監修者
睡眠健康指導士/ロジスティクス管理3級
室井優作
心と体の健康の要となる睡眠のスペシャリスト。眠りに悩みを抱える方のコンサルティングを日々行っている。プロボクサーを目指しており、運動やダイエットに関する指導も可能。おすすめの寝具はウェイトブランケット。
執筆者
管理栄養士/分子栄養学カウンセラー
岡かな
大阪市立大学食品栄養科、大学院修士課程修了。医療機関に勤務し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の栄養管理に取り組む。その後はヘルスケア事業に移り、年間500人以上のダイエットをサポートする。現在はダイエットサポートの他、特定保健指導や健康に関わる分野の執筆も行っている。誤った情報で10キロ以上リバウンドした自分自身の経験から、科学的根拠に基づく正しい情報の発信を心掛けている。
はじめに・・・
最近、メディアでも取り上げられることが多い睡眠。
「寝たはずなのに、疲れが残っている…」そんな状況を避けるためにも、睡眠の質を上げたいと考えている人も多いでしょう。
多くの情報では睡眠の質を”上げる”行動に注目されがちですが、逆に睡眠の質を下げてしまう行動を避けることも大切なんです。
では一体、寝る前にどのような行動をとると睡眠の質が低下してしまうのでしょうか?
専門性が高いトピックだからこそ、正しい情報か判断するのがなかなか難しいですよね。
そこで、ヘルスケアの専門家である我々が学術的なデータをもとに、寝る前にやってはいけないことを解説しましょう。
寝る前に避けるべきは脳を興奮させる行動
まずは、睡眠の質が低下してしまう仕組みを深堀りしましょう。
そもそも良質な睡眠のためには、副交感神経が優位なリラックス状態を維持することが大切です出典[1]。しかし、寝る前に脳が興奮すると交感神経が優位になり、睡眠の質が低下してしまうのです。
つまり、寝る前に避けるべき行動とは、脳を興奮させてしまう行動ということですね。
また、脳の興奮は概日リズムも乱してしまいます。
概日リズムとは、いわゆる”体内時計”とも呼ばれる働き。ホルモンの分泌、体温、睡眠/覚醒サイクル、内臓の働きなどが約24時間周期でリズムを作り繰り返されている働きのことです出典[2]。
「夜になると眠たくなる」などの睡眠サイクルも、もちろん概日リズムの働きによって調整されていますが、本来のリズムを乱す行動を行っていると、結果的に睡眠サイクルも乱れます。
このように、脳が興奮することで睡眠の質が悪くなり、さらに概日リズムも乱れてしまうことで悪循環。寝る前にはなるべく脳が興奮する行動を避けるべきなのです。
寝る前にやってはいけない13のこと
では、寝る前にどのような行動をとると脳が興奮してしまうのでしょうか?
具体的な行動を13つ解説しましょう。
1.ブルーライトを浴びる
かなり有名で聞き飽きた人も多いかもしれませんが、寝る前にスマホやパソコンなどから出るブルーライトを浴びることは睡眠に良くないというデータがたくさんあります。
理由は、ブルーライトを浴びると眠りを誘うメラトニンというホルモンの分泌が妨げられてしまうから。
ブルーライトと睡眠について調査した研究では、寝る前にブルーライトを浴びると入眠までに時間がかかり、睡眠時間が短くなり、さらに睡眠の質が低下することがわかりました出典[3]。
やはり、寝る前のブルーライトはご法度だと覚えておきましょう。
2.刺激が強いコンテンツの利用や視聴
ブルーライトはもちろんですが、コンテンツの内容によって脳が興奮している場合もあります。寝る前にゲームをしたり炎上しているニュースなどを見ていませんか?
当然、刺激的なコンテンツは脳が興奮してしまい、睡眠の質が低下する原因に。
実際に、寝る前にゲームをすると寝つきが悪くなり、レム睡眠が短くなることが示されています出典[4]。
さらに、2,546人の児童に対し寝る前の行動と睡眠について調査した研究によると、寝る前にテレビを見ている人は、睡眠時間が短くなり、さらに疲労が著しく増加していることがわかりました出典[5]。
ゲームはプレイヤーの脳を強く刺激するように作られていますし、テレビを見ていればショッキングな事件が目につき興奮してしまうこともあるでしょう。
寝る前はゲームやテレビと距離を置くようにしましょう。
3.SNSを見る&投稿する
「SNSはゲームやテレビじゃないなら大丈夫。」と思うかもしれませんが、じつはかなり睡眠の質に影響を与えることをご存知でしょうか?
