執筆者
管理栄養士/分子栄養学カウンセラー
岡かな
大阪市立大学食品栄養科、大学院修士課程修了。医療機関に勤務し、糖尿病や高血圧など生活習慣病の栄養管理に取り組む。その後はヘルスケア事業に移り、年間500人以上のダイエットをサポートする。現在はダイエットサポートの他、特定保健指導や健康に関わる分野の執筆も行っている。誤った情報で10キロ以上リバウンドした自分自身の経験から、科学的根拠に基づく正しい情報の発信を心掛けている。
とろろってどんな食べ物?
ネバネバ系食品の代表格であるとろろ。
健康そうなイメージがありますが、実際にどのような食材なのでしょうか?
まずはとろろの特徴について見ていきましょう。
山芋を生ですりおろした食品
とろろとは、山芋をすりおろしたものを言います。
山芋と似た食材に”長芋”がありますが、両者は同じなのでしょうか?
山芋は「ヤマノイモ科」に属する、いも類の総称を言います。
長芋や大和芋、自然薯などはすべてヤマノイモ科なので、これらをひっくるめたものを山芋と言うんですね。
山芋はいも類なのに、すりおろして生で食べられることを不思議に思いませんか?
じつは、山芋には消化酵素である「ジアスターゼ」が豊富に含まれており、山芋の主成分であるでんぷんの消化を助けてくれるんです。
そのため、さつまいもやじゃがいもなどのいも類は生で食べることができないのに対し、山芋は生で食べても腹痛を起こさないんですね。
ネバネバによる健康効果が高い
ネバネバ食材の代表格である山芋は体に良いイメージがあるでしょう。
実際、山芋の健康効果はネバネバによる作用が大きいんです。
山芋のネバネバの正体は、水溶性食物繊維のマンナンとたんぱく質が結合した「糖たんぱく質」。
山芋のネバネバに期待できる効果として、次のようなものがあります。
- 血糖値の上昇を緩やかにする
- 血中脂質のバランスを整える
- 腸内環境を良好に保つ
- 炭水化物食品の消化をサポートする
血糖値の上昇を緩やかにする働きは、山芋に含まれるレジスタントスターチによるもの。
レジスタントスターチとは消化吸収されないでんぷんのことで、食物繊維と似た働きをするため糖質の吸収を遅らせる効果があります出典[1]。
血糖値の急上昇が抑えられれば、体脂肪を合成するインスリンの過剰分泌が防がれダイエットにも効果的ですね。
そして、山芋には水溶性食物繊維も豊富。
水溶性食物繊維はレジスタントスターチと同様に血糖値を緩やかにするだけでなく、余分なコレステロールを吸着して排出するため、血中脂質の改善にも効果的なんです。
また、水溶性食物繊維は腸内細菌のエサとなることで腸内環境を整える役割もあります。
さらに、長芋にはでんぷんを分解する消化酵素「ジアスターゼ」が豊富であるため、炭水化物食品の消化サポートにも役立つんですよ出典[2]。
山芋のネバネバには健康効果がたくさんつまっていますね。
とろろと精力の関係とは?
ここからは、男性ホルモンであるテストステロンの増加や勃起力の改善に関係するとろろの効果を紹介していきましょう。
DHEAを増やして男性ホルモンUP
山芋に含まれる成分である「ジオスゲニン」をご存知でしょうか?
