監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
はじめに
筋肉を付けて体力を付け、かつ引き締まった体を手に入れるためには、運動のみならず食事に気を配ることも重要です。この記事では食事が、筋肉を鍛えたり引き締まった体を作ったりすることにどのように役立つかを解説しつつ、実際に摂取したい食品についても併せて紹介します。
筋肉と食事の密接な関係3つ
筋肉を鍛えるためにはたんぱく質、という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? 体力づくり、引き締まった体づくりにおいてもたんぱく質の重要性は広く知られているところですが、他にも食事から得られる栄養素には、筋肉に様々なよい効果をもたらすものがあります。ここでは筋肉の維持や増強に必要となる栄養素について解説します。
筋肉が動くエネルギーを供給
私達が体を動かすために、エネルギーの供給は欠かせません。主な供給源となるのは炭水化物です。食事から摂取した炭水化物は消化されてグルコースとなり、即座に使われない分はグリコーゲンの形へと変わって筋肉や肝臓へと蓄えられます。筋肉はこのグリコーゲンを燃料にして動くため、グリコーゲンが不足することのないよう、日頃から十分な炭水化物を摂取しておきましょう。
炭水化物を含む食品と言えば穀類やイモ類、砂糖などですが、これらをエネルギーに変えるためにはビタミン類の助けが必要です。ビタミンB1、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6など、様々なビタミンが炭水化物をエネルギーに変えるための手助けをしています。
ビタミン類が不足していると、炭水化物を摂取しても十分にエネルギーへと変えることができず、筋肉のパフォーマンスが低下したり、疲労を強く感じたりしてしまいます。またエネルギーが足りない状態が続くと、体は筋肉のたんぱく質を分解してエネルギーを手に入れようとしてしまいます。パフォーマンスの低下や筋肉の分解を防ぐため、炭水化物だけでなくビタミン類も不足なく摂取する必要があるでしょう。
筋肉の材料となる
筋肉を動かすエネルギーとなるのは炭水化物ですが、筋肉自体を作るのはたんぱく質です。食事から摂取したたんぱく質は消化され、アミノ酸になります。アミノ酸には様々な種類がありますが、筋肉などの体たんぱくを合成する際に重要になるのは、必須アミノ酸と呼ばれる9種のアミノ酸です。
必須アミノ酸はどれも体内で合成することができず、食事からの摂取が必要です。体たんぱくの合成には9種類の必須アミノ酸全てが使われますが、効率よく体たんぱくを合成するには、9種類の必須アミノ酸を食事からバランスよく摂取しなければいけません。
たとえば、リジンという必須アミノ酸が不足しているとします。その場合、他の十分にある必須アミノ酸はリジンを補うことはできないため、体たんぱく合成はリジンの供給量に合わせた分でしか行えなくなるのです。
それぞれの食品における、必須アミノ酸の量とバランスを示すスコアを「アミノ酸スコア」と呼びます。アミノ酸スコアが100に近いほど、必須アミノ酸が潤沢に、かつバランスよく含まれていることを意味します。必須アミノ酸を十分に摂取して体たんぱく合成に役立てたい場合は、このアミノ酸スコアが100に近い食品を選ぶとよいでしょう。
ダメージから筋肉を回復させる
トレーニングによる負荷で筋肉が疲弊したり、肉離れなどの筋傷害を起こしたりした場合、適切な栄養素を不足なく摂取することで、筋組織を迅速に回復させることができます。
