執筆者
NSCA-CPT/調理師
舟橋位於
東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。
血流が悪いと身体に起きる6つのこと
人間の身体は、血液を介して、全身に栄養素やホルモンを運搬しています。また、体温の調節においても血液は重要な役割を持っています。そのため、血流に障害が出ると、身体の様々な部分に悪影響が生じます。
血流が悪いことへの対策を紹介する前に、まずは、血流の障害が引き起こす具体的な症状を見ていきましょう。
以下に当てはまる症状がある場合は、血流の問題の可能性があります。自分の健康状態と照らし合わせながら、ご覧いただければ幸いです。
しびれやピリピリ感
血行が悪くなると、手足のしびれやピリピリ感が生じることがあります。血管が冷えや圧迫等によって細くなると、運ばれる酸素の量が少なくなり、周りの組織が一時的に低酸素状態になります。京都大学が2016年に行った研究では、この低酸素状態によって、特定の神経が過敏になり、結果としてしびれや痛みが引き起こされることが分かりました出典[1]。
手足の冷え
身体は、深部で温められた血液を循環させて体温を維持しています。そのため、末端に位置する手足は、もともと冷えを感じやすい部位です。しかしながら、夏場でも明らかな冷えを感じるようであれば、血流が悪くなっている可能性を疑うべきです。
手足のむくみ
血行が悪いと、主に末端部の手足に血液が溜まった状態になりやすくなります。すると、血液中の老廃物が、水分とともに血管の周りに蓄積し始めます。その結果、水ぶくれによるむくみが生じます。
肩こり・腰痛・関節痛
血行不良は、肩こり・腰痛・関節痛の原因にもなります。これらが引き起こされるメカニズムは、手足のむくみが生じるものと同じです。肩や腰などの特定の部位に生じたむくみが、痛みや違和感の原因になると言えるでしょう。
認知機能の低下
血流が悪くなると、脳に送られる血液の量も制限されることになります。一般的に、活動中の脳には血液がたくさん送られます。何らかの理由により、脳に送られる血液の量が少なくなると、脳がはたらくために必要な酸素や栄養素が十分に行き渡らなくなる可能性があります。つまり、血行不良の状態が続けば、認知機能をはじめとする脳機能が低下する可能性があると言えるでしょう。
男性機能低下
血行不良は、男性機能低下の原因にもなります。勃起は、陰茎に血液が流れ込むことで引き起こされるため、血流に問題があると、十分な量の血液が供給されず、不全につながります。
しかし、勃起不全は様々な要因で生じるため、必ずしも原因が血行不良であると断定はできません。ただ現在、男性機能の低下に悩んでいる方は、原因の可能性の1つとして血行不良を頭に入れておくとよいでしょう。
血流を良くする運動10選
ここまでは、血流が悪いことによる身体への悪影響を見てきました。
続いては、それらを解消する可能性のある運動について紹介します。「有酸素運動」「筋トレ」「柔軟性エクササイズ」のそれぞれがもたらす効果について、研究結果を交えながら解説していきます。
ぜひ、自分の症状を改善するのに合った運動を見つけて、実践してみてくださいね。
有酸素運動
有酸素運動の効果としては、生活習慣病の予防や、気分を爽やかにすることなどが有名ですが、血流を改善させる効果も期待できます。
有酸素運動を継続することで、将来起こりうる心疾患の予防を狙うこともできるため、ぜひ知識をつけていただければと思います。
誰でも気軽に取り組みやすいのが有酸素運動のメリットのひとつですので、これまでに運動経験のない方は、まずはウォーキング等から始めてみると良いでしょう。
毎日30分程度の早歩き
ウォーキングに、心臓血管系疾患の予防効果があるとする報告があります。アイルランドのグループは、運動の強度・持続時間・頻度にかかわらず、ウォーキングが心臓血管系に良い影響を与えたことを2010年に示しています出典[2]。
一方で、筑波大学の2006年の発表では、一定の強度の運動が動脈系に良い影響を及ぼすことが示されています出典[3]。この研究では、3METsから5METsの運動を30分以上行った場合に、特に効果があることが分かりました。3METsの運動の例は、ゆっくりとした通常の歩行で、5METsの運動の例は、かなりの早歩きとなります。
以上より、心臓血管系への効果を狙うのであれば、早歩き程度の強度の運動を30分ほど行っておけば、十分に効果が狙えると言えるのではないでしょうか。
ランニングは5分~効果あり
ランニングはウォーキングよりも強度の高い運動になります。高齢者や、関節に障害のある方は実施する際に注意が必要ですが、多くの人にとっては、取り組みやすい運動のひとつであると言えるでしょう。
