アルギニンやシトルリンはテストステロンを増やすのか?
2024年3月18日更新

監修者

NP+編集長/NESTA-PFT

大森 新

筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

アルギニン・シトルリンとは?

テストステロンとの関係に入る前に、まずはアルギニンやシトルリンについて知っておきましょう。

アルギニンはシトルリンはアミノ酸の一種であり、一酸化窒素(NO)の合成に関わります。NOは血管内皮細胞に作用して血管を拡張するように働きかけるため、血流を良好に保つ効果が期待できます。

体内でNOを合成するためには、アルギニンと酵素による反応が必要です。NOが合成されると、副産物としてシトルリンも同時に生成されます。

シトルリンの一部はアルギニンの合成に使われ、再びNO合成に役立ちます。このようにアルギニンとシトルリンはNO合成の過程で相互に循環しています。効率的にNOを産生するには、アルギニンとシトルリン、両方の存在が重要と言えるでしょう。

また、アルギニンやシトルリンはアミノ酸としてNO合成以外にも役立てられています。たとえばアルギニンには免疫機能を保つ働きが、シトルリンには天然保湿因子として肌の水分を保つ働きが、それぞれ確認されています。

NOを効率よく合成して血流を良好に保つため、また体調を整えて若々しい体を保つために、アルギニンやシトルリンが重要であることが分かりますね。

アルギニンは大豆製品や肉類などから、シトルリンはスイカやキュウリなどウリ科の作物から効率的に摂取できます。両方を効率的に摂取したい場合にはサプリメントの活用を検討するとよいかもしれません。

 

アルギニンやシトルリンは直接テストステロンを増やさない

男性ホルモンであるテストステロンには、やる気や活力、筋肉の合成効率を高めたり、男性の性機能を維持したりする働きがあります。筋力トレーニングを続けている方や性機能に悩みを抱える方、心身ともにたくましくなりたい方にとって、とくにニーズの高いホルモンです。

テストステロンを増やす成分として、アルギニンやシトルリンの名前を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかしアルギニンやシトルリンの主な働きはNOを増やすこと。テストステロンを直接増やすような効果は残念ながら確認されていないのです。

なお、テストステロンは血液に放出されて運ばれます。そのためNO合成で血流が良好に垂れれば、テストステロンの運搬効率も高まるでしょう。こうした間接的な影響を期待する場合には、アルギニンやシトルリンの摂取も有効かもしれませんね。
 

アルギニンやシトルリンに期待できる本当の効果とは?

アルギニンやシトルリンにはテストステロンを直接的に増やす効果はありません。にもかかわらずアルギニンやシトルリンがテストステロンと同列に紹介されることが多いのはなぜでしょう。実はアルギニンやシトルリンが持つ働きの中には、たくましくなりたい男性のニーズを叶えるものが複数あるのです。

なお、シトルリンは体内でアルギニンを生成することから、今回は一括してアルギニンの効果として解説します。シトルリンとアルギニンを同時に摂取すればより高い効果が期待できるでしょう。

成長ホルモンの分泌量を増やす

アルギニンには成長ホルモンの分泌を促す働きがあります。成長ホルモンは子どもの発育に欠かせないものですが、成人においても非常に重要なものです。

成長ホルモンには筋肉の合成効率を高めたり、栄養素の代謝を高めて肥満を防いだりする効果が期待できます。たくましい体を目指す方、いつまでも健康的に過ごしたい方にとっては、ぜひとも量を増やしたいホルモンですよね。

2008年にアメリカのシラキュース大学から発表された論文では、1日5~9gのアルギニンを摂取した場合、安静時の成長ホルモンが約2倍に増加したと報告されています出典[1]

なお、成長ホルモンは運動によっても分泌量が増加し、その増加量は安静時の4~6倍とも言われています。しかしアルギニン補給と運動を組み合わせると成長ホルモンの増加率は3倍程度に落ちてしまいます出典[1]

メカニズムは判明していませんが、運動による成長ホルモンの分泌は、アルギニンの同時摂取により抑えられる可能性があります。成長ホルモンを効率よく増やしたい場合には、アルギニン摂取と運動をそれぞれ別に行いましょう。

 

