執筆者
NSCA-CPT/調理師
舟橋位於
東京大学理学部卒、東京大学大学院総合文化研究科修士課程終了。大学入学後に筋肉に興味を持ち、自分の体で学んだ理論を体現してきた。日本の筋肉研究で有名な石井直方教授のもとで学び、ティーチングアシスタントとして、学生へのトレーニング指導を行った経験も。自分が学んだ知識を伝えることで、一人でも多くの方の健康をサポートしたいと考えている。
タウリンとは
最初に、タウリンについて一般的に知られている情報を解説します。詳細な研究報告に触れる前に、まずはタウリンの概要について知りましょう。
1.どんな栄養素?
タウリンは、ヒトの体を構成するアミノ酸の一種であるシステインから合成される物質です。アミノ酸に似た構造を持ちますが、アミノ酸の定義には従わないため、厳密にはアミノ酸には分類されません。ヒトにおいては、体内のさまざまな臓器や組織に含まれることが分かっています。
生物によっては、自身でタウリンを合成できないものも存在しますが、ヒトの場合は、前述のようにシステインから合成することができます。そして、この合成反応は肝臓で行われます。また、タウリンは肝臓に働きかける作用を持つことが知られています。
システインは、食品からの摂取が不可欠ではない必須アミノ酸ですが、タウリンは、自身で合成できる量だけでは不足するため、食品からも摂取することが必要です出典[1]。
2.体の中でどんな働きをする?
厚生労働省が提供するe-ヘルスネットでは、以下のような機能がタウリンにあるとされています出典[1]。
- コレステロールの減少
- 心臓や肝臓の機能向上
- 視力の回復
- インスリン分泌促進
- 高血圧の予防
一般的に言われ、タウリンに期待されていると思われる疲労回復効果の記述はありません。複数の効果が重なることで、疲労回復にもつながる可能性があると理解するのが妥当でしょう。
3.不足するとどんなリスクがある?
タウリンの不足は、心筋症、腎機能障害、発達不全、網膜神経へのダメージにつながるとされています出典[2]。
心筋症や腎機能障害は、タウリンの持つ抗酸化作用が不足することで生じる可能性があります。体内で活性酸素と呼ばれる物質が増えると、体の中のさまざまな組織がダメージを受け、それによって、機能が損なわれることがあります。タウリンが存在することで、これらの組織が保護されると同時に、細胞が壊れることを防ぐことができます出典[3]出典[4]。
発達不全の内容は多岐にわたります。タウリンが枯渇した状態で生育されたマウスは、ミトコンドリアの欠乏、心筋および骨格筋の発達不全、血管内皮厚の減少、心臓の萎縮などの症状が見られました出典[5]。また、タウリンは眼球を構成する組織にも多く含まれてます。その中でも網膜に多く、他のアミノ酸の10倍以上もの濃度で存在しています。そのため、不足すると網膜の健全な発達に影響が出てしまいます。出典[6]。
タウリンの不足に関する研究は、自身でタウリンを合成できない生物や、タウリンの合成や輸送に関するたんぱく質を人工的に壊した生物を対象としたものが多いです。そのため、全てが我々ヒトに等しく当てはまる訳ではないです。しかしながら、不足した場合はここで説明したような影響が出る可能性があると理解しておくと良いでしょう。
4.どんな食材に含まれている?
