監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
エナジードリンクには筋トレに効く成分が豊富?
トレーニングの効率を上げる効果を期待して、エナジードリンクを飲む方も多いのではないでしょうか。
確かにエナジードリンクに含まれる個々の成分は、トレーニングにプラスの影響をもたらすものが多く、有効であるようにも考えられます。
まずはエナジードリンクから摂取できる成分の特徴や、トレーニングへのメリットについて解説しましょう。
カフェイン
覚醒作用が有名であるカフェインは、デスクワーク時の眠気冷ましに使用されるイメージが多いかもしれません。しかし筋力トレーニングへの活用においても、次のような複数の効果が期待できるのです。
- 集中力を高めてトレーニングのパフォーマンスUP
- 疲労感を軽減して持久力UP
- 脂質代謝を活性化させてエネルギー消費UP
2013年にアメリカのロードアイランド大学から発表された論文においては、カフェインの摂取によりエクササイズから2日目と3日目における筋肉痛が軽減され、上腕二頭筋のエクササイズの実施効率が1.5倍に増加したと報告されています出典[1]。
また、スイスのローザンヌ大学で発表された2004年の論文では、カフェインの摂取によりエネルギー消費が13%増加し、脂質の代謝量が2倍になったという結果も得られています出典[2]。エネルギーの消費量を増やせれば体脂肪も減らしやすくなるため、ボディメイクの効率UPにもつながるでしょう。
エナジードリンクには眠気冷ましを主な目的として一定量のカフェインが含まれています。カフェインの摂取を目的として、コーヒーよりも甘く飲みやすいエナジードリンクを選ぶ方も多いようですね。
糖質
脳へのエネルギーチャージとして、糖質を多く含むエナジードリンクは重宝されていますが、筋肉においても糖質補給は欠かせません。
トレーニング時には多くのエネルギーを必要をするため、筋肉が取り込む量は安静時の30~50倍に達することも出典[3]。トレーニングに必要なエネルギーを速やかに補給することで、筋疲労を軽減しパフォーマンスを向上させる効果も期待できるでしょう。
また、エナジードリンクにはフルクトース(果糖)とグルコース(ブドウ糖)の混合液である、果糖ブドウ糖液糖が入っている場合があります。
体内のグルコースとフルクトースは体の細胞内に取り込むための「輸送体」が異なります。そのためグルコース単体よりも、フルクトースとの混合物を摂取して複数の種類の輸送体を活躍させる方が、糖類の吸収速度が早まるのです。
実際に、2008年にイギリスから発表された論文において、ブドウ糖と果糖の混合飲料を摂取すると、ブドウ糖のみの摂取時よりもサイクリングのタイムトライアル完了までの時間が8%短縮されたと報告されています出典[4]。
トレーニング前やトレーニング中の糖質補給の手段として、吸収率の高いエナジードリンクの糖類を活用しようと考える方も多いかもしれませんね。
アルギニン
医薬品または医薬部外品としての「栄養ドリンク」には、多くの場合タウリンが含まれます。
一方「清涼飲料水」であるエナジードリンクにはタウリンの使用が認められていません。そのため、代替品としてアルギニンというアミノ酸が用いられることがあります。
タウリンよりも体への影響力はやや控えめであるものの、アルギニンにも次のような効果が確認されています。
- 一酸化窒素(NO)の産生を促して血流を改善
- 成長ホルモンの分泌を促進
- 疲労感の軽減による持久力の向上
アルギニンは体内で一定量分解されますが、カフェインにはアルギニンを分解する酵素を阻害する効果が確認されています出典[5]。
エナジードリンクからはカフェインとアルギニンの両方を摂取できるため、パフォーマンスの向上効果を期待する方も多いようです。
ビタミン類
多くのエナジードリンクにはナイアシンやパントテン酸、ビタミンB6、ビタミンCなどが含まれています。
とくにエネルギー代謝に欠かせないビタミンB群を摂取できるため、糖質とあわせてエネルギー産生をサポートする効果が期待できるでしょう。
たとえばビタミンB1は糖質代謝に深く関わっており、疲労回復効果を高める成分として用いられています。ビタミンB2は脂質代謝に、ビタミンB6はアミノ酸の代謝に主に関わる成分で、いずれもエネルギー生成効率を高めるためには欠かせません。
一般的な炭酸ジュースからはビタミンB類の摂取が困難です。そのためエナジードリンクを効率的なビタミン類の供給源と考える方もいるかもしれませんね。
トレーニーがエナジードリンクを飲まない方がいい理由4つ
エナジードリンクの成分自体を確認すると、トレーニーと相性がよいものが多いことが分かります。その一方で、各成分の含有量や長期間の摂取による影響を考慮すると、エナジードリンクがトレーニーにとっての最適解ではないことが分かってきます。
