する脂肪組織が炎症を起こすと、炎症性サイトカインや、テストステロンを女性ホルモンのエストラジオールに変換する「アロマターゼ」が分泌されるため出典[4]、テストステロンの落ち込みにつながると考えられています。
また肥満は精子数や精液量、精子濃度、精子の運動性などを損なうこともわかっています出典[5]。たとえば不妊男性218名の肥満状態と精子の状態を調べた論文では、BMI30以上の肥満の方はそうでない方に比べて、正常な精子の形態が約19.5%低下したとの結果が得られました出典[6]。
精子の質は妊娠率に大きくかかわるため、肥満の解消はとくに重要と言えるでしょう。
プロテインのみの補給でも食欲のコントロールに役立ちますが、運動と組み合わせることでより高い減量効果が期待できます。生殖能力全般の向上をはかりたい場合にはぜひ取り入れてみましょう。
プロテイン摂取によるデメリット3選
たんぱく質の摂取は、このようにテストステロンの分泌量や精巣の機能を維持したりするために重要であるようです。手軽なたんぱく質補給の手段として、プロテインを活用する意義はあると言えそうですね。
一方でプロテインの摂りすぎは生殖機能に悪影響をもたらす場合があるようです。プロテインの摂取によるデメリットについて詳しく確認しましょう。
摂りすぎは精子やテストステロンに悪影響
たんぱく質は、不足しても過剰であってもテストステロンに悪影響を及ぼすようです。
たんぱく質の摂取量とテストステロンの関係を調べた論文では、1日に3.4g/kgより多い摂取を続けた研究3例において、テストステロンの減少が確認されています出典[7]。
たんぱく質の摂りすぎにより、テストステロンの合成を抑えるホルモン「コルチゾール」や、たんぱく質の代謝物であり酸化ストレスとして作用する「アンモニア」が増加することが、テストステロン減少の原因と考えられているようです。
コルチゾールとテストステロンの関係については、2022年にイギリスのウスター大学から発表された論文でも確認されています。
摂取カロリー全体に占めるたんぱく質の割合が35%を超えるような極端な高たんぱく質食を3週間継続することで、コルチゾールが大幅に増加し、テストステロンが約5.23nmol/Lまで低下したのです出典[8]。
さらに2019年にデンマークの不妊治療クリニックから発表された論文では、不妊治療中の男性20名がたんぱく質サプリメントの摂取を控えることで精子濃度が2.6倍、総精子数が2.1倍に増加したと報告されています出典[9]。たんぱく質の多すぎる食事は精子を作る機能にも悪影響を与えていると考えられるでしょう。
妊活目的でのプロテイン摂取は、あくまで不足を補うためのもの。摂れば摂るほどよい影響をもたらすものではないため、摂りすぎには注意が必要ですね。
腸内環境の悪化でEDのリスクが高まる
自然妊娠をスムーズにおこなうためには勃起力を良好に保つことが重要。しかしプロテインからたんぱく質を過剰に摂りすぎると、腸内環境が悪化して勃起不全(ED)のリスクが高まる可能性があるのです。
たんぱく質は悪玉菌のエサとして機能し、腸内の悪玉菌を増やして善玉菌の増殖を抑えるように働いてしまいます。
EDの原因のひとつである炎症反応や肥満は腸内環境の悪化により生じやすいこともわかっているため出典[10]出典[11]。悪玉菌を増やしやすいたんぱく質の摂りすぎには十分注意しなければいけませんね。
また、プロテインドリンクには飲みやすさの向上とカロリー削減のため、人工甘味料が添加されているものもあります。しかし人工甘味料の多量摂取も、腸内環境への影響を考える際には控えるべきでしょう。
2019年にスペインのグラナダ大学から発表された論文においては、スクラロースやサッカリンなどの人工甘味料を動物が摂取した場合、腸内細菌叢が変化したり腸内に炎症を生じたりする場合があると述べられています出典[12]。
このように、たんぱく質や人工甘味料の摂りすぎも生殖機能に悪影響を及ぼす場合があります。勃起力を維持するためにも、プロテインの量や種類には十分注意すべきでしょう。
ソイプロテインがテストステロンを下げる可能性
プロテインのなかでも、ソイプロテインは安価で継続しやすいため、好んで飲んでいる方もいるのではないでしょうか。しかし妊活中の男性がソイプロテインを飲む場合、摂取量に注意する必要があるかもしれません。
ソイプロテインには大豆由来のイソフラボンが含まれます。男性においてイソフラボンの摂取量が増えると、テストステロンが減少する可能性が指摘されているのです。
テストステロンとイソフラボンの関係について調査した論文では、イソフラボンを1日100mg以上摂取した8件の研究のうち、次の2件にテストステロンの減少が見られています出典[13]。
【イソフラボンの摂取によりテストステロンの減少が見られたケース】
2003年、イギリスの論文出典[14] | 2008年、アメリカの論文出典[15] | |
対象者 | 男性20名 | 男性20名 |
イソフラボン摂取状況 | 120mg/日、6週間 | 141mg/日、12か月間 |
テストステロン減少量 | 約5.7% (総テストステロン) | 約5.8% (遊離テストステロン) |
とくに遊離テストステロンは、性機能や性欲の向上などをもたらす活性の高い重要物質。イソフラボンの摂りすぎで遊離テストステロンが減少すれば、性欲や性機能も低下し、妊活に悪影響をもたらす可能性も考えられるでしょう。
残りの8例中6例ではテストステロンの低下が見られていません。そのためイソフラボンの摂取が必ずしもテストステロンを下げるとは言い切れませんが、摂りすぎはやはり控えたほうがよさそうですね。
妊活中のプロテインの安全な摂り方とは?