アイオワ州立大学のグループは、時速6マイル(時速10km)のランニングを、1日5分から10分行うだけでも、心血管疾患による死亡リスクが顕著に低下することを示しました出典[4]。
時速10kmはゆっくり漕いでいるママチャリに付いていくくらいのペースです。それほど速くないペースで5分〜10分程度ランニングするだけで、心血管系の健康を保つことができるかもしれません。
電車通勤を自転車通勤にしてみる
週5日の通勤手段を電車や自動車から自転車に切り替えることで、血流が改善する可能性があります。
筑波大学は2004年に、1回30分、週5回のエルゴーメータ運動(サイクリングとほぼ同じ運動)によって、血液中の一酸化窒素の量が約2倍増えることを発表しました出典[5]。一酸化窒素は血管を拡張するはたらきのある物質であり、血圧の低下や動脈硬化の予防に重要な役割を果たしていると考えられています。
職場が遠くて、自転車通勤するのが難しい方でも、30分で行けるところまで漕いでみるとよいでしょう。
日常生活での身体活動を増やす
オフィスが高い階にあったり、疲れていたりすると、どうしても階段よりもエレベーターを使いがちになってしまうと思います。しかしながら、活動量を増やすことが健康につながると知れば、今後は積極的に階段を利用しようという気持ちになるかもしれませんよ。
筑波大学の2004年の研究では、高度な運動を行っていない25歳から97歳までの被験者の、身体活動量と血管の状態を表す指標との間の関係性が調べられました。その結果、日常の身体活動量が多いほど、血管が弾力を失った状態になりにくいことが示されました出典[6]。
よって、運動にまとまった時間を取れない人は、日常生活の中で身体を動かす量を増やす意識を持つとよいでしょう。
▼日常の身体活動を増やす例
- 下りる時だけでも階段を使ってみる
- バスや電車通勤の場合は席が空いても立ち続ける
- 1時間に1度、3分程度の散歩をする
- スタンディングデスクを導入する
筋トレ
筋力トレーニングは、血流の改善に非常に効果のあるエクササイズです。収縮する筋肉はポンプのように働き、末端に溜まった血液を心臓へと戻すことに役立ちます。また、それ以外のメリットについてもいくつか報告があります。
むくみに悩まされている方は、このコーナーで紹介される「かかと上げ運動」や「スクワット」にぜひ取り組んでみてください。
第二の心臓を鍛えるかかと上げ運動
ふくらはぎは第二の心臓とも呼ばれることはご存じでしょうか。ふくらはぎの筋肉が収縮することで、その周りにある血管には圧力がかかります。そうすると、足の末端に溜まっていた血液が、再び心臓の方へと戻っていきます。
ふくらはぎの筋肉には、腓腹筋とひらめ筋がありますが、どちらも簡単に家でトレーニングすることができます。
身体を支えるために手の平を壁に軽くつけたら、その状態で、つま先立ちを10回繰り返します。ポイントは、できるだけ高くかかとを上げるようにすることと、動作をゆっくりとしたリズムで行うことです。10回を1セットとして、3セット行えば十分でしょう。頻度は、週3回程度が推奨ですが、むくみが気になる場合は、もう少し増やしてみても良いです。
高回数のスクワット
続いておすすめの筋トレがスクワットです。スクワットは、下半身全体の筋肉量を増やす効果がとても高く「キングオブエクササイズ」とも呼ばれています。スクワットで多くの筋肉を動かし、効率的に筋量を増やすことで、血流が改善する可能性があります。
イタリアの研究者をはじめとするチームが2012年に発表した研究では、筋肉量が低下している被験者では、動脈の柔軟性を示す指標も下がっていることが分かりました出典[7]。
また、筑波大学の前田教授は、高強度の筋力トレーニングには、動脈の柔軟性を失わせる可能性があるものの、中強度であればその心配はないという報告を日本体育・スポーツ・健康学会に寄せています出典[8]。
以上を踏まえますと、中強度の負荷の筋トレを行って、筋肉量が高い状態を維持できると良いと言えるでしょう。おすすめの運動としては自重を使ったスクワットが挙げられます。
ゆっくりしたペースで行うスクワットを、15回3セット行うことを毎日の習慣にするだけで、筋肉量には大きな変化が見られるはずです。
ぜひ、帰宅後の隙間時間やお昼休み休憩中などに取り入れてみてください。
たった11分のハンドグリップ運動で血流改善
かかと上げ運動やスクワットは、下半身の運動で健康増進を狙う筋トレでしたが、上半身をターゲットにした運動もあります。それが、ハンドグリップ運動です。