筋肉が疲弊したり傷付いたりした場合、回復のために普段よりも多くのたんぱく質を必要とします。食事からのたんぱく質供給量が足りないと、体は他の筋肉からたんぱく質を分解して傷付いた筋肉の回復に充てようとするため、筋肉量の減少に繋がってしまいます。筋肉の分解を防ぎ、即座に筋傷害からの回復をはかるため、たんぱく質を積極的に摂取する必要があります。
更に、疲弊や傷害を抱えた筋肉は炎症状態にあることが多く、この回復のために抗炎症作用を持つ食品を積極的に摂取することも重要です。ビタミンEや亜鉛のほか、フラボノイドなどのポリフェノール類や、EPAやDHAのω-3系脂肪酸などが抗炎症作用のある成分として知られています。これらを意識して摂ることで回復も早まるでしょう。
筋肉をつける食事ガイドライン
筋肉を鍛えるための食事においては、筋肉のエネルギー源となること、筋肉の材料となること、筋肉の回復をサポートすること、この3つが重要です。これらの助けとなり、またこれらの働きを妨げないような食事ができるよう、以下にそれぞれの食品について、選び方や摂取量などを説明します。
手のひらサイズのたんぱく食品を毎食取り入れる
1日に必要なたんぱく質は、体重と、どの程度の筋トレを行うかによって異なります。激しい筋トレを行う場合にはより多くのたんぱく質が必要になります。
- 軽負荷の筋トレの場合 体重1㎏あたり1.2~1.4g
- 高負荷の筋トレの場合 体重1㎏あたり1.6~1.7g
たとえば体重60㎏の人が軽負荷の筋トレをする場合、1日72~84gのたんぱく質を摂取する必要がある、ということになります。
たんぱく質の含有量は食品によって異なりますが、たんぱく質食品とされる肉類・魚類、卵、豆腐などであれば、ちょうど手のひらに乗る量で約20gのたんぱく質を摂取できる、と考えるとよいでしょう。毎食手のひら一杯分、20gを摂取できるようにしておき、足りない分は更に手のひら換算で一杯、二杯と追加してください。
高たんぱく質の食品
肉類
肉類には言わずもがな、たんぱく質が豊富です。動物性食品はアミノ酸スコアが100のものが多く、牛肉や豚肉、鶏肉などの摂取は体たんぱくの合成に適していると言えるでしょう。
たんぱく質含有量が高く低脂質な鶏むね肉は、肉類の中では比較的安価で手に入れやすく、普段の食事に取り入れやすい食品です。鶏皮は脂質が多いため取り除いて食べましょう。
豚肉にはビタミンB1が豊富であり、体たんぱく合成だけでなく、炭水化物を効率よくエネルギーに変えるためにも役立ちます。
牛肉は部位の選び方が重要です。バラ肉など脂身を多く含む食品はたんぱく質供給の手段には適していません。赤身のもも肉には鶏むね肉と遜色ないたんぱく質が含まれており、またビタミンB群も豊富であるため活用しやすいでしょう。
魚
魚もアミノ酸スコアが100であるため、普段の摂取に適しています。体たんぱく合成のため、積極的に摂取したい食品です。
肉類ではできるだけ脂身の少ないものを選んで食べるべきですが、魚の油は避けることなく摂取した方がよいでしょう。魚油に含まれるEPAやDHAなどのω-3系脂肪酸は優秀な抗酸化作用・抗炎症作用を持つため、ダメージを負った筋肉を回復させるために役立ちます。
魚油はサバやイワシなどの青魚に多く含まれます。缶詰などを活用すれば保存が効くため、1日に1食以上を目安に魚の献立を入れてみてください。
卵
卵もまた100のアミノ酸スコアを持つ優秀な食品です。また卵は「完全栄養食」と呼ばれるように、ビタミンC以外の栄養素が全て含まれているため、体たんぱく合成以外の観点からも摂取が推奨されます。
昔は悪玉と呼ばれるLDLコレステロールの増加を防ぐため、1日1個までにすべきと言われていた卵ですが、最近では卵の摂取によって増えるコレステロールは、血管の状態の悪化や心血管疾患発症のリスクを上げるものではないと言われています出典[1]。
