イソロイシンとは?4つの効果と適切な摂取方法
2023年11月21日更新

執筆者

管理栄養士

西村 俊司

給食施設や食品メーカーなどを経て、現在は老人福祉施設で栄養士として勤務。専門学校卒業後18年のブランクを経て、管理栄養士国家試験に初挑戦し、一発合格。食のプロフェッショナルとしての知識と経験を生かしながら、心も体も喜ぶ「食の提案」を多くの人に届けたいと思っている。家では妻と2人の子供との4人暮らし。食べることや料理を作ることが大好き。趣味は自転車とキャンプとDIYなオジサン。

イソロイシンとは

まずはイソロイシンの基本情報についてご紹介します。

1. どんな栄養素?

そもそも、アミノ酸とはどのようなものかご存知でしょうか?アミノ酸は、炭素・酸素・水素に加えて、窒素を含む化合物で、20種類確認されています。タンパク質はこの20種類のアミノ酸がいくつもつながってできています。

20種類のうち、ヒトの体で合成できるアミノ酸は11種類と言われています。そのため、残りの9種類は食事から摂取しなければいけません。この9種類を「必須アミノ酸」といいます。イソロイシンは、人の体内では合成できないため、必須アミノ酸に分類されています。

さらに、アミノ酸の分類はアミノ酸を構成する分子の構造によっても分類されます。アミノ酸は炭素原子を中心に、窒素をふくむアミノ基(NH2)、カルボキシル基(COOH)、水素原子(H)と側鎖(R)の4つで構成されていて、側鎖以外の3つは全てのアミノ酸で共通です。つまり、側鎖(R)の違いによってその性質が変わります。

イソロイシンの側鎖は炭素原子4個と水素原子9個で構成されています。化学式で表記すると途中で分枝ができるため、分枝鎖アミノ酸とも呼ばれます。イソロイシンの他に、「バリン」と「ロイシン」が分岐鎖アミノ酸に含まれます。この分枝鎖アミノ酸を英語表記すると「Branchea-Chain Amino Acids」と表記されます。多くのプロテインやアミノ酸配合のスポーツドリンクに含まれている「BCAA」は、この分岐鎖アミノ酸であるバリン・ロイシン・イソロイシンの総称なのです。

体内に吸収されたBCAAの多くは、筋肉組織のタンパク質の一部として貯蔵されます。筋肉タンパク質を構成するアミノ酸の30〜40%がBCAAとされています。BCAAは筋肉を作るアミノ酸ですが、活動時のエネルギー源にもなるアミノ酸です。

長時間の活動を続けて、筋肉中に蓄えられている糖である「グリコーゲン」が枯渇すると、次にアミノ酸であるBCAAや蓄積した脂肪などをエネルギー源として使います。長時間の運動をする際にBCAAの補給が進められているのはこのためです。BCAAを補給することで、筋肉中のBCAAの分解を抑制すると言われています。

 

2. 不足するとどんなリスクがある?

では、イソロイシンを含むBCAAが不足するとどんなリスクがあるのでしょうか?

一般的に健常な成人で、不足による健康被害の事例は少ないと言えます。ただし、先天性の病気である「メープルシロップ尿症」の患者は、BCAAを体内で代謝できないため、BCAAをほとんど含まない食事を摂る必要があります。海外の研究で、メープルシロップ尿症の患者に皮膚炎が多くみられているという結果から、著しいBCAAの低下により、皮膚の健康が損なわれると考えられています。

また、肝硬変や肝臓がんなどにより、肝臓の機能が低下している患者は、同じ必須アミノ酸の一つである「芳香族アミノ酸」(チロシン、フェニルアラニン)をうまく代謝できなくなるため、芳香族アミノ酸が体内に溜まっていきます。この「芳香族アミノ酸」と「BCAA」の体内バランスが崩れることで、肝性脳症という重篤な合併症を引き起こす恐れがあるとされています。そのため、肝臓に疾患のある患者にはBCAAを投与して、バランスを整える治療もされています。

 

3.どんな食材に含まれている?

