監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
寝る前のプロテインで得られるメリット3選
トレーニングの効果を高めるため、ダイエットのため、プロテインを活用している方は多いのではないでしょうか。
運動前後にプロテインを補給することで、筋力トレーニングの効果をより高く得られることはよく知られています。しかしもうひとつ、おすすめしたい摂取タイミングがあるのです。
それは夜寝る前。長時間の睡眠に備えてプロテインを摂取することは、私たちの体や心に様々なメリットをもたらしてくれるのです。
メリット1.筋肉の合成効率UP
筋力トレーニングをする人がプロテインを摂取する一番の理由は、筋肉の合成効率を高めて筋肥大を促進するためでしょう。
筋肥大のためには、トレーニング後24時間にわたる継続的なたんぱく質の摂取が重要です。そのため、朝食、昼食、夕食と、均一に十分な量のたんぱく質を摂取することで、筋肉の合成効率が高まるのです。
しかしこの3食のたんぱく質補給だけでは、長時間の睡眠における睡眠時にたんぱく質の供給が途絶えてしまいます。
たとえば朝7時、昼12時、夜8時に食事を摂った場合を考えてみましょう。夜8時から朝の7時までの11時間、たんぱく質の供給が行われない状態となります。
そこで夜の11時にプロテインを摂取すると、朝食までの時間を11時間から8時間に短縮することができます。より持続的なたんぱく質補給が可能になり、筋肥大を促進する効果が期待できるというわけです。
寝る前のプロテイン補給の効果は、若い男性を対象とした研究で証明されています。寝る前のプロテイン補給を行ったグループは、ノンカロリー飲料を摂取したグループと比較して、筋力の増加率が1.26倍、大腿四頭筋の断面積の増加率が1.75倍になっていたことが確認されました出典[1]。
このように、筋肉の合成効率を高めるためには、寝る前のプロテイン補給により、体の中にたんぱく質が供給されない時間帯をできるだけ短くすることが重要なのです。
メリット2.筋肉の回復促進
筋力トレーニングにおいて陥りがちなのが筋肉痛。睡眠によって筋疲労を回復し、痛みのない良好な状態で次のトレーニングに挑むことは、トレーニングのパフォーマンスを高め、筋肥大の効率を上げるためにも重要です。
損傷した筋肉を回復させるためには、やはりたんぱく質の補給が不可欠。十分なたんぱく質補給を行うことで、筋肉の回復を促進し、次のトレーニングに万全な状態で挑めるようになります。
サッカーの試合による筋疲労からの回復を比較した研究において、カゼインプロテイン40gを寝る前に補給したグループは、炭水化物40gを補給したグループと比較して、12時間後および36時間後の、運動成績や筋力指数の回復が高まったことが確認されています出典[2]。
激しいトレーニングにおける筋肉痛に悩まされている方、今よりも頻繁にトレーニングを行いたい方。筋肉の回復のため、寝る前のプロテインを取り入れてみてはいかがでしょうか。
メリット3.継続により睡眠の質を向上
強すぎる疲労やストレスなどにより、寝つきが悪くなっていませんか?
睡眠不足は疲労の回復や筋肉の合成の妨げとなるほか、男性ホルモンであるテストステロンの合成量も低下させてしまいます出典[3]。筋力トレーニングにより体の引き締めや筋肥大、ダイエットを狙っている方にとって、睡眠不足は大敵であると言えるでしょう。
そこでおすすめしたいのが寝る前のプロテイン。寝る前のプロテイン摂取を続けることにより、睡眠をサポートするホルモンの生成を促し、入眠しやすくする効果が得られる可能性があるのです。
プロテインには必須アミノ酸が非常に良いバランスで配合されています。このうち、睡眠の質を高めるためのアミノ酸として重要なのが、トリプトファン。トリプトファンは必須アミノ酸として筋肉の合成に必要であるほか、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの材料として使われます。
トリプトファンが不足していると、リラックス効果のあるセロトニンを十分に合成することができません。セロトニン不足は緊張や不安を引き起こしやすくなるため、不眠の原因となってしまいます。
また、セロトニン以上に重要なのが「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンです。セロトニンは朝に合成され、このセロトニンが夕方から夜にかけて、メラトニンに変化し分泌されます。入眠をスムーズにする効果を得るためには、セロトニンの合成、ひいてはトリプトファンの十分な補給が重要なのです。
十分に摂取したトリプトファンがセロトニンやメラトニンを合成し、効果を発揮するのは翌日以降になります。そのため快眠効果を期待する場合は、寝る前のプロテイン摂取を習慣付けることをおすすめします。
寝る前のプロテインはカゼインが最適?
