【睡眠改善】寝る前のランニングに期待できる12の効果と注意点
2023年8月15日更新

監修者

睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級

室井優作

心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。

執筆者

薬剤師・公認上級妊活マイスター・公認スポーツファーマシスト

牛尾 真智子

製薬会社2社で乳がん・肺がん・大腸がんなど8つの抗がん剤領域を経験。
患者様の人生に携わること・医療業界での知識と経験を生かして、医療と予防医学の懸け橋となる存在になりたいと考えています。また、少しでもお客様のお悩みに寄り添えるよう公認上級妊活マイスター・公認スポーツファーマシスト・メンタルケアカウンセラーの資格を取得。納得感のある、心が軽くなる情報を届けることで、皆様のより良い生活の一助になれるよう邁進いたします。

寝る前のランニングは睡眠に良い!夜ランのメリット5つ

多くの市民ランラーがナイトランを楽しんでいます。11,755人が回答したアンケートでも夜7時〜夜10時のランニングが3割強を占めるほど出典[1]

消去法で結果的にこの時間になってしまっているかもしれませんが、安心してください。

夜10時頃までに行う寝る前のランニングには眠りへの好影響が期待できるのです。

ここからは科学的・学術的な根拠と共に、ナイトランニングに期待できるポジティブな効果をご紹介します。

エンドルフィン分泌によるストレス解消


ストレスは睡眠不足や寝付きの悪化原因です出典[2]

そこで効果的なのがランニング。エンドルフィンと呼ばれる幸福感を醸成する物質の分泌を促し、ストレスの軽減に繋がり睡眠の質にも間接的に影響を及ぼします。

サウジアラビアの大学が発表した論文『不眠症患者における有酸素運動の睡眠の質や心理的QoL、免疫システムへの影響』内でも、ランニングなどの有酸素運動がエンドルフィンの分泌を促し、結果的に睡眠の質向上に繋がる可能性があると結論付けています。

同研究では週3回のランニングを6ヶ月継続した結果、睡眠時間は10%増、睡眠効率は10%向上(69.5%⇒80.6%)、レム睡眠までの遷移時間が20分も改善など、眠りに関する多くの項目で改善が見られました出典[3]

また、イランの大学病院が看護師を対象に行った実験では、週3回1時間の有酸素運動でストレスが軽減すると結論付けています。ちなみにこの実験では、有酸素運動終了から時間が経過するほど、ストレスが戻ってきてしまったとのこと出典[4]

つまり、最もストレスを感じたくない”就寝前”に合わせて、エンドルフィンの分泌を促しストレスを最低レベルにする事が睡眠の質の向上に繋がると言うわけです。

 

アデノシン生成による寝付き向上  

寝る前の運動は眠気を促進するアデノシンの生成にも効果的。特にランニングは一定時間継続的に身体を動かすため、効率的にエネルギーを消費し、アデノシンも効果的に増やす事ができます出典[5]

特に普段運動不足を感じている人はランニングの効果を感じられる可能性が高いです。2020年にアメリカで行われた実験では、17名の18〜44歳の男性に8週間、ランニングなどの有酸素運動を週3回30分の頻度で継続させました。その結果、睡眠の質を計測するピッツバーグ睡眠問診票の平均スコアが6点から4点へと改善したと報告されています。

※ピッツバーグ睡眠問診票は6点以上で睡眠障害があると判定出典[6]

就寝時の十分量のアデノシンは、寝付きの良さだけでなく中途覚醒の改善にも繋がります。

運動は不眠症の非薬物療法』といわれるほど。 ナイトランを上手く行って体内量を増やしましょう。

 

通常時よりもパフォーマンスアップ

ナイトランは朝や昼間のランニング時よりも、高いパフォーマンスが発揮できます。その結果、より多くのエネルギーが消費できるためアデノシンの生成が促進し、さらに睡眠の質に好影響が期待できるのです。

高いパフォーマンスの理由は眠りを司る”概日リズム”。筋肉のパフォーマンスは体温や神経の影響も多大に受けます。寝る前など就寝時間が近づくと、概日リズムにより深部体温などが少しずつ変わっていきます。意外かもしれませんが、その「寝る数時間前の状態」で筋肉は高いパフォーマンスを出せるのです。

実際に握力の強さを朝と夜で比較した実験では、夜の方が5〜6%も強かったと報告されています出典[7]

また、ランニングに近い運動でもハイパフォーマンスが報告されており、22時(夜10時)に行った方が68%長い時間動く事ができ総運動量も41%高かったと結論付けられています出典[8]

日中のランニングでもアデノシンは生成されます。しかし、夜間のパフォーマンスが高くなる時間にランニングを行う事で、より効率的な体内量増加が期待できます。

 