イソロイシンはヒトの筋肉中に多く存在していますが、多くの動物の筋肉中にも同じようにイソロイシンが含まれていることがわかっています。そのため、畜肉や魚介類には多くのイソロイシンが含有されています。これらの畜肉や魚介はイソロイシン以外のアミノ酸も豊富に含まれており、タンパク質における必須アミノ酸の化学的な評価を示す「アミノ酸スコア」はほとんど満点の100点となっています。

アミノ酸はバランスよく摂取することで、吸収力も高くなります。以下にイソロイシンを多く含む食材をまとめています。これらは他のアミノ酸もバランスよく配合されているため、参考にしてください。

  • マグロ赤身/1200
  • 鶏ササミ/1200
  • 牛肉もも/1300
  • 豚肉ヒレ/1900
  • 鮭/1300
  • あじ/1400

(いずれも可食部100gあたり。単位mg)
 

イソロイシンに確認されている作用や効果

ここからは、イソロイシンに関する作用や効果を紹介します。

1.血糖値の調整

血糖値は、健康な生活を送るためにしっかりとコントロールする必要があります。近年は糖質を多く含む食事や嗜好飲料が手軽に手に入るため、血糖値が上がりやすく、厚生労働省の調査によると、日本において糖尿病、もしくは糖尿病が疑われる患者は1,100万人とされ、国民の10人に一人の割合となります。

これは世界でも同様で、国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の糖尿病人口は5.4億人とされ、今後さらに拡大していくと予想されています。

糖尿病そのものはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると失明や腎不全など、さまざまな合併症を招く恐れがある恐ろしい病、しっかりと予防することが大切です。

血糖値は「インスリン」というホルモンにより筋肉や臓器に血糖が取り込まれることで下がります。

日本で行われた研究では、イソロイシンはインスリンの働きを助け、血糖値を調整する働きがあることがわかってきました。また、イソロイシンはインスリンの働きと関係なく血液中の糖を筋肉や肝臓に取り込むという働きも確認されていて、今後はインスリンの分泌不足やインスリン抵抗により血糖値が下がりにくい糖尿病患者への効果についても研究が進むかもしれません。出典[1]

 

2.免疫のサポート

世界的な流行となった新型コロナウイルス。新しい生活様式など、コロナ禍で生まれたさまざまな仕組みに加えて、多くの人に「免疫力を高める」という意識が向上したのではないでしょうか?この免疫機能は、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの流行性の病に対しての耐性だけではなく、慢性的な疾患においても体の耐久力を高め、病にかかりにくい体にしてくれます。

特に、食物に加えて、多くの細菌が生存するヒトの腸管においては、免疫機能を高めることで、病気に罹患するリスクを減らしているのです。イソロイシンを含むBCAAの摂取は、この腸管での免疫力を高め、病気に罹患しにくくなるという効果が期待できます。出典[2]

海外で行われた動物実験では、イソロイシンを投与したラットは、投与していないラットに比べて、炎症性腸疾患のリスク因子が優位に低下したという研究が発表されています。

腸を元気にして、健康的な生活を送るためにも、イソロイシンは大切なアミノ酸なのです。

 

3.慢性疾患の予防

日本人の死亡原因の1位はがん(悪性新生物)、2位は心疾患、3位は脳血管疾患となっていて、この3つで日本人の死因の50%以上を占めています。そのため、これら3つを「日本人の3大疾病」などと呼ばれたりもします。いずれの病気も生活習慣などが原因の慢性疾患から発症するリスクが高い疾病であり、毎日の生活習慣の見直しが重要です。

生活習慣における見直しの一つは、やはり食事でしょう。イソロイシンを含むBCAAの摂取は、これら慢性疾患のリスクを減少させる効果があるかもしれません。
米国全国健康栄養調査(NHANES III)の参加者で18歳以上の成人14,397名の前向きコホート研究によると、食事由来のBCAA、特にイソロイシンの摂取量が多いほど癌や心臓血管疾患含む全ての原因による死亡リスクが低く、血中の中性脂肪値が高いヒトではさらに顕著となったという報告が発表されています。出典[3]

年齢とともに、生活習慣病のリスクは高まっていきます。食生活の見直しの際は、BCAAやイソロイシンについても気にしてみることをおすすめします。

 