エナジードリンクの摂取を避けた方がよい理由について、以下に4つ解説します。
1.カフェインやアルギニン量がパフォーマンスUPには不十分
エナジードリンクを飲むと頭が冴えて集中力が向上するため、コーヒー以上のカフェインが含まれているように感じるかもしれません。
しかしこの集中力の向上は多量の糖質により脳へ一気にエネルギーが供給されたことによるところが大きく、カフェインの量自体はそれほど多くないのです。
多くの研究により、パフォーマンスの向上効果が確認されやすいカフェインの摂取量は、体重1kgあたり3~6mgと考えられています出典[6]。
たとえば体重60㎏の方の場合、運動前の理想的なカフェインの摂取量は
60(kg)×3~6(mg)=180~360(mg)
になるということですね。
エナジードリンク100mLに含まれるカフェインは、商品にもよりますが30mL~50mLほど。理想とされるカフェイン量の摂取には、大量のエナジードリンクを飲まなければならないことが分かりますね。
また、血流改善の効果をもたらすアルギニンについても、エナジードリンクに頼るには量が不足しています。疲労回復効果を得るためには、カフェイン同様、やはり大量の摂取が必要になるでしょう。
もちろん、運動前や最中にエナジードリンクを何本も飲むことは現実的ではありません。また、多くのカフェイン摂取のためにエナジードリンクの量を増やそうとすると、別の弊害が生じることになるのです。
2.過剰な糖質により体脂肪合成を促進
カフェイン摂取を目的として大量にエナジードリンクを飲んだ場合、懸念されるのは糖質の過剰摂取です。
エナジードリンクは、100mLあたり40~70kcalのものが一般的。トレーニング前のエネルギー補給が重要であるとはいえ、1回につき3本も4本も飲んでいれば当然ながら過剰摂取になります。必要以上の糖質摂取はもちろん体脂肪合成を促進するため、ボディメイクの妨げとなってしまうでしょう。
エネルギー補給に適切な糖質量に抑えようと量を調節すればカフェインの効果を十分に得られず、逆にカフェイン摂取のための量を増やせば糖質量が過剰になります。
カフェインと糖質がセットになったエナジードリンクは、効率的であるように見えてバランスの悪い飲料なのです。
また、カロリーゼロの人工甘味料を用いたエナジードリンクも販売されていますが、常飲はやはりおすすめできません。
アセスルファムKやアスパルテームなどの人工甘味料は、多量かつ習慣的な摂取により甘いものへの要求が増したり、糖代謝に悪影響を及ぼしたりすることが分かっているのです。
カフェインの供給源として、甘味の強い飲料は避けた方がよいでしょう。
3.大量摂取で血圧や糖代謝を悪化させる可能性
エナジードリンクを長期摂取することによる、体調へのリスクも無視できません。
2019年にドイツのホーエンハイム大学から発表された論文においては、750mLまたは1000mLのエナジードリンクを摂取した健康な若者において、血圧や心拍、糖代謝への悪影響が確認されています。
大量のエナジードリンクにより、心停止につながる不整脈が引き起こされるケースも確認されており、心拍に与える影響は深刻です。
トレーニーにおいては糖代謝機能が悪化する可能性にも注目する必要があるでしょう。エナジードリンクを摂取した後にはインスリン感受性の低下が確認されています。インスリンの血中濃度は上昇していたにもかかわらず、血中グルコースの筋肉などへの取り込みが十分にされなかったのです出典[7]。
血中グルコースは通常、インスリンの働きにより筋グリコーゲンへと貯蔵され、筋肉を動かすためのエネルギー源として機能します。
しかし糖代謝が悪化すると筋グリコーゲンの貯蔵を十分に増やすことができません。筋グリコーゲンが不足した状態ではエネルギー切れを起こしやすく、パフォーマンスも落ちてしまうでしょう。
エネルギーの供給源として活用できるはずのエナジードリンクですが、多量摂取により筋肉へのエネルギー供給が上手くいかなくなる可能性もあります。体調管理のためにも、筋肉のパフォーマンス維持のためにも、エナジードリンクの使用には慎重になるべきでしょう。
4.筋肉の成長阻害によりトレーニングの質が低下する
エナジードリンクに含まれる成分は、それぞれ単体で考えるとトレーニングによい効果をもたらすものであるように見えます。しかしエナジードリンク全体で考えた場合には、筋肉の成長を阻害しトレーニングの質を落とす可能性が高いことが明らかになってきました。
2023年5月にアメリカから発表された論文では、さまざまな種類のエナジードリンクを筋細胞に作用させて、分化や成長に与える影響を調べる研究が行われました。
エナジードリンクにおけるカフェインや糖類、アミノ酸、ビタミンなどの量や比率は商品によって大きな差があります。にもかかわらず、すべてのエナジードリンクにおいて、筋肉の再生や成長の阻害が確認されたのです出典[8]