11,872人の生徒に対して、ソーシャルメディアの使用量と睡眠状況を調査した研究です。その結果、ソーシャルメディアの使用時間が長いほど、寝る時間と起きる時間が遅く、中途覚醒の頻度も多いことがわかりました出典[6]。
別の研究では、ソーシャルメディアをより多く使用する人は、SNSによる感情的なつながりが強くなり、有意義な情報を見逃すことへの恐怖をより強く感じる傾向が示されています出典[7]。その結果、覚醒状態が高まることで再入眠が困難になる可能性も考えられているのです。
SNSの利用は、精神衛生に悪影響を与え、結果として睡眠の質が低下してしまうということですね。SNSを手放せないと感じる方は要注意。まずは寝る前のSNSをやめてみてください。
4.タバコを一服・・・
「寝る前のタバコは、心が落ち着き寝やすくなる…。」と感じる人もいるかもしれませんが、じつは逆効果。タバコは睡眠の質を下げてしまいます。
実際に、27,300人を対象に喫煙と睡眠の質を調査した研究によると、非喫煙者よりも喫煙者の方が睡眠の質が悪く、さらに睡眠障害の確率が1.1倍高いことがわかりました出典[8]。
また、1日あたりのタバコの本数が増えるほど、より睡眠の質が悪く睡眠不足であることも示されているんです出典[8]。
タバコが睡眠の質を下げる原因の1つは、ニコチンによる覚醒作用。ニコチンは注意力を高める興奮剤であるため、就寝前のタバコは寝つきを悪くするんです出典[9]。
また、ニコチンを求める欲求によっても目が覚めてしまい、睡眠の質が下がることが言われています。日中のタバコも健康に良くはないですが、まずは寝る前は絶対に禁煙しましょう。
5.お酒を飲む
タバコと同様に、寝る前にやってしまいがちな寝酒。「寝酒なら」と思うかもしれませんが、残念ながら良くありません。
アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドは、交感神経を刺激することで覚醒作用をもたらし、睡眠の質を悪くしてしまうんです。
実際に、寝る前にアルコールを摂取すると寝つくまでの時間は短くなりますが、その後の夜間の総レム睡眠が減少することがわかっています出典[10]。
さらに、どの容量のアルコールであっても睡眠の質が低下することも示されているので出典[10]、寝る前には一滴でも飲まないほうがよさそうですね。
6.カフェインが含まれる食品を摂取
寝る前は、お酒以外の飲み物にも注意が必要です。覚醒作用のあるドリンクの代表格と言えば、カフェイン。当然ですが、カフェイン製品を寝る前に摂取すると、寝つきも睡眠の質も低下してしまいます。
実際に、19〜48歳の被験者12人に、就寝前に400mgのカフェインを摂取してもらい、睡眠の質を調べる研究が行われました。その結果、カフェインを摂取しないプラセボ群に比べて、カフェイン摂取群では入眠まで2.1倍の時間がかかり、中途覚醒の時間が2.7倍増えたことがわかりました出典[11]。
カフェインの半減期は約5時間です出典[12]。寝る5時間前までに摂取し、夕方以降のカフェインは控えましょう。
7.寝る3時間以内の食事
「お腹がいっぱいになると、眠たくなる…。」その気持ちはよくわかります。しかし、満腹で寝ることも睡眠の質を低下させてしまうんです。
18~29歳の793人に対して食事と睡眠の質を調査した研究によると、就寝の3時間以内に食事をすると、そうでない場合に比べて中途覚醒する確率が1.4倍高いことがわかりました出典[13]。
食事をしてから消化吸収が終わるまでは、2~4時間かかります。食後すぐに眠ってしまうと、消化吸収で胃腸が動き続けるため夜間の中途覚醒が起こると考えられているんです。
また、食事の内容によっては、寝る前でなくても睡眠の質に影響を与える可能性も。
6人の被験者が夕食時にタバスコソースなどの辛い物を摂取したところ、睡眠中に体温が上がり睡眠の質が著しく下がったことが報告されました出典[14]。
また、揚げ物などの脂質の多い食品も、胃酸逆流や胸やけを引き起こすことで夜間の中途覚醒が増えることが示されています出典[15]。
夕食時は、辛すぎるものや脂質の多い食品は控えたほうが良さそうですね。
さらに、栄養素によっては体内で覚醒物質の材料になるものも。
例えば、フェニルアラニン、ヒスタミン、チラミンなどのアミノ酸は、アドレナリンやノルアドレナリンなどの興奮物質の材料になるため、脳が覚醒し睡眠が損なわれる可能性も示唆されています出典[16]。
詳細なメカニズムはわかっていませんが、一定の食品や栄養素の取り過ぎには注意が必要ですね。寝る3時間前には食事を済ませ、辛い物や脂っこい物は昼食までにとどめておきましょう。
8.逆に制限し過ぎも良くない
「満腹がダメなら、空腹で寝たらよいのか?」というと、じつはそれも良くないんです。
空腹になると血糖値が下がるのですが、低血糖は突然死など引き起こす可能性があり体にとっては危機的な状態。そうならないために、体は交感神経を高め血糖値を上げようとするんです出典[17]。
もちろん交感神経が高まることで興奮作用が強くなるため、結果的に睡眠にとっては悪影響に。
実際に飢餓状態が続いている摂食障害の人は、睡眠の質が悪いことがわかっています出典[18]。また、睡眠を誘うホルモンの生成にも栄養素が必要であるため、栄養不足であることも睡眠の質が低下している原因と言われています。
空腹や栄養不足では睡眠の質が悪くなるため、食事制限のしすぎに注意しましょう。
9.大量の水を飲む
乾燥が気になる季節になると、寝る前にたっぷり水を飲みたくなりませんか?
