デスクワークは男を蝕む!?ビタミンDとテストステロンの関係3つ
2024年2月21日更新

執筆者

管理栄養士

井後結香

管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。

そもそもビタミンDってどんな栄養素?

ビタミンDは、他のビタミン同様に必須の栄養素であり、食事からの摂取が不可欠ですが、必要量の一部は皮膚で合成できるという特徴を持っています。太陽の紫外線にさらされることで合成が起こりますが、日光を浴びる機会が少ない場合や、日光自体が弱い冬季には合成量も減少するため、食事からの摂取の必要性はより高まります出典[1]

ビタミンDはカルシウムの吸収を高める効果を持ち、骨や歯の形成をサポートします。また血中のカルシウム濃度を調節する役割も担っています。カルシウム濃度の変化によって神経伝達や筋細胞の収縮が行われているため、これらの正常な機能のためにもビタミンDは欠かせません。

食事においては魚介類に豊富に含まれています。その他、肉類卵類乳製品など動物性食品が主な供給源となるほか、きのこ類からも効率的に摂取できます。これらの食事からの摂取が不足すると、腸管からのカルシウム吸収と、腎臓でのカルシウム再吸収が低下することが分かっています。この低カルシウム血症により小児の成長障害、くる病や骨軟化症、骨粗鬆症などのリスクが上がってしまいます。

ちなみにビタミンDは脂溶性ビタミンに分類され、脂質と同時に摂取することで吸収率が高まります。また水溶性ビタミンのように、過剰摂取分が尿として体外へ容易に排出されるということがないため、過剰摂取に注意すべき栄養素でもあります。

ビタミンDの摂りすぎは高カルシウム血症の原因となり、嘔吐や食欲不振などの消化器障害を引き起こします。重度のものではカルシウムが血管や腎臓などに沈着し、腎機能障害や血管の石灰化を生じることもあるため、サプリメントの大量摂取には注意が必要です。

 

ビタミンDの不足が男性力を下げる

カルシウムの吸収および骨代謝において重要な役割を果たすビタミンDは、不足すると骨粗鬆症のリスクを大きく上げてしまいます。しかしもう一つ生じる不足の症状として、性機能の低下が挙げられます。ビタミンDの不足と、男性ホルモンであるテストステロンの減少との間に、関わりがあることが明らかになっているのです。

テストステロンは精子の製造に関わる重要なホルモンであると同時に、筋肉や骨の合成を促したり、やる気や集中力を維持したりする働きがあります。そのため、体内のテストステロン濃度が低下すると、精子の量や質が低下するのみならず、筋肉量が減少したり、気分の落ち込みや無気力感を招いたりしてしまいます。

このテストステロンとビタミンDですが、2000人以上の男性を対象に行われた横断研究によると、血中ビタミンD濃度が高い人ほど、血中テストステロン濃度も高く測定されたという報告が得られています出典[2]

このように、血中のビタミンD濃度とテストステロン濃度との間には相関関係があり、ビタミンDが不足するとテストステロン濃度も低下することが分かります。テストステロンの不足により不妊や肥満、うつ病のリスクが上がり、健康で活力のある状態を維持できなくなってしまうため、男性力の維持のためにはテストステロンの分泌のみならず、ビタミンDの供給にも気を配る必要があると言えるでしょう。
 

ビタミンDとテストステロンの3つの関係

体内においてある程度の相関関係が認められるビタミンDとテストステロンですが、ビタミンDはテストステロンの分泌にどのような影響を与えているのでしょうか。以下ではビタミンDの明らかになっている作用について解説します。

ビタミンDはテストステロン合成酵素を活性化させる

男性において、テストステロンのほとんどは精巣で合成されています。この精巣にはビタミンD受容体があり、ビタミンDが精巣の受容体と結びつくことで、テストステロンの合成量を増やす効果を発揮すると考えられているのです。

テストステロンはコレステロールを材料としています。テストステロン合成においては、コレステロールからテストステロンの前段階である「前駆体」への変換が起きるのですが、ビタミン Dはこの前駆体への変換酵素を増やし、テストステロンの合成を活性化する働きがあることが明らかになっています。

ヒトの精巣細胞を用いた研究によると、ビタミンDで処理した細胞を分析したところ、精巣におけるビタミンD受容体の活性化と、男性のアンドロゲンやビタミンD代謝遺伝子の発現の促進、テストステロン合成量の有意な増加が確認できたという結果が得られています出典[3]