ハンドグリップ運動では、ものをつかむ、つかんだ手を緩めるというふたつの動作を繰り返します。つまり、かかと上げ運動のように筋肉がポンプとして働きます。すると末端の血流が良くなり、手のむくみ解消につながります。
22人の高齢男女を対象とした2019年の日本体育大学らの研究では、ハンドグリップ運動を行わせた被験者の動脈硬化の度合いと血圧が低下したことが分かっています出典[9]。
実験で行った運動を再現する方法として、タオルグリップがあります。まずはハンドタオルを丸めて筒状にしたものを用意します。続いて、タオルを強く握る状態と、緩める状態が交互に来るように力を入れます。握る状態が2分で、緩める状態が1分となるようなやり方がおすすめで、それらを3セット行うと良いでしょう。
近年流行りの加圧トレーニング
加圧トレーニングは、血流を制限した状態で運動を行うことで、さまざまな効果を狙う筋トレです。強い負荷を用いなくても筋肉を発達させられるため、一般的には高齢者やリハビリ患者によく用いられます。そして、加圧トレーニングにも、動脈硬化を改善する可能性があることが明らかになっています。
北翔大学が2009年に行った研究では、加圧トレーニングを行った脚の筋力や筋肉量が増加しただけでなく、血圧の一部が低下したことが分かりました出典[10]。また、動脈硬化を表す指標であるABIについても、低下が見られています。
加圧トレーニングは筋力や筋量を向上させて生活の質を高めるという側面だけでなく、血管の状態を良くする効果も持ち合わせていることがお分かりいただけたかと思います。ただ、加圧トレーニングは指導者や正しい器具の元で行うことが推奨される運動のため、見よう見まねで行わないよう注意しましょう。
柔軟性エクササイズ
肩が縮こまった姿勢をとり続けると筋肉が凝り固まり、血液がうまく届かず、痛みが生じます。筋肉の柔軟性を取り戻すことで、血行が促進されるかもしれません。
ヨガで血管の柔軟性を高める
ヨガは、有酸素運動や筋力トレーニングと比べると身体への負担が小さいため、女性や高齢者でも取り組みやすい運動のひとつです。比較的強度の低いヨガにも血管の状態を改善する可能性が示唆されています。
実際にインドの研究者は、ヨガが、血管の柔軟性を維持することや、高血圧の症状の改善に効果があることを2020年に報告しています出典[11]。
また、アメリカの研究者がヨガについてまとめた報告の中では、ヨガの持つさまざまな利点が紹介されています出典[12]。その効能としては、血圧の低下、血流量の増加、特定のポーズによるポンプ機能(かかと上げ運動の解説と同じものです)などが期待できるとのことです。
血管に関する効能以外にも、ヨガには、不安やストレスを軽減することで幸福感を高める効果も報告されています。一度に複数の効果が得られる可能性のあるヨガは、忙しい現代人には向いているエクササイズだと言えるかもしれないですね。
1部位30秒を目安に全身をストレッチ
最後に紹介するのはストレッチです。筋肉の柔軟性を高める効果のあるストレッチを、スポーツ後のクールダウンに取り入れている方もいると思います。実は、単純なストレッチにも、血流量を増やす効果があることが分かっています。
日本の研究者が2011年に発表した論文では、10秒、30秒、60秒のストレッチ動作を行うことで、血流量が一時的に増加したことが示されています出典[13]。この実験では、ストレッチ継続時間を変化させても、血流量の変化には差がなかったことも分かっています。
ちなみに全米ストレングスコンディショニング協会は柔軟性を獲得するためのストレッチは、30秒を目安に行うことを推奨しています。血流量の変化については、30秒のストレッチでも60秒のストレッチでも効果は変わらないため、まずは1部位30秒を目安に全身をくまなくストレッチしてみるとよいでしょう。
運動習慣を意識して血管の健康を維持しよう!
今回は、血流の悪化によって引き起こされる症状と、その改善策となる運動について紹介しました。冷えやむくみは女性に多い悩みである一方で、男性特有の悩みにも血行が関係していることがお分かりいただけたかと思います。これらの改善のためには、まずは自分でもできそうと思える運動を少しずつ始めてみることが大切です。記事の中で紹介した「有酸素運動」「筋トレ」「ヨガやストレッチ」などの中に、気になるものはありましたか。また、運動によって、動脈硬化や心疾患を防ぐことのできる可能性も見てきました。健康で豊かな人生を過ごすためにも、一度、自分の体調や運動習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
出典
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