監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
筋トレ前の食事が重要な3つの理由
空腹状態での運動はエネルギー切れを招きやすく非常に危険であるため、筋力トレーニングの前には食事の摂取が欠かせません。
また、トレーニング前の食事の質を高めることで、バルクアップにも嬉しい効果がいくつか期待できます。
トレーニング前の食事の重要性と、期待できる効果について詳しく解説しましょう。
1.筋グリコーゲンを蓄えてエネルギー切れ防止
トレーニング前に食事を摂る一番のメリットは、やはり筋肉へエネルギーを効率よく蓄えられることにあります。適切な糖質食品を摂取することで、効率的に筋グリコーゲンを貯蔵できるでしょう。
食事から糖質を摂取した際、すぐに使われない分は筋肉や肝臓へグリコーゲンの形で蓄えられます。激しいトレーニングにより血中の糖が枯渇すれば、筋肉に蓄えられたグリコーゲンがエネルギー源となります。筋グリコーゲンの貯蔵量が多いほど、高負荷、長時間のトレーニングにも耐えやすくなります。
パフォーマンスの高い状態を長く保てるよう、十分に筋グリコーゲンを蓄えましょう。
2.脳への栄養補給で集中力を高める
食事による栄養補給により十分な糖質を補うことは、筋肉のみならず脳においても重要です。
脳は主に糖質をエネルギー源として用いる組織です。脳へのエネルギーが不足するような低血糖状態では集中力が途切れたり眠くなったりするため、トレーニングの効率は大きく低下するでしょう。
またエネルギー不足の状態で糖質を大量に消費する運動を行うと、低血糖状態がより悪化するため、ふらつきや転倒の原因にもなりかねません。
集中力を向上させてトレーニングの質を高めるため、また安全にトレーニングを行うためにも、十分な糖質の摂取は重要です。トレーニング前にはとくに糖質を意識して摂るようにしましょう。
3.適切なタイミングでの固形食にはパフォーマンスUPの効果も
トレーニング前の食事といえば高糖質食品、との考えから、コーラのような高糖質の飲料を選ぶ方もいるかもしれません。
しかし同じ糖質食品を摂る場合、液体食よりも固形食の方がより食事に対する満足感を高められます。固形食により効率的に空腹を解消することで、その後のトレーニングのパフォーマンスの向上につながる可能性があるのです。
2022年にマレーシアのマラヤ大学から発表された論文では、半固体食品の摂取により、液体食品の摂取よりもバックスクワットの成績が約10%向上したと報告されています出典[1]。
このように、レジスタンス運動においては空腹を効率的に解消できる食事の方が、運動のパフォーマンスを高める可能性があると結論付けられています。
満腹感を高めやすい食事を意識することは、パフォーマンスの向上において大きな意味があるようです。同じカロリーの炭水化物食を摂取する場合には、より満足感を高められる食形態を意識してみましょう。
【時間別】筋トレ前の食事のポイント解説
では具体的に、トレーニング前にはどのような食事を摂ればよいのでしょう。
今回は夕方4~5時から筋力トレーニングに取り組むことを想定し、トレーニング前の時間帯を3つに区切って解説します。
タイミングにより摂りたい栄養素や食形態が異なります。トレーニングのパフォーマンスをより高めたい方は、ぜひ以下を参考に食事内容を見直してみましょう。
筋トレ4時間以上前
昼の12時頃には昼食を摂ることになるでしょう。このタイミングでは4時間以上後の筋力トレーニングに向けて、消化に時間がかかる栄養素を偏りなく摂取する必要があります。
栄養素のポイント
夕方からトレーニングを始める場合、昼食は栄養バランスの整った食事を摂れる最後の機会となります。
この段階では、まだ消化によいものを選んだり、糖質量を大きく増やしたりする必要はありません。エネルギー産生栄養素であるたんぱく質、脂質、炭水化物(糖質)を偏りなく摂取しましょう。
とくに脂質は消化に時間のかかる栄養素であるため、脂質を多めに含む肉や魚の摂取は4時間以上前に済ませておきましょう。
また、ビタミンやミネラルの摂取源となる野菜や海藻、豆類などの摂取も、パフォーマンスの向上や体調管理には欠かせません。食物繊維の多さから消化に時間がかかるため、野菜や豆類を含んだ小鉢もこのタイミングで食べておきましょう。
おすすめの食べ物
主食、主菜、副菜が揃った献立を、多すぎない範囲のカロリーで摂取しましょう。バルクアップのためには適度な脂質が必要ですが、揚げ物やファーストフードは脂質が過剰になるため避けるべきです。
たんぱく質が豊富な食品である肉や魚を取り入れつつ、脂質量を比較的抑えやすい献立例として次のようなものがあります。
- 生姜焼き定食
- 米飯
- 豚肉の生姜焼き
- 納豆
- ほうれん草のおひたし
- 根菜の味噌汁
- 海鮮丼定食
- 海鮮丼
- 海藻サラダ
- 豆腐とワカメの味噌汁
たんぱく質を十分に摂るため、肉や魚、卵や豆類、乳製品などの高たんぱく質食品が入った料理を2品以上入れるよう意識しましょう。冷蔵庫で比較的長めに保存でき、たんぱく質が足りない場合にすぐ出せる「ちょい足し」の食品として、次のようなものがおすすめです。
- 豆腐
- 納豆
- 茹で卵や味玉
- ヨーグルト
- チーズ
これらの食品はたんぱく質に加えて適度な脂質を含みます。腹持ちがよく、食べ過ぎを防ぐ効果も期待できるでしょう。
筋トレ1~4時間前
トレーニングの1~4時間前は、筋グリコーゲンの貯蔵に最も適したタイミングです。食事の質や量を工夫して、パフォーマンスを高めましょう。
栄養素のポイント