また、ビタミンD受容体を使えないようにしたビタミンD受容体ノックアウトマウスにおいては、性腺機能が著しく低下し、精子の数と運動性が損なわれたという結果も得られています出典[4]

精巣にはビタミンD受容体が存在すること、また以上の研究で判明したビタミンDとテストステロンの関係から、テストステロンの合成には十分な量のビタミンDが必要であると考えられています。

 

ビタミンDサプリメントはテストステロンを増やす可能性がある

ビタミンDをより効率的に摂取できる方法として、サプリメントの利用が挙げられます。このサプリメントにより血中のテストステロン量を増加できる可能性があるようです。

ビタミンD欠乏症の中年男性におけるビタミンDの補充療法と、性ホルモンや性機能などへの変化を調べる臨床研究が行われました。この研究においては、月1回の高用量ビタミンD治療を12回続けたことにより、血中ビタミンDの改善のみならず、総テストステロンや性機能のスコアが上昇し、メタボリックシンドロームの状態の改善も見られたと報告されています出典[5]

また、健康な太りすぎの男性がビタミンDのサプリメントを摂取した際の血中テストステロン濃度の変化を調べたランダム化比較試験によると、ビタミンDのサプリメントを83㎍/日、1年間服用した群は、プラセボのサプリメントを1年間服用した群と比較して、血中テストステロン濃度が有意に上昇していました。特に、他の細胞やたんぱく質と結びつかず、性機能の向上効果を大きく発揮すると言われる「遊離型」のテストステロンが増加していたことも分かっています出典[6]

このように、ビタミンDのサプリメントにおいては、長期の摂取により血中のテストステロン濃度を改善し、性機能やメタボリックシンドロームの状態改善に役立つ効果が期待できます。

 

テストステロンにはビタミンDの充足が大切

ビタミンDとテストステロンの量は体内において相関関係にあることが分かっています。ビタミンDの不足はテストステロンの量に影響を与えると考えられており、ビタミンDの補充による効果も判明しつつあります。

40歳から75歳までの男性5万人以上を対象とした前向きコホート研究によると、ビタミンDが不足している状態において、血中テストステロン濃度も同様に減少していたことが明らかになりました。またビタミンDの補充により血中テストステロン濃度が増加したという結果も認められています。一方で、ビタミンDの供給が十分である場合には血中テストステロン濃度は横ばいとなり、体内におけるビタミンD濃度の上昇によっても、血中テストステロン濃度の更なる増加は確認できませんでした出典[4]

このように、ビタミンDの不足がない場合における追加供給においてはテストステロンの増加に効果を及ぼさないものの、不足を補いビタミンDを充足させることは、血中テストステロン濃度の改善において効果的であると考えられています。

 

ビタミンDを積極的に摂取すべき人

テストステロンの不足を防ぐため、ビタミンDを充足させることは重要です。しかしビタミンDはどのような場合に不足しがちなのでしょうか。

厚生労働省が発表している「日本人の食事摂取基準(2020年版)によると、18歳以上の男女における摂取目安量は8.5μg/日となっています。また、日照により皮膚でビタミンDが産生されることを踏まえ、日光浴を心掛けることが推奨されており、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要とも記載されています出典[7]

なお、令和元年度に実施された「国民健康・栄養調査」によると、ビタミンDの摂取量平均は年齢ごとにそれぞれ以下のようになっています。

【令和元年度「国民健康・栄養調査」より、ビタミンDの平均摂取量(μg/日)】出典[8]

 男性女性
20-29歳5.94.6
30-39歳5.54.9
40-49歳6.45.3
50-59歳6.85.4
60-69歳7.97.1
70-79歳10.99.0
80歳以上8.67.4

このように、摂取量はほとんどの年齢において目安量を下回っており、特に20~40歳代の不足が大きいことが分かります。しかし日本は日照に比較的恵まれているため、通常の生活をしている分にはビタミンDの深刻な不足は起きないと考えられています。

ビタミンDの不足に注意した方がよいのは、このビタミンDの摂取不足を日光浴によって補うことができない場合です。屋内での競技を行うアスリート選手や、外仕事のないデスクワーカーなど、日光を浴びる機会の少ない人は、食事からのビタミンD摂取を意識する必要があるでしょう。

