監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
魚とテストステロンの関係4つ
心身ともにたくましくなりたい方において、魚の摂取はあまり重要視されていないかもしれません。しかしテストステロンを高めるためには、魚の摂取も非常に重要です。
たとえば2024年3月に日本の国立国際医療研究センターから発表された論文では、テストステロンが大きく低下する高齢男性において、魚の摂取量が多いほどテストステロンも増えることが確認されています出典[1]。
魚がテストステロンを増やすメカニズムについて、現在判明していることを解説しましょう。
ビタミンDがテストステロンの合成を促す
魚はビタミンDの供給源として活用できます。ビタミンDは脂溶性ビタミンであるため、とくにさんまやサバのような高脂質の魚に豊富な栄養素です。魚の油は良質とよく言われますが、ビタミンDの含有量を増やし、吸収率を高めるためにも役立っているようですね。
ビタミンDとテストステロンの関係においては、オーストラリアのグラーツ医科大学から発表された2つの論文を確認するとわかりやすいでしょう。
2010年には2000人以上の男性を対象にした横断研究がおこなわれ、血中ビタミンD濃度が高い人ほど、血中テストステロン濃度も高く測定されたとの結果が得られました出典[2]。
また2014年にはヒトの精巣細胞を用いた研究において、ビタミンDの投与でテストステロンの合成が活性化したと確認されています出典[3]。
実際にヒトがビタミンDを摂取した例についても確認しましょう。
2013年にカタールのハマド総合病院でおこなわれた臨床研究では、ビタミンD欠乏症の中年男性に対する12か月間の高用量ビタミンD治療により、血中ビタミンD濃度が15.16nm/mLから48.54nm/mLに、総テストステロン濃度が12.46nnol/Lから15.99nnmol/Lへと増加しました。さらに性機能のスコアの向上やメタボリックシンドロームの状態の改善も見られたと報告されています出典[4]。
このように、体内のビタミンD濃度を高めることは、テストステロンを増やすために役立つようです。ビタミンDを効率的に補給できる魚を、ぜひ積極的に取り入れましょう。
ω‐3系脂肪酸がテストステロンを守る
脂質の多い魚にはもうひとつ大きなメリットがあります。それは良質な脂質として知られるω‐3系脂肪酸の、EPAやDHAを効率よく摂れるということです。
ω‐3系脂肪酸は抗酸化物質や抗炎症物質として機能します。私たちの体内で過剰に発生した活性酸素の働きを抑え、酸化ストレスを減らして細胞へのダメージを軽減する効果が期待できるのです。
活性酸素によるダメージは年齢を重ねるごとに蓄積されていきます。そのためω‐3系脂肪酸のような抗酸化物質の摂取は、体内のアンチエイジングにおいても有効とされていますね。
テストステロンの合成場所である精巣は、酸化ストレスに非常に弱い組織です。加齢にともない活性酸素のダメージが蓄積して精巣が傷付くと、テストステロンの合成能力も損なわれてしまうでしょう。
2020年にオーストラリアでおこなわれた臨床研究では、肥満男性への12週間の魚油補給にて、魚油の摂取量が多いほど、テストステロンが大きく増加したことが判明しています出典[5]。
テストステロンの合成能力を落とさないようにするためにも、魚からのDHAやEPAの摂取は非常に重要です。
マグネシウム不足の解消でテストステロンUP
魚はミネラルの供給源としても活用できます。今回はとくに効率的な摂取が期待できるマグネシウムに注目しましょう。
マグネシウムとテストステロンにおいては、次のような関係が判明しています。
- マグネシウムとテストステロンの量に相関関係がある
- マグネシウムの補給によりテストステロンが増加する
- マグネシウムはテストステロンを酸化や炎症から守る
- マグネシウムはテストステロンとSHBGの結合をブロックして遊離テストステロンを増やす
ビタミンDと同様に、マグネシウムの血中濃度とテストステロン濃度との間にも相関関係が認められています出典[6]。またマグネシウムの不足した細胞では活性酸素の量が2~3倍高くなることも判明しており出典[7]、抗酸化物質としての機能も高く評価されています。