ジオスゲニンは、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)に構造を持つ成分出典[3]。
DHEAは副腎で生成される男性ホルモンの前駆体で、後にテストステロンなどの性ホルモンに変換されます。
ジオスゲニンはDHEAと似た働きを持つため天然のステロイドとも言われており、性機能の改善や筋肉増強効果が期待されているんです。
正確には、山芋の中にはジオスゲニンに糖が複数結合した「ジオスゲニン配糖体」として存在し、配糖体は胃酸などで糖が切られジオスゲニンに変換することで生体利用されます。
実際に2020年に発表された研究では、15人のスプリント選手に筋力トレーニングに加えて山芋の錠剤を摂取してもらったところ、トレーニングのみ実施した場合よりDHEAが2倍以上、遊離テストステロンが3倍以上高くなったことがわかりました出典[4]。
山芋の摂取によってテストステロンの増加が期待できそうですね。
抗酸化物質が精巣を保護
活性酸素が体に与える影響を「酸化ストレス」と言いますが、精巣が酸化ストレスによるダメージを受けると、テストステロンの合成能力や性機能が落ちてしまいます。
そこで酸化ストレスの減少に役立つのが、山芋に含まれるジオスゲニンやビタミンEなどの抗酸化成分。
活性酸素を取り除き、精巣を保護してテストステロンの合成能力や精子の状態、精子濃度などを改善する効果が期待できるのです。
実際に、2022年に行われたマウスを用いた研究では、高脂肪食と同時にジオスゲニンを6週間摂取させた結果、過酸化脂質の指標となるマロンジアルデヒドを55.3%抑制でき、抗酸化能力を2倍以上に保てたことがわかりました出典[5]。
また、酸化ストレスを与えたラットにビタミンEを投与した研究も確認されています。
この研究では、ビタミンEを投与したラットは酸化ストレスに晒されていないラットと同じ程度の精巣状態であったことが示されました出典[6]。
このように、とろろに含まれる抗酸化物質は酸化ストレスから精巣を守ることで、テストステロン合成能力や性機能を保つように働くでしょう。
血流を改善して勃起力をサポート
とろろは勃起力向上にも役立つ可能性があります。
そもそも勃起力向上には、テストステロンだけでなく”血流”の改善も大切な要素。
なぜなら、勃起とはそもそも陰茎に血流を送り込むことで起こる現象だからです。
そして、とろろに含まれる成分は、以下の理由により血流改善効果が期待できるんです。
- 血糖値スパイクを抑え、血管を保護
- 血中脂質のバランスを調整し、血液をサラサラにする
とろろに豊富な水溶性食物繊維には、食後の血糖値の乱高下「血糖値スパイク」を防ぐ効果があります。
血糖値スパイクによる血管へのダメージを防ぎ、血流を維持する効果が期待できるでしょう。
実際にラットを用いた動物実験では、ヤマイモ成分を摂取した5件の研究すべてでブドウ糖摂取後の血糖上昇幅が減少したことが確認されました出典[7]。
また、山芋由来のジオスゲニンには血中脂質のバランスを整える効果があり、血液をサラサラにすることで血流改善効果がより高まります。
山芋由来のジオスゲニンをラットに投与した研究では、総コレステロールが119.7から81.2mg/dL、中性脂肪が50.7から42.6mg/dLへ減少、善玉コレステロールは28.6から44.1mg/dLへ増加したこともわかっています出典[8]。
しなやかな血管とサラサラの血液を維持して血流を改善できれば、勃起力のサポートにも役立つでしょう。
肥満改善により男性ホルモンの減少や勃起不全を防ぐ
肥満の改善は、男性ホルモンの減少や勃起不全(ED)を防ぐことに繋がります。
というのも、肥満になると脂肪細胞から分泌される炎症性サイトカインはテストステロンを分解してしまうんです出典[9]。
肥満を改善できれば炎症性サイトカインを減らせるため、テストステロンを守ることで性機能向上の効果が期待できそうですね。
実際に、中年肥満男性38名を対象にした研究では、32週間のダイエットで体重を約14%落とすと、遊離テストステロンが4倍以上に増加したことが示されているんです出典[10]。
そして、肥満の改善効果が示されている食品こそ、山芋です。
山芋及び山芋抽出物の摂取と体重の関係を調べた9件の研究では、山芋摂取により体重が有意に減少することが示されました出典[7]。
山芋の食物繊維により血糖値スパイクが防止されることが、ダイエットに一役買っているのでしょう。
「山芋はダイエット食材」「とろろでダイエット」と言われることも多いですが、本当に肥満の改善に活躍してくれますよ。
腸活が勃起力の向上に役立つ
「とろろ=腸に良い」というイメージを多くの人がもっているかもしれません。
実際、食物繊維が多いとろろは腸活にうってつけの食材です。
ところで、腸内環境を整えるとなぜ勃起力の向上に役立つのでしょうか?
