監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
はじめに
血流を良くするためには、血管と血液の状態を良好に保つ必要があります。血管・血液の状態をよりよいものにするために、食生活の改善は欠かせません。本記事では食事と血流の関係について知っていただけるような情報を提供します。その上で血流を改善するため、日々の生活に取り入れやすい食べ物や飲み物の選び方について紹介しています。
食事と血の巡りの密接な関係について
血流が良いとは血管を血液がスムーズに通り、酸素や栄養が体中に滞りなく行きわたる状態を指します。血液は日々摂取する食べ物や飲み物によって作られ、血管はその中を通る血液の影響を顕著に受けます。以下では血管や血液へ特に強く作用する栄養素を取り上げ、その効果について解説します。
奇跡の分子「NO」を増やす
血流を良くするために欠かせない要素が血管の柔軟性です。スムーズな血流を確保するためには、血流量の増加に応じて血管を柔軟に拡張させる必要があります。
私達の血管にある筋肉は平滑筋で構成されており、この平滑筋が収縮すれば血管も収縮し、平滑筋が弛緩すれば血管もまた拡張します。血管を拡張させるには、平滑筋をリラックスした状態にする必要があり、そのためのシグナルとして働くのがNO(一酸化炭素)という分子です。
アルギニンやシトルリンはNOを合成する役割を持つことで有名なアミノ酸です。一酸化窒素合成酵素を刺激し、体内のNO濃度を上昇させます。
また、野菜に豊富に含まれるNO3(硝酸塩)はアルギニンやシトルリンとは別経路でNOを合成します。具体的には、口の中の細菌や胃酸の作用により、NO3自体が体内でNOに変換します。アルギニン/シトルリン経路とNO3経路の2つの経路からNOにアプローチすることで効率的に血流を改善できる可能性が考えられます。
アルギニンは豆や肉類に、シトルリンはウリ科の植物、スイカやメロン、キュウリなどに、NO3はケールやほうれん草などの葉物野菜に、多く含まれます。血管を拡張し血流を良好にするため、不足なく摂取する必要があります。
抗酸化作用により血管を保護する
血管を良い状態に保つため、酸化を引き起こす攻撃因子:酸化ストレスを、血管が受けないようにすることも重要です。
過剰なエネルギー摂取や高脂質食を続けていると、体内でいわゆる悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが多量に生成されてしまいます。LDLコレステロールは酸化ストレスに晒されることで劣化し、酸化LDLへと変性します。コレステロールを運搬する機能を失った酸化LDLは、血管壁を傷付けて柔軟性を奪い、血管の拡張機能を低下させてしまうのです。
糖質や脂質の摂りすぎなど、偏った食生活により体内での発生量が増える酸化ストレスですが、普段から食事に気を付けていても、平常の生命活動である程度は発生してしまいます。
LDLコレステロールの酸化を防ぎ血管を守るためには、血管内に酸化ストレスを増やしすぎないようにすることに加え、平常の生命活動で出来てしまった酸化ストレスを減らすことも重要です。
この酸化ストレス低減には、抗酸化物質と呼ばれるものが効果的に作用することが明らかになっています。抗酸化の作用を持つ代表的な成分としてビタミンCやビタミンEがありますが、近年の研究により強力な抗酸化物質として注目されつつあるのが、ポリフェノールなどのフラボノイドです。
2018年に公開された論文では、カカオに多く含まれるポリフェノールをサプリメントとして、あるいはダークチョコレートとして摂取する介入研究において、摂取群に有意な血管拡張機能の向上が見られています。出典[1]抗酸化物質が酸化ストレスからLDLコレステロールを、ひいては血管を守ることにより、血管が拡張しやすい柔軟な状態を維持することができるのです。
過剰な糖質や脂質は血流を害する
良好な血管と血液は食事によって体内に入る栄養素の影響を受けるため、食生活を良好に保つことは特に重要です。必要以上のエネルギー摂取、特に糖質や脂質の過剰摂取は血管や血液へのダメージとなります。
糖質の摂りすぎは高血糖、すなわち血液中のグルコース過多の状態を招きます。グルコースが血管内に増えるとインスリンというホルモンのはたらきにより、グルコースは各組織に取り込まれます。
しかし、取り込み切れないグルコースはそのまま血液中に残り続けてしまいます。そして血液中に残り続けたグルコースは酸化ストレスを引き起こし、血管を傷付け、血管の柔軟性を奪ってしまうのです。