卵のたんぱく質のほとんどは卵白の方に含まれていますが、卵白ばかりを摂取するのは現実的ではありません。また卵黄に含まれる栄養素の中には、たんぱく質の合成を助けるものも多数含まれているため、全卵の形で、1日3個を上限として摂取するとよいでしょう。
大豆製品
大豆はたんぱく質や良質な脂質が豊富であるだけでなく、その質やバランスも非常に優秀であり、動物性食品に匹敵するアミノ酸スコア100を誇ります。
大豆のたんぱく質に含まれる大豆ペプチドには、脂質の代謝を活性化する作用があります。脂質は消化や代謝に時間のかかる栄養素ですが、大豆ペプチドの効果により素早くエネルギーへと変えられるため、筋肉のエネルギー補給を手助けしてくれます。
また大豆には食物繊維やオリゴ糖なども豊富です。高たんぱく質食を続けていると、たんぱく質が腸内の悪玉菌のエサになり悪玉菌が増えたり、アミノ酸が腸内で発酵されて炎症反応を生じたりと、腸内環境のバランスを崩しやすくなります。食物繊維やオリゴ糖は、高たんぱく質食により乱れがちな腸内環境を整える効果があるため、体調の改善にも役立ちます。
大豆は納豆や豆腐、豆乳など、加工食品の幅も広いため、毎日1種類以上は食べるよう意識したいところです。摂取のタイミングは運動後がよいでしょう。運動後に大豆ペプチドを摂取することにより、体内で骨や筋肉の成長を促す成長ホルモンの分泌が盛んになります。筋損傷からの回復を早めたり、筋肉を効率よく増やしたりすることができるでしょう。
魚肉ソーセージ
筋肉を鍛える上では鶏むね肉など純粋な肉類・魚類の摂取の方が適していると考えられてきましたが、近年の研究において、魚肉ソーセージのメリットが注目されています。
魚肉ソーセージに主に使用されているのはスケトウダラという種類の魚です。スケトウダラの摂取と筋肉量の変化を調べた研究において、乳由来のたんぱく質であるカゼインを摂取した場合よりも筋肉量が大きく増加したことが分かっています出典[2]。牛乳など他の食品にも、筋肉を鍛えるにおいて良い効果をもたらすものが多くありますが、筋肉量を増加させるという点において、魚肉ソーセージの摂取はより効率が良いと言えるでしょう。
魚肉ソーセージは保存も効くため食べやすく、間食としても適しています。近年はDHAやEPAなどを多く含むサバや赤身魚であるマグロなども魚肉ソーセージの原料として利用されるようになっていますが、筋肉量を増やす目的であれば、スケトウダラを原料としたオーソドックスな魚肉ソーセージを選ぶようにした方がよいでしょう。
牛乳
牛乳に含まれているたんぱく質もバランスが良く優秀ですが、特にリジンというアミノ酸が豊富です。米や小麦などの穀類にもたんぱく質は含まれていますが、このリジンは不足傾向にあり、アミノ酸スコアは高くありません。食事全体で考えた場合、リジンを豊富に含む牛乳の摂取によって、米や小麦に含まれるたんぱく質を効率的に利用できるようになるため、牛乳は食事全体のバランサーとして機能してくれます。
脂質の過剰摂取を避けるため、無脂肪乳や低脂肪乳を選ぶべきではと考える方もいるかもしれません。しかし無脂肪乳と全乳との全乳で筋肉たんぱく質のバランスを比較した研究によると、たんぱく質合成に関わるアミノ酸の利用効率において、全乳の方が優れていることが明らかになりました出典[3]。たんぱく質合成の効率を高めるため、牛乳は全乳の形で摂取し、全体の脂質量調整はその他の食材で行うことをオススメします。
1食の脂質は20g程度に留める
身体機能の維持に欠かせない脂質ですが、摂りすぎると引き締まった体にはならないため、適量で留めておくことが重要です。
1日の摂取エネルギー量のうち、脂質が占める割合は通常、20~30%が適切であるとされています。しかし筋トレを行う場合、たんぱく質や炭水化物の摂取量を普段よりも増やしているため、脂質はその分控える必要があります。脂質のエネルギー比は全体の10~20%に抑えておくのが理想です。