タウリンは一般的に魚介類に多く含まれるとされています。日本人においてタウリンが欠乏することがほとんどない理由として、昔から、魚介類を食べる文化が根付いているからということが考えられます。
今回は、タウリンを多く含む魚介類に加えて、普段の食事にも出てきやすい肉類の含有量を合わせて紹介します。参考にしてみてください。
Froger, Nicolasらの資料を改変出典[7]。
食品名 | タウリン(100gあたり) |
たこ | 390mg |
えび(小型) | 143mg |
えび(中型) | 115mg |
まぐろ | 332mg |
かれい | 256mg |
牛肉 | 50-100mg |
羊肉(ラム) | 310mg |
豚肉 | 118mg |
鶏肉 | 378mg |
タウリンに確認されている作用や効果
続いて、研究で分かってきたタウリンの持つ他の作用や効果について解説します。論文の内容を紹介しながら、タウリンがどのような機能を持つかを見ていきましょう。
1.筋疲労を軽減
タウリンには、筋肉の疲労を軽減する効果があるとする報告があります。
実際の研究で、タウリンの摂取量と、それに伴う有酸素運動や筋力トレーニングのパフォーマンス変化について調べられました。その結果、疲労の指標となるいくつかの物質の挙動に変化があったことが分かっています。
タウリンの摂取により、筋肉の損傷や炎症の指標となるインターロイキン6やTNF-αといった因子の発現量が、運動後でも上昇しなくなることが明らかになりました出典[8]。つまりタウリンには、運動による筋肉へのダメージを緩和する可能性があると言えます。
持久的運動中の血中乳酸レベルについても報告があります。乳酸は、エネルギーの源であるATPを得る際に副産物として生じる物質です。乳酸もまた、ATPを作るための材料として用いることができますが、運動の強度が高くなると、乳酸を分解する経路が間に合わなくなり、結果として、血中の乳酸濃度が高くなる現象が起きます。すなわち、血中乳酸濃度をモニターすることで、持久的運動中の疲労の度合いを観察することができるというわけです。
タウリンの摂取による効果については、この乳酸レベルに変化をもたらさなかったという報告と、乳酸値の上昇を抑制したという報告があります出典[8]。タウリンの摂取方法や摂取量について両者の研究では違いがあるため、結論を出すためには、更なる研究が必要となるでしょう。
持久的運動では複数の見解がありますが、筋力トレーニングにおいては、タウリンの摂取は効果があるとされます。タウリンを摂取すると、運動による酸化ストレスが軽減されることが分かりました。この結果として、筋肉の疲労が抑制されると論文では報告されています出典[8]。
まだまだ研究が必要な分野ではありますが、タウリンが筋肉の疲労に及ぼす影響については、ポジティブな見解があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
2.運動機能を向上
タウリンの摂取が、運動機能を向上させるという報告もあります。
イギリスの研究者たちは、運動の2時間前にタウリンを1000mg摂取させ、それによって、3km走のパフォーマンスに変化が現れるかを調べました。その結果、タウリンを摂取したグループは、摂取しなかったグループと比べて、3km走のタイムが1.7%早くなることが分かりました。一方で、パフォーマンスに関わると考えられる、酸素摂取量、心拍数、主観的運動強度、血中乳酸濃度については、群間で差がなかったことも分かっています出典[9]。
この論文では、タウリンの摂取タイミングによって効果に違いが出る可能性を、過去の論文に触れながら解説しています。タウリン摂取後、どの程度で血中のタウリン濃度が高まるかを調べた論文では、血中濃度が高まるには2時間が必要と報告されています出典[10]。実際に、運動の1時間前にタウリンを摂取させて持久力を調べた実験では、タウリンによる記録向上効果は得られませんでした出典[11]。
運動機能を高める効果をタウリンに期待するのであれば、運動の2時間前に摂取することが大切だと言えそうですね。
3.肝機能をサポート
ヒトにおいては、タウリンは肝臓で合成され、さらに肝臓に対して働きかけることについて、冒頭で簡単に触れました。その働きの中には、肝機能をサポートすることも含まれます。
肝炎の患者を対象にタウリンの効果を調べた実験では、タウリンの摂取により、肝臓の機能が改善することが分かりました出典[12] 。実験では、24名の肝炎患者を12名ずつの2グループに分け、一方にはタウリン2gを1日3回摂取させ、もう1方にはプラセボを摂取させることを3ヶ月間継続しました。その結果、タウリンを摂取したグループでは、肝臓に異常がある場合に数値が高くなるALTやASTといった酵素に加え、コレステロール、中性脂肪等の数値が低下することが分かりました。
肝臓の正常な機能を維持するためには、タウリンが重要な役割を持つと言えるでしょう。
4.脳の損傷を抑制
タウリンには、脳の損傷を抑制する働きがあります。
タウリンの持つ機能として、抗酸化作用があることはすでに解説しました。体内で発生した余分の活性酸素を速やかに取り除くことは、健康な状態を維持するためには重要となります。