リズム性運動がセロトニン分泌を促進

睡眠のリズムを司るメラトニンの原料になるセロトニン。体内量の増加がリラックスを促し、睡眠の質が高くなることが確認されています。

日本医科大学が2022年に20名の男性にセロトニンを増やす活動(森の中を散歩)を行わせました。その結果、実際にセロトニン量が12%向上し、睡眠の質に関するスコアは10%も改善したとのことです出典[9]

被験者が行っている散歩は一定のリズムで同じ動きをする「リズム性運動」と呼ばれ、セロトニンの分泌に繋がると報告されています。

実際にラットを用いた実験では、一定スピードでランニングを行わせる事でセロトニン量の増加が確認されています出典[10]

つまり、夜のランニングやジョギングなどのリズム性運動が、セロトニン分泌の促進に繋がり、リラックス状態を醸成。ひいては寝付きや中途覚醒の予防など睡眠の質の向上に繋がる期待がもてると言えます。

 

朝ランニングより効率的に脂肪燃焼

夜のランニングは朝ランよりも高いパフォーマンスが出せます。これはアデノシンの生成はもちろんですが、効率的なカロリー消費や脂肪燃焼にも繋がります。

特に睡眠の質が下がりやすい肥満体型の男性には効果的。オーストラリアの大学が行った実験でも肥満気味(BMI27〜35)の被験者は夜に運動を行った時の方が、血糖値が低下(=エネルギー消費が大きい)と報告されています出典[11]

また、オランダの大学でも肥満気味の被験者に12週間トレーニングを行わせた結果、夕方〜夜に行ったグループの方が減量幅が大きくなりました。なんと体脂肪率は3%。体脂肪量は6%も低下したとまとめられています出典[12]

肥満気味の男性は『睡眠時無呼吸症候群』になる確率が高く、中途覚醒など睡眠の質の低下だけでなく睡眠不足に悩む傾向にあります出典[13]

夜のランニングやジョギングを通じて効率的に脂肪を燃焼させ、スマートな身体&質の高い睡眠を実現していきましょう。  

 

寝る前のランニング時の7つの注意点

寝る前のランニングはストレス解消や高いパフォーマンス、それに伴う睡眠の質向上が期待でき、積極的に行いたい活動です。

一方で、「深夜すぎる」「クールダウンの方法」など注意点がいくつか存在します。ここからは夜ランニングを行う上で知ってほしい留意事項をお話しします。

 

遅くても就寝1時間前までに終了

寝つきに良いからと寝る直前にランニングをするのは逆効果です。深夜などはもってのほか。

身体を積極的に動かすと脳を活性化させる『コルチゾール』の分泌増加し、寝付きや中途覚醒など睡眠の質の低下に繋がります出典[14]

就寝1時間前までに完了が理想的。ランニング後の興奮からリラックス状態に移行するまで1時間程度かかると言われているためです。

2018年に発表された23の試験の解析レビューによると、就寝時間の直前(1時間未満)に激しい運動を行うと、ベッドに入った時に心拍数が高い状態となっており、入眠まで14分長く、睡眠効率も−3.1 pp悪くなりました出典[15]

就寝直前に詰め込んで運動するよりも、1時間前には終えられるスケジュールで、時間に余裕をもって夜のランニングに出かけましょう。

 

30分を週3回が理想的

効率が良いからといって、張り切りすぎにはご注意ください。寝る前の程よい頻度のランニングが睡眠に良いとされています。

過度な運動はケガに繋がるだけでなく、内蔵系に負担がかかることもわかっています。例えば、副腎がダメージを受けると疲労の蓄積や睡眠の質低下に繋がるとも示唆されています出典[16]

台湾国立大学の研究では、6つの試験をメタ解析したところ、1回30〜60分で少しキツメの有酸素運動を週3〜5回行った結果、入眠までの時間が短縮、睡眠の質も改善、睡眠導入剤の使用も減少と睡眠全般に良い影響を及ぼしています出典[17]

毎日長時間のランニングはキツくて続かない、、という場合でも、まずは週3回、30分程度から始めると習慣化しやすいメリットもあります。ぜひ無理のない頻度でランニングを始めましょう。

 

最低でも少し息が上がる程度の強さで 

長時間のランニングは不要、とはいえ適度な負荷を与えることも大切です。

特に眠りの質を考えると、ランニングの負荷量は最低でも中強度程度(=息が軽くあがるくらいの負荷)が理想的です。なおエネルギー生産量ならびにアデノシン増加を促すため余力がある方であれば、強度を高めることもお勧めです。

特に睡眠不足にお悩みの方は、自分を追い込むランニングを行いましょう。

日本国内の1万人分のデータでは強度が高い活動を行った被験者の方が睡眠不足の解消に2倍も効果的だったという報告があります出典[18]

また、スイスで行われた臨床試験でも夜間の活動の強度が高い人ほど、寝付きや中途覚醒など睡眠の質が総合的に改善したと報告があります出典[19]