目安として、1食で摂取する脂質の上限を20g、1日あたり40~60gの摂取を目指してみましょう。ケーキやスナック菓子は脂質が多いため控え、牛乳や大豆製品、魚類など、良質な脂質を優先的に摂取できるようにしたいところです。
脂質が少なめで筋トレと相性が良い甘味
和菓子
洋菓子と和菓子の栄養面における大きな違いは、使用されている油脂の量です。和菓子にはほとんど油脂が含まれておらず、砂糖や豆類の甘さを楽しむように作られています。
ほとんどが炭水化物で出来ている和菓子は、摂取直後から血糖値を大きく上げ、インスリンという血糖をコントロールするホルモンの分泌を盛んにします。インスリンには筋肉の合成を促進する効果もあるため、たんぱく質を同時に摂取することでより効率的に筋肉量を増やすことができるでしょう。
和菓子は素早く消化されエネルギーに変わるため、運動前に摂取することで筋肉にグリコーゲンを蓄えた状態を作ることができ、パフォーマンスの向上が期待できます。また運動直後に摂取することで、エネルギーが枯渇した筋肉へのエネルギーの再補給にも役立ちます。和菓子を食べるタイミングは運動前と運動直後、と覚えておきましょう。
ブルーべリー
果物はビタミンやポリフェノール類の供給源として、毎日欠かさず摂取したいところです。ブドウやベリー系には特に多くのポリフェノール類が含まれており、中でもブルーベリーの摂取をオススメします。
ブルーベリーにはポリフェノールの一種であるフラボノイドが豊富に含まれており、抗酸化作用と抗炎症作用を発揮し、筋損傷からの回復に役立ちます。ブルーベリーは凍らせることで細胞の膜が壊れ、ポリフェノールがより吸収されやすくなるため、冷凍ブルーベリーを購入して常備し、日々の間食やデザートとして摂取するようにしましょう。
バナナ
エネルギー補給のための果物として、バナナをオススメします。運動前に摂取することでエネルギーであるグリコーゲンを筋肉へと蓄えておけるほか、運動後のグリコーゲンが枯渇した筋肉へも栄養を届けるために役立ちます。
運動前にエネルギーを補給することは、筋肉の分解を防ぐためにも役立ちます。体を動かすためのエネルギーが不足すると、体は筋肉を分解して得たたんぱく質でエネルギーを作ろうとするため、運動による筋肉増強の効果が十分に発揮されなくなってしまいます。
バナナには果糖やショ糖、ブドウ糖にでんぷんなど様々な形のエネルギー源が含まれています。ブドウ糖は速やかにエネルギーになりますが、でんぷんは消化や吸収にある程度の時間がかかるため、少し遅れてエネルギーになります。即時的なエネルギーにはブドウ糖が、持続的なエネルギーにはでんぷんが、それぞれ活躍してくれるのです。
このように、バナナは即座にエネルギー補給を行いたい場合にも、エネルギーを長持ちさせたい場合にも役立つため、運動の種類を問わず、運動前に摂取する食材として適していると言えるでしょう。
ギリシャヨーグルト
濃厚な味わいが特徴のギリシャヨーグルトは、一般的なヨーグルトに「水切り」という工程を加えて作られているため、水分が少ない分、たんぱく質の含有量が多いです。
水切りで失われる水分はホエイと呼ばれ、ビタミンやミネラル、乳酸菌などあらゆる栄養素が溶け込んでいます。これを捨てずに作られている一般的なヨーグルトも栄養面では優秀ですが、筋肉を鍛える際の食事に加える場合はたんぱく質含有量に注目し、ギリシャヨーグルトを優先的に選ぶようにするとよいでしょう。
毎日プラス1皿の野菜を食べる
筋肉を鍛える際には、筋肉の材料になるたんぱく質やエネルギーの元となる炭水化物だけでなく、ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取も重要です。運動のパフォーマンスを上げたりエネルギーを効率よく生産したりするためにビタミンやミネラルが機能するほか、高タンパク質食により崩れがちな腸内環境を食物繊維が整えてくれます。激しいトレーニングをしている際には野菜の重要度も増すため、普段の食事にプラス1皿、を意識して野菜料理を食べるようにしましょう。