プロテインには幾つか種類がありますが、特に寝る前の摂取に適したもの、というのは存在するのでしょうか。
寝る前にプロテインを摂取したことのある方は、寝る前にはたんぱく質の持ちが良いカゼインプロテインが最適、と言われていることをご存知かもしれませんね。以下ではこの評判の検証を含め、プロテインの種類ごとにその効果を解説します。
カゼインプロテイン・ソイプロテインのメリット
牛乳から作られるプロテインは、カゼインプロテインとホエイプロテインに分けられます。このうちカゼインプロテインは牛乳の固形物由来のもの。不溶性であり、吸収速度が緩やかであることを特徴としています。体内での消費が緩やかであり、体内で長持ちしやすいたんぱく質であると言えますね。
カゼインプロテインは、長時間たんぱく質を補給できない睡眠中に備えるため、寝る前に摂取することでより高い効果を発揮します。
睡眠の30分前にカゼインプロテイン40~48gを摂取することで、たんぱく質の合成効率が高まることが確認されています。筋肉の回復が促進され、筋肉の損傷による炎症反応や筋肉痛が和らぐ効果も出典[4]。
また、睡眠前に30gのカゼインプロテインを摂取したところ、筋力トレーニングの効果として、筋原線維たんぱく質の合成速度が37%高まったとも報告されています出典[5]。
筋肉の合成効率や回復速度を高め、筋肉痛の緩和の効果も期待できるカゼインプロテインは、確かに寝る前の摂取に適していると言えるでしょう。
大豆を原料とするソイプロテインも、カゼインプロテイン同様にゆっくりと吸収されるたんぱく質です。満腹感が持続しやすく、たんぱく質の効果をより長時間得ることができます。
植物性たんぱく質であるソイプロテインは比較的安価であり、続けやすいことも大きなメリットですね。
ホエイプロテインも筋肥大や睡眠に効果的
一方、ホエイプロテインは牛乳の液体成分由来のものです。ヨーグルトの上澄みが透明になっているのを見たことはありませんか? ホエイとはあの透明な部分を差し、水溶性のたんぱく質があの中に溶け込んでいるのです。
ホエイプロテインは体への吸収速度が非常に速いため、運動直後のエネルギー補給として利用することで、筋肉の回復速度を高める効果が期待できます。
速やかに吸収されるホエイプロテインは、睡眠前の摂取には不適切なのでは、と考える方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、寝る前のホエイプロテインの摂取においても、カゼインプロテインの摂取と同じように、筋肉の合成や疲労の回復を高める効果が得られることが分かっているのです。
その秘密は、ホエイプロテインに豊富に含まれるアミノ酸、ロイシンにあります出典[6]。ロイシンは必須アミノ酸であり、筋肉の材料として使われます。それだけでなく、筋肉の合成を促すという「たんぱく質の同化作用」を促進させる効果も。
筋肉の合成を促進させる効果を得ることで、持続性の高いカゼインプロテインと同等の効果が得られていると考えられます。
ホエイプロテインとカゼインプロテインを摂取することによる、一晩の筋肉合成反応を比較したところ、どちらも筋肉の合成が促進され、有意差は生じていませんでした出典[7]。
また、寝る前にホエイプロテインの一種であるα-ラクトアルブミンを摂取することで、セロトニンやメラトニンを効率よく合成でき、快眠に繋がることも分かっています出典[8]。
筋肉においても睡眠においても、ホエイプロテインは優秀な食品として活躍してくれることが分かりますね。
寝る前のプロテインの効果的な摂り方5選
寝る前のプロテイン摂取は、このように筋肉や睡眠に様々なメリットをもたらします。プロテインの質にこだわりすぎず、続けやすいものを選んで摂取することが重要ですね。
では、これらのプロテインによる筋肉や睡眠への恩恵をより多く得るためには、どのようなことに気を付ければ良いのでしょう。以下ではプロテインの効果的な摂り方について5点ほど解説します。
1.20~40gを目安に摂取する
睡眠中の筋肉の合成効率、回復速度を高めることを検証したほとんどの研究において、寝る前に20~40gのプロテイン摂取が行われています。この量での摂取を続けることで筋肉への効果が確認できているため、寝る前の摂取量として20~40gを目安にすると良いでしょう。
また、運動後12時間以内における、プロテイン摂取量と頻度との最も効率的な配分を調べた研究においては、6時間ごとに40g、または3時間ごとに20gの摂取によって、筋肉の合成効率がより高まったと報告されています出典[9]。
十分な休息のため、最低でも6時間の睡眠時間は確保しておきたいところ。そのため就寝前のプロテイン摂取としては、40gがより効果的であると考えられますね。
ただし、プロテインは飲み過ぎると消化器系に負担がかかり、睡眠の妨げとなることがあります。量を減らす、消化吸収に優れたプロテインを選ぶ、などの工夫により、睡眠の質を落とさないレベルでの摂取を続けてみましょう。
2.就寝の30分~1時間前を目安に摂取する