脳は比較的タウリンが多く存在する部位であり、そこでのタウリンの働きは、過酸化物質の無害化、炭水化物の代謝を助けることで活性酸素の産生を抑えること、カルシウムの流入や流出を防ぐことによる脳の保護などがあります出典[13]。
タウリンの持つ抗酸化作用についてまとめたレポートの中では、通常時の脳についてだけでなく、脳細胞の損傷に対するタウリンの役割についても触れられています。タウリンは、抗酸化作用に加えて抗炎症作用も持ち、これらの働きが、脳卒中によるダメージを軽減すると考えられています。
タウリンは、酸化物イオンの産生を抑えることで、抗酸化酵素の活性を高めます。そしてそれにより、外傷または虚血による脳損傷が引き起こすミトコンドリアの機能低下を改善することが示されています出典[13]。また、タウリンによる治療を行うと、インターロイキン6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの発現レベルが、脊髄損傷および外傷または虚血による脳損傷状態において大幅に低下することも分かっています出典[13]。
タウリンの持つ抗酸化作用や抗炎症作用によって、脳の損傷を抑えることが期待できると言えそうですね。
5.高血圧の予防
タウリンが高血圧を予防する可能性もあります。
1日あたり1.6gのタウリンを12週間継続して摂取させた研究では、タウリン摂取後に、収縮期血圧注釈[1]が平均で7.2mmHg、拡張期血圧注釈[2]が平均で4.7mmHg低下することが分かりました出典[14]。
また、タウリンの摂取によって、血管が拡張する効果があることも分かりました。高血圧に悩んでいる方は、タウリンを多く含む食事を試してみても良いかもしれませんね。
6.動脈硬化を改善
血管に関して言うならば、タウリンには、動脈硬化を改善する働きがあることも示されています。
心不全と心拍出量の低下が見られる患者を対象に、500mgのタウリンを1日3回摂取することを2週間継続させた実験では、プラセボを摂取した群と比べて、CRPと呼ばれる炎症物質が減少したことが示されました。また、動脈硬化を引き起こすいくつかの物質が減少することも分かりました出典[15]。
血管年齢が気になる方は、この研究を参考にして、食事からのタウリン摂取を意識してみてください。
7.肌の保湿作用
ここまでは体の内部で働く機能の解説でしたが、タウリンには、皮膚に働きかけて保湿をする作用もあります。
ドイツの研究者たちは、ヒトの表皮とタウリンの関係を調べる実験を行いました。その結果、タウリンを輸送するたんぱく質が表皮に多く存在することや、実験的に皮膚を乾燥状態にすると、タウリンの蓄積量が増えることなどが分かりました出典[16]。論文の著者らは、皮膚が乾燥状態に置かれると、タウリンが浸透圧を調整する物質として作用し、水分を維持すると結論づけています。
スキンケアを考える場合は、外からの保湿に加えて、タウリンによる内側からの保湿も意識できると良いかもしれませんね
タウリンの副作用のリスクと推奨摂取量
最後に、実際にタウリンを摂取する場合の注意点について解説します。副作用の有無や、1日に必要な摂取量などについて見ていきましょう。
1.推奨量について
タウリンの推奨摂取量については、明確な基準はありません。
海外の論文には、1日あたり500mgから3000mgの摂取で実験を行ったもの出典[17],出典[18]や、1日あたり3000mgの摂取が、副作用を生じることなく最大限の効果を得られる用量である出典[19]とするものがあります。
タウリンは水溶性の物質であり、過剰摂取した場合でも、余分は尿として排出されます。そのため、摂り過ぎによる副作用を過度に心配する必要はないと言えます。
2.副作用について
前述の通り、タウリンは水溶性の物質であるため、過剰に摂取しても余分は尿として排出されます。そのため、体内に高濃度で蓄積して重篤な副作用を引き起こすこともありません。
また、日本においてはタウリンは医薬品として扱われているため、市販のドリンク等から大量に摂取しすぎる心配もありません。海外では、エナジードリンクにタウリンが大量に添加されていますが、日本で同名の商品が発売される際は、タウリンはアルギニンなどの他の栄養素に置き換えられています。
日本で生活している限りは、タウリンを摂取しすぎる可能性は少なく、また、大量に摂取しても、重篤な副作用に陥る心配はないと考えて良いでしょう。
まとめ
タウリンの解説はいかがだったでしょうか。摂取することで劇的に効果が得られるという栄養素ではないですが、健康を維持するためには不可欠であることがお分かりいただけたかと思います。
タウリンの持つ主な効果として、コレステロールの減少、心臓や肝臓の機能向上、視力の回復、インスリン分泌促進、高血圧の予防などを紹介しました。また、摂取によって、運動機能が高まる可能性についても解説しました。タウリンは、栄養ドリンクに含まれる単なる疲労回復物質ではなく、さまざまな働きを持つ物質であると言えるでしょう。
タウリンの推奨摂取量は定められていませんが、仮に過剰に摂取した場合も、余分は尿として排出されるため、重篤な副作用はないとされています。また、日本人はタウリンを豊富に含む魚介類を摂取することが多いため、不足する心配が少ないことにも触れました。
タウリンについてより理解が深まり、健康増進のお役に立てれば幸いです。
注釈
出典
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