筋トレをサポートする野菜
ほうれん草
ほうれん草は、筋肉トレーニングと愛称の良い野菜です。炭水化物から効率よくエネルギーを生み出すためのサポートをするビタミンB群、抗酸化作用や抗炎症作用として機能するビタミンCやビタミンEなどが豊富に含まれています。
また、ほうれん草などの葉物野菜には硝酸塩が豊富に含まれています。食事から摂取した硝酸塩の量と筋肉機能との関連を調べた研究においては、男性女性共に、硝酸塩を食事からより多く摂取した群において、下肢の筋力と身体機能が促進されていました出典[4]。これまで、硝酸塩サプリメントが血管や筋肉の機能を改善することについては証明されていましたが、食事からの摂取でも筋肉のパフォーマンスに良い影響を与える可能性があり、筋肉機能向上のため、日々の摂取を習慣付けたいところです。
硝酸塩はレタスや小松菜、セロリなどの葉物野菜にも多く含まれていますが、ほうれん草は熱を加えるとかさが減り、食べやすくなるため、硝酸塩を効率よく摂取したい場合の食品としてオススメです。
ブロッコリー
野菜にはたんぱく質が豊富、という印象を持つ方はあまりいないかと思いますが、動物性食品には及ばないものの、野菜にも少量のたんぱく質が含まれています。ほとんどが100gあたり1~2g程度のものであるため、たんぱく質量の計算に入れない場合が多いかと思われますが、ブロッコリーは100gあたり5.4gと、野菜の中では群を抜いて高いことが特徴です。
たんぱく質のバランスを示すアミノ酸スコアも80と野菜の中では高めであるため、ビタミンやミネラルを多く含む緑黄色野菜でありながらたんぱく質供給もできる食品として注目を集めています。
ビタミン類ではエネルギー産生のサポートに欠かせないビタミンB1とB6、抗酸化物質として働くビタミンCが豊富です。筋肉のエネルギー補給や筋損傷からの回復にもブロッコリーの摂取が役立つでしょう。
筋肉にNGな食習慣
筋肉のエネルギー源となる食品、筋肉の材料となる食品、筋肉の回復をサポートする食品、について、栄養素の解説と併せて説明してきました。以下ではこれらの働きを妨げてしまうような食習慣や食事について紹介します。筋力トレーニングのパフォーマンスを高め、効率よく筋肉を鍛え増やすために、できるだけ避けるようにしましょう。
朝食を疎かにする
朝は忙しく、食事を摂る時間を作れない場合も多いかもしれませんが、欠食、特に朝食を摂らなかったり、コーヒー牛乳だけで済ませたりすることは避けるべきです。
毎食のタンパク質量と、人間の筋肉機能との関係を調べた研究においては、夕食時よりも主に朝食時に食事性タンパク質を摂取した群において、より高い筋肉機能が確認されています出典[5]。朝昼晩と全ての食事で炭水化物やたんぱく質を抜かないのはもちろんのこと、特に朝食においてたんぱく質を十分に摂取することが、筋肉を鍛えるためには重要です。
過度な糖質制限
筋肉の材料になるたんぱく質をいくら摂取しても、その筋肉が活動するためのエネルギーが不足していては、体は十分なパフォーマンスを発揮できません。エネルギーとして最も効率が良いのは糖質であるため、穀類やイモ類から十分に摂取する必要があります。
糖質を過度に制限することはエネルギー不足を招くだけでなく、既にある筋肉にも影響を与えます。炭水化物から十分なエネルギーが得られない場合、体は筋肉を分解して得たアミノ酸をエネルギーにしようとします。筋肉増強のために摂取したたんぱく質が、糖質制限のために分解されてしまっては元も子もありません。炭水化物の摂取は欠かさないようにしましょう。
