監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
ホウ素ってどんな栄養素?
私たちの体に必要な微量栄養素といえば、ビタミンCやカルシウムのようなものを想像する方が多いことでしょう。
ホウ素も微量栄養素の一種ではありますが、役割や効果はあまり知られていないようです。
まずはホウ素という栄養素の特徴について確認してみましょう。
植物に多く含まれる栄養素
ホウ素は植物の細胞壁を構成する成分で、植物の生育をサポートする栄養素です。植物由来の栄養素であるため、私たちは主に野菜や果物、ナッツなどからホウ素を摂ることになるでしょう。
ホウ素は「日本人の食事摂取基準」に指定されている必須ミネラルではないものの、人体には少なくとも1日あたり0.2mgのホウ素が必要と考えられています出典[1]。
一般的な食生活においては約1~2mg程度のホウ素を摂取しているようです。そのため極端な欠食や偏食をしていない場合には、不足の心配のない栄養素と言えるでしょう。
人体に期待できる効果
ホウ素は私たちの体において、次のような役割を果たしていると考えられています。
- 性ホルモンやビタミンDの調節
- 骨形成のサポート
- 創傷治癒
- 脳機能の改善
- がん予防
ホウ素は骨形成を活性化させ、骨からのカルシウム損失を防ぐように働きます。また骨の成長に関わる性ホルモンやビタミンDを調節し、骨を丈夫にする効果も確認されています。
ホウ素の創傷治癒効果は古くから研究がおこなわれています。1990年にフランスで行われた臨床試験では、3%のホウ酸溶液での治療で、集中治療に必要な時間が3分の1に減少したとの結果が得られました出典[2]。
また、ホウ素の役割や効果に関する研究を分析した論文において、1日のホウ素摂取量が0.3mgを下回る場合、運動速度や器用さ、注意力、短期記憶といった課題のパフォーマンスが低下するケースが示されました出典[1]。
さらに2004年にアメリカのUCLA公衆衛生大学から発表された論文においては、ホウ素の摂取量が 1.8 mg/日を超える男性では、0.9mg/日の摂取と比較して前立腺がんのリスクが52%低下していたと報告されています出典[3]。
ホウ素の不足は骨粗鬆症や脳機能の低下、がんの発症リスクを高める可能性があります。元気で若々しい体を保つため、食事からホウ素を不足なく摂りたいものですね。
ホウ素とテストステロンの関係とは?
ホウ素には性ホルモンを調節する働きが確認されています。一般的には性ホルモンの調節は、骨粗鬆症の予防に有効であると考えられています。
では、性ホルモンのなかでもテストステロンに注目した場合、どのような効果が期待できるのでしょう。ここからはホウ素がテストステロンに及ぼす効果について、より詳しく解説します。
テストステロンやビタミンDの活性を高める
ホウ素の補給によりテストステロンやビタミンDが増加したケースが、複数の研究にて確認されています。
たとえば2011年にイランのバキヤタラ医科大学から発表された論文では、健康な男性が10mgのホウ素サプリメントを摂取したところ、遊離テストステロンが11.83 pg/mLから15.18 pg/mLに増加したと報告されています出典[4]。
この試験では女性ホルモンのエストラジオールや、炎症性サイトカインのIL-6やTNF-αの減少、ビタミンDの増加も確認されており、テストステロンの活性を高めるために役立つと考えられるでしょう。
さらに2004年にアメリカのサンディエゴから発表された論文では、日照不足によりビタミンDが不足しやすい10月から1月にかけてホウ素の補給を続けたところ、活性型ビタミンDが20%増加したと報告されています出典[5]。
ビタミンDはカルシウムの吸収率を高めることに加え、テストステロンを増やすようにも働きます。
ビタミンD補給による遊離テストステロンの増加や出典[6]、ビタミンDの不足によりテストステロンの低下が生じることが確認されていることからも出典[7]、ビタミンDがテストステロンに重要であることがわかるでしょう。
ホウ素補給により、テストステロンテストステロンを増やしたり活性を高めたりする効果が期待できるかもしれません。
マグネシウムの吸収率を高める
