執筆者
管理栄養士
鈴木 亜子
大学卒業後、主に医療機関に勤務。チーム医療の一端を担い、生活習慣病や腎疾患(透析療法や腎移植後)などさまざまな疾患の栄養管理に取り組む。得意分野は糖尿病で、糖尿病透析予防や特定保健指導(糖尿病重症化予防)なども担当。現在は豊富な栄養相談経験を活かし、健康に関わる分野のライターとして活動中。「なるほど!」と思っていただける、分かりやすい記事執筆を心がけている。
グリシンってどんな成分?
グリシンはそもそもどのような特徴のある成分なのでしょうか。ここでは、グリシンの特徴について見ていきましょう。
グリシンは非必須アミノ酸の一つ
グリシンはたんぱく質の構成成分であるアミノ酸の一種です。
アミノ酸は体内で合成できる「非必須アミノ酸」と、体内では合成できず食べ物からの摂取が必要な「必須アミノ酸」に分類され、グリシンは非必須アミノ酸に分類されています。
グリシンは、体内で同じく非必須アミノ酸の「セリン」から合成されますが、食べ物からも摂取可能です。主にたんぱく質を多く含む肉類や魚介類、豆類に多く、特にゼラチン、鶏肉、エビ、ホタテ、うなぎなどに豊富に含まれています。
グリシンの主な働きとは?
グリシンは、皮膚や軟骨を構成する「コラーゲン」や筋肉に影響を与える「クレアチン」、高い抗酸化作用を持つ「グルタチオン」など、重要な物質の生成に関与する成分です。また脳や脊髄では、興奮した神経を鎮める「抑制性神経伝達物質」としてはたらいています。また、グリシンは甘味や旨味を持つことから調味料としても活用されているアミノ酸です。
グリシンが不足した場合のリスク
グリシンが不足すると、グリシンがもととなってつくられるコラーゲンやクレアチン、グルタチオンが十分につくられません。特にグルタチオンは高い抗酸化作用を持ち、増えすぎると細胞の老化を促進させる「活性酸素」を除去してくれる働きを持つ成分です。
増えすぎた活性酸素は、私たちの体内で「酸化ストレス」を引き起こします。酸化ストレスは、肌の老化や生活習慣病とも関連しているため、グルタチオンにはこれらの悪影響を取り除く作用が期待できるといえます。
つまり、直接的ではないもののグルタチオンの原料となるグリシンの不足は、酸化ストレスの増加に関わっているといえるのかもしれませんね。 また、グリシンの不足によりコラーゲンが十分につくられないと、関節痛を感じやすくなる可能性もあります。
グリシンに期待される効果5つ
それではグリシンに期待できる主な効果をご紹介します。
1.睡眠の質の向上効果
グリシンは寝つきの良さや日中の眠気の軽減など、睡眠の質を高める効果が期待される成分です。
これは、グリシンには主に手や足に血液を送り届ける「末梢血管」の血流を増加させて熱を放出し、体の中心部の体温(深部体温)を低下させる効果を示すためであるといわれています。
人間は眠りにつく際に深部体温が低下することが知られており、この深部体温の低下が速やかであればあるほど眠りにつきやすくなるとされているのです。
ラットにグリシンを経口投与したところ、体内のグリシン濃度の有意な増加に加え、皮膚の血流増加による深部体温の有意な低下がみられました。このことから就寝前にグリシンを摂取すると、睡眠の質が改善される可能性のあることが示唆されています出典[1]。
また別の研究によると、睡眠不足のある方にグリシン3gを就寝前に摂取させたところ、主観的な睡眠の質および睡眠効果(睡眠時間/就寝時間)を改善し、入眠時間および深い眠りにつくまでの時間を短縮させました。さらにグリシンは日中の眠気を軽減し、記憶認識タスクのパフォーマンスの向上もみられました出典[2]。
グリシンを配合した、睡眠に関するサプリメントも多く販売されています。寝つきが良くない、睡眠時間が短い、日中の眠気で生活に支障が出ているなど、睡眠に関する何かしらの悩みを抱えている方にはおすすめの成分であるといえますね。
2.アルコールによる肝臓へのダメージ緩和
アルコールの過剰摂取はアルコール性肝障害などの原因となりますが、グリシンにはアルコールによる肝障害の予防や症状改善の効果が期待されています。
ラットに最大4週間連続してエタノールを胃内投与(体重1kgあたり1日10〜12g)し、肝臓に対するグリシンの影響を調べました。その結果、グリシンはエタノールの胃での代謝を活性化し、肝臓への到達を防ぐことでアルコール性肝障害の発症を抑えることが分かりました出典[3]。
また、ラットに6週間連続的にエタノールを胃内投与し、脂肪肝や肝酵素の上昇などアルコール性肝障害を発症させた後エタノールの投与を中止し、2週間の食餌によるグリシンの影響を検討しました。その結果、アルコール性肝障害の症状はグリシンを含む食餌を与えたグループが30%速く改善し、さらに1週間後には脂肪肝を有意に減少させました出典[4]。
グリシンの肝臓に対する効果は、現在動物実験の段階にあるようです。この効果を人間に置き換えて考えることは尚早であるといえますが、お酒を飲む方には効果が期待できる成分であるといえるのかもしれませんね。今後の研究に期待しましょう。
3.筋力低下の防止効果
グリシンにはがんや敗血症などの病気、摂取カロリーの低下による筋肉および筋力の低下を防止する効果のあることが、最近の研究で分かってきています。
がんによる体力消耗がみられるマウスに、皮下注射によって21日間毎日グリシンを投与したところ、脂肪および筋肉量の減少を抑制し、炎症マーカーと筋委縮の増加を緩やかにすると同時に、体重減少や酸化ストレスも減衰する傾向がみられました。このことからグリシンには、がんによる衰弱から筋肉を保護する作用のあることが分かりました出典[5]。
グリシンの筋肉および筋力低下防止効果のメカニズムはまだ解明されていません。しかし、さまざまな原因からもたらされる筋力低下を防止することで、健康の維持や増進に大きく貢献する成分であるといえるのかもしれませんね。
4.糖尿病の予防サポート
肥満や糖尿病があると血液中のグリシン濃度が低いことや、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が効きにくい状態を改善することでグリシン濃度が上昇することが報告されています。
また、グリシンは近親者に2型糖尿病の方がいるものの糖尿病ではない方のインスリン分泌反応を増加させるなど、健康な方への影響も示唆されています。
