執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
ビタミンB1(チアミン)とは
まずビタミンB1の基本情報についてご紹介します。
ビタミンB1(チアミン)の概要
ビタミンB1は水溶性ビタミンの一種。別名チアミンとも呼ばれています。
そもそもビタミンとは、人体の機能を正常に保つのに不可欠な成分。ほとんどが体内で合成できないため、食べ物からの摂取が必要です。
ビタミンには水に溶けない脂溶性ビタミンと水に溶ける水溶性ビタミンがあり、ビタミンB群(ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸)およびビタミンCは水溶性ビタミンに分類されます。水溶性ビタミンは通常摂り過ぎても尿に排泄されるため、体内の量が過剰になることはあまりないといわれています。
一方、脂溶性ビタミンに該当するのがビタミンA、E、K。これらは脂肪組織や肝臓に蓄えられ、さまざまな機能を発揮しています。しかし脂溶性ビタミンを摂り過ぎると、体内に過剰に蓄積されてしまい健康被害(過剰症)を引き起こす恐れもあるのです。
ビタミンB群は体内の多くの「代謝」に関与し、主にエネルギー源をつくり出すという重要な役割を担っています。代謝とは、食べ物から得られる栄養素を体内で使えるようにつくり変えることです。中でもビタミンB1は、糖質を適切にエネルギーに変換する際に不可欠な栄養素。不足するとエネルギーをつくり出すシステムが停滞し、疲労を感じやすくなってしまいます。
その他ビタミンB1は、ブドウ糖をエネルギー源とする脳の機能に重要な役割を果たしたり、糖質の代謝を促すことから糖尿病の状態を改善したりするなどの効果が期待されています。
ビタミンB1を豊富に含む食材
ビタミンB1は穀類や種実類、肉類などに多く含まれています出典[1]。
【ビタミンB1を多く含む食品(可食部100g当たり)】
- 豚もも(赤肉/生)……0.96mg
- ごま(乾)……0.95mg
- 豚ロース(赤肉/生)……0.80mg
- 豚かた(赤肉/生)……0.75mg
- カシューナッツ(フライ/味付け)……0.54mg
- 落花生(大粒種/乾)……0.41mg
- 玄米……0.41mg
- 胚芽精米……0.23mg
- そば(生)……0.19mg
ビタミンB1を食品から摂取する場合、加熱し過ぎたり水にさらし過ぎ(洗い過ぎ)たりしないようにすることで効率よく摂取できます。ビタミンB1は水に溶け出しやすい上、熱にも影響を受けやすいため、より効率よく摂取したい場合はサプリメントからの摂取もおすすめです。
ビタミンB1に確認されている機能や効果
ここからはビタミンB1に期待できる主な効果をご紹介します。
1.エネルギー代謝の促進
ビタミンB1は、摂取した糖質をエネルギーにつくり変える体内システムに不可欠な成分です。そのためビタミンB1が不足すると、糖質がエネルギーに変換されづらい
エネルギーとして使われずに余ってしまった糖質は脂肪として蓄えられるため、ビタミンB1不足は肥満の原因となり得ると考えられるでしょう。
肥満の方を対象とした研究では、肥満手術を希望する方のうち15.5~29%の方にビタミンB1欠乏が認められたことが報告されています出典[2]。
また2013年から2015年にかけて行われた別の研究では、消化管手術の術前診療時にBMI35以上であった400人の対象者のうち、16.5%に当たる66名の方がビタミンB1欠乏症と診断される結果となりました出典[3]。
ビタミンB1を十分に摂取することで糖質が適切にエネルギーに変換され、太りにくい体づくりに役立つと考えられそうですね。
2.疲労感の緩和
ビタミンB1には疲労を軽減する作用が期待されています。
糖質からのエネルギー産生を促進する働きを持つのがビタミンB1です。そのためビタミンB1を十分に補給することで、私たちが体を動かすエネルギーをスムーズにつくり出せるようになり、疲労を感じにくくなるといえるでしょう。
ビタミンB1欠乏症のアイルランド人高齢女性80名に、1日10 mgのビタミンB1を投与した研究結果が1991年に報告されました。この調査によると、ビタミンB1投与により食欲や体重など一般的な健康状態の改善に加え、睡眠パターンの改善や活動量の増加の他、疲労感の改善につながりました出典[4]。
またビタミンB1は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の症状の一つ、全身倦怠感の改善にも有効であることが示唆されています。この研究では、2011年1~4月にかけて潰瘍性大腸炎の患者8名とクローン病の患者4名に、各患者の体重に応じて1日当たり600mg~1,500mgのビタミンB1を投与したところ、12名中10名が治療前と比較し明らかな倦怠感の回復がみられました出典[5]。
ビタミンB1は、いわゆる栄養ドリンクなどにも配合されています。このことからも、日々の仕事疲れが辛いと感じている方にとっておすすめの成分であるといえそうですね。
3.落ち込みやうつ症状の対策
ビタミンB1に期待される効果の一つとして、うつ症状に関するものがあります。
抗うつ薬とビタミンB1を併用することで、抗うつ薬の効果の出現を早めるという報告があります。入院加療中のうつ病患者51名にビタミンB1を投与したところ、投与しない群と比較し6週間ほど早く治療効果が現れ、その後効果が弱まることはありませんでした出典[6]。