ホウ素はマグネシウムの吸収率を高め、低マグネシウム血症の予防に役立つと考えられています。
マグネシウムには複数のメカニズムによりテストステロンを増やす働きが確認されています。マグネシウムとテストステロンの間には相関性があり、マグネシウムが少ない方ではテストステロンも低くなることが確認されました出典[8]。
そのため、とくにマグネシウムが不足している方へのホウ素補給で、性ステロイドレベルを上昇させる効果があると考えられるでしょう。
1987年に米国農務省が行った研究では、低マグネシウムの状態にある女性へのホウ素補給で、テストステロンが平均 0.31ng/mLから0.83ng/mLに上昇したと報告されています出典[9]。
マグネシウム不足をホウ素により解消できれば、テストステロンを増やす効果も期待できるかもしれません。
抗酸化・抗炎症作用によりテストステロンを守る
ホウ素には、抗酸化酵素であるSODやカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどを活性化させる働きも確認されています。活性酸素の働きを抑えれば、酸化ストレスによる細胞へのダメージも軽減できるでしょう。
テストステロンの合成場所である精巣や、テストステロンを全身に運搬するための血管は、活性酸素による酸化や炎症のダメージを受けやすい組織です。精巣や血管へのダメージを防ぐため、体内の抗酸化能力を強化することは非常に重要と言えるでしょう。
ホウ素により吸収率が高まるとされるマグネシウムも、抗酸化物質として機能します。ホウ素によりマグネシウムの不足を解消できれば、活性酸素の働きを抑える効果がより期待できるでしょう。
1987年にアメリカのグランドフォークス人間栄養研究センターから発表された論文では、10mgのホウ素補給を1週間続けることで、炎症性サイトカインであるTNF-αの血漿濃度が12.32 pg/mLから9.97 pg/mL、hs-CRPの血漿濃度が12.32 pg/mLから9.97 pg/mLに低下したと報告されています出典[10]。
活性酸素によるダメージから精巣や血管を守り、テストステロンの活性を高めましょう。
遊離テストステロンの割合を増やす
ホウ素の補給により、テストステロンの中でも活性が高い「遊離テストステロン」の割合を増やせる可能性があります。
体内のテストステロンの約98%は、たんぱく質のような別の物質と結合する「結合テストステロン」として存在します。一方、やる気や活力を高めたり性機能を向上させたりするような、活性のある「遊離テストステロン」の割合はわずか1~2%しかありません。
そして遊離テストステロンは20代をピークとしており、40代から急激に減少します。私たちがテストステロンの効果を得るためには、テストステロンの中でもとくに遊離テストステロンの量を維持しなければいけません。
ホウ素は、結合テストステロンの中でも性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の量を減らし、遊離型のテストステロンを増やすように働く可能性があります。
たとえばホウ素の補給により遊離テストステロンが11.83 pg/mLから15.18 pg/mLに増加した2011年の論文では、同時に性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の減少も確認されました出典[4]。
また、ホウ素補給により吸収率が高まるマグネシウムには、テストステロンとSHBGの結合をブロックする性質があります出典[11]。テストステロンとたんぱく質との結合を減らすことで、遊離テストステロンの割合を増やす効果が期待できるでしょう。
ホウ素によるこれらの効果は、遊離テストステロンが大きく低下する高齢男性において効果を発揮する可能性があります。
40代を過ぎてもテストステロンによる恩恵をより高く得たい方は、ホウ素の積極的な摂取を検討してもよいかもしれません。
ホウ素を摂る際の3つのポイント
このように、ホウ素にはテストステロンに関連した様々なメリットがあることが分かりました。それでは私たちが実際にホウ素を摂る場合、どのような点に気を付ければよいのでしょう。