エナジードリンクには精神的・身体的パフォーマンスを向上させる効果が期待されていますが、筋肉のパフォーマンスはむしろ低下する可能性があります。エナジードリンクに含まれる特定の成分に期待しているトレーニーは、エナジードリンク以外の摂取源を活用することをおすすめします。
筋トレの効率UPに!エナジードリンクの代替品を紹介
エナジードリンクに含まれる成分は、筋力トレーニングに活用するにはバランスが悪いようです。
多量摂取により筋肉の成長を阻害したり、糖代謝機能を悪化させてパフォーマンスを大きく落としたりするリスクも考えられます。
もしトレーニング前にエナジードリンクを大量に摂取する方がいるとすれば、目的はおそらくカフェインやアルギニンの摂取でしょう。
そこで以下ではカフェインの摂取源を中心に、エナジードリンクの代替品として使用できるものを紹介します。
コーヒー
カフェインの供給源として最もシンプルなものはコーヒーです。コーヒーに含まれるカフェイン量を100mLあたり約60mgと考えると、マグカップ1杯半、300mLで約180mgのカフェインを摂取できます。
体重60kgの方がトレーニングのパフォーマンス向上を期待してカフェインを摂取する場合、理想的な量は180~300mg。エナジードリンクのように大量に飲まずとも、コーヒーの300mLであれば摂取も現実的になるでしょう。
コーヒーはブラックで飲めばゼロカロリーであり、糖質の過剰摂取を心配する必要もありません。またコーヒーからは、クロロゲン酸というポリフェノールも同時に摂取できます。
脂質代謝をより活性化したり、抗酸化作用により筋疲労や筋肉痛を軽減したりする効果が得られるため、パフォーマンスをより向上させられる可能性もありますね。
なお、カフェインには強力な利尿作用があるため、運動直前の摂取は避け、トレーニングの1時間前を目安にするとよいでしょう。利尿作用の影響を考慮してトレーニング中に十分な水分を摂ることも重要です。
またカフェインは覚醒作用も強く、夜間のトレーニング前に飲むと夜の入眠を阻害するおそれもあります。夕方以降にはコーヒーの摂取を避け、睡眠の質を落とさないようにしましょう。
カフェインサプリメント
コーヒーの味わいが苦手である場合には、サプリメントを活用する方法もあります。コーヒーはメーカーや淹れ方によりカフェイン量にバラつきが出る場合がありますが、サプリメントを活用すれば常に一定量のカフェインを手軽に摂取できます。
サプリメントから摂取できるのは無水カフェインです。コーヒー由来のカフェインとの間に効果の違いは見られないため、同じように活用できるでしょう。
無水カフェインにも、利尿作用や覚醒作用が見られます。利尿作用による脱水やミネラルバランスの乱れを防ぐため、サプリメントの摂取は十分な水でおこない、トレーニング中の水分補給も欠かさないようにしましょう。
また、良質な睡眠を確保するため、夕方以降の摂取もコーヒーと同様に避けることをおすすめします。
NOブースター
体内の一酸化窒素(NO)の生成を増加させるためのサプリメントとして、NOブースターが活用できます。エナジードリンクよりもNOの生成を増やす効果を効率的に得られるため、トレーニーにはぜひおすすめしたいサプリメントです。
私たちの体内からも分泌される物質であるNOは、血管内皮細胞に作用して血管を拡張させ、血流を促進するように働きます。筋力トレーニングにおいては血行促進により、トレーニング中の酸素やエネルギーの供給を速やかにおこなえる効果が期待できるでしょう。
またNOは抗酸化物質としても機能します。激しいトレーニングによって過剰に発生した活性酸素を除去するように働くため、筋疲労や筋肉痛の軽減にも役立つと考えられます。
NOブースターにはアルギニン回路系やフラボノイド系など、複数の種類が存在します。血管拡張に特化したものや、NO以外の抗酸化物質を摂取できるものなど、サプリメントの配合もさまざまです。
パフォーマンスの増大や疲労軽減など、目的とする作用によってNOブースターを使い分ければ、より高い効果が得られるでしょう。
まとめ
エナジードリンクはカフェインや糖質、アルギニンやビタミン類などを含むことから、トレーニングとの相性がよいのではと考えられがち。
しかし各成分の配合量を考慮すると、実はトレーニングには適しておらず、多量摂取による健康上のリスクも無視できません。
トレーニングのパフォーマンスを向上させるためには、カフェインを効率的に摂取できるコーヒーや無水カフェインのサプリメントを活用しましょう。
また、エナジードリンク由来のアルギニンよりも、より血行促進作用が期待できるNOブースターの活用が理想的です。
エナジードリンクの摂取が習慣化している場合には、ぜひこの機会に、体調を害さずパフォーマンスを安全に向上できるものへの切り替えを試してみましょう。
出典
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