運動パフォーマンスを高める

アルギニンと運動パフォーマンスとの関係における18の研究を分析した論文では、アルギニン補給により次のような効果が期待できると示されています出典[2]

  • NOの血管拡張効果により、酸素や栄養素の運搬効率、および疲労物質の回収効率が高まる
  • 成長ホルモンの分泌促進により筋肥大を効率化する
  • 疲労と関係がある可能性のある、アンモニアや乳酸塩を減少させる

たとえば2014年にキプロスから発表された論文では、運動前にアルギニンを摂取すると疲労までの時間が約5.6%延長したと報告されています出典[3]。疲労を感じず快適に運動できる時間が長引けば、パフォーマンスも高まるでしょう。

快適に運動したい方や筋肥大の効率化を期待したい方には、アルギニンやシトルリンのサプリメントが有効かもしれません。

アルギニン補給は有酸素運動、無酸素運動のどちらにも効果を発揮します。運動パフォーマンスや体を使う作業の効率を高めたい場合、次のタイミングや量を参考にするとよいでしょう出典[3]

時間や期間摂取量
運動の60~90分前0.15g/kg(約10gを目安に)
4~7週間の毎日継続1.5~3g/日

ただしアルギニンと運動との併用で成長ホルモンの分泌が低下するというデータもあります出典[1]。そのため筋肥大の効率化のためには、運動前の高容量摂取ではなく毎日の低容量摂取の方が適しているかもしれません。

 

冷えや肩こりの解消に役立つ

手足の冷えや肩こりに悩んでいる方は、血管が硬くなり血流調節機能が低下している可能性があります。

アルギニンやシトルリンの補給により生成が促されるNOは、血管を拡張させて血流をスムーズにします。冷えの原因のひとつは、血管の収縮により手足への血流が低下することにあります。

寒い時期はとくに血管が収縮しがち。アルギニンやシトルリンにより体の末端まで良好な血流を維持できれば、冷えを解消する効果も期待できるでしょう。

肩こりにおいても血行不良が主な原因となります。筋肉に負担がかかって生じるこわばりが血管を圧迫し、血流を妨げて怠さや痛みを生じると考えられています。アルギニンやシトルリンにより圧迫された血管を広げやすくして、良好な血流を確保しましょう。

 

勃起不全(ED)を改善する

アルギニンやシトルリンの合成循環で生成されるNOは、男性の性機能とも密接な関わりがあります。NOは性的な興奮を感じた時に神経から分泌され、陰茎の血管を拡張させるように働くのです。

アルギニンやシトルリンが不足すると体内でNOを十分に合成できず、勃起不全を生じる可能性があります。血行不良は勃起不全の原因のひとつです。十分なNO合成により血流が改善できれば、性機能への悩みも解消されるかもしれません出典[5]

アルギニンの摂取が効果を及ぼしたことを示す論文を紹介しましょう。軽度から中等度のED患者を対象とした7件の臨床試験を分析した論文では、一日1.5〜5gのアルギニン摂取により症状の有意な改善があったと述べられています出典[4]

立ちにお悩みの方は一度サプリメントを試してみるとよいかもしれません。

 

免疫機能を正常に保つ

アルギニンはT細胞の活性化や増殖に関わる栄養素です。細胞内のL-アルギニンはT細胞の活性化や分化をサポートして、次のような機能を発揮することが判明しています出典[6]

  • 活性型T細胞におけるエネルギー代謝を促す
  • ガン細胞の発生や増殖を抑える働きを強める

L-アルギニンが増加したT細胞は生存率および抗腫瘍活性が高まります。アルギニンの不足によりT細胞の機能が低下すると、感染症やがんに対する抵抗性も落ちてしまうでしょう。

T細胞は加齢とともに数が減少し、また機能も落ちることが確認されています出典[7]。年齢を重ねるごとに風邪を引きやすくなったと感じるのは、T細胞の数や機能の低下も原因のひとつでしょう。不調の少ない元気な毎日を過ごすため、アルギニンのサポートが役立つかもしれません。
 

まとめ

アルギニンやシトルリンは体内でNO合成に関わる重要なアミノ酸ではありますが、直接的にテストステロンを増やすよう働くものではありません。一方でたくましく元気な体を作るためのサポートとして役立つため、食品やサプリメントの活用は有意義と言えるでしょう。

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