特定の食べ物ばかり食べる
記事の前半で、筋肉を鍛える際にオススメしたい食品について紹介してきましたが、これらだけに制限して食べる、あるいはこれらのうち一品だけに限定して食べる、といったやり方は避けましょう。私達ヒトの体を正常に機能させるためには、ビタミンやミネラルを含んた五大栄養素をバランスよく摂取する必要があり、脂質が欠けても炭水化物が不足しても、十分なパフォーマンスを発揮できません。
また、栄養素ひとつ取っても、あらゆる食品から満遍なく摂取するのが理想です。たんぱく質の供給源に肉、魚、乳製品、卵、大豆製品などがあるように、あるいは抗酸化物質の供給源にブルーベリーや緑黄色野菜などがあるように、様々な食品を楽しみつつ栄養補給を行うのが基本です。毎日必ず食べる食品があるのはよいことですが、この栄養素の供給源はこの食品だけで、といった一点集中型の栄養摂取はしないようにしましょう。
過度な飲酒
会食などで口にする機会も多いアルコール飲料ですが、過剰飲酒はもちろんのこと、筋力トレーニング後の飲酒についても控えるよう気を付けるべきです。
アルコールが体内で分解される際、たんぱく質のサポートを受けます。筋肉の材料として、あるいは筋損傷の修復のために補給したたんぱく質がアルコールの分解に回されてしまい、筋力トレーニングの効果が十分に出なくなってしまいます。
またアルコールの摂取により、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が低下することが分かっています。筋肉質な体を作るにおいて、筋力増強作用をもたらすテストステロンの分泌量が減ることは避けるべきです。筋力トレーニングの効率低下を防ぐべく、トレーニング期間中はアルコールの摂取に特に敏感になる必要があるでしょう。
スナック菓子ばかり食べる
筋力トレーニング中に限ったことではありませんが、スナック菓子の摂取は基本的にオススメできません。植物油で揚げられたスナック菓子から酸化した油を多く摂取してしまうと、体に酸化ストレスと呼ばれるダメージが蓄積するため、筋肉のパフォーマンスを阻害してしまいます。
またスナック菓子には小麦やジャガイモなど、炭水化物の供給源となる食材が使われていますが、これらをエネルギーに変える手助けをするビタミン類がほぼ皆無であるため、運動の際のエネルギー補給としても効率が良くありません。
様々な糖質や食塩、脂質で美味しく味付けされたスナック菓子は、一度食べ始めるとやめるのが非常に困難です。筋力トレーニング中は思い切って摂取を絶ってみるのが無難でしょう。完全にやめがたい場合はトレーニングのない日など、週1回の摂取を目安にしてみてください。
筋肉をつける食事例
以下では実際の食事において、どのようなものを作ったり購入したりすればよいか、について、1日の献立例を紹介しつつ解説します。自炊が得意な方向けの献立、コンビニやスーパーや外食を利用する献立、甘いものが食べたい方向けの献立、と分けて紹介しています。いずれか当てはまるものを参考にして、食事選びに役立ててください。
自炊が好きな人向け
- 朝 トースト、ほうれん草と卵のココット、牛乳、バナナ
- 昼 米飯、小松菜と豚肉の中華炒め、高野豆腐の含め煮、ワカメとキュウリの酢の物
- 間食 芋ようかん、グレープフルーツゼリー
- 夜 米飯、牛肉のトマトソース煮、ブロッコリーのおかか和え、根菜の味噌汁
朝と夜は自宅で、昼は弁当で、間食は購入したもので済ませる場合の献立です。和食であっても洋食であっても、炭水化物の供給源である米飯やパンの摂取は欠かさないようにしましょう。
たんぱく質食品を含んだ料理は毎食、最低一品用意するようにしましょう。朝は牛乳やヨーグルトなど、手軽に食べられるものを活用するのも有効です。より激しいトレーニングを行うためもっとたんぱく質量が必要になる場合は、ゆで卵や冷奴をプラスするとよいでしょう。