じつは腸内細菌叢の乱れとEDは密接に関連しているんです。
実際に、30人のED患者と30人の健康な人の腸内細菌叢を調べた研究では、ED患者は腸内細菌の多様性が低く、連鎖球菌の数が多いことがわかりました出典[11]。
多数の研究により、EDの病因は腸内環境の悪化による炎症反応に関連していることが実証されており、炎症を引き起こす主な原因は連鎖球菌とされています出典[11]。
腸内細菌叢を整えることで、炎症を改善しEDの原因を取り除ける可能性がありますね。
さらに、腸内細菌叢の乱れは肥満とも密接に関連しています。
腸で炎症が起こると腸内細菌由来エンドトキシンが分泌されるのですが、エンドトキシンは代謝異常症を引き起こし、肥満やインスリン抵抗性の一因となることがわかっています出典[12]。
このように、腸内細菌叢の乱れによる炎症は、肥満を通してEDのリスクを高める可能性があるのです。
EDで悩んでいる人や心配な人は、とろろで腸内環境を整えてみてください。
精力アップに役立つとろろの食べ方
ここからは、摂取量やタイミングなど、男性機能向上のためのとろろの食べ方について解説します。
とろろで得られる効果を最大限に発揮するために、しっかり確認しておきましょう。
食事に取り入れて血糖値スパイク防止
とろろは食事の一部として食べることが多いと思いますが、とくに食事のはじめに食べるのがおすすめです。
なぜなら、ベジファーストで知られるように、炭水化物の食品を食べる前に食物繊維を多く含む食品を先に食べることで血糖値の急上昇が抑えられるからです。
実際に2010年に日本で行われた研究では、糖尿病患者15人に対して、野菜を先に食べた場合と米飯から先に食べた場合でその後の血糖値が測定されました。
その結果、野菜から先に摂取すると、米飯から先に摂取した場合と比較して30分後の血糖値は217±40mgdlから172±31 mgdl、60分後は208±56mgdlから187±41mgdlと有意に上昇が抑えられたことが示されています出典[13]。
血糖値スパイクが防止されると、テストステロンを守る効果も高まるでしょう。
食物繊維の多いとろろを、食事のはじめに取り入れてみてください。
ジオスゲニン摂取にはクーガ芋がおすすめ
山芋の一種である「クーガ芋」をご存知でしょうか?
「トゲドコロ」とも呼ばれる山芋で、主に沖縄で栽培されています。
じつはクーガ芋はジオスゲニンの含有量が非常に多く、自然薯や長芋といった他の山芋との差はなんと約200倍に及ぶとの報告もあります出典[14]。
効率的にテストステロンを増加させ、男性機能や筋肉増強効果を得たいなら、クーガ芋を選んでみてください。
ただし、クーガ芋の旬は2月下旬から4月上旬までと短く、その生産量も限られているようです。
希少な山芋であるため、旬の時期を見逃さないようにしてくださいね。
発酵食品と好相性
山芋に含まれているレジスタントスターチや食物繊維は、腸内の善玉菌のエサになることで善玉菌を増やす効果があります。
もちろん山芋単体での摂取も良いですが、キムチや納豆、ヨーグルトなどの発酵食品と一緒にとるのもおすすめ。
発酵食品は善玉菌が豊富に含まれるため、善玉菌とそのエサを同時に摂取でき腸活をサポートしてくれるでしょう。
とろろと納豆、とろろとキムチは味の相性も良いので美味しく食べられそうですね。
「食前にとろろ、食後のデザートにヨーグルト」という組み合わせもいかがでしょうか。
まとめ
とろろには、レジスタントスターチや食物繊維、ジオスゲニン、ビタミンEなど、性欲や性機能の向上に役立つ成分が含まれています。
ジオスゲニンは、テストステロンの増加作用が示されている山芋特有の成分。
抗酸化作用もあることから精巣の保護にも役立つでしょう。
また、とろろに豊富な食物繊維は血糖値スパイクを予防することで、肥満の防止や血流を改善し、その結果、勃起力向上が期待できます。
とろろのおすすめの食べ方は、食前に取り入れることです。
納豆やキムチ、ヨーグルトと組み合わせて腸活サポートもしていきましょう。
出典
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