クレンブテロールとは?臨床試験と5つの副作用
2024年4月1日更新

執筆者

薬剤師

塩見 友香

大学卒業後、総合病院に勤務し、内科・泌尿器科・透析科・循環器科での服薬指導を経験。日本糖尿病指導療法士、栄養サポートチーム専門療法士、心不全指導療法士の資格を有する。現在は未就学児2人を子育てしながら病院薬剤師として従事、現場経験をもとに医療ライターを行う。

クレンブテロールとは?

クレンブテロールは、喘息などにともなう息苦しさや尿漏れに使われる医薬品です。

他に、筋肉増強作用や脂肪燃焼作用があることで知られており、スポーツパフォーマンスの向上目的で使用する人もいます。

クレンブテロールは処方箋医薬品であるため、入手には医師の処方が必要ですが、実際は個人輸入で入手可能です。

クレンブテロールの歴史

クレンブテロールの開発経緯や一般的な使われ方を紹介します。また、アスリートの方がクレンブテロールを使用するときの注意点もあわせて解説します。

 

1.気管支拡張剤や尿失禁治療剤として使われている

クレンブテロールは、1971年ドイツのドクター・カールトーメ社が開発。日本では1986年より使われており、現在は帝人ファーマが製造販売しています出典[1]

国内では、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、急性気管支炎といった気道閉塞性障害に基づく呼吸困難などの症状や腹圧性尿失禁の治療に使用可能です。

「スピロペント」「スピロテロール」の名称で、クレンブテロールは流通しています。

 

2.ドーピング規制対象薬剤のひとつである

クレンブテロールは、世界ドーピング規制(WADA)対象薬剤の一つで、その他のタンパク質同化剤に分類されています出典[2]

最近では、RIZINで木村フィリップみのる選手が、クレンブテロールを含む複数のドーピング薬剤使用により、ニュースになったのは記憶に新しいかもしれません。

近年、クレンブテロールは筋肉増強を目的とする使用が増加しています。自己判断によるクレンブテロールの使用は、副作用や急性中毒の報告も多く、国内外問わずスポーツ業界で問題視されています。

クレンブテロールのよる副作用や急性中毒は、このあと詳しく解説しますので、ぜひ最後まで読んでください。

また、クレンブテロールの筋肉増強作用を応用して、海外では家畜の効率的な増産のため、違法に使われることがあります出典[3]。アスリートやボディビルダーの方は、クレンブテロールを意図しない形で摂取してしまう可能性もあるため注意が必要でしょう。

クレンブテロールの臨床試験と効果

クレンブテロールの効果やメリットについて、科学的データをもとに解説します。

 

1.気管支拡張作用

クレンブテロールの気管支拡張作用は、最も知られている作用です。

気管や気道のアドレナリンβ2受容体をクレンブテロールが刺激することで、喘息などにともなう息苦しさを持続的に改善します

1982年イギリスの論文で、その効果が明らかになっています出典[4]

喘息および可逆性気道閉塞患者47名を対象に、クレンブテロールとアミノフィリン製剤の効果を比較しました。効果は、最大呼気流速度や喘鳴の重症度、※喘鳴の持続期間を評価しています。

その結果、クレンブテロールはアミノフィリン製剤と比較して、日中の喘鳴の持続時間を有意に短くすることがわかりました。

クレンブテロールは、気管や気道を広げる作用を持ち、呼吸器系の病気による息苦しさを持続的に軽減させます。

 

※喘鳴とは、呼吸をするときにヒューヒューなどの音がすること。気管支が狭くなっているときに起こります。

 

2.腹圧性尿失禁の改善

クレンブテロールによる尿漏れの改善は、国内で正式に認められた効果の一つです。

膀胱や尿道、外尿道括約筋のアドレナリンβ2受容体をクレンブテロールが刺激することで、尿を膀胱に貯めておく機能を改善し尿漏れを防ぎます。

2000年大阪市立大学医学部産婦人科の研究では、61人の女性腹圧性尿失禁患者に対してクレンブテロールの効果を検証しています出典[5]

患者をクレンブテロール服用群と骨盤底運動療法群に分け、12週にわたり効果を比較しました。結果は以下の通りです。

  • 尿漏れの改善率:クレンブテロール服用群76.9%、骨盤底運動療法群52.6%
  • 患者主観による有効率:クレンブテロール服用群84.6、骨盤底運動療法群31.6%

いずれもクレンブテロール服用群が有意に改善しています。なお、クレンブテロールを開始後2週間で効果があったとされています。

クレンブテロールは、排尿器官に作用することで尿漏れを防ぐのです。

 

3.慢性心不全患者の筋力向上

クレンブテロールは、筋肉量や筋力の向上、脂肪減少と深い関わりがあるようです。

筋肉や脂肪へのクレンブテロールの作用は、これまでと同様にアドレナリン受容体が関与すると考えられています。

2008年アメリカニューヨーク州のアルバート・アインシュタイン医科大学の論文では、心不全患者に対する筋力向上作用が明らかになっています出典[6]