また、50〜70歳の中国人1,587名の血中(赤血球中)ビタミンB1濃度を測定したところ、濃度が低いほどうつ病の有病率が高い傾向にあったという報告もあります出典[7]。
ビタミンB1の、うつ病など気分障害に対する効果のメカニズムはまだ解明されてません。同じビタミンB群の「葉酸」にもうつ病に対する効果が期待されていることから、ビタミンB群がこのような症状に与える影響についての研究が世界中で進められているようです。
4.記憶力のサポート
ビタミンB1は、糖質のエネルギー代謝に関わることで脳の働きを活性化させ、集中力や記憶力のサポートに役立ちます。
脳内の神経伝達物質を活性化させるエネルギー源となるのが糖質(ブドウ糖)です。その糖質の代謝に関わるビタミンB1が不足すると、脳のエネルギー不足が生じ脳機能の低下を招きます。
ビタミンB1欠乏は認知機能の低下などと深く関係していることは、古くから知られています。ビタミンB1欠乏症マウスによる研究では、記憶や学習能力に関わる脳の「海馬」と呼ばれる部位の機能低下がみられることが報告されました。これは、ビタミンB1が欠乏することで海馬の神経細胞が変性を起こしたために現れる症状であることが示唆されています出典[8]。
加齢に伴い記憶力の低下が気になってきたという方は、ビタミンB1が欠乏しないように意識するとよさそうですね。
5.糖尿病の対策や緩和
糖尿病の方はビタミンB1が欠乏していることがわかっており、その関係性についてさまざまな研究が進められています。
糖尿病には自己免疫疾患などが原因でインスリン自己注射が必須となる1型と、遺伝や生活習慣などが引き金となって生じる2型があります。この二つのタイプの糖尿病ではどちらも血中ビタミンB1濃度が低下していることが分かっています。
ビタミンB1が不足した結果、糖質(ブドウ糖)をうまくエネルギー源に変換することができない上に、余ってしまったブドウ糖が各臓器で悪さをし、腎症などの糖尿病特有の合併症を引き起こすと考えられているのです。
また糖尿病患者の動脈硬化予防には、ビタミンB1の摂取が有効であることも示唆されています。これはビタミンB1を摂取することで、LDLコレステロールなどの血中脂質の酸化を防止するためであるとされています。
ビタミンB1と糖尿病との関連については、まだ完全に明らかにされていません。しかしビタミンB1の摂取により、糖尿病の合併症としての心疾患や脳血管疾患のリスクを減らす可能性も期待されています。
ビタミンB1の摂取量と注意点
最後にビタミンB1の摂取上の注意点をご紹介してこの記事を締めます。
ビタミンB1の推奨摂取量
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、ビタミンB1の摂取推奨量は以下の通りです出典[9]。
【ビタミンB1の摂取推奨量(1日当たり)】
- 男性(18~49歳):1.4mg
- 男性(50~74歳):1.3mg
- 男性(75歳以上):1.2mg
- 女性(18~74歳):1.1mg
- 女性(75歳以上):0.9mg
なお妊婦中の方や授乳中の方は、それぞれの年代の推奨量に+0.2mgを付加した量が推奨されています。
また、厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」による1日当たりのビタミンB1摂取量は、成人男性平均1.03mg、成人女性で平均0.88mgです出典[10]。食事摂取基準と併せて見てみると大幅な不足はないものの、やや不足傾向であることが分かります。
ビタミンB1は食事から十分に補える栄養素であると考えられます。しかし、不足が心配な方は必要に応じてサプリメントなどを利用するのもひとつの方法かもしれませんね。
食事からのビタミンB1摂取量が長期にわたって不足したり、糖質やアルコールを過剰に摂取したりする食習慣のある方は、ビタミンB1の体内への吸収が正常に行われず欠乏症を生じる可能性があります。ビタミンB1が欠乏すると、全身の倦怠感や手足の知覚障害などが生じる脚気(かっけ)や、歩行障害や意識障害を来し慢性化すると精神疾患に移行するウェルニッケ脳症を引き起こすことが知られています。
一方、現時点ではビタミンB1の過剰摂取による健康被害は報告されていません。基本的にビタミンB1をはじめとする水溶性ビタミンは、過剰に摂取しても尿中に排泄されます。そのため、摂り過ぎることで健康に害を及ぼすことはあまりないと考えられています。ただし、まれにアレルギー反応を引き起こすことが知られています。
ビタミンB1サプリメントの飲み方
ビタミンB1を摂取する上でのポイントは「他のビタミンB群に属する成分と一緒に摂取する」ことであるといえるでしょう。
ビタミンB群は体内のさまざまな代謝に関与し、主にエネルギー源をつくり出すという重要な役割を担っています。
【ビタミンB群の主な働き】
- ビタミンB1……糖代謝に関与
- ビタミンB2……脂質代謝に関与
- ナイアシン……糖、たんぱく質、脂質の代謝に関与
- ビタミンB6……アミノ酸の代謝に関与
- ビタミンB12……アミノ酸や脂質などの代謝に関与
- 葉酸……赤血球の生成に関与
- パントテン酸……脂質の代謝に関与
- ビオチン……アミノ酸や脂質の代謝に関与
エネルギー源となる栄養素には「炭水化物(糖質)」「脂質」「たんぱく質」があり、ビタミンB1は糖質の代謝に関与する成分です。しかし上記でも確認できるように、糖代謝に関与するビタミンB群はB1だけではありません。