また、緯度の高い地域に住んでいたり、雨や雪などが多い梅雨や冬の時期であったりする場合にも、日光浴によるビタミンDの合成量が不十分になる可能性があります出典[1]。お住まいの地域の天候や緯度、日照時間を見直してみるのも、ビタミンDの充足チェックに役立つでしょう。

 

体内のビタミンDレベルを上げる方法

体内のビタミンDを充足させるためには、ビタミンDを補給するか、ビタミンDの合成量を高める必要があります。以下ではそれらの方法について説明します。

ビタミンDが豊富な食べ物を取り入れる

他のビタミン同様に、ビタミンDも食事から摂取することができます。ビタミンDは魚介類に特に豊富であり、肉類や卵類、きのこ類も供給源となります。

【ビタミンDを多く含む食品とその含有量】出典[10]

食品ビタミンD含有量(μg/100g)
しろさけ(イクラ)44.0
しろさけ32.0
にしん(かずのこ)17.0
さわら12.0
さば(缶詰・水煮)11.0
まいたけ4.9
全卵3.8
うし(リブロース脂身)2.2
エリンギ1.2

ビタミンDは脂溶性であるため、脂質と一緒に摂取すると吸収率が高まります。そのため脂質を豊富に含む魚類や肉類から摂取するのが効率的であると言えるでしょう。きのこ類を食べる際には油で調理することにより、ビタミンDの吸収率を上げることができます。

ビタミンDを効率的に摂取できる料理として、以下のようなものがオススメです。

  • サケのクリームシチュー
    焼くことで油が流れ出てしまいやすいサケは、シチューにすると油に溶けたビタミンDも一緒に摂取することができます。
  • マイタケと卵のマヨネーズ炒め
    ビタミンD含有量の比較的多い卵とマイタケを使用しています。マヨネーズを使って加熱することでビタミンDの吸収効率を上げることができます。

もっと手軽な方法として、オイルサーディンを使用するという方法があります。オイルサーディンにはイワシ由来のビタミンDが豊富であり、またその吸収を促す油で調理されているため、ビタミンDの利用効率が高まる食べ方としてオススメです。そのままでもおかず一品として食べられるため、ビタミンDの供給源として缶詰をいくつかストックしておくとよいでしょう。

 

サプリメントで摂る

食事への工夫が難しい場合は、サプリメントを利用するというのも効率的な方法です。テストステロンの増大効果を期待する場合には、サプリメントに記載された目安量を毎日継続して摂取するとよいでしょう。

サプリメントの利用においては、過剰摂取に注意が必要です。特に脂溶性ビタミンであるビタミンDは、水溶性ビタミンと異なり尿として体外に排出されることがないため、体への蓄積が起こりやすくなっています。

日本人の食事摂取基準(2020年版)においては、耐容上限量が100μg/日と設定されています出典[7]。摂りすぎにより高カルシウム血症をきたすおそれがあるため、サプリメントの多量摂取には十分注意しましょう。

サプリメントは、多量に摂取することでより大きな健康効果を得られるものではありません。またビタミンDとテストステロンの関係を調べた研究においても、ビタミンDが充足している状態において更にビタミンDを呼吸しても、テストステロンの増大効果は確認されないことが分かっています出典[4]

あくまでもサプリメントの利用は、食事や日光浴からのビタミンDの不足を補う形と考え、適量を毎日続けることを心掛けましょう。

 

日光に浴びる時間を増やす

皮膚におけるビタミンD合成を促すため、日光浴の習慣を身に付けるのもよい方法です。

ただし日光浴の時間は、地域の緯度や季節によって異なることが分かっており、一律に「何分の日光浴が必要」と定めることは難しいという実情があります。

国立環境研究所と東京家政大学の研究チームがビタミンDの合成にかかる時間を求める実験を行いました。5.5μg(ヒトが1日に最低限必要とされるビタミンD量として計算されています)のビタミンD合成にかかる時間を、日本の「札幌」「つくば」「那覇」について調べました。その結果、紫外線の弱い冬の12月正午の開始で、那覇では8分、つくばでは22分、札幌で76分の時間がかかっています出典[9]

このように、ビタミンDの合成量は緯度の差による日光の強弱によっても異なるため、日光の弱い傾向にある高緯度地域においては、ビタミンDの生成により時間がかかる点に注意する必要があるでしょう。

 

まとめ

ビタミンDは、その充足によってテストステロンを増やせる可能性を秘めています。ビタミンDおよびテストステロンの不足を防ぐため、適切な食事と毎日の日光浴を心掛けてみましょう。

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