監修者
NP+編集長/NESTA-PFT
大森 新
筑波大学大学院でスポーツ科学について学んだ後、株式会社アルファメイルに入社。大学院では運動栄養学を専攻し、ビートルートジュースと運動パフォーマンスの関係について研究。アルファメイル入社後は大学院で学んだ知識を基に、ヘルスケアメディア「NP+」の編集やサプリメントの商品開発に携わる。筋トレ好きが高じて、NESTA-PFT(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会トレーナー資格)も取得。ラグビー、アイスホッケー、ボディビルのスポーツ経験があり、現場と科学の両面から健康に関する知識を発信できるよう日々邁進中。
執筆者
管理栄養士
井後結香
管理栄養士の資格取得後、病院に勤務。献立作成や栄養指導を経験後、健康相談員として地域の特定保健指導業務や疾病の重症化予防事業などに取り組む。健康管理の要となる食事の記事では、無理なく日々の生活に取り入れられるような内容を心掛けている。手軽かつ楽しい食改善で体質の向上を目指せるよう、読みやすく分かりやすい文章での紹介に努めている。
そもそもテストステロンってどんなホルモン?
男性がやる気や活力のみなぎる元気な体を目指すには、男性ホルモンであるテストステロンが重要です。
たくましい精神や体つきに加え、性機能や性欲を高めるように働くのがテストステロン。低い声や濃い体毛も、テストステロンの分泌量に影響を受けていると考えられています。
テストステロンの分泌量は20~30代がピークであり、40代からは減少し始めます。
2002年にアメリカのニューイングランド研究所で発表された論文では、40~70才の男性1709人を7~10年追跡したところ、総テストステロンは年平均で0.8%ずつ減少したと報告されています。
さらにテストステロンの中でも、血中に存在し男性力の向上に作用するとされる「遊離型」のテストステロンの減少が大きく、1年に約2%のペースでの減少が確認されました出典[1]。
40歳以上の男性で、1年につき約2%ずつ遊離型のテストステロン量が減少すると仮定すると、45歳には40歳の頃のテストステロンの約1割が失われる計算になります。年2%の減少幅の大きさがいかに深刻であるかが分かりますね。
やる気や活力が以前のように出ない、性欲が沸かなくなった、筋肉が落ちやすくなった、といったお悩みに覚えはありませんか? もしかしたらテストステロンの低下が原因であるかもしれません。
牛肉とテストステロンの関係3つ
男性力を高めるにはテストステロンの減少を食い止め、テストステロンが増えやすい生活を心掛ける必要があります。テストステロンを作ったり守ったりするには食生活も重要。その助けとなる可能性があるのが、今回紹介する牛肉です。
牛肉にはテストステロンを増やすように作用する成分がいくつか含まれています。また、性機能の向上や筋肥大の効率化などに関わる成分も確認されているため、たくましさを高めるための食品として役立つでしょう。
まずは牛肉とテストステロンの関係について詳しく解説しましょう。
適量の脂質はテストステロンの合成に欠かせない
牛肉は飽和脂肪酸が多く体脂肪合成を促すリスクが高いため、摂取を控える方もいるのではないでしょうか。確かに肥満はテストステロン量を減少させる原因のひとつであり、カロリーコントロールの妨げになるような大量摂取は避けるべきです。
しかし脂質や飽和脂肪酸も悪いことばかりではありません。たとえば全身を構成する細胞膜の材料には脂質が不可欠です。不足すると栄養の取り込みや代謝能力が低下するため、体全体の機能が低下する可能性があります。
さらに適量の飽和脂肪酸やコレステロールはホルモンの合成にも必要です。不足するとテストステロンの減少に拍車をかけることにもなりかねません。
実際に1984年にフィンランドの国立公衆衛生研究所から発表された論文では、30人の男性の食事傾向と血中ホルモンの変動を6週間にわたり調べた結果、食事からの脂肪量や飽和脂肪酸の割合が減少するほど、総テストステロンおよび遊離テストステロンの濃度が低下したと報告されています出典[2]。
テストステロンを維持するための食生活として、低脂質な鶏むね肉や豚ヒレ肉、白身魚ばかりの食事は逆効果になることも。適量の脂質を含む牛肉の活用で、テストステロンの合成効率を高めましょう。
カルニチンでテストステロンの合成効率UP
牛肉はたんぱく質、およびアミノ酸の摂取源として優秀な食品であり、とくに「カルニチン」と呼ばれるアミノ酸が豊富です。カルニチンは抗酸化能力を持ち、酸化ストレスを低減してテストステロンを保護し、合成効率を高める効果が確認されています。
2022年にイランのシラーズ医科大学から発表された、ラットを用いた動物実験では、L-カルニチンによるテストステロンの保護効果が調べられました。
ラットの酸化ストレスを誘発する物質であるグルタミン酸ナトリウムのみを摂取したグループよりも、L-カルニチンを同時に摂取したグループの方が、テストステロンの減少を約35%抑えられたという結果が得られています出典[3]。