4.体脂肪燃焼のサポート

美味しいものを食べると幸せになりますね。でも美味しいものの多くは高エネルギーで太りやすいもの。体脂肪はヒトにとって大切な貯蓄エネルギー源ですが、増えすぎた体脂肪は多くの生活習慣病のリスクにつながります。メタボリックシンドロームの診断基準の一つに「ウエスト周囲径」があり、男性で85cm、女性で90cmと定められています。ウエストサイズがこれ以上の方は要注意。食生活や運動習慣の見直しをすることをお勧めしますが、イソロイシンが脂肪の燃焼をサポートし、メタボリックシンドロームの改善に役立つかもしれません。

国内で行われた動物実験によると、高脂肪な食事を与えたマウスの一方のグループにイソロイシンを含む水を与えたところ、対象としたグループに比べて、体脂肪率および精巣上体の白色脂肪組織が49%減少したことが報告されています。さらに、イソロイシンを与えたグループでは骨格筋中の中性脂肪濃度低下やアディポネクチンと言われる善玉ホルモンの分泌増加など、対象群と比べて生活習慣病を予防する効果が見られたとされています。出典[4]

研究では、イソロイシン補給がメタボリックシンドロームの治療に役立つ可能性があると締めくくっています。メタボリックシンドロームおよび予備軍と呼ばれる人は日本に約1000万人と言われています。お腹周りが気になり始めた方にとって、イソロイシンは強力なサポーターかもしれませんね。
 

イソロイシンの摂取方法や注意点

最後にイソロイシンの摂取上の注意点についてご紹介します。

1.どのくらい摂取すればいい?

イソロイシンはアミノ酸の一つで、アミノ酸はタンパク質として摂取されます。そのため、まずは適切なタンパク質量を摂取することが必要です。

健常な生活を送っている成人にとってのタンパク質の推奨量は、1日に摂取するエネルギー量の13〜20%とされています。タンパク質は1gあたり4kcalですので、成人男性(1日のエネルギー消費量1800〜2000kcal)だと65g、成人女性(1日のエネルギー消費量1,500〜1,700kcal)だと50g程度が目安となります。もちろん、普段から運動する方や、仕事などで体を動かしている方は、より多くのタンパク質が必要です。

ただし、一部のアミノ酸だけを摂取することはお勧めできません。イソロイシンを含む必須アミノ酸は、厚生労働省がそれぞれの必要量を参考資料として提示していますが、一部のアミノ酸が多すぎても少なすぎても吸収阻害が起きるとされています。そのため、偏ることなくバランスよく9種類の必須アミノ酸を摂取する必要があります。

 

2.過剰摂取の心配はあるか?

では、過剰摂取の恐れはあるのでしょうか?イソロイシンはアミノ酸であり、タンパク質の一部であるため、通常の食事による過剰摂取は少ないと思われます。ただし、最近はBCAAを配合したサプリメントや清涼飲料水も数多く販売されています。

アミノ酸は他の必須アミノ酸や非必須アミノ酸の摂取バランスにより、吸収障害が起こる、「アミノ酸インバランス」が起こることもあります。BCAAは筋力トレーニングにも生活習慣病予防にも期待されているアミノ酸ですが、極端に摂取しすぎるとアミノ酸インバランスにより、せっかく摂取したBCAAだけではなく他の必須アミノ酸の吸収障害も引き起こす可能性があります。

まずは、普段の生活の中で良質なタンパク質を摂取しましょう。

 

3.理想の摂取方法やタイミングはあるか?

BCAAをサプリや清涼飲料水から摂取するのであれば、1日の中で時間を決めて摂取することをお勧めします。特に、食事からの吸収能力の高い早朝や、BCAAを消費しやすい運動の前後は、効率的にBCAAを吸収することができます。ボディメイクや生活習慣の改善を考えている方は意識的にBCAAを摂取しましょう。ただし、他の必須アミノ酸もバランスよく摂ることを心がけてくださいね。
 

まとめ

筋力向上に生活習慣病予防、イソロイシンにはまだまだ色々な可能性が秘められています。今後の研究に期待したいですね。

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