慢性心不全患者にクレンブテロールを投与し、骨格筋機能や心機能、運動能力への影響を調査しました。

その結果、クレンブテロールを投与することで、除脂肪体重と除脂肪脂肪比の両方が大幅に増加。つまり、筋肉量が増えたことを示します。

ただし、最大筋力はクレンブテロールを投与しても変わらず、持久力は減少したというネガティブな結果も明らかになっています。

クレンブテロールの人体における筋肉増強作用は、科学的には賛否両論で、議論が続けられている状況です。

クレンブテロールの重篤な副作用とリスク

クレンブテロールは、アナボリックステロイドには分類されない薬剤です。そのため、アナボリックステロイドのような肝障害や抜け毛、ニキビは起きません。

クレンブテロール特有の副作用やデメリットについて解説します。

前述したように、クレンブテロールの使用は医師の指導が必要です。

専門的な指導なしにクレンブテロールを使うことで、重篤な副作用やリスクがありますので、スポーツパフォーマンス向上目的での使用は避けましょう。

 

1.血液内カリウムの低下

クレンブテロールによる低カリウム血症は、最も気をつけるべき副作用です。

カリウムとは、人体に必要なミネラルの一つです。低カリウム血症とは、血液内のカリウムが極端に下がった状態のことで、放っておくと不整脈を引き起こします。クレンブテロールがアドレナリンβ2受容体に作用すると、血液内のカリウムが細胞内に取り込まれ、低カリウム血症になるのです。

2001年ニューヨーク州毒物管理センターから、クレンブテロールによる低カリウム血症の症例が報告されています出典[7]。症例は、28歳の女性で、ボディビルダーの友人よりクレンブテロールを入手して服用しました。その女性は服用後、低カリウム血症だけでなく、持続性の頻脈や動悸、おう吐、低リン血症、低マグネシウム血症が20時間以上続きました。

クレンブテロールを使用することで、低カリウム血症が起こる可能性があります。低カリウム血症による症状は、脱力感や筋肉のひきつれから始まります。カリウムがより低くなると不整脈を起こすため非常に怖い副作用です。

 

2.心毒性

クレンブテロールは、直接心臓に影響を与える可能性があります。

スポーツパフォーマンス向上目的によるクレンブテロールの使用は、不整脈だけでなく心筋症や心筋炎、心筋梗塞といったリスクがわかっています出典[8]

2013年カナダから発表された、クレンブテロールによる心筋梗塞の症例です出典[9]

23歳男性は、減量目的でクレンブテロール5000μg(成人用量の約125倍)を使用したあと、胸の圧迫感を訴えました。精査したところ、頻脈と心筋梗塞の疑いがあり、治療48時間後に無事回復しました。

クレンブテロールの過剰摂取は、心臓に直接影響を及ぼし、頻脈や心筋梗塞を起こす可能性を示唆しています。

 

3.横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)

クレンブテロールは、まれに横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)という重篤な副作用が起きることがあります。

横紋筋融解症という病気を知っていますか?

横紋筋融解症は、骨格筋の細胞が融解や壊死することにより、筋肉の痛みや脱力感などが生じます。また、筋肉の細胞が融解し血液中に大量の筋肉の成分(ミオグロビン)が流出することで、腎臓がダメージを受け急性腎不全を引き起こすこともあります。重症になると、多臓器不全などを併発して命の危険や後遺症が残る可能性のある副作用です。

実際に、サウスカロライナ医科大学より2016年に報告されています出典[10]

症例の患者は、筋肉増強目的でクレンブテロールを数日間使用しました。尿の色がおかしいと病院を受診したところ、横紋筋融解症であることが発覚。適切な治療を受け、重症化を防げました。

クレンブテロールを使用して、筋肉痛や手足の力が抜ける、尿の色が赤いといった症状がある場合には、すぐに病院を受診しましょう。

 

4.手足のふるえ(振戦)

クレンブテロールを含むアドレナリンβ2受容体刺激薬で最も訴えが多いのが、手足のふるえ(振戦)です。

アドレナリンβ2受容体にクレンブテロールが作用することで、交感神経を興奮させ、手足のふるえを引き起こします。人によっては気にならないほどの軽度な副作用です。

クレンブテロールによる手足のふるえは、製薬メーカーより公開されているデータを参考にすると、副作用件数のうち371件のうち43%を占めています出典[1]。非常に頻度が高いことが示されています。

 

5.動悸

クレンブテロールによる動悸もよく知られる副作用の一つです。

前述した手足のふるえと同様に、アドレナリンβ2受容体への作用が交感神経を興奮させ、動悸につながります。製薬メーカーのデータでは、動悸は副作用件数のうち371件のうち18%と、頻度が高いことが明らかです出典[1]

ただし、クレンブテロールの動悸は手足のふるえとは違って、低カリウム血症による不整脈や心毒性によっても起こる症状であるため軽視しない方がいいでしょう。

クレンブテロール使用前にもう一度危険性について考えよう

クレンブテロールは、喘息といった呼吸器系の病気にともなう息苦しさや尿漏れに使われる医薬品です。

その効果は、人体内のアドレナリンβ2受容体に作用することで、気管支を広げたり、尿漏れを改善したりします。

ただし近年、クレンブテロールは筋肉増強を目的とする使用が増加し、スポーツ業界で問題視されています。クレンブテロールの治療以外における使用は、低カリウム血症や心毒性、横紋筋融解症、手足のふるえ、動悸などのリスクがあるのです。

現在、クレンブテロールなどの筋肉増強剤の代替として「テストステロンブースター」とよばれる安全性が高いサプリメントが普及しています。

クレンブテロールの使用を検討している方やすでに使用している方は、そのリスクをもう一度考えてみてはいかがでしょうか。

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