脂質の摂りすぎは血中のLDLコレステロール濃度を高めます。過剰なLDLコレステロールは酸化LDLへと変性することにより血管を傷付けてしまいます。またLDLコレステロールや中性脂肪など、血管に脂質成分が増えること自体が血液の粘性を高めてしまい、これもまた血流の妨げとなります。
LDLコレステロールを減らすには脂質制限に加え、糖質を中心としたエネルギー制限が必要です。動脈硬化予防の観点からも糖質および脂質の取りすぎには注意すべきであると言えるでしょう。
血流を改善する食事10選
血流を改善させるためには、血管および血液に負荷のかからない食事を意識して摂る必要があります。以下では日々の生活に比較的簡単に取り入れられる、10種類の食習慣について紹介しています。
炭水化物は白から茶色に
高血糖状態が続くと血管がダメージを負いやすくなり、血管の柔軟性が損なわれてしまいます。食べ過ぎ、炭水化物の過剰摂取により起こる高血糖状態も問題ですが、急激に血糖値が乱高下する血糖値スパイクもまた、血管にダメージを与える要因となります。
血糖値の乱高下は、食べる炭水化物を選ぶことである程度防ぐことができます。一気に血糖値を上げやすい食べ物と上げにくい食べ物があるため、血糖値の推移を緩やかに保つため、血糖値を上げにくい食べ物を習慣的に食べるようにしましょう。
血糖値の上がりやすさを示す指標として「GI値」があります。精製された白い砂糖や白い小麦粉、精米された白いお米などのGI値は高めであり、急激に血糖値を上げやすくなっています。一方、精製されていないきび砂糖や、小麦の殻ごと粉砕した全粒粉、精米していない玄米のGI値は低く、体内でゆっくりと吸収されるため、血糖値を緩やかに上下させる食品であると言えます。
色の濃いもの、茶色いものを意識して食べることで血糖値スパイクを防止できます。前述した砂糖などを茶色いものに変えることで一定の効果が得られますが、より手軽に日々の食事に茶色いものを取り入れたい場合、お米やパン、麺などの穀類の食べ方に気を付けると良いでしょう。
オススメの茶色い炭水化物については以下のものがあります。
- 玄米
- 全粒粉パン
- 蕎麦
日頃からご飯を中心に食べている方は白米から玄米に、パン食中心の方は食パンや菓子パンから全粒粉パンに変更するだけでも、血糖値スパイクを防止しやすくなるでしょう。麺類も色の付いたものを意識して選ぶようにしてみましょう。白いうどんやそうめんより、蕎麦やパスタを食べるようにすることでGI値を低く抑えられ、血管を保護することに繋がります。
朝食に納豆をプラス
血管を拡張させ、血流を良好に保つはたらきを持つ成分がNOです。納豆には体内でNOを合成するためのアミノ酸、アルギニンが豊富に含まれています。血管の柔軟性を保つため、日々の朝食に取り入れるようにすると、アルギニンの不足を防ぐことができるでしょう。
また納豆の原料である大豆はタンパク質と脂質のバランスが良い食品です。適量のタンパク質の確保は筋肉量の維持に、また良質な脂質の確保は血液の状態を良好に保つことに貢献してくれます。副菜として1日1回は取り入れることをオススメします。
NO3が豊富な葉物野菜を毎日
NOはアルギニンとシトルリンから合成される他にも、食品中のNO3(硝酸塩)が体内で代謝される過程でも生成されます。NO3はケールやほうれん草など、野菜の中でも主に葉物野菜に多く含まれています。良好な血流確保のため、習慣的に摂取しておきたい成分です。
NO3が豊富に含まれる葉物野菜には以下のものがあります。
- チンゲン菜
- 小松菜
- ほうれん草
- レタス類
- セロリ
チンゲン菜や小松菜、ほうれん草は熱を加えることでかさが減るため、十分量を摂取するのに効率的です。またレタス類やセロリは調理せず生で食べられるため、これらも活用することでより手軽に摂取を続けられるでしょう。
また、葉物野菜に限らず、野菜類には抗酸化物質も豊富です。脂質や糖質の食べ過ぎにより血糖やLDLコレステロールが血液中に過剰になってしまっても、日頃から積極的に野菜類を摂取することにより、血管にかかる酸化ストレスをある程度低減できます。
NO3および抗酸化物質を含む食品を毎日摂取できるよう、葉物野菜を食事に取り入れるようにしましょう。大きめのサラダを食べる機会を日に一度作るようにすると十分量が摂取できます。また、ほうれん草は茹でれば見た目のかさが減り食べやすくなります。おひたしなど、緑色の野菜が入っている小鉢を外食先で注文したり、コンビニで総菜のパックを買ったりして、食事に緑の副菜をプラスする習慣を付けていきましょう。
唐揚げよりもサラダチキン