プロテインを補給する目的として、睡眠中の体にたんぱく質を枯渇させない、というものがあります。加えて、睡眠中は筋肉の合成や回復を促進する成長ホルモンの分泌が高まっています。
成長ホルモンの力を借りることで、より効率的な筋肥大や、筋肉痛の緩和が可能になるのです。
成長ホルモンの分泌は、眠りに入って初めて発生するノンレム睡眠のタイミングで最も盛んになることが分かっています出典[10]。成長ホルモンの恩恵をより多く受けるため、このタイミングに合わせてプロテインを摂取すると良いでしょう。
ただし、就寝直前の飲食はなるべく避けた方が良さそうです。たんぱく質食品であるプロテインは消化にある程度の負担がかかります。消化器系に負担をかけ、睡眠の質を下げることにもなりかねないため、遅くとも寝る30分前に摂取することをおすすめします。
3.食物繊維と合わせて腸内環境の悪化を防ぐ
筋肉の合成や回復に欠かせないたんぱく質ですが、摂りすぎは腸内環境の悪化を招きます。たんぱく質は腸内で悪玉菌のエサとなったり、アミノ酸発酵によって炎症反応を生じやすくなったりと、腸内環境のトラブルを引き起こすリスクの高い栄養素でもあるのです。
これら腸内環境の悪化を防ぐように働いてくれるのが、善玉菌を増やし、アミノ酸発酵を弱める働きを持つ食物繊維。野菜や果物、豆類を日々の食事で意識して摂取することで、腸内環境を良好に保つことができます。
また、寝る前にプロテインと合わせて食べたいものとして、睡眠の質を高める効果のあるキバナナやキウイをおすすめします。
バナナからは食物繊維と同じ働きを持つレジスタントスターチや、セロトニンやメラトニンの合成に不可欠なトリプトファンを摂取できます。キウイには疲労回復効果のあるクエン酸が豊富です。
どちらも食物繊維を豊富に含んでおり、生で食べられるため手軽で続けやすい食品です。これらの摂取により、腸内環境の改善と睡眠の質の向上、2つの効果が期待できるでしょう。
4.筋トレしない日にも摂取を
毎日筋力トレーニングをしない場合、プロテインはトレーニングの日だけにしておこう、と考える方もいらっしゃるかもしれませんね。しかしトレーニング期間中は、運動しない日にも十分なたんぱく質を摂取することが望ましいことが分かっています。
筋肉の合成効率が最も高まるのは、トレーニング後24時間。しかし筋肉の回復にはそれ以上の時間がかかります。そのためトレーニングの翌日や翌々日にもたんぱく質を摂取することで、筋肉の回復効率を上げることに繋がるのです。
また、プロテインのトリプトファンが、セロトニンを経て、メラトニンに合成され、快眠効果を発揮するのは翌日以降のこと。快眠効果を得るためには、毎日十分な量のトリプトファンが必要となります。
さらに、筋力トレーニング中には食欲が増加しがちです。食欲のままに食べてしまってはすぐカロリーオーバーを招き、体脂肪の増加に繋がってしまいます。たんぱく質は、そんな食欲のコントロールにも有効です。たんぱく質を摂ることで消化管ホルモンであるコレシストキニン(CCK)の分泌が促進され、食事に対する満足感を高める効果が得られるのです。
トレーニングをしない日にも、寝る前のプロテインを継続することで、筋肉、睡眠、食欲への効果を継続して得ることができるでしょう。
5.お酒との組み合わせはNG
筋力トレーニング中はお酒を控えるべき、というのはよく知られていることですが、プロテインとの相性も良くありません。
運動後のプロテイン摂取において、同時にアルコールを摂取することで筋肉の合成効率が24%減少することが明らかになっています出典[11]。折角のプロテインによる効果が減少し、筋肥大の効率が下がってしまうため、プロテインとお酒の同時摂取は避けた方が良いでしょう。
なお、アルコールの摂取によりテストステロンの分泌が抑制されることも分かっています。テストステロンは男性ホルモンであり、特に男性においては筋肥大を促進したり、活力や精力を高めたりする重要なもの。男性の方がテストステロンの量が多いため、アルコールが筋肉に与える悪影響は、男性でより強く出てしまうのです。
特に夕方から夜にかけてトレーニングをしている場合には、プロテイン摂取の有無に限らず、お酒は控えるようにしましょう。
まとめ
寝る前にプロテイン摂取は、筋肉、睡眠、食欲などに様々なメリットをもたらします。毎日の摂取を習慣化して、筋力トレーニングの効率UPに繋げましょう。
一般にはカゼインプロテインが寝る前には最適と言われていますが、ホエイプロテインでも筋肥大や睡眠の質の向上において、同等の効果を得られます。味や溶かしやすさ、コストパフォーマンスなどを吟味し、ご自身に合ったプロテインを選んで続けてみてください。
筋肥大の効率化に必須のたんぱく質ですが、摂りすぎによる消化器への負担や腸内環境の悪化にはご注意を。量の調節や食物繊維の補給により、体調を害さない範囲で摂るようにしましょう。
出典
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