じつは、これもやってはいけない行動の1つ。
想像つくかもしれませんが、寝る前に多量の水を飲むと夜間頻尿を悪化させることがわかっています出典[19]。
アルコールやカフェインと同様に寝る前の多量の飲水を控えることにより、夜間頻尿の症状が改善する可能性が示されているため出典[19]、夜中にトイレで起きてしまう人は寝る前の水分量を調整してみてください。
10.激しい音楽を効く
「寝る前にゲームやSNSがダメなら、好きな音楽でリラックスしよう。」とても良い提案なのですが、あまりにも激しい音楽ならオススメできません。
「イヤーワーム」をご存知でしょうか?
イヤーワームとは、ある曲のパートや曲そのものが頭から離れなくなってしまうことを言います。聞いた曲を口ずさんでしまうこと、誰しも経験あるでしょう。
寝る前に激しい音楽を聞くと、イヤーワームによって睡眠の質が低下してしまうんです。
実際に、平均年齢21歳の50人を対象とした研究では、就寝前に音楽を聞くとイヤーワームの発生率が高まり、耳鳴りを引き起こすことがわかりました出典[20]。
そして、この耳鳴りが夜間の睡眠を妨げていることが示唆されているんです。
激しい音楽や耳に残ってしまうようなテンポの曲は、寝る前は極力さけましょう。
11.就寝前1時間以内に激しい運動をする
激しいと言えば、ハードな運動も寝る前はNG。
中強度の運動を習慣にすると睡眠が改善すると言われていますが、高強度の運動はかえって良くないというデータが多数存在しているんです。
特に、就寝前の1時間以内に激しい運動をすると睡眠の質が大幅に低下することがわかっています出典[21]。
運動がハードなほど睡眠の質が低くなるため、夕方以降の運動はウォーキングやストレッチなど低強度のものを選びましょう。
12.不適切なエアコンの調整
寝苦しいと何度も起きてしまいませんか?
暑くて起きたら「パジャマや寝具が汗でべったり…」なんてこともあるかもしれません。
寝室環境が不適切であると、もちろん睡眠の質も下がってしまいます。
良い睡眠のためには、身体の中心の温度である深部体温を徐々に低下させ、脳や体を休息状態にもっていく必要があります。しかし、暑いと深部体温が下がりにくく睡眠の質が低下してしまうんです出典[22]。
さらに、睡眠の質に大きく関係するのは”温度”だけではありません。
”湿度”が高いと、汗が蒸発できず皮膚が濡れたままになり、夜間に覚醒する確率が増加することがわかっているんです出典[22]。
「エアコンにさらされるのは健康に悪い」という考えもあり、数時間だけエアコンをつける人も多いのではないでしょうか。
起きた時に汗がびっしょりだったり暑さで夜中に起きてしまう人は、エアコン時間を見直し、温度と湿度を調整しましょう。
13.スヌーズをかけて寝る
「絶対に寝坊しないためにスヌーズ必須!」そんな方もいるかもしれませんが、スヌーズ機能には要注意。
スヌーズを使用すると「またアラームが鳴るから大丈夫」と思い、ついつい二度寝してしまいませんか?じつはこの二度寝が良くないのです。
二度寝は本来体が起きようとしているにも関わらずそれに逆らう行為。体内の自然なリズムに逆らう行動をすると、概日リズムは狂ってしまうのです。
実際にスヌーズを用いて二度寝してしまうと、浅い睡眠の時間が長くなり、結果として起床後に”睡眠慣性”と呼ばれる眠気状態が続くことがわかっています出典[23]。
スヌーズは使用せずに、アラームが鳴ったら一回で確実に起きましょう。
逆に睡眠の質を高める取り組みとは?
ここまで睡眠の質を下げてしまう、寝る前にやってはいけない行動を紹介してきました。
では逆に睡眠の質を高めるにはどうしたら良いのでしょうか?
以下の記事に方法をまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
出典
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