テストステロンの合成機能は酸化ストレスに弱いため、抗酸化物質の積極的な摂取が重要です。抗酸化物質といえば抗酸化ビタミンやポリフェノールのイメージが強いかもしれませんが、牛肉のカルニチンにも同様の効果が期待できるようです。
なお、カルニチンには食事由来の長鎖脂肪酸をエネルギーとして消費しやすくする働きもあります。細胞内のカルニチン量が多いほど、脂肪酸のエネルギー変換効率も上昇します出典[4]。牛肉から摂取した脂肪がエネルギーとして積極的に消費されれば、体脂肪が増えるリスクも抑えられるでしょう。
鶏肉や豚肉よりも飽和脂肪酸の量が多い傾向にある牛肉ですが、カルニチンの効果により体脂肪合成を抑えて食べられそうですね。
牛赤身肉には亜鉛も豊富に含まれる
牛肉のうち、モモ肉やヒレ肉のような赤身肉からは亜鉛も効率よく摂取できます。亜鉛とテストステロンの間には密接な関係があります。亜鉛はテストステロンの分泌を促したり、テストステロンに対する体の感受性を高めたりするように働くことが分かっています。
2000年にアメリカのウェスタン・ワシントン大学から発表された論文では、サッカー選手が30mg/日の亜鉛サプリメントを8週間継続して摂取したところ、血中の遊離テストステロンが約1.3倍に増加し、筋肉量も11.6%ほど上昇したとの結果が得られています出典[5]。
スポーツで大量に汗をかく場合には、代謝や発汗に伴う亜鉛の消費も大きくなります。サッカー選手はとくに亜鉛の消費が激しいと考えられるため、亜鉛補給による効果がより大きく得られたのでしょう。
一方で、必要以上の亜鉛供給では効果を及ぼさないとする論文もあります。
2009年にドイツの生化学研究所が行った調査では、運動習慣のある20代の男性が亜鉛を高濃度に含有した栄養補助食品を補給しても、食事から十分な亜鉛を既に摂取できている場合、テストステロンの量や代謝によい変化は見られなかったと報告されています出典[6]。
以上の研究により、亜鉛不足の解消はテストステロン量の増加や維持によい効果をもたらしますが、必要以上の摂取は不要と考えられそうです。
亜鉛は赤身肉のほか、貝類やナッツにも豊富なミネラルです。これらの食品を摂る機会が少ない方、スポーツや重労働により多量の汗をかく方は、不足防止のため牛赤身肉を意識して取り入れるとよいかもしれません。
テストステロンを増やすための牛肉の食べ方
牛肉に含まれるカルニチンや亜鉛、適量の飽和脂肪酸は、テストステロンの合成を促し、量を維持するように働くことが分かりました。
ではテストステロンを効率的に増やすためには、どのように牛肉を食べればよいのでしょう。
牛肉のおすすめの部位や調理法、同時に食べるべき食品や食事全体のバランスの取り方について詳しく解説します。
カルニチンの多い赤身肉がおすすめ
カルニチンはアミノ酸であるため、たんぱく質が多い部位から多く摂取できます。
牛肉の部位によるたんぱく質と脂質の量を、すべて「脂身つき」の場合で比較してみましょう。
【輸入牛肉の部位別(脂身つき)100gあたりの栄養素(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)】出典[7]
カロリー(kcal) | たんぱく質(g) | 脂質(g) | |
もも | 148 | 19.6 | 8.6 |
かた | 160 | 19.0 | 10.6 |
リブロース | 212 | 20.1 | 15.4 |
ランプ | 214 | 18.4 | 16.4 |
サーロイン | 273 | 17.4 | 23.7 |
ばら | 338 | 14.4 | 32.9 |
効率よくカルニチンを摂取したい場合、脂質の少ないもも肉やかた肉が適していることが分かります。
よりたんぱく質含有量が多い牛肉を選びたい場合には、脂質の入らない「赤肉」がおすすめです。「赤肉」の場合で比較すると次の表のようになります。
【輸入牛肉の部位別(赤肉)100gあたりの栄養素(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)】出典[7]
カロリー(kcal) | たんぱく質(g) | 脂質(g) | |
ランプ | 112 | 21.6 | 3.0 |
かた | 114 | 20.4 | 4.6 |
もも | 117 | 21.2 | 4.3 |
ヒレ | 123 | 20.5 | 4.8 |
柔らかい肉質が特徴のばら肉やサーロインは非常に多くの脂質を含み、高カロリーでもあります。適量の飽和脂肪酸やコレステロールはテストステロンの合成に必要ですが、ばら肉やサーロインを中心とした摂取では明らかに過剰摂取となるため、避けるべきでしょう。
脂質やカロリーの摂りすぎによる肥満は、テストステロンを下げる危険因子です。軽い肥満では総テストステロンの減少が、より重度の肥満では遊離テストステロンの減少が起こります。さらにテストステロンが低いこと自体が肥満のリスクを高めてしまいます出典[8]。