唐揚げやフライドチキン、トンカツなど、揚げ物類の摂取が習慣になっていませんか? 週3回以上揚げ物を食べる機会がある場合は、食事から摂る脂質が過剰になっているかもしれません。
脂質の過剰摂取は血液中のLDLコレステロールを増やし、血液の粘性を高めたり動脈硬化を促進したりして血流の妨げとなります。また高脂肪食の摂取を続けていると、それ自体が酸化ストレスを生み、より血管を傷付けやすくなってしまいます。抗酸化物質の摂取により酸化ストレスを低減させることに加え、脂質の摂取を日頃から控えめにすることも重要です。
簡単にできる脂質カットの方法は、脂の少ない肉を選び、揚げ以外で調理された献立を選ぶことです。サラダチキンなど、低脂質高たんぱくの鶏肉を茹でたものを日々の食事に取り入れることで、脂質の過剰摂取を防げます。揚げ物の頻度は週2回以下に抑えるようにしましょう。
牛丼よりも焼きサバ定食
脂質の過剰摂取はよくありませんが、体調を良好に保つため一定量の脂質の確保は必要です。そのため良質な脂質を適量摂取するようにしたいところです。
牛丼は揚げ物ではないため、トンカツなどに比べて脂質量は比較的少なそうに見えますが、牛バラ肉に多く含まれている飽和脂肪酸は、脂質の中でも特にLDLコレステロールを生成しやすく、血流を害する要因になりやすいものとなっています。そのため牛丼や焼肉など、脂身の多い肉を食べる機会が頻繁にあるような場合には、意識して回数を減らすことが重要です。
代わりの献立として、サバなどの青魚を主菜とした定食を取り入れてみましょう。魚に含まれる脂質、特にEPAと呼ばれる油は体内における中性脂肪やLDLコレステロールの生成を抑えてくれます。動脈硬化を防止し血管の柔軟性を保つため、是非とも意識して取り入れたい食品です。
おやつには高カカオチョコ
カカオに含まれるポリフェノールは強い抗酸化作用を持ち、酸化ストレスを低減させる効果があります。カカオのポリフェノールに代償されるフラボノイドの摂取により、NO合成酵素を刺激してNOを効果的に産生すること出典[2]、またカカオポリフェノールをサプリメントの形で摂取することにより血管拡張を起こす効果を発揮することが分かっています。出典[3]酸化ストレスから血管を守るため、またNOにより血管を拡張し血流を良好に保つため、意識して摂取するようにしましょう。
おやつとして食べる場合は、カカオ含有量の多いダークチョコレートを選びましょう。ミルクチョコレートをおやつとして習慣化してしまうと、カカオ摂取という点では効率が悪く、また多めに含まれる脂質と糖質により逆に酸化ストレスを産む結果となりかねません。
高カカオのダークチョコレートであっても食べ過ぎれば脂質と糖質の過剰摂取を招きます。一回の間食の目安量である200kcalを超えて食べないよう注意しましょう。チョコレートでは30g、板チョコの半分程度がおやつの目安です。
コーラを紅茶に変えてみる
コーラに代表される甘い炭酸飲料には、私達が舌で感じる甘さ以上の砂糖が入っています。炭酸が失われたコーラを飲んだ時に、より強く甘さを感じたことはありませんか? 炭酸飲料に加工すると甘さを感じにくくなるため、かなり多くの砂糖が入れられているのです。甘い炭酸飲料から摂取した糖分は特に血糖値を上げやすくなっており、習慣的な摂取はオススメできません。
嗜好飲料の置き換えとして、無糖の紅茶を候補に入れてみてください。紅茶には抗酸化作用の強いポリフェノールが多く、酸化ストレスの低減に役立ちます。
甘くない紅茶に嗜好飲料を切り替えることで最初は物足りなく感じるかもしれませんが、フレーバーティーなどを活用し、嗅覚を使って味を楽しんでみましょう。一週間続けることができれば、薄い味や無糖に体が慣れ、健康的な習慣として継続しやすくなります。
冷凍ブルーベリーを常備
果物の中でも、ブドウ系は多くのポリフェノールを含んでいます。中でもブルーベリーはポリフェノールの含有量が最も多いため、強い抗酸化作用を発揮し、効率的に酸化ストレスを低減させることができます。
ブルーベリーを料理に使用するのは難しいため、手軽に食べたい場合は冷凍のものを常備し、食後のデザートとして少量ずつ朝食に取り入れるとよいでしょう。冷凍ブルーベリーはそのまま食べられて食感もアイスのようで心地良く、比較的続けやすい果物です。またやや溶かした状態でヨーグルトに混ぜると味の変化も楽しめ、飽きることなく食べることができます。
ビールよりも赤ワイン
飲酒の頻度と量を適切に保つことは、健康管理のため特に重要です。飲みすぎによりエネルギーの過剰摂取を招くと、動脈硬化の誘因となってしまいます。週に1~2日は休肝日を設けるようにし、摂取はアルコール換算で20g程度、1日1合を目安に楽しむようにしましょう。