もちろん運動は継続が大切。辛すぎて三日坊主では意味がありませんが、できる限り追い込むランニング/ジョギングを行う事が睡眠の質の観点では有効です。

 

道の明るさは街灯程度に

ナイトランは道の明るさも重要です。暗すぎると、事故の危険性がありますし、明るすぎると脳の覚醒に繋がり、結果的に睡眠の質の低下に繋がります。

理想的には暗さは感じつつも足下の舗装はハッキリと見える程度。街灯のみが定期的に立っている公園などをランニングがおすすめです。

光の単位で表すと50ルクス〜100ルクス。以下の画像だと、お手洗いの周辺が50ルクス程度と言われています。

(引用元:https://www2.panasonic.biz/jp/lighting/outdoor/street_security_light/area/)

それより強い光となると、自然な眠りを導くホルモン『メラトニン』の分泌低下に繋がます。

アーケード街の一般的な明るさである200ルクスの光を浴びると、その後90分間にわたり体内のメラトニン量が低下すると報告する論文もあるほどです出典[20]

眠りの質だけを考えると理想は真っ暗。ただし、事故の危険性や身の安全を考えると、“ほどほど”の明るさが維持された道を、走るのがおすすめです。

 

運動前後の栄養補給

まず、走る前の栄養補給がお勧めです。

また、ランニング前は炭水化物を中心とした補給が効率的。アデノシン生成に必要なATPの基礎となるため、ランニング中のエネルギー枯渇を防ぐだけでなく寝付きをより効率的に改善する事が可能です出典[21]

一方で運動後の栄養補給は消化活動が必要。交換神経が活発となるため、睡眠の質に悪影響となります。また、食べたものが胃から腸に移るまで2〜4時間は必要です。腸に移る前に横になると逆流が発生し、中途覚醒や眠りの浅さに繋がります。

実際に約800人を解析した実験では、就寝前3時間以内の飲食は夜間覚醒を40%増加させると報告もあります出典[22]

ナイトラン後、どうしても空腹感が…。という場合は、プロテイン“だけ“がおすすめ。粉末状態であるため消化の負担が少なく、交感神経の活性化を回避できます。また、ランニング後の体内のタンパク質の維持にも効果的で、睡眠の質を高める働きも報告されています。

ヨーロッパの研究では、運動後かつ就寝30分前にタンパク質30gを含むプロテインを摂取した被験者は睡眠の質が総合的に向上したと報告があります出典[23]

走る前は炭水化物を多めに。ラン後はプロテインだけと決めておくと、パフォーマンスを出しつつ高い睡眠の質を実現する事ができると言えます。

 

シャワー時間も加味してランニング  

夜ランの時間は、シャワーや入浴が睡眠に与える影響も加味する必要があります。シャワーなら就寝前30分。お風呂に浸かるのであれば、就寝1時間前にはお風呂から上がるよう逆算して夜ランに出かけましょう。

就寝時の理想的な深部体温は表面体温より1〜2度低い状態です。しかし、お風呂で身体を芯まで温めてしまうと、最適体温になるまで時間がかかるのです。アメリカの研究では、40分の入浴で温められた深部体温を下げるには90分必要と報告されています出典[24]

夜ランニング後のリフレッシュは、時間があるときだけお風呂に浸かり、すぐに眠りたい時はシャワーがおすすめです。

 

寝る前のクールダウンは瞑想的な動きを

寝る前の適切なクールダウンは、さらなる睡眠の質向上に効果的です。

例えばストレッチ。ランニングにより強張った筋肉をゆっくりと伸ばすことで筋肉の疲労改善に繋がるだけでなく、ストレスの軽減にも効果的なんです。

2014年に日本で行われた実験では就寝直前に軽いストレッチを行う事で、体の休息に大切なレム睡眠を増やし、睡眠の質を改善しました出典[25]

また、強いストレスを感じている方は、ストレッチだけでなくヨガを行うのも効果的です。

2016年のアメリカの研究グループがまとめた資料では、ヨガなどの瞑想的な動きは睡眠の質だけでなく、QoLや身体能力の向上に加えて、うつ病などの抑制にも効果的だと結論付けています出典[26]

走ったら走りっぱなし…ではなく、適正なクールダウンを行う事で、筋肉疲労の軽減だけでなく快眠やストレス軽減までプラスの働きが期待できるのです。

 

まとめ:寝る前のランニングは眠りの質向上に◎

寝る前のランニングは睡眠、ストレス解消、脂肪燃焼にも効果的とよいことづくし。

一方で、明るさやお風呂の時間など夜行うからこその注意点も存在します。

また靴さえ履けば始められるとはいえ、普段全く運動していない人にはハードルが高い、と思われるのも事実です。

そんな場合は、まずはウォーキングやジョギングから始めてみてください。いずれにせよランニングやジョギングは継続性が重要です。無理せず続けられる負荷を意識してくださいね。

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