妊活中のプロテインにはメリットがある一方で、摂り方を誤ると生殖能力に悪影響をもたらす可能性もあることがわかりました。では妊活中にプロテインを摂りたい場合には、どのような点に気を付けるべきなのでしょう。
ここからは妊活中の男性がプロテインを安全かつ効果的に摂る方法について解説します。
1日のたんぱく質摂取量を3.4g/kg以下に抑える
プロテインによるたんぱく質の摂りすぎは、テストステロンの分泌能力や精子の質を損なうほか、腸内環境の悪化によりEDのリスクにもつながることがわかりました。
明らかに「摂りすぎ」と判断できる量については、テストステロンの低下が見られた次の量を参考にするとよいでしょう。
- 体重1kgあたりのたんぱく質が3.4g以上
- 総摂取エネルギーに対するたんぱく質の割合が35%より多い
【体重70kg、総摂取エネルギー2,700kcalの男性における「過剰」なたんぱく質量】
たんぱく質 | 計算式 | |
体重あたり3.4g | 238g | 70(kg)×3.4(g) |
たんぱく質の割合が35% | 236g | 2700(kcal)×35/100(%) ÷4(kcal/g) |
ちなみに、高たんぱく低脂質で知られる春獲りのカツオのたんぱく質量が100gあたり25.8gです出典[16]。約240gを達成するためには1日あたり約930gのカツオが必要と計算できることからも、この量がいかに多いかがわかるのではないでしょうか。
普通の食生活ではこの量のたんぱく質を取り続けることはまずありません。
しかしプロテインドリンクでは多いもので1杯あたり約20gものたんぱく質を含みます。5杯飲めばたんぱく質の追加摂取は100gに及ぶことも。ボディビルダーのようなアスリートでない限り、プロテインは1日1~2杯に留めておいた方がよさそうですね。
なお、1日に1.25~3.4g/kgのたんぱく質摂取や、たんぱく質の割合が35%を下回る食事では、テストステロンの減少は見られなかったと報告されています出典[7]出典[8]。そのため妊活中も、この範囲でのたんぱく質摂取を意識するとよいでしょう。
ソイプロテインは1日1杯まで
イソフラボンの摂りすぎを防ぐため、ソイプロテインをメインに使用している方は量をさらに調整する必要があるかもしれません。
イソフラボンの摂取によるテストステロンの減少を確認した論文では、大豆食品を習慣的に摂るアジア人を想定し、75mg/日までであればイソフラボンによるテストステロンの減少リスクが少ないと説明しています出典[13]
国立健康・栄養研究所情報センターによる調査では、市販の大豆プロテイン1食分(20g)には23~44mgのイソフラボンが含まれているようです出典[17]。ソイプロテインを取り入れる場合には、ほかの大豆食品からのイソフラボン摂取も考慮に入れ、1日1杯までに留めておくとよいでしょう。
なお、やや古いデータにはなりますが、大豆製品のイソフラボン含有量は厚生労働省より次のように示されています。
【食品中100gあたりのイソフラボン含有量(厚生科学研究(生活安全総合研究事業)食品中の植物エストロゲンに関する調査研究(1998)より出典[17]】
食品 | 平均含有量(mg/100g) |
きな粉 | 266.2 |
大豆 | 140.4 |
納豆 | 73.5 |
煮大豆 | 72.1 |
味噌 | 49.7 |
油揚げ | 39.2 |
豆乳 | 24.8 |
豆腐 | 20.3 |
おから | 10.5 |
しょうゆ | 0.9 |
きなこ10gでは約26.6mg、納豆1パック(40g)では約29.4mg、豆乳200mLでは約49.6mgのイソフラボンの摂取が想定されます。
毎日の納豆や豆乳の摂取が習慣化している方、ヨーグルトや食パンのトッピングにきなこをよく使用する方などは、より一層ソイプロテインの活用に注意した方がよいでしょう。