抗酸化物質を摂取するため、赤ワインを選ぶようにすると効率的です。ポリフェノールが豊富であり、酸化ストレスの低減に役立ちます。同じくポリフェノールが多く含まれているダークチョコレートとの組み合わせもよいため、どちらも適量を楽しむようにすると日々ポリフェノールの十分な確保ができます。
赤ワインを摂取する場合、アルコール度数12%の赤ワインの場合であれば1日に170ml、ワイングラスで1杯半程度を目安にするとよいでしょう。
和食は血流改善に最適
健康食として海外から注目を集めている日本食ですが、動脈硬化を予防する観点からも、意識して日々の食事に取り入れることは有効です。
和食は魚を使った料理や油をあまり使わない煮物料理などが多く、良質な脂質を適量摂取するための目安として役立ちます。また副菜として低エネルギーで豊富なミネラルを含む野菜に海藻にきのこ、タンパク質と脂質のバランスが良い大豆などを多く取り入れており、酸化ストレスの低減や血管拡張の目的でも摂取が推奨されます。
外食やコンビニでの惣菜で食事を済ませることが多い場合、どうしても揚げ物や麺類などに偏りがちですが、和食をキーワードに外食の店や惣菜を選んでみてください。定食として和食を食べるのが理想ですが、副菜として野菜や海藻の含まれる和風小鉢を追加するだけでも、血流の改善に役立ちます。
まとめ
良好な血流は、柔軟性のある血管と状態の良いサラサラとした血液によって保たれます。血液は私達が日々摂取する食事で作られている以上、状態のよい血液のためには食生活を整えることが欠かせません。また近年の研究により、柔軟性のある血管を維持するために必要な成分も明らかになっています。血管の柔軟性を上げるために葉物野菜やカカオを、良好な血液環境を保つために和食中心の生活を、血管へのダメージを防ぐためにベリー系の果物や赤ワインに代表される抗酸化物質を、それぞれ意識して日々の食事へと取り入れて、良好な血流を目指していきましょう。
出典
- 1.
Amy Rees, Georgina F. Dodd, and Jeremy P. E. Spencer. The Effects of Flavonoids on Cardiovascular Health: A Review of Human Intervention Trials and Implications for Cerebrovascular Function. Nutrients. 2018 Dec; 10(12): 1852.
- 2.
Valeria Ludovici, Jens Barthelmes, Matthias P. Nägele, Frank Enseleit, Claudio Ferri, Andreas J. Flammer, Frank Ruschitzka, and Isabella Sudano. Cocoa, Blood Pressure, and Vascular Function. Front Nutr. 2017; 4: 36.
- 3.
Amy Rees, Georgina F. Dodd, and Jeremy P. E. Spencer. The Effects of Flavonoids on Cardiovascular Health: A Review of Human Intervention Trials and Implications for Cerebrovascular Function. Nutrients. 2018 Dec; 10(12): 1852.
参考文献
- 南部征喜 | 動脈硬化の食事療法 ― 栄養診断を取り入れた栄養指導― | 栄養学雑誌 Vol.47 No.2 63~76 | 1989
- 矢澤一良 | EPAとDHA― 最近の話題. 脂質栄養学3(1) 45-48 | 1994
- 上代淑人, 清水孝雄 | イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 | 丸善出版 / 2011
- 武田英二 | 臨床病態栄養学 第3版 | 文光堂 | 2013年
- 香川靖雄, 近藤和雄, 石田均, 門脇孝 | 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち 各論 改訂第2版 | 南江堂 / 2013年
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