さらにマグネシウムには、テストステロンと性ホルモン結合グロブリン(SHBG)との結合をブロックする性質が確認されています出典[8]。結合テストステロンが減少し、代わりに結合していない「遊離型」の割合を高めるように働くようです。
やる気や活力、性機能の向上といったテストステロンの効果は遊離テストステロンによりもたらされます。活性の高い遊離型の割合を増やすことで、よりテストステロンの恩恵を受けやすくなる可能性がありますね。
実際にマグネシウム補給がテストステロンを増やしたケースを紹介しましょう。
2011年にトルコのセルチュク大学から発表された論文では、持久力トレーニングとマグネシウム補給の組み合わせを4週間継続した若い男性において、12%の総テストステロン増加、12%の遊離テストステロン増加が確認されています出典[9]。
魚の摂取でマグネシウム不足を解消し、テストステロンの量と活性を高めましょう。
魚中心の食生活で肥満を改善
テストステロンを高めるためには牛肉との考えから、牛丼や焼肉などを高頻度で食べる方も多いのではないでしょうか。しかし牛肉のような赤肉中心の食生活は体重を増やしやすく、肥満のリスクを高めてしまいます。
テストステロンを下げる因子として、肥満には十分注意すべきです。肥満男性と痩せた男性とのテストステロン比較が、2010年にオーストラリアのヘンリー王子医学研究所から発表された論文にておこなわれています。
調査によると、BMIが35~40以上の男性は、痩せた男性よりも総テストステロンや遊離テストステロンの濃度が50%以上も低下していたと報告されているのです出典[10]。
一方、肥満男性がダイエットにより体重を14%落とすと、テストステロンが3.0 nmol/L増加したとの結果も、2003年にフィンランドのヘルシンキ大学中央病院が実施した臨床試験にて得られています出典[11]。
肥満によりテストステロンが増加し、減量によりテストステロンが回復する、といった重要な関係が2つの論文から見えてきますね。
魚中心の食生活は肥満の防止や改善に有効です。2019年にノルウェーから発表された論文では、赤身の魚介類を頻繁に摂取すると、肉類を頻繁に摂取する食生活と比較して、エネルギー摂取量が4~9%減少し、肥満の改善に役立つことが示されています出典[12]。
体重が気になる方は、肉中心から魚中心の食生活へ切り替えることを考えてもよいかもしれません。
テストステロンを高めるおすすめの魚5選
このように、魚の摂取はテストステロンの量や活性を高めるために役立つと考えられます。日々の食事に魚を取り入れて、テストステロンを高める手助けをしたいものですね。
そこでここからは、テストステロンを高めるための魚としておすすめのものを5種類紹介します。魚選びの参考として、ぜひ確認してみましょう。
1.鮭・サーモン
脂ののったサーモンからは、ω‐3系脂肪酸とビタミンDを効率よく摂取できます。テストステロンの量を増やしたり、テストステロンの合成場所を保護するために役立つでしょう。
鮭は脂質量こそ少ないものの、ビタミンDがサーモンの4倍近く含まれています。ビタミンDによるテストステロンの分泌を促す効果を得たい場合には、鮭の活用もおすすめです。
【魚類100gあたりの栄養価(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[14]】
エネルギー (kcal) | 脂質 (g) | ビタミンD (μg) | |
たいせいようさけ(サーモン) | 218 | 16.5 | 8.3 |
しろさけ | 124 | 4.1 | 32.0 |
また、鮭やサーモンはアスタキサンチンを同時に摂取できる点でとくに優秀です。アスタキサンチンはサーモンや鮭、エビやカニの赤色に含まれる色素成分であり、高い抗酸化作用や抗炎症作用が確認されています。
2014年にイタリアのキエーティ大学から発表された論文では、活性酸素の影響を受けた細胞をアスタキサンチンで処理したところ、炎症性サイトカインであるIL-1βとIL-6が約半量に、TNF-αは3分の1にまで減少したと報告されています出典[13]。精巣の炎症を防ぎ、テストステロンの合成機能を維持する効果が期待できそうですね。
テストステロンを高める成分をより多く摂りたい場合、サーモンや鮭は最適な魚のひとつと言えるでしょう。
2.さんま
さんまは魚類の中でもトップクラスの脂質量を誇ります。一般に高脂質とされる魚の栄養価を確認してみましょう。