男性力の低下の悪循環を起こさないためにも、牛肉はたんぱく質と脂質のバランスがよい、もも肉やかた肉、ヒレ肉のような部位を選びましょう。
脂質をカットできる調理法にトライ
牛肉はかた肉やヒレ肉がおすすめですが、バラ肉やサーロインを食べる機会を避け続けることは難しいでしょう。こうした脂身の多い肉を食べる際には、脂を取り除く工夫を取り入れることをおすすめします。
焼肉やステーキを食べる際には、脂を溶かし落とせる方法で焼きましょう。焼き網や表面がデコボコのホットプレートを用いることで効率よく脂を落とせます。より多くの脂を出すため、やや低温でじっくり時間をかけて焼くことをおすすめします。
バラ肉で牛丼を作る際には、水から十分に煮込むことで脂を溶かし出します。調理時間に余裕があれば鍋ごと冷蔵庫に入れて冷やすと脂が白く表面に浮き出るため、取り除けば簡単に脂質をカットできます。
また、蒸し調理も脂を落とすためにおすすめです。蒸気で長時間蒸すことで脂が蒸し器の下へと流れ出るため、煮物のように脂を取る工程を省けてより手軽です。
もちろんこれらの調理でバラ肉やサーロインのすべての脂を落とせるわけではありません。肥満を避けるため、高脂質な部位ばかりを食べる生活は控えましょう。
野菜や主食の摂取も忘れずに
テストステロンの減少を食い止め、量を維持するためには様々な栄養素や機能性成分の摂取が重要です。
肉料理を食べる際に摂取を忘れがちな野菜、ダイエット中に摂取を制限しがちな主食も、テストステロンの維持や筋肉量の増加、性機能の維持によい働きをもたらします。
野菜は食物繊維やビタミン、ミネラル、ポリフェノール、カロテノイドなどの摂取源として活躍します。とくにビタミンCやビタミンE、βカロテンなどの抗酸化物質は、体内の酸化ストレスを減らすように働きます。
テストステロンは酸化ストレスに弱く、活性酸素が多量にあるとテストステロンの合成効率が下がってしまいます。
また酸化ストレスは筋肉の回復や精子の製造機能にもダメージを与えるため、筋肥大の効率や性機能も落ちやすくなります。抗酸化物質を野菜から摂取して酸化ストレスを抑え、若々しい体づくりに役立てましょう。
主食は主要なエネルギー源であり、とくに筋肉を増やしてたくましい体を作りたい方にとっては欠かせない栄養素です。
主食からの糖質補給が十分にされないと、体は食事由来のたんぱく質や体の筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。筋肉が減少することがないよう、ご飯やパンなどの主食は制限しすぎず適度に食べましょう。
テストステロンの維持やたくましい体づくりには、主食、主菜、副菜の揃った偏りのない食事が効果的です。
牛肉に偏ったたんぱく質の大量摂取はNG
牛肉にはテストステロンを増やす効果が期待できる成分がいくつか含まれています。しかしテストステロンを増やす効果を期待して牛肉を摂りすぎるのはよくありません。
たんぱく質は筋肉を合成する材料として欠かせず、たくましい体づくりには重要です。しかし摂りすぎによりテストステロンが減少する可能性が指摘されている栄養素でもあります。
2023年、イギリスのウースター大学からの論文では、1日に3.4g/kgより多いたんぱく質の摂取を続けた場合、テストステロンの減少が確認されたと報告されています。
過剰なたんぱく質摂取はテストステロンの合成を抑えるホルモン「コルチゾール」や、たんぱく質の代謝物であり酸化ストレスとしても作用する「アンモニア」を増やし、テストステロンの合成に悪影響を与えた可能性が指摘されています出典[9]。
同論文において1.25~3.4g/kgの摂取ではテストステロンの減少が見られなかったため、この範囲での摂取が適切と考えられるでしょう。体重60kgの方であれば1日に75~204g、1食あたり25~68gの摂取が目安となります。
また、牛肉ばかりを食べる食生活は、テストステロンの維持においてもあまり効率的ではありません。他の高たんぱく質食品にも、テストステロンの維持に役立つ栄養素が含まれているのです。
たとえば魚類のω‐系脂肪酸にはテストステロンが苦手とする酸化ストレスを減らす効果があります。また、牡蠣には牛肉以上の亜鉛が、ラム肉には牛肉以上のカルニチンが含まれています。
様々な食品から、テストステロンの合成や維持に役立つ栄養素を摂取しましょう。
適量の牛肉でテストステロンを最大化しよう!
牛肉からはカルニチンや亜鉛、適度な飽和脂肪酸など、テストステロン合成に効果的と考えられる成分を摂取できます。部位の選択や調理法の工夫により脂の摂りすぎを避けて、牛肉のメリットを十分に活用しましょう。
ただし、テストステロンを最大化するためには運動や睡眠、ストレス管理といった、他の生活要素も重要です。牛肉食べることだけ意識しても、他の習慣を意識できていないとテストステロンは増えません…。
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