そのためビタミンB1単独で摂取するよりも、他のビタミンB群と合わせて摂取することでエネルギー産生がスムーズに行えると考えられます。
ビタミンB1を摂取するタイミングに明確な定めはありませんが、本来食事で摂取できる成分でもあるため。3食の食事のタイミングで摂取するとよいでしょう。一度に多く摂取しても尿中に排泄されてしまうため、朝と寝る前や食事の前後などを含め、1日2~3回に分けて摂取するのがおすすめです。
まとめ
ビタミンB1(チアミン)は水溶性ビタミンの一種で、基本的に過剰摂取による副作用の心配はあまりないといわれています。
糖質をエネルギーに変換するために不可欠なビタミンB1は、十分に摂取することで疲労回復や記憶力、糖尿病対策への効果が期待されています
食事からも摂取できる成分ですが調理での損失もあるため、より効率よく摂取したいならサプリメントで摂取するのも一つの方法です。また他のビタミンB群と一緒に摂取することで、よりビタミンB1の効果が発揮されるでしょう。
出典
- 1.
文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
- 2.
Kerns JC, Arundel C, Chawla LS. Thiamin deficiency in people with obesity. Adv Nutr. 2015 Mar 13;6(2):147-53.
- 3.
Nath A, Tran T, Shope TR, Koch TR. Prevalence of clinical thiamine deficiency in individuals with medically complicated obesity. Nutr Res. 2017 Jan;37:29-36.
- 4.
Smidt LJ, Cremin FM, Grivetti LE, Clifford AJ. Influence of thiamin supplementation on the health and general well-being of an elderly Irish population with marginal thiamin deficiency. J Gerontol. 1991 Jan;46(1):M16-22. doi: 10.1093/geronj/46.1.m16. Erratum in: J Gerontol 1991 Sep;46(5):M180.
- 5.
Costantini A, Pala MI. Thiamine and fatigue in inflammatory bowel diseases: an open-label pilot study. J Altern Complement Med. 2013 Aug;19(8):704-8. doi: 10.1089/acm.2011.0840. Epub 2013 Feb 4.
- 6.
Ghaleiha A, Davari H, Jahangard L, Haghighi M, Ahmadpanah M, Seifrabie MA, Bajoghli H, Holsboer-Trachsler E, Brand S. Adjuvant thiamine improved standard treatment in patients with major depressive disorder: results from a randomized, double-blind, and placebo-controlled clinical trial. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 2016 Dec;266(8):695-702.
- 7.
Zhang G, Ding H, Chen H, Ye X, Li H, Lin X, Ke Z. Thiamine nutritional status and depressive symptoms are inversely associated among older Chinese adults. J Nutr. 2013 Jan;143(1):53-8.
- 8.
Inaba H, Kishimoto T, Oishi S, Nagata K, Hasegawa S, Watanabe T, Kida S. Vitamin B1-deficient mice show impairment of hippocampus-dependent memory formation and loss of hippocampal neurons and dendritic spines: potential microendophenotypes of Wernicke-Korsakoff syndrome. Biosci Biotechnol Biochem. 2016 Dec;80(12):2425-2436. doi: 10.1080/09168451.2016.1224639. Epub 2016 Aug 31.
- 9.
厚生労働省|日本人の食事摂取基準(2020年版)(2)水溶性ビタミン
- 10.
厚生労働省|令和元年度国民健康・栄養調査報告 第1部 栄養素等摂取状況調査の結果
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