【魚類100gあたりの栄養価(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[14]】
エネルギー (kcal) | 脂質 (g) | ビタミンD (μg) | |
さんま(皮つき) | 287 | 25.6 | 16.0 |
まさば | 211 | 16.8 | 5.1 |
たいせいようさけ(皮つき) | 218 | 16.5 | 8.3 |
効率よくω‐3系脂肪酸やビタミンDを摂取したい場合には、さんまの摂取がより適していると言えそうですね。
さんまは焼き魚定食に用いられることも多いため、外出先でも食べやすい魚です。テストステロンを効率よく高めたい場合にはとんかつ定食より焼き魚定食を意識して選びましょう。
3.サバ
サバも同様に、ω‐3系脂肪酸やビタミンDの供給源としておすすめです。
また、サバには亜鉛も多めに含まれています。亜鉛はテストステロンの分泌を促すためのホルモンのひとつ、黄体形成ホルモン(LH)の合成をサポートするように働きます出典[15]。亜鉛の欠乏を防ぎLHを十分に合成できれば、テストステロンも増やしやすくなるでしょう。
1996年にアメリカのウェイン州立大学で発表された論文では、次のことが明らかになっています出典[16]。
- 亜鉛とテストステロンの血中濃度に相関が見られた
- 20代男性を対象に亜鉛制限食を20週間続けたところ、テストステロンが減少した
- 60~70代の亜鉛不足の高齢男性を対象に亜鉛補給を6か月行ったところ、テストステロンが増加した
魚の調理が面倒な場合には缶詰の活用もおすすめです。手軽にサバを摂取したい場合は、ぜひサバ缶を取り入れてみましょう。魚の調達が難しいときのストックとして、自宅にいくつか保管しておくことをおすすめします。
4.あじ
あじはサーモンやサバよりは低脂質な魚ですが、ビタミンDやマグネシウムなど、テストステロンを増やすためのビタミンやミネラルの摂取に役立ちます。安価で入手しやすい魚のため、高頻度で魚を食べたい場合に重宝するでしょう。
【魚類100gあたりの栄養価(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[14]】
エネルギー (kcal) | ビタミンD (μg) | マグネシウム (mg) | 亜鉛 (mg) | |
まあじ(皮つき) | 112 | 8.9 | 34 | 1.1 |
なお、あじといえばアジフライを連想する方も多いかもしれませんが、フライ系は3つの点で避けるべきです。
- 揚げ油は過酸化脂質を増やしやすく、酸化ストレスの原因となる
- 高カロリーであり肥満のリスクを高めやすい
- 高温調理によりω‐3系脂肪酸が減少する
フライや天ぷらなどは避けて、煮物やアクアパッツァ、かば焼きなど、揚げ調理以外の方法でおいしく食べましょう。
5.カツオ
カツオは収穫時期により栄養価が異なる魚です。春のカツオと秋のカツオを比較してみましょう。
【魚類100gあたりの栄養価(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より)出典[14]】
エネルギー (kcal) | 脂質 (g) | ビタミンD (μg) | マグネシウム (mg) | |
かつお(春獲り) | 108 | 0.5 | 4.0 | 42 |
かつお(秋獲り) | 150 | 6.2 | 9.0 | 38 |
秋獲りのカツオは、脂質は春獲りの12倍以上、ビタミンは2倍以上含んでいることが分かります。マグネシウムの含有量は春獲りのカツオの方がやや多いものの、全体として秋獲りのカツオがテストステロンを高める目的には適していると言えそうですね。
カツオを食べる際は、身に熱を通し切らず、表面を軽く炙って食べるタタキがおすすめです。皮付近に多いω‐3系脂肪酸を効率よく摂取できることに加え、最小限の加熱で処理するためω‐3系脂肪酸が大きく減ることもありません。
脂がのったおいしいタタキを、ぜひ秋に堪能しましょう。
魚を食べる際のポイント
テストステロンを高めるため、紹介した5種類の魚を早速食事に取り入れたいと考える方も多いのではないでしょうか。
そこでここからは実際に魚を食べる際の、頻度や量、調理法について説明しましょう。魚の効果をより多く得るためにも、ぜひ次の解説を参考にしてください。
