【急な眠気の原因】アデノシンと上手に付き合う3つのポイント
2023年8月10日更新

執筆者

薬剤師・公認上級妊活マイスター・公認スポーツファーマシスト

牛尾 真智子

製薬会社2社で乳がん・肺がん・大腸がんなど8つの抗がん剤領域を経験。
患者様の人生に携わること・医療業界での知識と経験を生かして、医療と予防医学の懸け橋となる存在になりたいと考えています。また、少しでもお客様のお悩みに寄り添えるよう公認上級妊活マイスター・公認スポーツファーマシスト・メンタルケアカウンセラーの資格を取得。納得感のある、心が軽くなる情報を届けることで、皆様のより良い生活の一助になれるよう邁進いたします。

アデノシンとは?

アデノシンは眠気のメカニズムを理解するうえで鍵となる物質です。それでは体の中でどのように生成され影響を及ぼすのか、うまく付き合う上で知って頂きたいアデノシンの基礎知識についてお話いたします。

 

神経伝達物質でアデノシン三リン酸の代謝物

“眠り”と一緒に語られる事が多いアデノシン。実は体内のゴミとも言える“代謝物”の一種です。筋肉細胞や脳細胞を動かすための主要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)が分解されると生成されます。

エネルギーとして使われるアデノシン三リン酸以外にも、DNAやRMAの構成要素としての役割もあり、体内では様々な形で存在しています出典[1]

アデノシン単体での役割は神経の伝達。眠気の誘発、免疫力の向上、抗炎症作用なども報告されています。また、心拍数の安定化や特定の患者さんに薬として処方されることも。特に心臓疾患を診断する際や血管拡張を目的として活用されています。

とはいえ、薬を服用するのは上記のような特別なお身体状態の方のみと言えます。本記事をお読みいただいている方々にとっては、アデノシンとは神経伝達物質で様々な役割を持っており、アデノシン三リン酸の代謝物であると憶えて頂ければ十分です。

 

アデノシンは眠気の正体

近年注目を集めるアデノシン。その最大の理由が、アデノシンが強烈な眠気を促す物質であるためです。

アデノシンは脳内でA1やA2と呼ばれる受容体と結合すると、覚醒をもたらすセチルコリンやノルエピネフリンなどの働きを抑制します。つまり、脳の覚醒度が抑えられるため、アデノシンが増加する事で眠気を感じるのです。アデノシンによる眠気は『睡眠圧』と呼ばれ、聞いたことがある方も多いでしょう出典[2]

アデノシンはATPの代謝物。つまり、身体を激しく動かし、より多くのエネルギーを利用すると濃度が高くなると報告されています。また、睡眠時間の長さや起床からの時間も体内量とは密に関わっています。

就寝中は身体も脳も休んでいるため、代謝物であるアデノシンは濃度が下がり、それに伴い次第に覚醒をもたらす物質の働きが強くなるため、適切な睡眠時間と質を確保すると気持ち良く目覚められるのです。一方で起床中は身体のどこかしらが、激しく“活動”しているため、アデノシンが生成され体内には蓄積します。特に運動をしていなくとも、徹夜をすると強烈な眠気に襲われるのは、微々たる活動でもアデノシンが体内に蓄積していくからなのです出典[3]

もちろん眠気はアデノシンだけでコントロールされているわけではありません。メラトニンやコルチゾール、ヒスタミンなど数多のホルモンや物質が複雑に絡み合っています。とはいえ、アデノシンが眠気の発生において重要な役割をしていることは事実です。

アデノシンの体内量を適切に制御し、眠りたい時間に十分な眠気を感じられるような生活を意識しましょう。

 

脳疲労にも影響するアデノシン

アデノシンは脳内で増減する物質です。そのため、脳疲労脳機能への影響も報告されています。例えば、認知機能、集中力、記憶力、意志決定など、日々の基本的な生活から仕事のパフォーマンスに影響する可能性も十分に考えられます出典[4]

実際にアデノシンの脳内濃度の変化により、脳機能が制限され利用できる時間当たりのエネルギーが減少する可能性も示唆されています。2013年にまとめられたアデノシンと脳機能のメタ分析では、アデノシン濃度の向上とともに、脳内ATPが減少し、エネルギー供給が不足。認知機能の低下に繋がる可能性が報告されています出典[5]

寝不足の時に感じるぼーっと感や、激しい物忘れ。アデノシンの脳内濃度の向上による脳機能の制限が原因である可能性も十分に考えられるのです。

 

アデノシンとの上手な付き合い方

脳内濃度が高くなると眠気を促す『アデノシン』。

自然な眠りを実現するためには、日中から少しずつ体内量を増加させ、就寝前にピークとなるように体内量を調節できる事が理想です。

ここからは、アデノシンを上手に増やして行く方法をご紹介します。

 

ビタミンB群を摂取し、ATPを作り出す

アデノシンを上手に蓄積するためには、アデノシンの元となる『アデノシン三リン酸』の体内量を効率的に増加させる必要があります。

そのために重要な役割を担うのが、基礎ビタミンの1つである『ビタミンB群』。特にB1、B2、ナイアシン、パントテン酸は、糖からのATP生成や酵素の形成サポートなどで直接的、間接的に重要な役割を担うビタミンです出典[6]