甘すぎるプロテインに要注意
砂糖や人工甘味料を用いたプロテインは飲みやすいものですが、妊活を考える男性が飲む際には甘すぎるものは避けるべきでしょう。
砂糖を多く含むプロテインは運動後のエネルギーチャージに役立つものの、運動を伴わない場合にはカロリーの摂りすぎにつながり肥満の原因となることも。また砂糖は血糖値を急激に上げるため、血糖値スパイクによる酸化ストレスが精巣を傷付けてしまう場合もあるようです。
肥満や血糖値スパイクによるテストステロンの分泌能力や精子の質を落とさないためにも、砂糖の摂りすぎには注意しましょう。
また、カロリーを増やさず血糖値を上げない、アスパルテームやアセスルファムKなどの人工甘味料の過度な使用にも注意すべきです。腸内環境の悪化につながる可能性があるほか、動物実験では次のような影響も確認されています。
【ラットのアスパルテーム摂取による生殖機能への影響出典[18]】
低用量 (40mg/kg) | 中用量 (80mg/kg) | 高用量 (160mg/kg) | |
テストステロン濃度 | 約4%↓ | 約10%↓ | 約26%↓ |
精子数 | 約9%↓ | 約21%↓ | 約46%↓ |
精子の運動率 | 約3%↓ | 約11%↓ | 約23%↓ |
精子生存率 | 約3%↓ | 約10%↓ | 約17%↓ |
DNA損傷精子割合 | 約2%↑ | 約6%↑ | 約14%↑ |
このように砂糖や人工甘味料の大量摂取には、生殖機能を低下させる危険性が伴うようです。プロテインを飲む際には砂糖や人工甘味料の少ない、甘さ控えめのものを選びましょう。
筋トレと組み合わせた摂取が効果的
テストステロンや性機能の維持にプロテインを役立てたい場合には、やはり運動と組み合わせる方法がおすすめです。運動による筋肉量や基礎代謝の増加を効率化し、肥満を防止する効果が期待できるでしょう。
運動後は筋肉の合成効率が最も高まるタイミング。プロテインを取り入れて筋肉量を増やし、テストステロンの増加や肥満の解消に役立てましょう。
また、筋力トレーニングのようなレジスタンス運動は、体内の炎症や酸化ストレスの軽減に役立ちます。精巣の保護により精子DNAの損傷を改善したり、精液の質を高めたりする効果があることも確認されているのです出典[19]。
精子濃度を改善させるためには、ウエイトトレーニングや屋外運動が効果的であることもわかっています出典[20]。妊活中にはぜひ運動メニューに取り入れておきたいところですね。
さらにEDの改善には、中~高強度の有酸素運動が有効であるとも複数の研究で述べられています出典[21]出典[22]。
目的に応じた運動を、プロテイン摂取とともにぜひ無理のない範囲で取り入れましょう。
合わせて読みたい:精子を増やす手順4STEP|論文を基に徹底解説
まとめ
プロテインはたんぱく質摂取が不足しがちな男性や、運動によるダイエット効果を期待したい男性におすすめです。妊活男性においてもたんぱく質の不足や肥満を解消することで、テストステロンを維持したり、精子の状態を改善したりする効果が期待できるでしょう。
一方でたんぱく質の摂りすぎはテストステロンの低下や腸内環境の悪化につながります。またたんぱく質以外にも、ソイプロテインからのイソフラボンの摂取や、甘いプロテインからの砂糖や人工甘味料の摂取にも問題が見られます。テストステロンの分泌能力や精子の製造能力を維持するため、プロテインの量や種類には十分注意すべきでしょう。
プロテインによるメリットを得るためには、やはり運動との組み合わせが効果的です。運動後のプロテイン補給で筋肉量を効率よく増やし、妊活のサポートに役立てましょう。
出典
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