両親や兄弟、子に2型糖尿病患者がいる肥満のない健康な方12名にグリシン5gを、朝に経口投与してインスリン分泌および作用に及ぼす影響を調べました。その結果、グリシン投与群と対照群ではインスリンの作用自体に変化はありませんでしたが、グリシン投与群で早期、後期、総インスリン分泌反応に増加がみられました出典[6]。
糖尿病と血液中のグリシン濃度には何らかの関係性が示されていますが、詳しいメカニズムは明らかになっていません。2型糖尿病の発症には遺伝要因も絡んでいます。そのため、近親者に2型糖尿病の方がいるという方は、発症予防のためにグリシンを意識的に摂取しておくことも対策の一つとして有効なのかもしれませんね。
5.記憶力のサポート
グリシンには、記憶力を高める可能性が期待できるという研究結果も報告されています。
グリシンの生物学的活性型である「バイオグリシン」を、健康な学生(平均年齢20.7歳)と中年男性(平均年齢58.9歳)を対象に投与し注意、記憶、気分に関するテストを行ったところ、若年群と中年群では記憶力を改善しましたが、集中力やさまざまな情報を同時に処理する能力には影響を与えませんでした。この調査により、グリシンは気分へは影響せず、注意力よりも主に記憶力を改善する可能性があることが示唆されました出典[7]。
世代を問わず勉強や仕事のために記憶力を強化したいという方は、グリシンの摂取を意識して見るとよいかもしれませんね。
グリシンの推奨量や飲み方
さまざまな効果が期待されるグリシンですが、摂取するにあたっての注意点などはあるのでしょうか。グリシンの推奨摂取量や、摂取するにあたってのポイントをご紹介します。
グリシンの摂取推奨量
非必須アミノ酸であるグリシンには、摂取推奨量等は設けられていません。アミノ酸であることから、通常の食事で摂取する分には安全な成分であるといえます。
サプリメントから摂取する場合は、製品に記載されている1日当たりの摂取目安量を守って摂取しましょう。目安量以上に摂取することは、過剰摂取による健康被害が生じる恐れも否定できないため、十分注意しなければいけません。
グリシンの摂取方法やタイミング
グリシンを睡眠の質を高める目的で利用する場合は、就寝前に摂取するのが効果的です。より良い睡眠のためには、覚醒作用のあるカフェインを含む飲料との併用は避け、水やぬるま湯で摂取しましょう。
まとめ
たんぱく質の構成成分である「非必須アミノ酸」の一つがグリシンです。体内でも作られますが、肉類や魚介類、豆類などの食品から摂取できます。グリシンは、コラーゲンやクレアチン、グルタチオンなどの体内で重要な働きを持つ物質の生成に関与するほか、脳や脊髄では神経伝達物質として作用しています。
グリシンには「睡眠の質の向上」を始め多くの効果が期待されていますが、さらなる研究が必要な分野もあります。しかし、健康維持や増進に大きく貢献する成分であるということは間違いないといえるでしょう。
出典
- 1.
Bannai M, Kawai N. New therapeutic strategy for amino acid medicine: glycine improves the quality of sleep. J Pharmacol Sci. 2012;118(2):145-8.
- 2.
Yamadera, W., Inagawa, K., Chiba, S. et al. Glycine ingestion improves subjective sleep quality in human volunteers, correlating with polysomnographic changes. Sleep Biol. Rhythms 5, 126–131 (2007).
https://link.springer.com/article/10.1111/j.1479-8425.2007.00262.x
- 3.
Iimuro Y, Bradford BU, Forman DT, Thurman RG. Glycine prevents alcohol-induced liver injury by decreasing alcohol in the rat stomach. Gastroenterology. 1996 May;110(5):1536-42.
- 4.
Yin M, Ikejima K, Arteel GE, Seabra V, Bradford BU, Kono H, Rusyn I, Thurman RG. Glycine accelerates recovery from alcohol-induced liver injury. J Pharmacol Exp Ther. 1998 Aug;286(2):1014-9.
- 5.
Ham DJ, Murphy KT, Chee A, Lynch GS, Koopman R. Glycine administration attenuates skeletal muscle wasting in a mouse model of cancer cachexia. Clin Nutr. 2014 Jun;33(3):448-58. doi: 10.1016/j.clnu.2013.06.013. Epub 2013 Jun 26.
- 6.
González-Ortiz M, Medina-Santillán R, Martínez-Abundis E, von Drateln CR. Effect of glycine on insulin secretion and action in healthy first-degree relatives of type 2 diabetes mellitus patients. Horm Metab Res. 2001 Jun;33(6):358-60.
- 7.
File SE, Fluck E, Fernandes C. Beneficial effects of glycine (bioglycin) on memory and attention in young and middle-aged adults. J Clin Psychopharmacol. 1999 Dec;19(6):506-12.
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