ビタミンB群の摂取により就寝時にアデノシンの体内量が増加する、と直接的に観測するデータはありません。しかし、ビタミンB群の摂取によりATPが増加したと間接的に報告する論文は数多く存在します。

例えば、2013年に韓国で行われた実験。ビタミンB1を摂取した後に被験者をサイクリング運動させた結果、明らかに疲労を感じるまでの時間が長くなったと報告があります。つまり、ビタミンB1の摂取がATPの生成に繋がり、効果的にエネルギー生産&運動による消費が行われていると結論付けています

出典[7]

なお、ビタミンB群は水溶性ビタミン。そのため、1度に大量に摂取しても尿と共に体外に排出されてしまいます。1日の中で複数回に分けての摂取がおすすめです。

ビタミンB群の摂取により、眠気を誘発するアデノシンの原料である『アデノシン三リン酸』を適切量、体内に蓄積しておくことが可能です。戦略的にエネルギーを蓄積するように意識してみてください。

 

日中はカフェインを摂取しアデノシン受容体をブロック

アデノシンは受容体に結合する事で、眠気を誘発します。逆に言えば、アデノシンと受容体の結合をブロックできれば、日中に発生する眠気のブロックに繋がる期待が持てるのです。

カフェインの覚醒作用はまさにこれ。アデノシンと似た分子構造を持つため、アデノシンの受容体と結合でき、眠気の発生を抑える働きがあるのです。

実際にイギリスの大学の心理学研究者から、日中のカフェイン摂取が職場のパフォーマンスを高める事を確認した論文が発表されています。

被験者は定期的にカフェインを摂取する男女110名。その中でも220mg以上のカフェイン(コーヒー2.5杯分)を摂取した人ほど、勤務時間中の注意力が大幅に向上しました。同じ研究者が行った異なる実験では、1,253名を対象にした調査で、カフェインを定期的に摂取した従業員ほど認知障害の頻度が低かったと報告されています。

また、事故の危険性が高い業務に従事している1,555名の労働者を対象とした試験でもカフェインを摂取する被験者群の方が、リスク行動が少ない事が判明しています出典[8]

日中は活動を通じてアデノシンが増える時間です。しかし、アデノシンが増えても眠気の発生を予防する術は存在します。それがカフェインの摂取なのです。

 

筋トレ/HIITでアデノシンを生成する

体内のアデノシン三リン酸は身体を動かす=運動する事でアデノシンに分解されます。この時に大切な事が、身体に適切な負荷をかけ、エネルギーを消費する事。つまり、筋トレなど負荷をかけやすい運動を行う事で効果的にアデノシンを増やす事が可能です。

中でも逞しくスマートなお身体の実現にも効果的とされ、近年注目を集めるのがHIIT(ヒット)。High Intensity Interval Training の頭文字を取った略語です。負荷の大きい運動と軽い運動を短いスパンで繰り返し行う事で、短時間で効率的に身体を追い込めます。エネルギーを多く消費する事となりますので、より多くのアデノシンの生成も期待できる運動方法です。

間接的ではありますが、HIITを行う事で『睡眠の質を向上させる』と報告する論文は多数存在します。

例えば、2020年にスペインで行われた実験。69名の中年の男女がHIITを12週間継続した結果、睡眠効率が改善、中途覚醒も減少し総合的な睡眠の質が向上したと結論付けています出典[9]

また、2021年に678本の睡眠に関する論文を分析した研究でもHIITが睡眠の質の改善に効果的であると結論付けられています。本研究では睡眠効率や重症な不眠症の方には特に好影響がある事が示されています出典[10]

このようにHIITなど負荷が大きな運動を行いエネルギーを消費する事でアデノシンが増加し、自然な眠気が促される結果、睡眠の質の向上への期待が持てるのです。

HIITのやり方/メニューはコチラ

 

まとめ:アデノシンは上手に増やせば最強の眠気誘発剤

アデノシンは眠気を司る神経伝達物質です。

上手に体内量を増加させる事で、眠りたい時に眠気を発生させるように、脳を制御する事がある程度できるようになります。逆に睡眠不足などで意図せず脳内量が増加してしまうと、日中の眠気が発生してしまうと考えられます。

そんな時は1杯のコーヒーでアデノシンが受容体と結合する事をブロックしたり、短時間の昼寝でアデノシンを脳内量を少し減らしてあげたりする事がおすすめです。

なお、夜間に自然な眠気を促すためには、夕方〜夜間にかけて脳内量を増やしていきましょう。そのためにも、ビタミンBの摂取によるアデノシン三リン酸を体内に蓄積し、適切なタイミングでHIITなどの運動を行ってアデノシンを作り出してあげる必要があります。

ちなみにHIITはあくまでも運動方法の1つ。具体的な運動メニューなどはお身体の状況や、睡眠以外のボディメイクの目的によっても異なります。

お身体と相談しながら、“継続できる”適切な運動量を探し出してください。

上手にアデノシン量を制御し、適度な眠気とともに快適な睡眠を手に入れましょう。 

 

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