果物は1日のどこかで摂取するタイミングを作りましょう。バナナや和菓子はエネルギーの供給源として優秀であるため、運動をするタイミングの前の食事のデザートとして取り入れることをオススメします。その他、例として記載したグレープフルーツゼリーですが、これは柑橘類に含まれる疲労回復に役立つ物質、クエン酸の効果を期待したものです。運動後のタイミングで食べるようにするとよいでしょう。100%のジュースで摂取するのも効果的です。
コンビニ食や外食が多い人
- 朝 パン、魚肉ソーセージ、ゆで卵、グリーンスムージー、ギリシャヨーグルトと冷凍ブルーベリー
- 昼 おにぎり、サラダチキン、ニンジンとゴボウのきんぴら、カットフルーツ
- 間食 バナナ、牛乳
- 夜 米飯、豚肉の生姜焼き、ほうれん草のお浸し、ブロッコリーとツナの和え物、豆腐とネギの味噌汁
朝と昼はコンビニやスーパーで、夜は外食で済ませる場合の献立例です。外食では丼や麺類など、一品ものを注文する機会が多いかもしれませんが、たんぱく質と炭水化物のバランスを考えると定食の形で食べるのが理想です。
コンビニやスーパーでたんぱく質食品を選ぶ場合、揚げ物に偏らないようにしましょう。惣菜として購入する場合は週3回以下を目安とし、夜に食べ過ぎることは避けるべきです。たんぱく質が足りない場合の調整用として、魚肉ソーセージのストックを自宅に置いておくといいかもしれません。
野菜を含む惣菜を意識して購入することも重要です。葉物野菜や緑黄色野菜を使った料理を意識して取り入れ、エネルギー供給の効率化をはかりましょう。
甘いものが好きな人
- 朝 フレンチトースト、ブロッコリーとコーンとハムのサラダ、アセロラジュース、プロセスチーズ
- 昼 米飯、よだれ鶏、納豆、ほうれん草と玉ネギの味噌汁
- 間食 もなか、ギリシャヨーグルトと完熟バナナ
- 夜 バゲット、サーモンのクリームソース煮、かぼちゃとレーズンのサラダ、ミネストローネ、牛乳かん
朝と夜は自炊で、昼は職場もしくは外食で定食を注文することを想定した献立です。チョコレートやクッキーなどの間食を習慣化すると、脂質の過剰摂取を招いてしまうため、野菜や果物の甘さ、和菓子を上手に使いましょう。
かぼちゃやさつまいもは野菜の中でもかなりの甘さを持つためオススメです。低温でじっくりと蒸したり焼いたりすることで甘さが増すため、調理にも一工夫するとより美味しく食べられます。
手軽に摂取できるバナナですが、完熟のものを選ぶことで甘さが増します。バナナやもなかといった和菓子類は運動のパフォーマンスを上げるため、運動のタイミングを摂取の目安としましょう。
食事で筋トレの効果を最大化しよう
筋肉を鍛えることと食事の関係について、目指すべき食生活の紹介とともに説明してきました。運動のパフォーマンスを上げるため、より効率的な筋肉の増強をはかるため、五大栄養素をバランスよく摂取することは重要です。食品の選び方、調理の仕方、摂取のタイミングなど、是非参考にしてみてください。
出典
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参考文献
- 上代淑人, 清水孝雄 | イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書28版 | 丸善出版 | 2011
- 青木三恵子| エキスパート管理栄養士養成シリーズ11 調理学(第3版)| 科学同人| 2011
- 加藤保子, 中山勉 | 食品学Ⅰ 食品の化学・物性と機能性 改訂第2版 | 南江堂 | 2012年
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