1日1品を目標に、週5~6回のペースを意識
テストステロンを効果的に増やしたい場合、魚は1日1品取り入れるペースを目標にしましょう。
2024年3月の最新の調査では、高齢男性の魚摂取量頻度とテストステロン量が相関することが示されています。このうち最も摂取量が高いグループは1000kcal中58gの魚を摂取していることが分かりました出典[1]。
男性の1日の摂取カロリーを2000kcalとする場合、毎日116gの魚を食べている計算になりますね。
サバの塩焼きは一切れ約60g、サーモンは一切れ約100g、サバ缶のサバ重量が1缶約90~130gなど、料理により重量には幅があります。しかし1日1品の魚料理を目標にすると、大きな不足を防げるでしょう。
魚の切り身や缶詰を摂れそうにない日には、ちりめんじゃこや魚肉ソーセージ、アーモンド小魚などを食べる方法もあります。ただしこれらの商品は塩分が多くなりやすいため、常食は控えた方がよさそうです。新鮮な魚の用意が難しい日の「ちょい足し」として活用しましょう。
生での摂取がおすすめ
魚類に含まれるDHAやEPAは酸化しやすい油であり、加熱により量が減少するため注意が必要です。
加熱温度が高くなるほど、DHAやEPAの減少量も増加します。さんまの加熱方法によるω‐3系脂肪酸の残存量を調べた研究では、揚げ調理の残存量が51~58%と、グリル焼きやフライパン焼きの残存量78~92%と比較して大幅に低いことが分かりました出典[17]。
フライや天ぷらの揚げ調理はEPAやDHAは約半分になり、フライパンやグリルでも約10~20%の減少が起こります。より魚油を効率よく摂取するためには刺身やカルパッチョ、タタキのような形での摂取をおすすめします。
新鮮な刺身を毎日用意することは難しいため、冷凍保存を考える方もいるかもしれません。しかし一般的な家庭の冷凍庫での冷凍では、解凍時に水分の流出が起こるため、刺身の味や食感が大きく損なわれてしまいます。
タタキであれば表面を炙っているため味の低下や栄養素の流出があまり起こりません。冷凍された状態でのタタキも購入できるため、魚料理のストックとしてぜひ活用してみましょう。
魚類に偏ったたんぱく質の大量摂取はNG
毎食魚料理ばかり食べる、あるいは1食あたり2切れも3切れも魚を食べる、といった極端な食べ方は避けるべきです。
1日に3.4g/kgより多い摂取を続けた場合、テストステロンが減少することが、2023年にイギリスのウースター大学から発表された論文で示されています出典[18]。
たんぱく質の摂りすぎにより、テストステロンの合成を抑えるホルモン「コルチゾール」や、たんぱく質の代謝物であり酸化ストレスとしても作用する「アンモニア」の産生が増加します。テストステロンの合成に悪影響を与える可能性があるため、摂りすぎは控えましょう。
1日に1.25~3.4g/kgを摂取する場合にはテストステロンは減少していなかったため、この範囲での摂取を心掛けましょう。
体重60kgの方であれば1日に75~204g、1食あたり25~68gの摂取が目安です。魚一切れから約20g、お米200gから5gのたんぱく質を摂取できます。ほかの食品からもたんぱく質を摂ることを考えると、やはり1食あたり1切れが適切と言えそうですね。
また、魚以外にもテストステロンの増加に役立つたんぱく質食品は複数あります。たとえば牡蠣は亜鉛の効率的な摂取に、牛肉はL-カルニチンの摂取に役立ちます。魚を食べないタイミングでは肉類や卵、豆腐に乳製品などを取り入れ、テストステロンを効率的に高めましょう。
1日1食の魚でテストステロを最大化しよう!
魚にはω‐3系脂肪酸やビタミンD、マグネシウムなど、テストステロンを高めるために重要な成分を複数摂取できます。効率的にω‐3系脂肪酸を摂るためには、良質な脂質が豊富なサーモンやサンマ、サバなどの赤身魚を活用しましょう。
ただし魚に豊富なω‐3系脂肪酸は熱に弱い性質があります。フライや天ぷらでの摂取はなるべく避けましょう。サーモンやカツオは刺身やタタキでの摂取がおすすめです。
魚中心の生活を心掛ければ肥満の解消にも役立ち、心身ともにたくましさを高めやすくなります。1日1食の魚料理を食べることを目標に、さまざまな種類の魚を取り入れましょう。
出典
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