ここからは普段の食生活でホウ素を効率的に摂る方法や、サプリメントを使用する際の注意点について解説します。
摂取量の目安
日本ではホウ素の食事摂取基準が存在しないため、推奨量や目安量については設定されていません。
アメリカにおいては18歳以上の耐用上限量(継続摂取しても体に害がないと考えらえる最大量)のみ、1日あたり20mgと設定されているようです。
また、ホウ素の役割や効果について調べた複数の研究を分析した論文においては、骨粗鬆症の進展防止に1日3mgのホウ素摂取が有効と裏付けられています。
実際に骨代謝の改善や低マグネシウム血症の改善、ビタミンDの活性化など、ホウ素によるあらゆるメリットは、1日3mg未満の摂取では確認されていません出典[1]。
そのためホウ素によるテストステロンへの効果を期待したい場合には、1日3mg以上を摂る必要がありそうです。
ホウ素が豊富な食品
様々な食品のホウ素含有量について調べた論文では、ホウ素が多い食品として次のようなものを紹介しています。
【食品100gあたりのホウ素含有量出典[1]】
食品 | ホウ素(mg) |
アボカド | 1.43 |
ピーナッツバター | 0.59 |
乾燥ピーナッツ | 0.58 |
プルーンジュース | 0.56 |
チョコレートパウダー | 0.43 |
赤ワイン | 0.36 |
グレープジュース | 0.34 |
植物性食品のなかでも、アボカドやプルーン、ナッツにココアパウダー、赤ワインなどが主なホウ素の供給源として活用できそうです。
それぞれの食品の特徴やメリットを確認してみましょう。
食品 | 特徴的な成分 | メリットや注意点 |
アボカド | ビタミンE α-リノレン酸 マグネシウム | 高脂質のため1日1/2個までを目安に |
プルーン | ビタミンE βカロテン ペクチン | ペクチン(水溶性食物繊維)が食後高血糖を防ぐ 肥満の防止にも役立つ |
ココアパウダー | ポリフェノール マグネシウム | ポリフェノールにはエネルギー消費を促す効果も 肥満の防止にも役立つ |
ナッツ | マグネシウム α-リノレン酸 亜鉛 セレン | セレンには遊離テストステロンを増やす効果も 高脂質のため1日30gまでを目安に |
赤ワイン | ポリフェノール | 1日ワイングラス1杯半までを目安に |
いずれの食品からも抗酸化物質を摂取できるため、テストステロンを保護する効果も期待できるでしょう。
ただしアボカドやナッツは高脂質食品であるため、食べ過ぎは禁物です。毎日食べる場合には少量での継続を心がけましょう。
サプリメントは摂りすぎNG
ホウ素のサプリメントは、ホウ素またはボロンの名前で市販されています。ホウ素による効果を手軽に実感したい場合には、サプリメントを活用するのもよい方法です。
ホウ素の摂取について調べた論文では、1日あたり3mg以上の摂取で効果が期待できること、3mg程度の摂取であれば副作用のリスクも非常に低いことが述べられています出典[1]。
実際、市販されているホウ素のサプリメントの多くが、1日の摂取量が3mgになるように配合されているようです。そのため商品の目安量を守り使用すれば、ホウ素による悪影響は生じないと考えられるでしょう。
ホウ素に限ったことではありませんが、サプリメントは必要以上の摂取でより高い健康効果を得られるものではありません。購入したサプリメントの摂取目安量に従い、過剰に飲むことのないよう注意しましょう。
ホウ素を摂取してテストステロンの分泌をサポートしよう!
ホウ素には性ホルモンやビタミンDの活性を高めたり、マグネシウムの吸収率を高めたりといった、テストステロンに役立つ効果が複数確認されています。
テストステロンを増やしたい方は、1日3mgを目安にホウ素を摂るようにすると、よい効果が得られるかもしれません。
食品ではアボカドやナッツ、赤ワインなどから摂取が可能です。ホウ素が豊富な食品には同時にほかの抗酸化物質も含まれるため、テストステロンを保護するためにも大いに役立つでしょう。
多くのホウ素サプリメントでは1日の量が3mgに設定されています。目安量以上の使用は避け、指定された量での継続摂取を心がけましょう。
出典
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