筋グリコーゲンは、血中に十分な糖(グルコース)がある場合に初めて蓄えられます。グリコーゲンの貯蔵を促すのはインスリンというホルモンであるため、インスリンの分泌を高められる食事を意識しましょう。
インスリンは血糖値の上昇幅が大きいほど、また上昇が急激であるほどに多く分泌されます。そのため消化がよく、吸収も早い糖質の摂取がグリコーゲン貯蔵には効果的です。
筋肉のグリコーゲンを効率よく増やすため、トレーニングに取り組むアスリートやボディビルダーにおいては体重1kgあたり1~4gの糖質摂取が推奨されています出典[2]出典[3]。自身の体重から必要量を割り出し、トレーニングの時間や強度に応じて1~4g/kgの範囲で食事量を調節しましょう。
なお、1~4時間前の食事においては、脂質や食物繊維を含む食品は避けるべきです。消化に時間がかかる成分を含む食品は、4時間以上前のタイミングで十分に摂取しておきましょう。
たんぱく質も血糖値の上昇を多少なりとも緩やかにする働きがあるため、控えた方がより効率的に血糖値を上げられます。
おすすめの食べ物
エネルギー補給と血糖値の上昇を効率的に行うための食品を選ぶ基準として、次の4点を意識しましょう。
- 糖質が多いもの
- 脂質、たんぱく質、食物繊維が少ないもの
- 噛んで食べられる固形のもの
- 消化によいもの
これらを満たす食品と、目安となる摂取量について、体重60kgの方の場合を例に紹介しましょう。
体重60kgの方の場合、トレーニングの1~4時間前には60~240gの糖質摂取が効果的と考えられるため、食品ごとの摂取目安量は次のようになります。
【食品100gあたりの栄養素(日本標準食品成分表(八訂)増補2023年より)出典[4]】
エネルギー | 単糖当量 | 摂取目安量 | |
炊いた白米 | 156kcal | 38.1g | 約160~630g |
ゆでうどん | 95kcal | 21.4g | 約280~1110g |
餅 | 223kcal | 50.0g | 約120~480g |
いずれの食品も、糖質量が多く、脂質やたんぱく質、食物繊維が少ないため、効率よく血糖値を上げられます。
60gの糖質を摂取したい場合、炊いた白米であればおにぎり1個半、うどんであれば1杯が目安となるでしょう。より糖質を増やしたい場合には、糖質の密度が高い餅を活用すると無理なく食べられます。
また、白米やうどんよりも餅の方が高粘度であり、よく噛んで食べる必要があります。高い満腹感を得やすいため、トレーニングのパフォーマンスを高める効果がより期待できるでしょう。
筋トレ30分前
トレーニングの30分前に、積極的に食事を摂ることはあまりおすすめできません。しかし空腹状態のまま運動を始めるのは危険であるため、1時間前までの摂取ができなかった場合の対応として考えましょう。
栄養素のポイント
トレーニング30分前以降の食事が好ましくない理由として、運動誘発性低血糖のリスクが高まることが挙げられます出典[5]。
白米やうどんのような消化に優れた糖質食品を食べて血糖値が上がると、インスリンが大量に分泌されます。インスリンは血糖値を下げるため、血中のグルコースを肝臓や筋肉へ蓄えるよう働きかけます。
同じタイミングでトレーニングを始めると、筋肉の活動により血中のグルコースが消費されるため、血糖値はさらに下がります。過剰な血糖値の低下により低血糖になると、脱力感や思考力・集中力の低下に繋がります。
また震えやふらつきによる転倒のおそれもありたいへん危険です。血糖値を急激に上げる白米や餅などの食品は、トレーニングの1時間前に食べておくべきでしょう。
おすすめの食べ物
食べてすぐに体を動かすことになるため、消化によいものを選ぶことは最も重要です。加えて運動誘発性低血糖を防ぐため、消化によく適度に糖質を含みながら血糖値を急激に上げないものを選ぶとよいでしょう。
バナナやリンゴなどは消化がよく、血糖値の急上昇が起こりにくいためおすすめです。とくにバナナは腹持ちがよく、高い満足感を得られます。
また、バナナの糖組成は長時間のトレーニングに適しています。一般的な果物の糖質はブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)などの分子の小さな糖で構成されています。一方、バナナからはでんぷんやショ糖(スクロース)など、多糖類や二糖類と呼ばれる分子の大きな糖も摂取できます出典[6]。
速やかに吸収されてエネルギーに変わる糖と、エネルギーになるまでに時間のかかる糖を同時に摂取できるため、速やかな、かつ持続性のあるエネルギー補給が行えます。運動誘発性低血糖のリスクを抑えたトレーニング直前の食事として、ぜひバナナを活用してみましょう。
まとめ
トレーニング前の食事は、安全に体を動かすためにも、トレーニングの質を高めて効率よくバルクアップするためにも非常に重要です。
タイミングにより摂るべき栄養素や量が異なるため、食事の時間を見ながら内容を調整しましょう。
- 運動4時間以上前:主食、主菜、副菜を含んだたんぱく質多めの食事
- 運動1~4時間前:脂質や食物繊維の少ない糖質食品を1~4g/kg
- 運動30分前:基本的に避けたいが、バナナやリンゴが好ましい
トレーニングの強度が上がり、取り組む時間が増えるほど、パフォーマンスの向上や疲労感の軽減を感じられるはずです。とくに運動1~4時間前は筋グリコーゲン貯蔵に適したゴールデンタイム。消化に優れた糖質食品を十分に摂取して、トレーニングを充実したものにしましょう。
出典
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